俺の糾弾に、ガゼルは顔色を変えた。
「な、なんの話だよ。スパイ?」
「誤魔化すには変な顔しすぎだ。やっぱりこういうのは不意打ちで話すに限る」
苦笑しつつ、俺は船の手すりにぐだーっと垂れる。
この場で戦う気はないという意思表示だ。
「……なんだって、俺がスパイだと思ったんだ?」
「いやだって、お前アッサラームの飯屋で聞いてきたじゃん。「襲ってきたあいつ等は何者だ」って」
「聞いたか? いや、聞いたとしてそれがなんなんだ? 敵の首班っぽい奴と戦ったのはお前らなんだ、正体をお前に聞くのは変なことじゃないと思うけど」
「あの場で人間型の、いわゆる魔族は吸血鬼のキューレ1人だった。なんで「あいつ等」なんて複数形で聞いてくるんだよ。まずはキューレというイカレポンチの単独犯だと考えるべきだろ。最初から魔王軍っていう組織だって気付いてたじゃねーか」
「それ、たぶん吸血鬼野郎とモンスターをひっくるめて「あいつ等」って言ったんだと思うぞ。覚えてないけどたぶん。つーかお前の言い分は無理があるだろ流石に」
「あの時お前は、モンスターの襲撃と関係あるのか、とも聞いてきた。つまりあの大襲撃とは別として、文脈としては俺達が交戦したキューレのみを指していた。お前はキューレを指して「あいつ等」と複数形で言ったんだ」
この違和感は割とすぐに気付いていた。
当初は気にする程度だったけど、不自然に仲間に加わってきたことで違和感は強くなった。
だから下手に強化する裏技も、ガゼルには使わずにここまで来たのだ。
「お前の故郷がエルフに呪われたことも考えれば、別にお前には魔族と敵対する理由はないんだよな。むしろエルフと敵対するポジションだ」
「まあ、うーん。エルフについて知ったのは最近だけど、確かに思うところはある、が」
ガゼルは困り顔で悩む。
さて、逃げ場のない砂船の上で話を出したわけだが……どう出る。
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人工知能に今後の展開を複数提案してもらいました。
今後の展開をサイコロで決定します。
1,2 仲間を信じる道
主人公は仲間の過去を受け入れ、彼を信じることを決意します。彼を魔王軍から引き戻す旅が始まり、仲間を助けることで新たな仲間が得られ、物語は予想外の絆の形成へと進展します。
3,4 仲間との戦い
主人公は冷徹に仲間との戦いを選びます。船上で壮絶な戦いが繰り広げられ、仲間を打ち倒すことで一時の安堵を得るものの、その後の心の葛藤と後悔が主人公を苦しめます。
5,6 魔王軍への寝返り
仲間は勇者との繋がりを断ち切り、その場で魔王軍に寝返ることを決意します。主人公は孤立する中、新たな同盟や策略を模索しながら物語は予測不能の方向へ進展します。
7,8 仲間との交渉
主人公は冷静に仲間と対話し、情報を引き出すために交渉を試みます。この選択が成功すれば、物語は魔王軍の陰謀を阻止するための新たな展開へと続きます。
9,10 サイコロ振り直し
→6 魔王軍への寝返り
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「―――っ!」
困り顔のガゼルが、そのままの顔で放った剣は、レベルカンストであるはずの俺をもって回避不可能なタイミングであった。
別段こいつの剣が速かったわけではなく、俺が無防備にぐだっとしていたせいだ。
こいつ、俺があえて油断を晒して無防備アピールしていたというのに、俺に完全不意打ちで初撃を放ってきやがった。
「お前と真っ向からやり合う気なんてないぜ、勇者様よっ!」
言って、ガゼルは俺の眉間に剣先を突き刺す。
ガキンッ!
剣は俺の肌に弾かれ、傷ひとつ付けることはできなかった。
ドン引きした様子のガゼルは、そのままの流れで船から飛び降りる。
「あっ。待て! 逃げるな卑怯者! 男なら正々堂々と戦え!」
「痛恨の一撃でもノーダメだと確認して急に好戦的になるな!」
それを捨て台詞に、ガゼルは姿を消した。
甲板端の柵から見渡すも、見えるのは砂漠ばかり。
「逃げられた」
逃げ場のない船の上で探りを入れたというのに、見事に逃げられた。
これは間抜けの誹りを免れない。ミスった。
「いや、どだい俺には人を殺すなんて無理だったってことか」
最初は魔物との戦いだって困惑していたんだ、人間との殺し合いなんてできっこない。
俺はしょせん、この世界から地球に戻るまでのパートタイム勇者だ。
この世界の命運を背負うのも嫌々だし、そのために殺人の責任を背負うなんて御免こうむる。
「……俺の憎しみじゃないんだ」
5000万人死んだ。殺された。
けど、俺とは関係のない人間達だ。
彼らを俺の怒りの理由にする気はないし、してはいけないと思う。
故郷の友人や家族ならともかく、赤の他人だったのだから。
だから、俺は魔王軍の暴虐を見ても勇者になれない。
そこには空っぽの正義感と使命を持った、空っぽの最強勇者がいるだけだ。
ありもしない殺気で、人は殺せないということなんだろう。
「ガゼル。俺と、敵対する気なのか」
返事はあるはずもない。
このまま中途半端な心構えで迎え撃てば、きっと普通の勇者なら命取りになる。
だが俺の強さは、その程度で覆せないほど圧倒的だ。
昏く強い意思を持ったガゼルと、薄っぺらい惰弱な意思しか持たない俺。
普通なら、俺が負けそうなものだが……
それでも、俺達彼我の力関係が覆ることはない。
きっと、この世は決意とか意思の力とか友情とか情熱とか、そんなので覆せるほど安くない。
ガゼルは俺と敵対すべきではなかった。勝ち目の薄い、どこまでも分が悪い賭けに出てしまった。
「……けど、また会った時にどうすっかなあ」
この辺の決意も曖昧なまま問い質した俺も俺だ。
いい感じに話し合いで解決するのに希望を託し、そして失敗した。
楽なルートもあり得たから、そっちに賭けたのだ。
俺はこんなのだし、ルナリアは知識欲優先だ。アミーラちゃんだって金儲けのことしか考えてない。
勇者パーティーって、こんなのなんだろうか。
いやまあ、変に高潔な誓いをするよりはこっちのほうがいいんだろうけど。
正義の使命感による殺人は、きっとこの世で一番おぞましい罪だ。
だから、俺は。
またガゼルと会った時は、私利私欲の為に戦うとしよう。