ドラクエ3リプレイ   作:蛍蛍

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中世の夜

 

 旅の支度を済ませ、荷物をまとめると既に日が暮れかけていた。

 

「早く宿に戻りましょう。暗くなります」

 

「あ、ああ」

 

 ルナリアが俺をやたらと急かす。

 どうしてかと不思議に思っていると、あっという間に町が闇に落ちた。

 

「なんも見えねえ……」

 

 その暗さに驚かされる。多少は街灯が吊るされていたが、その間隔は広く、まったく道を照らせていない。

 

「夜は危険です。闇を歩くのは後ろめたい者か、やむを得ず外出した者だけです」

 

 俺の無知っぷりにいい加減諦めたのか、ルナリアが問う前に説明してくれた。

 この世界の夜は暗い。アリアハンは王都というだけあって多少は街灯が吊るされていたが、他の街だと完全に真っ暗になるらしい。

 そして闇夜を友とするのは、基本的に後ろ暗い部分がある者とされる。

 

「はっきり言えば、私のような若い娘は路地裏に引っ張り込まれるリスクがあります」

 

 そういって、ルナリアは俺の手を握った。

 心細いからではなく、いざそうなった時に抵抗する為に。

 

「す、すまん。すぐに宿に戻ろう」

 

 俺はこの世界の危険性を甘く見ていたらしい。

 町中であっても、弱者は常に危険にさらされている。

 そう、弱者だ。俺達は所詮レベル1の雑魚冒険者なのだ。

 

 

 

 

 

 

 宿に戻り、食堂で夕食を食べる。

 俺が驚いたことの1つに、この世界の飲食店のメニューがある。

 メニューが少ない。あるいは、1つしかない。

 特に安さを重視しているらしい宿の食堂は、安い食材を大量に仕入れて、大量に作って「さあ食え」というノリだ。

 毎日が日替わり定食である。

 

「なんか鶏肉多いよな、この国って」

 

 皿に盛られたグリルされた鶏肉をフォークで突く。

 選択肢の少なさは不満だが、意外と味に文句はない。

 昔の食事はもっと薄くて味気ないイメージだったが、しっかり塩味がついているし肉が意外と多い。

 満足とはいかずとも、食事に大きな不満がないのは嬉しい誤算であった。

 

「大鴉の群生地ですから」

 

「カラス肉かーい!」

 

 なんということか。ドラクエ3最初期の厄介者、おおがらす。

 まさか、まさかの食用肉にされていた。

 

「安価に肉が入手出来るのです。ありがたいことです」

 

「しかも感謝されてるし……」

 

 俺の認識は間違っていなかった。中世では肉は高級品なのだ。本来、庶民はそうそう食べられるものではない。

 しかしアリアハンでは、鶏肉は割と手に入る。

 庶民の味方、おおがらす。

 

「ひょっとして、冒険中に戦う大鴉の肉を回収して売るのか?」

 

「冒険者の貴重な収入源です」

 

「モンスターがお金を落とすわけじゃないのか」

 

「なぜそのような発想に至ったのですか……?」

 

 なお、食堂の明かりもやはり乏しい。

 光量のイメージとしては、ロウソク1つで部屋の明かりを賄っているくらいの明るさだ。

 最初は何も見えず困り果ていたが、意外と目はすぐ慣れた。

 とはいえこの時間まで食事を取らず不便を甘受している俺達はいわゆる「間抜け」であるらしい。

 食堂には俺達しかおらず、従業員も業務の後片付けを初めていた。

 

 

 

 

 

 

「すいません、ランタンを借りれますか?」

 

「有料ですが、それでよろしければ」

 

 俺質は部屋に戻る際に従業員に声をかけ、ランタンを借りた。

 ちなみに俺達は同じ部屋だ。というか、一人一部屋なんて相当な贅沢らしい。

 とはいえ壁は極めて薄く、夜中にギッコンバッタンズッコンバッコンなどした暁には壁ドンどころか直接乗り込んできて文句を言われるであろう。

 そういうことはそういう宿でやれ、という話だ。

 「昨晩はお楽しみでしたね」は、主人公のマナー違反を皮肉った言葉なのである。

 

「なぜランタンを借りたのですか?」

 

 ルナリアの声色はこれまでの通り平静であったが、どこか怒っているような響きがあった。

 その理由もなんとなく判る。日が暮れたのだからさっさと寝ろ、と言いたいのだろう。

 俺の無知故に、今日一日散々迷惑をかけてきたのだ。

 市場で足を引っ張り、帰宅が遅れて心労をかけ、更にランタンを借りて無駄に散財する。

 そりゃ怒るというものだろう。

 

「まあ待て、俺も考えあってのことだ」

 

 そう言って、俺は袋の中身を全部取り出す。

 そして、火を灯したままのランタンを袋に入れた。

 

「……なにを?」

 

 困惑するルナリアを尻目に、俺はさっさと寝支度をする。

 そして翌朝、俺は袋からランタンを取り出した。

 

「消えてるな」

 

「消えていますね」

 

 髪を梳かしつつ相槌を打つルナリア。

 かなりどうでも良さげな雰囲気を醸している。

 

「油が切れる形で燃え尽きてるな」

 

「貴方様はランタンをろくに見たことがないのですか?」

 

「ないんだよなぁ……とにかく、袋の中は空気があるし、ちゃんと時間が流れているんだ」

 

 身嗜みを整えるルナリアの手が止まった。

 

「貴方様は、無知なのか利口なのか判りませんね」

 

「無知と利口は両立するんじゃねーかな」

 

 もし芯と油が残った状態で消えていたなら、それは袋の中に空気がないということを示している。

 もし火が消えずに残っていたら、袋の中では時間が停止していることを示している。

 だが実際は、ランタンは普通に燃え尽きる形で消えていた。

 袋の中では空気はあるし、時間は経過する。

 

「つまり袋の中でも食べ物は腐る」

 

「……時間経過は納得しますが、空気があることと食料の腐敗に関係があるのですか?」

 

「そりゃあるだろ。……あれ、ないのか?」

 

 シュールストレミングは空気がなくても腐敗している。

 別に空気がなくても腐る時は腐るのだ。

 

「いや、それでも空気があるよりないほうが食事の安全には有利だ」

 

「納得しきれない部分はありますが、話の主旨は理解しました。しかしランタンを借りてまでやるべき実験でしたか?」

 

「大事なことだろ? もし時間が止まってたなら、いっそ飲食店の料理をそのまま入れて毎食美味しくいただきますだ」

 

「それは、確かにそうであれば良かったですね。そうではなかったようですが」

 

 身支度を終えた俺達は、いざ初めての冒険に出発するのであった。

 

 

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