「もちろん本当に分断させるわけじゃない。そういうポーズだ」
驚く一同に、俺は説明する。
「片方、富裕層は人類側について、片方の貧困層は魔族側につく。魔族側についた国は魔族と貿易を行って、人類側の物資を流す」
「……人類の物資を流すだと……なんの意味があるのだ……」
「魔族としても簡単に切り捨てられなくする。魔族が人類の土地に侵略するってことは、人類側にしかない何かがあるはずだ。それを細々と密輸する」
「充分とは言い難いが、それでも切り捨てるには惜しい程度に流すのか。それは……マーブル(大理石)のように2つの国が同じ土地で混じり合うことになるぞ」
民族紛争とかでありがちな状態だ。
これを意図的に引き起こして制御しようなど、正気の沙汰ではない。
「今どきの国際社会じゃ地図上の国境だけが国と国の境界ではありません。金融、資本、インターネット、あらゆる場所を陣取り合戦しています。同じ土地に2つの国が混在することは可能です」
「いんたー……? い、いや、言いたいことはわからなくはない……両極端に分離しているこの国だからこそできる方法かもしれん。そして、それは対立しているようで、裏では我々の手引による芝居に終始するわけか」
「富裕層サイドには各国の軍隊を引き込んで、『こっちには武力があるんだぞコラ』と威圧します。貧困層サイドは『俺達の背後には魔王軍がいるんだぞワレ』と脅します。そうして拮抗状態を作ります」
「……それで、どうなるというのだ……」
「人間側の資産が集まり、同時に魔王軍側の資金……彼らに通貨があるのかはわかりませんが、何かしらの体力を奪えます。金が集まれば豊かになります。イシスとしては、ローコストで歪な町を維持出来ます」
「上手く行けばだがな。一歩間違えれば、たやすく力の均衡は崩れ国が崩壊するぞ」
「まあそうですね。だから素人意見です」
いわば、韓国と北朝鮮がじつは内部で意思統一しています、くらいの無茶だ。
まさに陰謀論。嫌いじゃない。
「そんで、戦争が終われば分断国家の戦いも勝った方を勝たせます。人類連合軍が勝てばそれで良し、貧困層を取り込んで同化させます。あっこれ面倒くさいやつだ」
貧困層を救済するのは、歴史を見る限り、とにかく面倒くさい事業なのだ。
なにせ人間社会というのは、放っておくと勝手に貧富の差が広がっていく。
原始人の集団を放置しておけば、100年もすれば王と奴隷が生まれる。
それに逆らって貧富の差を減らそうというのは、人類がずっと望み、未だ至らない偉業にほかならない。
まず好景気で国家のリソースが富んでいることが望ましい。だが戦後は各国の軍隊が撤退するので、イシスは景気が低迷すると予想される。
あらゆる政治屋にとって、このタイミングで王となるのは罰ゲームだろう。
「魔王軍が勝てば……この場合は、人類最後の拠点としてイシスは人の血を守る地となります。かなりのバッドエンドですが、保険は必要でしょう」
国家を二分してリクスマネジメントするという発想は珍しいものではない。
政治家とは、どっちに転んでも進むべき道を用意しておくものだ。
「……その計画を実行する場合、貧困層の頭もすげ替える必要がある……」
そうなのだ。これは実質、2つの国で同時に革命を起こすに等しい。
貧困層も全てが弱者ではない。弱者の中で強者として立ち振る舞う者が必ずいる。
王達の想定するプランでは、王権を簒奪した上で正規の手順でそれを制圧すればよかった。
だがそれができない以上は、戦力を2分するしかない。
「現時点でもイシスは危機的状況だけど、勝っても不景気で荒れる。負けたら普通に厳しい生存競争の渦中。どのみち綱渡りだ」
俺は肩を竦めた。
「だめだこりゃ。忘れてくれ、机上の空論だわ」
綱渡りを何度も突破しなくてはイシスが生き残れない。プランとしては下の下だ。
ロマリア王とファラオ王は話し合う。
「……神輿としてはやはり厄介だ、下手に知識層だからこそ手に負えん……」
「ふむ。勇者などやはり時代遅れだな」
ひどくない?
「だがそうだな、権力なき権威とすれば使いみちはある」
「帰っていいっすか?」
なんでボロクソ言われた上で利用されんきゃならんのだ。
星降る腕輪の対価がどんどん大きくなってる。割に合わん。
俺を利用したいというのなら、せめて見返りを用意すべきだ。
「たーいーか! たーいーか!」
ファラオ王の棺を手の平でバンバン叩いて抗議する。
「……王となればイシスの王宮の美女たちを好きにできるぞ……」
「謹んで引き受けさせていただきます」
お調子者の口が勝手に動く。
俺にはルナリアという親愛なるただの仲間がいるというのに。
「いや、どの道綱渡りには違いないのだ。お前のプランも悪くはないのだ。難しいが、失敗しても次案があるのが好ましい」
「……権威として勇者の肩書を使うのならば、王とする必要はやはりある……だがそれは傀儡でなくてはならない……」
「お前にすり寄ってくる面倒事を減らすためにも、無能な武人としてのイメージ戦略は悪いことではないぞ」
くそ、政でブイブイ言わせる王様二人で畳み掛けてきやがる。
言葉で政治家に勝てる気がしない。戦う時点で負けだ。
「……そして同時に、勇者、お主は貧困層の掌握を行うのだ……お前が貧困層の王となるのだ……」
「それは……表向きはイシスの飾りの王様、裏では貧困層の真のボスをやれってことか?」
「……その通りだ、表向きの扱いが悪いほどに貧困層の顔の信憑性が増すというもの……」
無能な飾りの王が独断で外患誘致するなんてよくある話だが、それを富裕層と貧困層を完全制御した上で行えというのか。
「いや無理無理。俺にそんなスキルない」
「当然だ。こちらからも官僚を派遣する」
「……我も協力しよう……これでも元王だ、慣れている……」
意外な提案に、ファラオ王の亡霊を凝視する。
「えっと、ファラオ王が背後霊みたいに耳元で囁いて記者会見するってことか?」
「……お前が腰掛けている棺は飾りではない。我が身は、生前より秘術による復活の準備をしておいたのだ……」
俺は尻の下の棺を見た。
なるほど、ミイラへの加工は未来での復活の準備だと言われている。
このファンタジー世界においては、マジで復活できるのか……?
「できません」
ルナリアが断言した。
「死者の蘇生については以前話し合ったではありませんか。無理です。世界樹の葉があっても、可能性は低いと話したはずです」
ルナリアはそう言って、棺の蓋を開く。
分厚い石の棺の蓋を、片手で、俺が乗ったままグイっと。
「なんだこの馬鹿力聖女」
ロマリア王が愕然としている。
「秘術がどのようなものかはわかりませんが、やはり亡骸は相当傷んでいるようですね」
「……これ、見るでない恥ずかしい……」
恥じらうファラオ王。
あんたそういうキャラじゃないだろ。
「……生前より復活の準備を行い、亡骸の復元を行う下拵えをしている……こうして意識を残していることこそ、儀式が現状うまくいっている証拠だと思うが……」
なるほど、確かにこうして魂が残っている。
「どうすれば復活するんだ?」
「……伝説の死者蘇生の魔法を使えば良い、使い手が現れるのをこうして待っているのだ……」
視線がルナリアに集中した。
――――――――――――――――――――――――――――
死者蘇生の成功の是非をサイコロで決定します。
(6以上で成功) 5
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「ザオリク!」
ルナリアの使用した魔法は、しかし効果を発することがなかった。
気まずい沈黙の中、いつまでも黙っているわけにも行かず俺は訊ねる。
「どう思う?」
「初めて使う魔法なので、単に失敗した可能性もありますが……」
ゲーム中では確実に死者蘇生する上位の蘇生魔法だが、この辺の仕様がどうにも未検証で曖昧だ。
ぶっちゃけメラだって、上手く操れなければ失敗する時は失敗する。魔法とは失敗するものだ。
古代の魔法研究者にとっても復活の儀式が未検証を内包している点は同様だったらしく、王に施された蘇生の施術は失敗していた。
「……鬱である……」
いそいそと石の棺に戻ろうとするファラオ王。
何百年も蘇生のために頑張って引きこもっていたのに、いざ最後の鍵である蘇生魔法の使い手が現れても失敗してしまった。
これは、まあ、鬱だろう。
「……まあ気にしても仕方がない、切り替えていこう……」
「立ち直るのはえーな」
「……空元気である……」
ファラオ王はそれはもう深々とため息を吐く。
「……恥を忍んで生前より学者を集め、数百年に渡り惨めに魂だけで生きながらえるという醜態を晒してきたというのに……」
ファラオ王の姿が半透明になってきた。
やばい成仏しかけてる。
いややばくはないのか? 自然の摂理に従ってるだけだし。
「待て、消えるのはまあ仕方がないが、せめてピラミッドの封印を解く方法を教えてから消えてくれ」
「……封印を解く方法? 勿論知っているが……」
ミイラとなったファラオ王は、ダンジョン内の謎解きについて把握していた。
そりゃそうだ、この人が作らせたんだから。
「……まんまるボタンは不思議なボタン……まんまるボタンで扉が開く……東の西から西の東へ、西の西から東の東へ……」
「お前が歌うんかい」
ゲーム中では子供がかわいらしい感じで歌ってた気がするが、まさかのしわがれたミイラの声による熱唱だ。
「……しかし何故、ピラミッドの封印を解こうというのだ……? ここのみならず、あの霊廟の宝も荒そうというのか……?」
「言い草」
いや墓荒らしには違いないけど。
「魔法の鍵が欲しいんです。勇者の旅には必要なんです」
「……確かに、あの鍵は便利だが……」
魔法の鍵は文字通りに魔法のかかった鍵で、この世のほとんどの鍵を開くことができる。
ほとんど、であって全てではない。だがゲーム中では国によっては宝物庫の鍵すら開けたので、かなり高性能なピッキングツールといえよう。
ドラクエ3の重要なキーアイテムのひとつだ。
……ふと気付いた。
俺は裏技でレベルをマックスにしたわけだが、もしこの時点で魔法使いが仲間にいればアバカムを習得していた。
あらゆる鍵を開く解錠魔法だ。
つまり魔法の鍵が必要なくなっていたわけで、ピラミッドに突入する必要性がなくなっていた。
それはそれで、どんな展開になっていたんだろうか。
「……つまり、他の宝に手を出すつもりはないのだな……」
「…………。」
「……なにか言え、勇者よ……」
「この武器にかけて魔王を倒す!」
俺は武器を掲げて誓いを立てた。
ブーメランである。
「この部屋の宝物もくれたんです、ピラミッドの宝物もください」
「……図々しいである……なんだこの勇者……」
ファラオ王が慄いている。
これこそ勇者の武威である。
「……蘇生には失敗し、生前の宝物は奪われ……我の人生はなんだったのだろうな……」
「定年後に自身の存在意義を失った部長みたいなこと言ってる」
「……譲れれる物と譲れない物がある……全ては持っていくな……」
「くれるものは全部くれ」
「……なんだこの勇者……」
ファラオはいそいそと棺に戻った。
「……寝る、ふて寝である。宝は好きにしろ……」
言質、ゲットだぜ!