なぜ俺が同伴を求められたのか、その理由を訊ねるとカリームはこう答えた。
「お前、勇者だろ」
「……気付いてたんですか?」
「ふん、商人のネットワーク舐めんな。勇者と聖女のパーティーが旅立ったことくらい把握してらあ」
微妙に間違ってる。
「魔王軍とやらの情報を確認しに行くんだ、お前も情報共有するにこしたことはないだろう」
「そりゃどうも?」
感謝しつつも俺は訝しんだ。
カリーム氏は俺に協力的なわけじゃない。かといって敵対的でもない。
あくまで収益が目的って感じで、まさに商人らしい人物だ。
つまり、俺と情報共有することでカリーム氏は何かしらの利益を得るということ。
「どういうことだと思う?」
小声でルナリアに訊いてみる。
「勇者様が魔王を倒して世界が平和になれば、当然商売はしやすくなるでしょうけれど……この方はそういう全体の利益ではなく、もっと利己的な目的があると思います」
彼女も同意見らしい。
商人ギルドは町の一角にあるらしいが……道中はやはり酷い有り様だった。
見た限り、無事な建物所は防御を優先して建てられた倉庫くらい。
「見て下さい……あんな大きな建物が」
ルナリアに促され視線を向ければ、学校の校舎ほどの建物が真っ黒に焼け落ちていた。
「貧富の差が激しい町らしいからな。きっと富豪の屋敷だろう」
堅牢そうに見える大きな豪邸だが、むしろ火が一度回ると手を付けられなかったらしい。見事に全焼していた。
これじゃあ魔王軍に襲われたというより、大規模な災害にでも見舞われたといった様子だ。
生き延びたらしい町の生存者も、例外なく生気など感じられない、誰もが疲弊した表情でうずくまっている。
カリーム氏はそんな彼らを見て舌打ちすると、ずんずんと郊外に向かっていく。
俺はその後をついていきながら、周囲の様子に気を配る。
この惨劇を引き起こしたモンスターが、まだそこらに潜んでいないとも限らない。
と、やがて丘の上の建物に辿り着いた。
――――――――――――――――――――――――――――
ステータス外要素をサイコロで決定します。
性別(6以上で女性) 3
年齢(あまりに不自然であればやり直し) 48
容姿(かっこよさ、かわいさ) 2
頭の良さ 2
運動神経 5
――――――――――――――――――――――――――――
職業をサイコロで決定します。(不可能ならやり直し)
1勇者 2賢者 3盗賊 4魔法使い 5僧侶 6武道家 7戦士 8商人 9遊び人
5 僧侶
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主人公に対するスタンスを決定します。1(敵対的)〜10(友好的)
9 友好的
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ここまではモンスターの被害をさして受けなかったのか、ほぼ損傷はない。
というか、ここって……
「カリームさん」
「あん?」
「……あの、ここって……」
「見りゃ判るだろ。教会だよ教会」
商人のギルドが教会にあるのか?
どういうことかとルナリアと首を傾げ合う。
カリーム氏が無造作に観音扉を開けると、巨大な十字架の元にいたのは初老の男性聖職者であった。
「よう神父。まだ生きてたか」
「おや、カリームさん? こっちはしぶとく生きてますよ。貴方こそ、よくモンスターが凶暴化した中を突破できましたね」
神父は落ち着いた様子で微笑んでくる。
この惨状で落ち着いてる時点で、逆にヤバい人って印象がヒシヒシとするぜ。
「優秀な護衛を雇ったもんでね。んなことより、さっさと話を済ませようじゃねえか」
「はいはい、せっかちですねカリームさんは。勇者様方はお初にお目にかかります。私はこの町の教会を任されております、エルマン・ガンヴィと申します」
「はじめまして、アルスです」
俺は平静を表向き保ちつつ、内心ビビっていた。
この人、初見ノーヒントで俺の正体見破りやがった。
「ルナリア・セレスティア・アルダインです。はじめまして」
俺に続き、ルナリアも挨拶する。
ルナリアのフルネーム、久々に聞いた。
「早速ですが、本題から入らせて頂きましょう。勇者様は魔王討伐の旅に出られたとのことですが……」
「はあ。あの、というかここが商人ギルドの拠点なんですか?」
「教会は各地の町や村に存在するので。それも、住人に警戒されにくい」
「つまり、教会と商人は癒着していると……?」
「癒着、という言い方は穏やかではありませんね。私達ギルド員は正式に教会で洗礼を受けた教徒ですよ。ただ、その傍らで商人として活動しているだけです」
「商売はあくまでただの副業、聖職者の格好で信用を勝ち取ったり町に溶け込んだりとしてもそれは相手が勝手にそうしただけ、みたいなスタンスなわけか」
「不謹慎な……」
呆れたようにルナリアが呟く。
真っ当な僧侶である彼女だが、言葉ほど怒ってはいないと思う。
こんなこと言うとアレだけど、多分ルナリアは神のこと、有無はさておいて信用はしてない。
「で、ギルドは魔王軍の動向をどこまで把握してんだ?」
カリームが会話に割り込む。
「魔王軍の所在や規模などは勿論。戦況、各地の軍勢の様子などもある程度は」
「具体的に言え」
そこでカリームはちらりと俺達を見た。
なんすか。
「魔王軍は、各地で猛威を振るっています。既に国をひとつ滅ぼしたとか」
「どこだ?」
国の定義は難しい。ここアッサラームだって王族はいないが国家みたいなものだ。
ちょっと前に中東……ちょうど今俺達が居るあたりを過激な武装組織が占領して、国家を自称していた。
現代の倫理観でいえば「国家(笑)」だが、この世界は中世レベル。国家なんて名乗ったもの勝ちだ。
「ネクロゴンドです。ギルドの情報員も派遣されていますが、連絡が途絶えて久しい」
「あ?」
カリーム氏の声のトーンが変わった。
「ネクロゴンドっていやあ、南西の一帯を支配する大帝国じゃねえか……兵隊だって尋常な強さじゃなかったはずだぜ」
「魔王軍の力は、私達の想定を遙かに上回っていたようです。いまやあの地方に生存者はいません」
「おいおい待てよ、一言にネクロゴンドって言ったって、地域は大陸1つくらいあるんだぜっ。完全に滅ぼされたってこたーねえだろ!?」
慌てた様子のカリーム氏に、しかしエルマン氏は断じた。
「滅びました。全ての城が落とされ、全ての町が蹂躙され、全ての人が殺されました。これが1月前のことです」
1月。
俺は背筋が凍る思いだった。
国が滅ぶような大惨事が起きたというのに、情報が伝わるのに特殊なルートを使っても1ヶ月もかかるのか。
即日で世界中に情報が広がる地球の感覚を知っていると、あまりにも呑気。
あの頃のんびりとしていた裏側で、この世界のどこかでは想像を絶する事態が起きていたのか。
「いや、そんなのは地球でも同じか……」
というか、1ヶ月前となると俺達もキューレとの遭遇で全然呑気にはしていられなかった。
なるほど、キューレの登場はそう考えると、魔王軍の動きの一環で間違いないのだろう。
「もう大陸ひとつで済まねえだろうな。これで終わりはしねえぜ」
「でしょうね」
エルマン神父は重苦しく頷く。
「推定死者数は5000万人。これは明確な、軍事侵攻であり虐殺です」
「5000万……!」
ルナリアが悲鳴に近い声をあげた。
俺は黙って唇を嚙む。
この世界、当然だが地球よりずっと人口が少ない。
たしか前にこの世界の総人口は5億人くらいだってルナリアから聞いたことがあるから、この1ヶ月で10分の1が死んだことになる。
「1ヶ月で10分の1なら、1年後には世界が滅亡しているな」
俺はあえておどけて言うと、カリーム氏は呆れたように首を横に振る。
「軍事侵攻っていうのは準備が必要なもんだ。まして支配領域が一気に増えた今、魔王軍は再編成と進軍準備で時間を喰うはずだぜ。ま、人間みたいに自国に組み込むって意味の支配じゃねーから、それよりは早いと思うがよ」
「それで、皆様はこれからどうするのです?」
エルマン氏が訊ねると、カリーム氏は鼻を鳴らして俺を見た。
「俺は商人だ。やるのは金稼ぎ、それだけだ」
「そういえばあんた、この町の生存者を奴隷にしようとしてたな…」
「なんだ、高潔な勇者様にはお気に召さないか?」
「いや。あんたのことだ、難民になるよりはマシとか思ってるんだろ」
「よく解ってるじゃねえか。悪人の性分だからな、俺は」
偽悪的にニヤリと笑うカリーム氏。
この人は商人だが、悪人ではない。
商売として成立させつつ、出来る限り人を救おうとするタイプだと思う。
「ここらよりロマリアの方が奴隷の扱いはいい。あっちに運んで売り払えば、まあ死ぬよりはマシだろうさ」
「でしょうな。身分が曖昧な難民の状態が、一番危ない。被害者としても、加害者としても」
エルマン氏も同意だと頷く。
つまり奴隷にもせずこのまま見て見ぬ振りをすれば、悪人の食い物にされて被害者になるか、野盗化して加害者になるかって末路に行き着くだろうってことか。
やってることは奴隷の売買になるが、それでも何もしない善よりはマシなのかもしれない。
「勇者様がたは、これからどうなさるのです?」
エルマン氏が訊ねた。
何もしない善の代表選手みたいな俺としては、なんとも耳の痛い質問だ。
「とりあえず旅を続けます。俺がここで復興支援したって、焼け石に水だ」
「そうですか……とりあえず今後も、勇者様と我々のギルドで情報を共有しあいましょう。なにか有益な情報があれば私にご報告ください」
「是非お願いします」
「それで、旅ってのはどこに行くんだ? 南に行って魔王軍に突っ込むのか?」
カリーム氏が無茶なことを言ってくる。
このまま南に行けたとして、オルテガよろしく火山口でバーベキューになるのが関の山だ。
「俺達は西へ行きます。イシスに用があるので」
「そうかい。あっちには船で行く必要がある、手配は俺がしといてやるぜ」
カリーム氏がそういってニカっと笑う。
この人がタダで手助けをしてくるわけがないので、俺としては警戒せざるを得ない。
「どういうつもりです? 俺達になにをさせる気ですか?」
「人聞きが悪いぜ。俺は勇者様御一行をお助けしようってだけだ」
うっそだぁー。
嘘つきの匂いがぷんぷんするぜ。
「勇者様、カリーム氏は勇者を手助けしたという事実がほしいのですよ」
「あっ、てめ、言うんじゃねえよ」
エルマン氏が、カリーム氏の思惑について解説してくれた。
「この混迷の時代に、世界を救う勇者を手助けする後見者……それらしい肩書を得られれば、その威光は勇者様が思うより遥かに大きいものとなります。彼はこの町が崩壊したことを仕切り直しのチャンスを捉え、貴方に投資をすることで他の商人を出し抜こうとしているわけです」
「はあ。よく考えますね、ピンチはチャンスってわけですか」
俺は呆れた。商人ってやつはどこまでも業が深いみたいだ。
ちなみに作者は前作で100億人を死なせました。