古代の王ファラオの亡霊曰く、女王アリアは魔族と契約を結んだらしい。
それは、定期的に一定数の民を献上する代わりにイシスを魔王軍の標的とはしないというもの。
つまりジパングでおきるイベント、あれに近い状況なわけだ。
「自国民を売り渡して国を守るのか、それはまあ王様としてまずいわな」
「……それも仕方がない場合もある……だが奴は国の為ではなく、自らの利益の為に民を売った……女王アリアに王の資格はない……」
「利益ですか? 女王様はいかなる利益を得ているのでしょう、邪法というのが関係しているのでしょうか?」
「……魔物が避けて通る国というだけでも利益は捻出できる……それに加え、奴は邪法によって自らを魔族化させた……女王アリアは永遠の命を得て、永遠の王となるつもりなのだ……」
美人と評判の女王アリアだが、それでも寄る年波には勝てなかった。
老いていく自らの美貌。しかし政治的なカリスマの根拠にして心の拠り所であった美貌が失われることを、彼女は許容できなかった。
だから永遠を求めた。永遠の命を、永遠の美貌を。
「老化が停止するにしても若返るわけじゃない、それを取り繕う為の暗い部屋と厚化粧か」
俺はため息を吐いた。
俺だって老いることを美しいと思えるほど達観しているわけじゃないけど、女王は考えうる限り一番醜い老い方をしてしまったのかもしれない。
「あんたさっき、場合によっちゃ国民差し出して国を守るのも間違っていない、みたいなこと言ってたよな。魔族と取引することで国が助かって女王も不死身になって安泰、ってことにはならないのか?」
ガゼルがファラオに訊ねる。
「……侵略という外交手段を選ぶ敵軍に何を期待するというのだ……相手にこちらの命運を預けるなど、真っ当な国家がすることではない……」
まあ、そうかもしれない。
不老の邪法とやらにトラップを仕込んでおけば、魔王軍は任意のタイミングで女王アリアを呪殺出来たりするのかもしれない。
魔法学的に可能か不可能かは知らないが、なんにせよあまりにも不用心だ。
「だが、現実問題ネクロゴンドやアッサラームが滅ぼされたんだぜ? この国はいわば最前線、いやフロントラインの向こう側だ」
ガゼルはそれでも不安点を示す。
砂漠に頻出する強大な魔物、おおまかな勢力範囲を考えると地球でいうアフリカ大陸は既に魔王軍の勢力範囲に落ちたと考えるべきだ。
女王が内通していたせいで、あるいは内通していたからおかげで。イシスは今、人類側の勢力の飛び地となっている。
「……滅んだというのか、あの大帝国と、商人の国が……」
ファラオの亡霊は愕然とした。
地下に引きこもっていたせいか、彼は世界情勢に詳しくなかったらしい。
その割に女王と魔族の内通を把握していたけど。城の中だけ把握出来る、とかなんだろうか。
ファラオはしばし考え込み、しかし首を横に振った。
「……駄目だ……王の首に鎌をかけられていては、どの道破滅する……女王アリアは排除するしかない……」
自分の子孫だろうに非情な判断だ。
「あんたの思惑通りに女王を排除したとして、その後は魔王軍の勢力の中で孤立無援だろ? あっという間に終わるぜ」
「うーん」
俺は首を傾げ、意見を述べた。
「橋頭堡としての価値を他国に売り込めば、何かしらの支援を受けられるかもしれない」
「……悪くない考えだ、ここに至っては自国だけで対処すべきではない……」
「キョートーホってなんだ?」
「重要な橋を守る為の砦のことです。転じて、最前線基地という意味もあります」
人間側にとってみれば飛び地で孤立したイシスは維持が大変な面倒な土地となってしまったわけだが、逆に魔王軍からしてみれば自陣営の中に厄介な敵勢力の拠点が残ってしまった状態なのだ。
「まあ全ては仮定の話だ。他国から支援を引き出すなんて難しい交渉、成功する前提で女王の排除をすべきじゃない。十中八九、イシスの中枢が空洞化して国が瓦解するのがオチだ」
「……仕方がない、こちらでも情報を集める……お前達にはもしもの時の協力を要請する……」
「……わかった。引き受けよう」
俺は頷き、宝箱から宝石がはめられた腕輪を取り出した。
これはおぼろげな俺の知識でも覚えている。イシスの城で手に入るアイテム、星降る腕輪だ。
いつもなら面倒くさいと突っぱねる案件だけど、この腕輪はドラクエ3での最強のアイテムの一つ。
ちょっとくらい面倒ごとに首を突っ込む価値はある。
俺達は腕輪に加えて幾つかの宝物を貰い、城をあとにしたのだった。