ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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全快ではありませんが、脳みそがちゃんと動くようになったので執筆再開しました。
……どうせ風邪の特効薬なんてないんだから、なんて言わずにちゃんと薬くらい常備すべきだったかも……


砂上の船

 

 

 大河を渡り、俺達の旅路は遂に砂の世界に突入した。

 地形を境に環境が一変することはよくある話だが、まさにここはその典型だった。

 

「こ、これは……まさか、魔王軍による影響でしょうか?」

 

 ルナリアが砂漠を見て何やら慄いている。

 

「いや砂漠だろ。こういうもんだろ」

 

「これが正常なのですか? この荒廃した状態が?」

 

「いや正常かって言われると……」

 

 環境破壊だか緑化運動っていうくらいだし、砂漠は地球にとって異常なんだろうか。

 でも砂漠って環境破壊とかに関係なく元々あったはずだし。

 

「正常、人間に都合が悪いけど正常、なのか?」

 

「なるほど?」

 

 ルナリアは腑に落ちない様子ながらも頷いた。

 

「よくよく考えればここほど極端ではなくとも、人間の生存に適さない土地なんて多くありますものね」

 

「そんなこと言っていいのか? 教会曰く、この世界は神様が人間の為に拵えてくれたんだろ? 教義に反するんじゃないか?」

 

 この世界はたしか精霊神ルビスが作り給うた、みたいな設定だった気がする。

 ……いや、ルビスが作ったのは「あの世界」だっけ?

 どちらにしろ、このゲームの神様は世界を作れるのだ。

 

「そもそもこの世界の半分以上は海という、人間が生きるのに適さない場所ですよ」

 

 多少この世界が住みにくくても、そんなの今更じゃん、みたいな見解らしい。

 

「きっと神は、海がそうであるように、人にとって必要だからこそあえて砂漠という不毛の地を創造したのでしょう」

 

 そういってルナリアは聖なる印を切る。

 別に人類にとって海は必需じゃないし、砂漠はもっと不要だと思う。

 いや直接関わるかはともかく、環境を維持するために海は必要か。

 じゃあもしかして、俺が知らないだけで砂漠にも世界の環境を維持するための意味があるんだろうか。

 それこそファンタジー的に、砂の大精霊の本拠地だとか。

 思考にふけっていると、服の裾をアーミラちゃんに引かれた。

 なんだろう、と促されるがままに視線を彼女が指差す方向へ向ける。

 

「―――なんだろう?」

 

 結局疑問は疑問のままだった。

 そこにあったのは、奇妙な木造の水車小屋だった。

 大きさは―――学校の体育館より気持ち小さいくらいだろうか。

 高床式のように2階部分にのみ居住空間がある。

 そして、側面にはとても巨大な水車が据えられている。それも、左右に2つ。

 最後に、建物の上には布張りの風車が鎮座している。

 

「俺の知識にない建物だな……」

 

「そうですね。初めて見ました」

 

「ごめん、嘘ついた。俺、あれ知ってる……」

 

 え、この人なんで嘘ついたの? って感じでルナリアは俺を凝視した。

 いやだって、認めたくなかったんだもん。

 

「どうみても、ツァーリ・タンクなんだよなぁ」

 

 木製のツァーリ・タンク。いやツァーリ・タンクとはだいぶ違うけど、巨大な2つの車輪を持つ乗り物……というのは確かだ。

 サイズ感はたぶん、オリジナルより大きいかもしれない。というかオリジナルのツァーリ・タンクのサイズ感なんて知らない。

 2つの車輪に挟まれた大きな木造コンテナ部分には、下手な帆船より多くの人と物資が載るだろう。

 そもそもツァーリ・タンクが判らない? 検索しなさい。

 

「あれが、砂船なのですね」

 

「だろうな。あの巨大な車輪は、やっぱり砂に埋まらないようにする為の苦肉の策なんだろう」

 

 オフロード車のタイヤは大きい。大きいタイヤはオフロードに強い。当たり前の理屈だ。

 その当たり前の理屈を過剰なまでに推し進めたのが、この砂船なのだ。

 大きなタイヤであれば接地面積も大きくなり、砂に埋まりにくくなる。

 この砂漠で安定して運行するには、あれくらいの車輪が必要だったのだろう。

 

「いっそキャタピラとか……は、無理か」

 

「芋虫のモンスターですか?」

 

「そっちじゃなくて。いやそっちが本家か」

 

 キャタピラは小さなサイズで大きな接地面積を確保出来る優れた装置だが、よくよく考えれば数百個の金属製蝶番の連結が必要だ。

 金属製品を大量生産するという発想がないこの世界では、作れるはずがない。

 仮に作ったとしても、精度が悪くてギシギシ鳴って動かない出来損ないになる。

 結論。車輪以外の選択肢がそもそもない。

 

「いや、だとして車輪を動かす動力はなんなんだ?」

 

 疑問を口にすると、アーミラちゃんが再び船を指差した。

 正確には、その上。大きな風車を。

 風車といえばオランダが有名だが、羽についてはまあ似ているかもしれない。

 土台部分はオランダの風車のように石造りなどでは当然なく、磨いた丸太を3本束ねたような作りとなっている。

 

「風の力で車輪を回しているのか?」

 

 頷くアーミラちゃん。

 まあ、確かに不可能ではないが……

 

「内部の絡繰りで動きを車輪に伝えているのですか? そんな面倒なことをするなら、帆船のように風で直接押されて進めばいいのでは?」

 

 俺と同じ疑問を抱いたルナリアが問う。

 それに対して、アーミラちゃんは手の平を目の前にかざすような仕草で伝えてきた。

 

「…………?」

 

「…………?」

 

 伝えてきたけど、伝わらない。

 この無言キャラ付け失敗じゃねーかな。

 

「もしかして、この砂船は風に逆らって進む、と言いたいのでしょうか」

 

 俺より先にルナリアが正解に辿り着いた。

 なるほど帆船は風に逆行出来ない。この世界の住人の大半はそう認識しているはずだ。

 だが実はそうでもない。流体力学の発展により、地球では限定的ながら一部の帆船は風に逆らって進めるようになった。

 大切なのは地面、あるいは水面の抗力。

 空気という力を利用しつつ、空気よりはるかに抵抗が大きな地面や水面を駆使することで、風動力の乗り物は風に逆らって進む事ができる。

 まあ、効率は悪いけど。

 

「風向きは……西に向かう俺達としては迎え風か。まさにこの船じゃなきゃ進めない状況だな」

 

 正面から向かってくる風を風車で受け、大きな車輪を回して進む砂船。

 俺達の旅は、そんな奇妙な船での光景に移り変わったのだった。

 

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