アルマリカ号に乗り込んだ俺達は、船員に案内されて個室に通された。
「レオパレスだってもうちょっと壁厚いぜ」
そこは個室というか、布で仕切られただけの空間だった。
2人部屋というか2段ベッドだし、よく見ると床板も部屋の端の方は布張りだ。
某天空の城を目指すアニメ映画だと飛行船が粗末で驚くシーンがあるけど、あれに近いものがある。
空間と重量を徹底的に節約してる感じ。
「なあ俺、ルナリアと2人部屋じゃだめか?」
「駄目だが?」
ガゼルが寝ぼけたことを言ってきた。
むしろなんでダメ元で聞いてきてるんだこいつ。
「隣は女子組の部屋か。話し声とか聞こえそうだな」
「聞こえますよ」
布越しにルナリアが返事をしてきた。
完全に目の前にいるノリの声量だった。
この防諜性能で一等客室を名乗ってるのか……。
「一応鍵はかかるみたいだ。荷物置いたら甲板登ってみようぜ」
「わかりました。私達もすぐに行きます」
鍵は扉というかやはりカーテンみたいな物だったが、輪っかの部分に南京錠を通して出入りを封じられるようになっていた。
鍵を閉めて甲板に上がる。当然ながら階段ではなくハシゴだ。
甲板では、多くの乗客が物珍しげに出発を待っていた。
カリーム氏のキャラバンの分断商隊なので、ほとんど顔見知りだが。
やや遅れて、女子組も甲板に上がってきた。
「ルナリアも来たか」
「はい。そうだ、しばらくは船上の人となるでしょう、貴方様に預けた衣服を返還してほしいのですが」
おっと法衣を売ったことがバレてしまう。
俺は話をごまかした。
「ああ、あとでな。しかしこれは船なのか? 車なのか?」
「動物が引いているわけではありませんから、船だと思います」
ルナリアとしては、車イコール動物が牽引する乗り物、らしい。
確かに人が牽引する台車から馬が引く馬車まで、この世界で見た車は全て動物が引いていた。
この定義はどうかと思うけど、自動車が発明されていないから仕方がないのかもしれない。
つまり動物の力を借りない風動力の乗り物は、むしろ船に近いという認識なのだ。
ラッパの音が鳴る。
上手とは言い難いラッパの音楽は船の先端に立つ船員が吹いているらしく、なにかしらの合図を意味するようだ。
続いて船員は両手に持った小さな旗を振る。それに従い、他の船員達も慌ただしく動き始めた。
砂船の上の風車、その羽根に布が張られ、羽根の根本を回転させて微調節を行う。
作業完了の合図を受け取り、ラッパ船員は更にパッパラと音楽を続けた。
地上に船を繋ぎ止めていたロープを巻き上げ、風車を止めていたロックが外される。
常に正面から吹いていた風が、ついに風車を回転させ始めた。
始動は、想像以上にゆっくりだった。
風車が何回転かしても、巨大な車輪はほとんど回らない。
きっと内部に歯車があって、風の回転を高トルクに変換しているんだろう。
風車の回転は、風が相応に強いだけあって順調だ。
そして、それに直結した車輪の回転も。
「おっ、おおっ。進んでる。こんな馬鹿げた物が動いてる!」
砂船は前進を始めた。
地球基準で考えても、ここまで巨大な車両はそうそう存在しない。それが、確かに動き始めたのだ。
ゆっくりに思えた車輪の回転も、しかしその巨大さも相まってそれなりに速い。
それでも人間の歩く速度くらいだけど。
だが、この風の動力は24時間動き付けるのだ。船員が交代交代で休んでいき、馬車などでは実現できない24時間フル移動を実現するのだ。
その結果として―――イシスへの到着予定は、40日後。
3500キロもの距離を、たった1ヶ月弱で踏破する予定である。
暑いシーンを夏に書くと、感情移入しやすくてキャラクターが暑がる描写が豊かになる気がします。
逆に冬のシーンを書くのはやはり冬が感情移入しやすいです。
何が言いたいかというと、冬に砂漠のシーンを書くと、頭が混乱するぜよ…!