「楽しい光景じゃないな」
室内は赤く染まっていた。ミンチよりひでえや。
エイダちゃんの敵(かたき)である、吸血鬼の少女キューレ。
複雑な感情を抱く対象であったが、別に死んで欲しいわけではなかった。
「俺はな、キューレって奴と話してみたかったんだ」
敵である俺に対して、あんなふうに感情的に訴えてしまう未熟さが実は気に入っていた。
敵に対してただ冷淡で冷徹ならば、話し合う余地なんてない。
思うところがあるからこそ、キューレは感情を持って俺達に余分な話をしてきたのだ。
「生きるとか死ぬとか、バカバカしい。戦う前にやるべきことなんて幾らでもあるだろうに」
冷戦時代のアメリカの政治家曰く、戦争とは外交的敗北である。
戦争が儲かるなんて幻想だ。勝ったところで国力を大きく削がれトータルでは不利益となるし、敗北すると何もかもを失う。
だから、経済学が発展した地球の現代において戦争は発生しなくなった。歴史的に戦争大好きなはずの国でさえ、平和主義を白々しく唱えるようになった。
人が戦争を捨てられたのは、人が多少なりとも上等な生き物に進化したからなどではない。倫理観が発展したからではない。平和の尊さが人々に理解されたからではクソほどもない。
ただ、計算の末に儲からないと結論が出ただけだ。
戦争は儲からないのだ。戦争をしたがるのはそれを知らない井戸の中の小国か、あるいは損得勘定もできない狂人が支配する国家だけだ。
強いていえば戦勝国の軍事産業が一部儲けを得る可能性はある。軍事産業複合体の悪辣さは死の商人すらおぞけを覚えるレベルだ。
だが、国家全体としてみれば戦勝国であってさえトータルで利益となるかは怪しい。戦勝国であってもいたずらに貧富の差が広がり、国力が摩耗し、あとには何も残らない。
この原則は、魔族だって同じはずなのだ。
大戦争なんて収支が合わない。本当ならば、戦争なんて起きるはずがなかったのだ。
だが起きてしまった。それが歴史という濁流が生み出した悲劇なのか、誰か個人のイカレ野郎のせいによる喜劇なのかは判らないが。
戦いは始まってしまい、5000万人が死んで、キューレもまた死者の参列の50000001人目として加わってしまった。
よくある悲劇がまた、一つ起きてしまった。
「魔族でも血は赤いのですね」
ルナリアの何気ないつぶやきに、俺は我に返った。
いかん、ダンジョンの最奥で考えに耽るのは危ない。
「君の血は青いだろ、貴族的な意味で」
「貴方様も王となれば青い血ですよ」
気を紛らわせるにしても、つまらない会話だと自嘲する。
わからない人向けに説明すると、貴族の血は青いと昔から言うのだ。
血管は青いので、それが透けて見えるほど肌が白いという意味である。
「ルナリア、一応蘇生魔法を使ってみてもらえるか?」
「えっ? 生き返らせるのですか?」
「捕虜にする為にな。うまくいかないだろうけど、一応な。一応」
「承知しました」
駄目元ということで、ルナリアも気負いなく魔法を唱えた。
「―――ザオリク!」
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魔法の結果をサイコロで決定します。
分の悪い賭けということで、蘇生成功は10面サイコロで1が出た場合とします。
3
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「……失敗です」
「まあ、そりゃそうだよな」
これで成功していては、ファラオ王の立場がない。
魔族だし肉体が爆散しているし、元々成功するとは思っていなかった。
「ニフラム。ニフラム。ニフラム」
ルナリアが浄化魔法で飛び散った肉片を消していく。
「なんか肌がヒリヒリする」
「貴方様が汚らわしいだけでは?」
部屋を綺麗にして宝箱を開く。
中に収まっていたのは、予定通りというべきか、どこか有機的な印象を受ける奇妙な鍵であった。