「はあ、はあ、すいません……魔族の幹部と出くわして、命からがら脱出してきました……」
俺は満身創痍アピールをしつつ、砂船の船長に告げた。
「それは……ご無事でなによりです。して、その魔族は?」
「その、俺達など倒す価値もない、みたいなことを言って去って行きました」
イシスの軍人さん達の視線が厳しくなる。
勝手なものだとも思うけど、俺はイシス滞在にそれなりに予算を使ってもらってるからな。
役割を果たせないなら評価が厳しくなるのも仕方がない。
「これからどうなさいますか? 魔族を追いますか?」
「お、追うっ!? 馬鹿を言え、今度こそ死んじまう! 俺は嫌だっ!」
小物勇者ムーブでイシス軍人の評価をとことん下げる。
いざ革命の時、少しでも警戒をさせない為だ。
「……勇者様はこの一帯で最強の魔物、地獄の鋏を一撃で屠ったと聞きますが……そんな貴方が、手も足も出なかったのですか?」
船長の視線が俺を疑っている。
俺の評価をどう定めるか、悩んでいるらしい。
だがそれでは駄目だ。ちゃんと弱いヘタレ勇者という評価をしてもらわなければ、革命に余計な被害が出る。
俺はズボンの中から伸びた紐を引いて、仕掛けを発動させた。
「俺はっ、俺はいやだああぁぁぁっ! ああああああああっ!」
ガクガク膝を震わせて、股間から水が溢れる。
水袋を仕込んでの、失禁演技である。
「ああああああっ。あああー」
やばいなんか気持ちいい。
これが禁忌の味。悪い魔法使いが邪悪な魔法に手を出す気持ちがわかった気がする。
軍人達の目が冷たくなる。今、俺の評価は徹底的に低くなったのがわかる。
ポタポタと水滴が船の甲板に落ちる。これぞ禁断の果実。
「……勇者様はお疲れのようです。部屋にご案内してさしあげなさい」
「はっ」
部下につれられ、部屋に戻される。
これにて、何の成果もあげられませんでしたー! 作戦の第一段階は完了した。
1ヶ月かけてイシスに戻る。
謁見の間にて、2ヶ月ぶりの厚化粧と対話。
「ああ勇者よ。敗北してしまうとは情けないです」
女王のいかさか冷めた口調にゾクゾクする。
危ない危ない、これが年増などではなく同年代の美少女であればドンピシャだった。
俺は内心を隠し、必死に嘆願する。
「女王様! 今一度、一度だけチャンスをください!」
「チャンス? しかし、魔族に秘宝を奪われたのではないのですか?」
「いえ、それはありません。どうやら魔族も、ピラミッドの封印を解けず苦戦していたようですから」
ピラミッドが浅層しか探索できないことは有名らしいので、封印についてはこの国も把握しているはずだ。
「屈強無双と誉れ高いイシスの兵をつけてください。魔族と言えど、数で攻めれば敵わぬはずです!」
「ふむ、いえ、しかし……」
渋った様子の年増女王。
そこに、いまだ滞在していたロマリア王が口を挟む。
「女王よ、私は外国人であるから干渉する権限などない。内政干渉となるからな。しかし、1意見として言わせてもらえればやはりここは打って出るべきだと思うぞ」
「ロマリア王。ですが、それでまた敗走すれば目も当てられません」
女王は魔族と通じているので、本当はピラミッド攻略などされたくはないはずだ。
だがそうは言えないので、俺の支援は形だけで、実際はなにもしないという方針だと思う。
しかし俺とロマリア王はこの国の精鋭の空洞化を望んでいるので、イケイケドンドンのプッシュ。
「女王! ぜひ、ぜひ俺にもう一度チャンスを! ギブミーアチャンス、最後にかけてみたいんだ!」
「なにを歌っているのですか……」
「この国の勇者達に、俺の命を預けます!」
イシスの精鋭≦勇者という印象を与える為の小細工だ。
あれ、この勇者ひょっとしてワンチャン始末できるんじゃね? と考えてくれれば儲けもの。
「いや、しかし……」
「チャンスをください!」
俺は土下座して頼み込む。
この国に土下座なんてないから、女王も困惑している。
「女王様! お願いします! なんでもしますから!」
「……なんでもと言いましたか?」
おいちょっと待て、この世界にこの構文があるのかよ。いや偶然だろうけど。
「はい! この勇者アルス、美姫と名高い貴女様のためとあらばどんなことでもやります!」
姫じゃなくて女王だけど。
「し、仕方がありませんね……そこまでいうのなら、我が兵を動きかしましょう。共同にてピラミッドを攻略するのです!」
「御意!」
俺は最高の営業スマイルで返す。
ちょっとうれしくなってるんじゃねーよ年増。
内心で悪態をつきながら、あくまで真摯に兵を借りる旨を伝える。
「では兵をお借りいたします。必ずや魔族を打ち倒して見せましょう」