「いやなに今の。中に誰かいたの?」
「いえ、その……」
再びゆっくりと石扉を開ける。
「ひえっ」
向こうからも誰かがこちらを覗いていた。
隙間から魔法の炎が吹き出し、ルナリアの頭を焼く。
「わっ。びっくりしました」
「頭焼かれてびっくりで済ませてるぞこの人……」
扉が完全に開かれる。
そこで待ち構えていたのは、吸血鬼の少女キューレだった。
「勇者……! このような場所ででくわすとはな!」
彼女はこちらを睨みつける。
「キューレか。こんなところで何をしてるんだ?」
「言うか! ふざけているのか!」
そう簡単に情報漏洩はしてくれないらしい。まあファラオのピラミッドに侵入している時点で、悪事を働いているのは明白なのだが。
「この先には行かせられぬ! 死んでもらうぞ!」
キューレが叫んだ瞬間、俺たちの間に激しい熱の柱が上がる。
「ベギラゴン!」
「げっ」
後退する暇もなく、俺たちは熱に包まれる。
肌が粟立つような感覚。ギラ系の魔法は初めてみたが、遠赤外線による攻撃なのだろうか。
俺は咄嗟に腕で身を守ったが、熱の中心にいたルナリアは涼しげな表情で立っていた。まるで何も起こっていないかのように。
「……なに!?」
「砂漠で炎系の魔法はやめてほしいです」
彼女はそれだけ言うと、隙を見てスタスタと扉の中に入っていった。
まさかのキューレスルーである。
「ちょ、行くのか?」
「キューレさんの目的はわかりませんが、この中にそれがあるのは確実です。確保しておきましょう」
「お、おう」
俺とアミーラもその後に続く。
「馬鹿な……! 私の炎を受けて平然としているだと……!?」
キューレは驚愕の表情を浮かべている。そりゃそうだ。ベギラゴンといえばその系統で最強の魔法だったはず。
俺だってここまでダメージが軽いとは思わなかった。
あとこれ炎なの?
「ベギラゴン! ベギラゴン! ベギ……」
キューレは続けて魔法を何度も放ったが、それすらルナリアは平然としていた。
「バカな……!?」
驚愕の表情を見せるキューレ。俺達のパワーインフレを知らなかったらしい。
俺はここで攻勢に出るべきと判断した。
「よし、作戦変更だ! キューレを捕縛するぞ!」
「あ、はい」
「お、おのれー! なめるなよぉ!」
キューレは手に炎の魔力を溜め、それを高速で打ち出す。
「メラゾーマ!」
俺たち三人は散開してそれを回避する。俺の真横を通り過ぎた炎の弾丸は、そのままピラミッドの通路を駆け抜けていく。
そして遠方で激しい爆発が起こった。
「そういう魔法を使うな! 倒壊したら全員生き埋めだぞ!」
「貴様らを打倒できるなら安いものだ……!」
キューレは自滅覚悟で俺達を打倒することにしたらしい。たしかにそれはこれ以上ない攻撃だろう。ピラミッドが壊れれば生き埋めだし、そうするとステータスが高い俺達も窒息死とかする可能性だってある。
「一気に仕掛けましょう」
「ああ」
俺達は一斉にキューレに迫る。
キューレは更に魔法を連発してくるが、どれも俺に通用する威力ではない。魔法職は接近されると弱いのは界隈の常識だ。
近接戦できる聖女とかもいるけど。
「くっ、化け物め……!」
接近されたキューレは、それでも諦めずに魔力を溜める。
だが距離が近すぎる。溜めている間にボコボコにできるだろう。
「終わりだ!」
俺は拳を振りかぶり、キューレに叩きつける。
そのときだった。
キューレが、不敵にニヤリと笑ったのだ。
彼女の目の前で爆発が巻き起こった。それは普通の攻撃や防御魔法ではなく……
「メガンテ―――!」
「自爆魔法っ!?」
メガンテは自らの命と引き換えに敵に大ダメージを与える禁断の魔法。
自らの命と引き換えに発動する自爆技である。
「勇者よ! 私の命を代価にしたこの一撃、くらえええっ!」
次の瞬間にはキューレの体は粉々に弾け飛び、その残骸が部屋中に散らばっていた。