ツァーリ・タンク、砂船での旅が始まって数日。
朝も夜も関係なく走り続ける車輪の化け物は、毎日順調に距離を稼いでいた。
「なあ、糸巻き戦車っておもちゃを知ってるか?」
「いえ、存じませんが」
「糸巻きとゴムを使って作る昭和のおもちゃなんだが、あれってどこが戦車なんだ、ってずっと思ってたんだよな」
「ショウワもセンシャも知らない単語です」
「でもふと思ったんだ。ひょっとして糸巻き戦車の戦車って、ツァーリ・タンクをモデルにしてるんじゃないかって」
俺はさっき自作した糸巻き戦車をルナリアの前に披露した。
巻き上げたゴムにより、戦車はシャカシャカと自走する。
「なるほど、確かに砂船に似ているかもしれません」
「だろ? ただ、昭和の時代にツァーリ・タンクなんてキワモノに知名度があったとは思えないんだよな。あれはネットが普及したからこそ知名度が上がったブツだと思うんだ」
「私が付いていけないと知りつつ話をゴリ押しするのはやめていただけませんか?」
「あ、でもツァーリ・タンクみたいな装輪戦車って、キャタピラが実用化する前はロシア帝国以外でも研究されてたって話を聞いたことがあるな。ひょっとして割と有名だったのか、ああいうゲテモノ戦車」
「マホトーン」
ルナリアは呪文封じの魔法として俺を杖でポカリと叩いてきた。
裏技でステータスを超強化されているので割と痛い。お口チャックである。
「貴方様、ちゃんと反省していますか?」
ルナリアに窘められ、俺はテヘペロをする。
無言でビンタされた。
最近彼女は不機嫌だ。
俺が彼女の聖職者としての法衣を売り払ってしまったことで、ルナリアは激怒した後にしぶしぶアラビアンナイトなドレスを着た。
日陰となっている船の甲板から、熱砂で髪をたなびかせ彼女は砂の海を眺める。
「日焼けには注意しなければなりませんが、これはこれで涼しいですね」
そう思うなら殴らないでください。
杖で俺を散々ぽかぽかと叩いたルナリアは、今はオリエンタルでエキゾチックな踊り子衣装を着ている。
アミーラちゃんとは比べ物にはならない、普段は法衣でわかりくいボッキュッボンな肢体。
あまりに若々しく瑞々しい女体が、惜しげもなく乗員達の目に晒されている。
乗員は船員も客もほぼ男性なので、みんなソワソワしていた。
普通の女性なら、犯罪に巻き込まれるリスクを考えると絶対に着れない服だ。
ルナリアは既に数人の狼藉者を叩きのめしている。魔物相手じゃないのではっきりとはしないけど、以前のレベルアップの裏技はちゃんと発動しているらしい。
ルナリアにお触りしようとした男性客はビンタで船の外まで吹き飛ばされ、いつの間にか習得していた風魔法バキクロスの風圧で回収されていた。
今や、船の誰もが彼女を魔王討伐のために旅立った聖女として認識し、恐れ敬っている。
うわせいじょつよい。