俺達は教会を後にして、カリーム氏が占領した倉庫で休むことにした。
俺達も救援活動というか経済活動に協力しようと思ったのだが、教会からの帰り際にエルマン氏に言われたのだ。
「この町は今とても治安が悪化しています。若い娘さんが仲間にいるのなら、あまり滞在しないほうがいいでしょう」
まったくもってその通りなので、俺達は翌日にも町を発つことにした。
他の冒険者が見張りをする中、窓もない暗い倉庫。
真ん中に置かれた小さなランプの明かりを頼りに、キャラバンの者達は手持ちの外套にくるまって休んでいる。
俺とルナリアは、広い倉庫の片隅で肩を寄せ合って眠ろうと努力していた。
「……貴方様はどう思いますか?」
「どうって?」
「国が、国家が1つ滅んだそうです」
ルナリアの声は震えていた。
「認識が甘かったです。国家って、滅ぶんですね……そんな大事になるだなんて、思っていなかった……」
「ルナリア……あまり気負うなよ。俺達なんて、所詮ただのガキなんだからな」
1つの国家が滅ぶというのは、どれほど深刻な問題なんだろう? 俺には正直ピンときていない部分がある。
元の世界では政治も戦争も遠くて無関係だった。今だってそうだ、ここにいるのは子供2人……3人でしかない。
「大勢の人生が無茶苦茶になった。俺とルナリアも、こんな途方も無い旅に出る羽目になった。なんなんだろうな、魔王軍って」
「キューレという魔族も言っていましたね。こんな軍事侵攻やりたくはなかった、みたいなことを」
「俺達、このまま魔王軍と戦っていいのか?」
「…………。」
ルナリアが答えないので、俺は続けた。
「俺は勇者だ。なりたかったわけでもない。正直今でもバカバカしいと思ってる。けど、勇者になっちまったからには旅をしようと思う」
ルナリアは答えない。
俺は構わず続けた。
「けど、旅をすればするほど、世界は広くて……ただの冒険者に毛が生えた程度の強さじゃ、なにも出来やしない。俺達の力だけじゃ、理不尽な現実に勝てないって」
その結果がエイダちゃんの死だ。シンプルな話、俺達がもっと強ければあの時エイダちゃんが死ぬことはなかったんだ。
「…………。」
「なあルナリア」
俺はルナリアの綺麗な瞳をじっと見つめた。
その双眸には確かに俺が映っているのに、ルナリアの瞳は俺を見ていないような気がした。
「俺は、この世界に何が起きているのかを知りたい。魔王を倒すとか人類を滅ぼすとか、そんなシンプルな話じゃなくて……この世界で今何が起こっているのか。魔王軍が侵攻してくる原因がなんなのかを知りたい」
「はい」
「それは俺だけじゃ調べきれないと思う。だから……」
「勇者様」
俺はじっとルナリアを見つめ続けた。
しばらく、彼女は瞬きすらもせずに俺を見つめていたが……やがてゆっくりと口を開いた。
「はい、行きましょう。どこまでも貴方様について行きます」
俺達は頷き合った。