革命の手筈は以下の通り。
調べ物をしたいという名目でロマリアから随行してきた文官をイシス城に残す。
その文官からの、イシスの兵士に暴力を受けたという知らせをロマリア王が受け取る。
ロマリア王の近衛兵が自国民保護を名目に城につめかける。
近衛兵と城に詰めた兵士がにらみ合いとなれば、精鋭部隊を欠いた状態の現状では城の戦力はほぼ空洞化すると考えられる。
その隙に別働隊の俺達勇者パーティーが女王の居室に突入、確保するという段取りである。
「悪辣すぎん?」
宿の部屋での最終打ち合わせにて、俺は思わず指摘していた。
「こんなものだろう」
俺のドン引き顔を、ロマリア王は飄々と受け流してみせる。
「というか、そもそもこの革命を画策したのは貴様ではないか。わしはその計画を修正し、むしろ被害が減る方法を提示したつもりだ。貴様のずさんな計画では、少なからず死者が出るぞ」
ロマリア王はこの革命を無血開城で果たせると考えているらしい。
そのかわり、手段としては悪辣。
この国の者達はそれで救われたとして、俺達に感謝するのだろうか。
別に感謝されるのが目的ってわけじゃないけど、さあ。
「いいか勇者よ。世の中には確かに善悪があるが、それと人の幸福はなんら関係ない。人を幸福に導く悪もいれば、人を絶望させる正義もある。問題は常に過程ではなく結果なのだ」
「大義は必要ないというのか?」
「大義など後からついてくる。まずは数字だ。それが国というものだ。わしは正義ではなく、民のためでもなく。ただ、国家の為の王であらねばならない。そのためならばどんな汚い手段であっても、やる時はやる」
「民をないがしろにすることが民の幸福に繋がると?」
「わかっているではないか。その通りだ。綺麗事だけで国が成り立たない事は歴史が証明している。そして、それはお前も同じだ」
ロマリア王は俺の肩を軽く叩く。
「小賢しいお前には今更だろうが、勇者なんてどこにもいないし、どこにだっている。誰がために戦うと誓った戦士はみな勇者なのだ。その手がどれだけ汚れていようとな」
「……俺はあんたの国の国民じゃないぞ。別に気を使う必要なんてないだろう」
「ただの人生の先達の言葉だ。聞き流してもいいぞ」
そういって、肩を竦めて立ち去るロマリア王。
「わしはもう行く。お前も出遅れるなよ」
俺はロマリア王の背を見送る。
「勇者様」
「おっ、おう?」
呼びかけられ、戸惑った声を出してしまった。
「る、ルナリアか。いたのか」
「それはいますよ、もちろん」
ルナリアは俺が勇者という立場に思うところがあって、そう呼ばれることを好まないことを知っている。
だからいつもは貴方様と呼んでくるのに、今日に限っては勇者様らしい。
「いつまでも逃げ回るわけにはいかないのでしょう。今日に限っては、勇者様であってください」
「それは……そうだけど」
今更革命を止めることなんてできない。
やるしかないのだ、この選択が誰かの救いになると信じて。
「勇者様は立派なお人です」
「どうしたんだ急に」
「わたしが貴方の立場であれば、きっと逃げ出してました」
そういえば、俺も最初はどこかで使命を投げ出してやるって思ってたっけ。
「だから、やっぱり―――貴方様のことを、勇者様と呼びたいのです。……駄目でしょうか?」
「好きにしろ」
ロマリア王の言い分では、俺なんかでもやっぱり勇者らしい。
だから、今日くらいは決して立ち止まることなく歩き続けなければならない。
せめて堂々と、勇者らしく。