城から宿に戻る。ゲームならちょちょっと方向キーを押して終わる移動だが、現実となった町を徒歩で移動するとなるとそれなりに時間がかかった。
「朝じゃん」
明るくなり始めた空に、俺達はまぶしげに朝日を避けるように手を翳す。
さっきまで涼しいというか寒かったのに、今や急激に気温が上がってきた。
「疲れたし暑いし、今日は宿で休もう。少なくとも午前中は寝たい」
「そうですね……不法侵入ということで、変に疲れてしまったというのは否定できません」
若干くたびれた様子のルナリアが同意した。
ちなみに砂漠の深夜は寒いので、さすがのルナリアも夜間はマントを羽織って防寒している。
アラビアンドレスなほぼ裸の格好に外套を羽織った姿は紛うことなき痴女。
宿に戻った俺はフロント(とっても先頭の番台みたいな簡単な受付)に声をかける。
「うーっ、飲みすぎたぁ……ただいまーぁ……」
酒を飲んでいて朝帰り、みたいな演技をしておく。
「おかえりなさいませ。朝食はどうなさいますか?」
「あー、なんかてきとーに部屋にもってきてくれぇー……そのあと寝るからほっといてくれー」
「承知致しました」
酔ってる演技って難しい。顔色なんかは誤魔化しようがない。
不審に思われたかもしれないけど、まあここは高級宿だ。あまり不躾な探りは入れてこないだろう。
部屋に戻り、湯浴みをしていると朝食が届けられた。
カットしたパンに切り込みを入れて袋状にして、そこに具を入れたサンドイッチだ。
「あ、これ知ってる。ケバブだ」
今じゃ日本でも珍しくない料理だけど、地球においてもこの辺の料理だったのだろうか。
具の肉は細かくカットされているが、妙に香ばしく焼いた面が多い。
ひょっとしてアレか。グルグル回して焼いて、肉を削ぐアレをこの世界でもやってるのか。
「この辺じゃそれっぽい魔物は出現しなかったよな、じゃあ家畜の肉か。高価な食品なんだろうな」
逆に蟹の干し肉は貧困層でもそれなりに流通している。
地獄の鋏と呼ばれる蟹型モンスターはその強力さから討伐こそ困難だが、一度に大量の蟹肉が手に入ることは想像に難くない。
なにせ大きな建物ほどの蟹だ。取れる肉の量が半端じゃない。
日本じゃ高級食品の一つである蟹が安価な干し肉だなんて、不思議な話だ。
と、そこでドアがノックされた。
仲間の誰かだろうかと考え、考えなしにどうぞと答える。
そして、ドアが開き―――
「クックック、ハーハッハ! 久しいな、勇者よ……!」
「なっ!? 馬鹿な、貴様は―――!?」
続く。