俺達は勘違いしていた。
冒険者は野宿なんてしないのだ。
「ちゃんと宿屋に泊まれるもんなんだな」
「アリアハンは物価が高いですから」
辿り着いた小さな村は、ひしめいた印象のあるアリアハンより広々とした印象だった。
田舎のほうが大きな家が多いというのは、異世界でも通じる法則らしい。
とはいえ、この調子では最初の旅の目的、その1つが達成出来ない。
「野宿の機会、なさそうだな」
「はい。王都アリアハンと南部の港町を繋ぐルートは物流が盛んですから、おそらく宿場町が途絶えることはないでしょう」
俺達は数時間歩き、アリアハン南の一番近い宿場町に着いていた。
この大陸には何十何百も町や村がある。
アリアハンは国なのだから、まさかゲームのように支配地域がアリアハン王都とレーベの村のみであるはずがないのだ。
勿論、都市国家という概念は地球にもある。そうでなくても、この世界は各地地方自治の力が強く、全ての集落は都市国家に近い性格を持っている。
魔王の出現、モンスターの凶暴化による影響が少ないのは各町の自給率がほぼ100パーセントだから。
これが現代の日本であれば、おそらく1週間も保たず餓死者が出始めるだろう。
この大陸は全体としてはあまりにまとまりがなく、だがそれでもアリアハンは世界に名を轟かせる国家の1つであり、広大な支配地域を有する「大国」であった。
無数に存在する人里。人里というのは、必要に迫られて生まれるもの。
それは単純に居住地であり、狩りの拠点であり、貿易の中継地であり。
とにかくなにかしらの理由あってそこに住んでいるわけで、人が住めば需要を満たす為の供給がなされるのである。
つまり街道を旅すると一定の距離で人里があり、宿場町としての機能がある。
ただ粗末な建物を貸し出すだけであることもあれば、高級ホテルである場合もある。
長々と何が言いたいのかといえば―――どちらにしても、真っ当に街道を旅している限りは泊まる場所には困らないのだ。
「街道って町と町の間には必ずあるんだろうか?」
宿場町のメインストリート、宿屋への道を歩きつつ訊ねる。
「必ず、ではないと思います。複数の町の交流が物理的に阻害されていないのなら、そこに必ず物流は生じるでしょう。しかし、交流が政治的理由などで断絶された地域も存在するとも考えられます」
「あー。そういえば日本にもあったな、すげー近いのに交流断絶した国」
ゲームでは草原を、森の中を、山中を突っ切って旅をしていた。
だが現実には街道があり、商人なんかは馬車を使って荷を運んでいる。
考えてみると、ゲームの主人公は道なき道を行き過ぎである。
「冒険者も基本は宿で寝る。野宿をする事態っていうのは、根本的に計画の失敗なんだな」
「そのようですね。私はてっきり、冒険中は毎夜仲間達で焚き火を囲むものだと思っていました」
「それな」
勿論例外も多いだろう。魔王討伐の旅ともなれば、未踏の地を進むことも多いはずだ。
とはいえ、冒険のイロハも知らない世間知らずの俺達は、まずは宿に積極的に頼るべきなのだろう。
「たぶんレーベまでは宿に頼れるだろう。そこから先は……本格的に野宿かな」
「レーベ? どこですか、それは?」
「知らないのかレーベ? いや原作でもしょっぱい小さな村だったけど」
ひょっとしたらレーベは一見、ありふれた小さな田舎村でしかないのかもしれない。
それこそ、ルナリアが認知していないほどのありふれた村。
ただ1点、とあるアイテムを作れるおじいさんが住んでいるという部分が特殊だった。
「ま、レーベより先に塔に登らんとな」
「馴染みの塔ですか?」
アリアハンから見えることもあって、ルナリアもすぐに「塔」がどこを指すのか理解していた。
「それ正式名称なのな」
「あの塔になにかあるのですか?」
「正直よくわからんけど、まずはあの塔に登らんにゃならんらしい」
「はあ……ああ、ここですね」
村の出入り口で案内された通りの場所に宿屋を見つけ、ルナリアはさっさと建物に入っていった。
若干反応がおざなりなのは、今日1日歩いて疲れているだけだと思う。
別に俺の相手に疲れたってわけじゃないと信じたい。