餅? を食べ終えて、腹ごなしに俺はガザルに訊ねた。
「ところでお前、他のパーティーは?」
「俺は臨時結成してたパーティでの護衛参加だったからな。他の奴とはアッサラームで別れた」
こいつはロマリアから参加していたから、遠路はるばるイシスまで行く旅をすることになる。
よくよく考えたら、どうしてそんな大変な旅をしているのいだろう?
「ガザル、お前ってなんで旅してるんだ?」
予想もつかないので、ぶっちゃけて訊いてみた。
「俺か? そうだな、お前にも訊いてみるか」
いや訊いたのは俺なんだけど。
「俺はある情報を探して旅をしてるんだ。だから出来るだけあっちこっちに行って、いろんな奴に訊いてみることにしている」
「ある情報?」
ガザルは心持ち声を小さくして、俺に訊ねた。
「なあアルス、眠りの呪いを解く方法って知ってるか?」
……―――。
「呪い? そんなの教会に聞けよ」
「聞いたに決まってるだろ。それで分かんなかったから聞いてるんだよ」
「ふーん」
「なんでも呪いっつーかまじないらしい。邪悪なものじゃないから聖なる魔法じゃ解けないって言われたよ」
「眠りのまじかい、か。眠れない夜とかに便利かもな」
「まあ、本来はそういう魔法なのかもな……」
俺の気のない風の返事に、消沈した様子で返事をするガザル。
俺の一瞬の逡巡は気取られなかったらしい。
「っていうか俺じゃなくてルナリアに訊けよ。見ての通りの僧侶だぞ」
「もう訊いたに決まってるだろ。聖女様だぞ、お前なんかよりずっと頼りにしたわい」
「んだとこら。お前の言ってるのは、ロマリアより遥かに北方の村のことか?」
会話しつつ考え、秘密にする意味もないと判断して俺は情報開示することにした。
ガザルは目を見開いて固まった。
「……知ってたのか。そうだ、俺の故郷のノアニール。俺が離れていた時に呪われたらしくて、ずっと眠りについちまった」
憂鬱そうに溜め息を吐くガザル。
さて、どう伝えたものかな。
「私は貴方様の方針にお付き合いしますよ」
ルナリアは俺の方を見ることもせず言った。
なんだこのいい女。
俺とは覚悟が違うぜ。さすが聖女。
「……噂程度だから、あんまり真に受けないで欲しいんだが」
「なにか知ってるのか!?」
詰め寄ってくるガザル。この国はただでさえ暑いのに、男に近付かれたくない。
「えっとな。ノアニールの西に、いや西か? よく判らんが、どこかにエルフの里ってのがあるらしい」
「どこだよ」
困り顔のガザル。俺だってわからん。
「まあその辺だと思う。そんで、そういう変な魔術と言ったらエルフの仕業と相場が決まってる」
「うーん、まあこんな南方より、近場にヒントがあるってほうが現実的だとは思うが」
ガザルは俺の情報を信じかねていた。
なんでこんなに曖昧な説明になったかというと、ドラクエ3におけるノアニール周辺のモデルを考えたからだ。
メルカトル図法とゲーム的な都合のあわせ技で相当歪んでいるが、おそらくあれはスカンディナヴィア半島をモデルにした地域だ。
現実の地球においてもこのあたりはエルフやら妖精やらといったおとぎ話が多く、眠りの呪いにかかった村なんてまさにそれっぽい。
つまり、地図が歪みすぎていてゲーム知識の土地勘が当てにならない。
「まあ信じるかどうかはお前の自由さ。ただ、エルフの仕業であれば彼らはそれを解く方法を持っているはずだ」
「こんなところで情報収集していても無駄って言いたいのか……やれやれだ」
ガザルは脱力した。
故郷が丸ごと呪われるなんて不運に見舞われた男には、色々と苦労が絶えないのだろう。
「どうするんだ? ここから引き返すか?」
「いや……仕事は仕事だ。ちゃんとキャラバンをイシスまで送り届ける。その後は、どうすっかなあ」
彼は困った様子で椅子を傾け、行儀悪く天井を仰ぐ。
「どうするって、ノアニール方面に戻らないのか?」
「問題はその手段だろ。ここまでどんだけかかったと思ってるんだ。船を使えればこんな苦労はしないのに」
「船か。北の内海が幽霊船騒動で使えないとは聞いたけど、西の海岸は太平洋……大洋だろ? そこから北上することは出来るんじゃないか?」
イシスの北、暗黒大陸の北部には無数の港町があるらしい。一応ロマリアの勢力圏と聞いている。
この内海、地球でいう地中海が、今現在幽霊船の出現によって使えない。
だから西だ。西に行って出くわす海は地中海ではなく大西洋、幽霊船の出現範囲じゃない。
「イシスから西には行けないぞ、踏破不可能な山脈がある」
「……そうだっけ?」
俺はドラクエ3の地理はうろ覚えだ。むしろ地球の地図の方がはっきり覚えている。
地球だとサハラ砂漠の西には何もなかったはずだけど、ここってやっぱり地球とは似て非なる世界ということなんだろうか。
というかイシスやピラミッドだってそうだ。ゲームだとサハラ砂漠のど真ん中になるけど、現実のピラミッドは中東、つまり今俺達がいるこの辺にあるはずなのだ。
さっきのノアニール周辺情報がいよいよ怪しくなってきたぞ。
「本当に全部の海路が封鎖されてるってわけじゃないらしいが……民間人は乗せてくれないそうだ」
「多少なり行き来はあるのか? いや、そりゃそうか」
ルーラが思ったより長距離移動出来ないこの世界で、主な国家間のやり取りは船で行われている。
例えどれだけ海路の航行が難しくても、最低でも手紙などの情報を行き来させる連絡船は必要なのだ。
犠牲が出ることを承知の上で国が船を出すのは、不思議なことでもなんでもない。
思えば古代日本だって、命懸けで遣唐使の船を派遣してまで情報収集をしていたのだ。
「いや待てよ? お前、勇者なんだよな?」
ガザルが変なことを言い出した。
「……チガウヨ?」
「勇者様が船を出せって言えば、多少無理してでも出港してくれるんじゃねえか?」
くそ、聞いちゃいねえ。
「どうだろうな。正直、これまで勇者だからって優遇されたことは一度もないよ」
なにせ旅立ちの資金が50万円相当だ。
オルテガの息子だからしゃーない、くらいの気分としか思えない。
「そこはほら、勇者様の名声というか」
現状なにも成していない勇者様にどれだけ名声があろうか。
いや、アリアハン東部の秘密結社を壊滅させたっけ。その後どうなったのかは確認出来てないけど、功績と言えなくもないかもしれない。
「少なくとも俺が1人で動いて船を探すよりは現実的だろ」
「そうか?」
まあ、手段は選んでいられないか。
「イシスで情報収集してロマリアやポルトガ行きの船を探がそう。宜しく頼むぜ、勇者様!」
「お前なに普通に同行しようとしてるんだよ」
仲間にした覚えはないぞ。
「これで俺も勇者様御一行の1人か……サインの練習しといたほうがいいな」
ニヤニヤと笑っているガザルを見て、俺達は溜め息を吐いた。
仮に上手く行ったとしても一時同行者の枠を出ないというのに、図々しい奴である。