城の地下は真っ暗だった。
この世界、天井に蛍光灯なんて気の利いたものはない。
洞窟探索には松明が必須だし、人工物の建物であっても夜はかなり暗い。
石造りの城の地下ともなればなおさらだ。
「とはいえ松明だと明るすぎるからな」
俺は手の平に小さなメラを生み出す。
今に始まった話じゃないけど、俺も普通に魔法を使いこなしているな。
これ、地球に戻っても使えるんだろうか。
「城の通路、という雰囲気ではありませんね」
ルナリアが言う。
いや城の一部には間違いないのだけど、城内に通じている感じじゃない。
建城時に拵えて、それ以来ほとんど使用されてこなかった感じの通路だ。
「あれだ。あれ」
ガゼルがアレアレとボケた人みたいになってる。
「非常時に王族が逃げ出す通路ってやつ。そういうのあるって聞いたぜ」
「じゃあこの先にはあの女王様がいるのか。いや偶然ロック解除したとはいえ、外側から鍵を開ける方法を用意しておくもんか?」
脱出用なら内側に鍵があれば充分な気がする。
とはいえ城を乗っ取られた時の奪還用って考えれば……いや考えすぎだろうか?
「というか地下に潜ってるんだよな、この通路。女王の居室に繋がるなら上に行くだろ」
「女王の居室は地下なのかもしれません」
んな馬鹿なと呆れたが、この国は常夏だ。
涼しさを求めて地下に私室を拵えても不自然ではないのかもしれない。
とか話しているうちに、遂に通路の最奥に辿り着いた。
玉座のような椅子と、それを取り囲む宝箱の空間。
「宝物庫? いや、墓地か?」
そういえばピラミッドは墓じゃないという学説を聞いたことがある気がする。
ピラミッドからはミイラは見つかっておらず、何かしら宗教的な意味があるモニュメントには違いないが死体は別の場所に安置されているのではないか、という説だった。
「ひょっとして、ここが本当の王家の墓?」
「確かに、国から離れた遥か遠方にお墓を作るというのも不自然ですね」
「墓参りも大変そうだぜ」
俺はとりあえず手近な宝箱を開いた。
中身は金銭的価値はなさそうな、考古学的価値を見いだされそうな装飾品だった。
「ケッ、しけてんなぁ」
「マジで誰だよコイツ勇者って認定したの」
「アリアハンの国王陛下です。彼のお父様が偉大な勇者だったからと、それだけで子も勇者だと認定しました。今になって思えば思慮に欠けた判断だったと言わざるを得ません。世襲制度というのも考えものです」
「ボロクソ言ってくれてるけど、王族は究極の世襲制じゃないっすかね貴族のお嬢さんのルナリアさん」
「普通は世襲と共に責任感も自覚するものなのです……」
ルナリアは嘆息する。
責任感なんてフワッとしたものに国政を預けないでほしい。
制度っていうのは、全員が無責任でもルールに従えば最低限仕組みが回るシステムを言うのだと思う。
たとえば警察が全員正義感なんてなくて職業として割り切って業務に従事してても、その仕事を完遂している限りは世の中の治安は保たれる。
人を救うのは責任感や正義感や義務感などではなく、法律というシステムであるべきだ。
「……私の眠りを覚ましたのはお前達か……?」
知らない声がした。
キョロキョロを周囲を見渡していると、再び声をかけられる。
「……こちらだ。私はここにいる……」
知らない声に目を向ければ、玉座に朽ちたミイラの男性がいた。
「ぎゃー! でたー! オバケだー! クソファンタジーだー!?」
これまで色々と魔法や不思議アイテムを見てきたけど、オバケ系の存在と対峙したのは初めてだった。
幽霊船だって噂でしか聞いてないし。
「……五月蝿いぞ、小僧……」
「ハイスイマセン!」
俺は正座した。
しまったすぐに逃げれば良かった。座っちゃったからすぐに走り出せない。
「……その宝箱の中身をとったのもお前達か……?」
「は、はい。俺達が取りました」
それとなく複数形で全員の責任にしておく。
「あっ、ここの封印を解除したのはそこの僧侶の女の子です」
「貴方様は生き方を悔い改めてください」
ルナリアは俺に向かって十字を切った。ミイラの亡霊より俺のほうが悪しき存在に思えたらしい。
これで呪い攻撃とかされても、ルナリアだったら聖女パワーからの反撃浄化余裕だと思う。
「……お前は少なくとも正直者ではあるな。よろしい。どうせ私には用のないもの。お前達にくれてやろう……」
「あ、ありがとうございます! ここの秘宝を糧に、必ずしや悪しき魔王を打倒します! 勇者の名にかけて!」
俺は天に己が武器を掲げた。
ブーメランである。
「……ただし条件がある……この国に入り込んだ病巣、それを取り除くことが我が秘宝を譲る対価だ……」
あっ面倒くさいやつ。
「病症ですか?」
「……そうだ……今イシスには邪悪な者が入り込んでいる……」
奴隷制を良しとするこの国の気質そのものが邪悪じゃないっすかね。
俺はそんな言葉を飲み込んだ。
「……今上女王アリアは魔族と通じている……奴は魔王軍と密約を結んで、邪法を得たのだ……」
そうきたか。