魔族の勇者ガゼル爆誕。
威勢よく宣言した割に、ガゼルはその場を一気に離脱、逃走した。
絶対戦う流れだと思っていたので、3人ともポカーンだ。
残されたのはさめざめと泣き続ける老婆。王女アリアである。
「あー、大丈夫ですか?」
「ゆ、勇者……こんな醜い私に、声をかけてくれるのですか?」
「まあ、ほっとくわけにもいかないので」
敬老精神的にほっとくわけにもいくまい。
泣き続ける老婆というのが絵面からひどい。つい介護してしまう。
「うれしゅうございます。ぽっ」
やめろよ。
そんな路線誰も求めてないよ。
やいややいやと兵士達が駆け込んでくる。イシスの兵士かと思いきや、それはロマリア兵だった。
「ルナリア様、勇者様! ご無事ですかっ」
「大丈夫だ。女王は無力化した」
この兵士、さらっと俺よりルナリア先に呼びかけやがった。
俺は兵士達に老婆となった女王を任せて、ほっと一息つく。
別に疲れてないけど、戦闘を回避できるのはいいことだ。
問題の先送りかもしれないが、所詮戦間期なんて次の戦争への準備期間。
問題の先送りで稼いだ数十年こそが何より大事だって、ブランデー入りの紅茶が好きな提督も言ってた。
とはいえ……だ。
「ガゼル……」
俺はこの事態に歯ぎしりするしかなかった。
ここまでの旅路で大きくの魔物も人も殺してきたけど、それができたのはそれらが赤の他人だからだ。仲間、友人、知人を手にかける覚悟なんてない。
あまり長い期間じゃなかったけど、ガゼルは仲間だ。それも、パーティー内での唯一の同性の友人。
いつか裏切る予定だったとしても、いつか裏切られると知っていても。
それでも俺達は、互いに友人だと本心から思えていた。
「勇者様……」
ルナリアが俺を気遣ってくれていた。
そんな目で見られても困る。
「まあ、なんとかするさ。そのうち。そのうち」
現時点でジタバタしたってしょうがない。世紀末が来るぜ。
さて、これから忙しいぞ。
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イシスの滞在期間を12面サイコロで決定します。
12
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革命から1年の月日が流れた。
当初の予定通り、不本意ながらイシスの国王となった俺は、忙しい日々を送っている。
「アルス様、ご報告が……」
「アルス様、例の鉱山から採掘されたミスリルの純度が……」
「アルス様、昨晩ルナリア様が酒場で暴れたらしく……」
執務室で山のような書類と格闘する俺は、ふとした時に革命からの日々を思い出す。
1年だ。まさかの1年経過だ。
元々が富裕層と貧困層に別れていたこの国だが、革命の日以来、両者は更に二分化が進んでいる。
貧困地域は完全にイシス王朝の実効支配から離れ、どこかの誰かが独自通貨なんて流通させて経済を守ろうとしているようだ。
経済的に分断されたことで、近くて遠い国と化した。
そして始まった、魔王軍との戦略なき闘争。
物量で作戦もへったくれもなく攻めてくる魔王軍に対し、人間軍は当初寡兵でもって迎え撃った。
そうして防衛戦をしている間にロマリア王が各国と交渉。各国国軍からの派兵と冒険者ギルドへの斡旋を依頼。
徐々に集まりゆく世界中の強者達。
富裕層は遠征軍の受け入れにより外貨を得て、貧困地域もまた冒険者達を迎え入れることで好景気となった。
……いうまでもなく、これらはすべて俺達の計画通りであるわけだが。
革命の日から俺達は、この国を魔王軍に対する橋頭堡として運営していくことを決めた。
世界中(といってもこの中世の世界における世界中というのはヨーロッパ地域であり、アフリカやアジアは別世界扱いだが)から集まった各国の兵士が富裕層街に駐屯し、傭兵として集まった玉石混交の冒険者達は貧困層の少々粗雑な街に滞在している。
想定外の部分も色々とあったが、結果として多くの戦力がうまく集結できていた。
問題も多い。各国の将軍達は連合軍として作戦会議をするも、どうにもまとまりきれていない。
指揮系統が複数並列しているあたり、救いがない。
「…………。」
アミーラちゃんが執務室のソファーにちょこんと座って俺の手が空くのを待っている。
なにを隠そう、貧困地域で独自の通貨を流通させて、人々に見えない首輪をつけてみせたのは彼女だ。
その手腕はまさに悪辣。かわいい顔して(見えないけど)貧困地域を裏でほぼ完全に支配している。
この国は今、俺とアミーラちゃんの二人が支配していた。
どうにもまとまりきれない連合軍だが、その御旗となっているのは勇者たる俺だ。
地球の軍隊というのは個人の力に頼らない。だが、中世時代であるこの世界の軍人については個人の強さを良しとする風潮が残っている。
迷彩服ではなく騎士服を纏い、諍いがあると武力で是非を決する。
あまりに野蛮な連中だ。だからというわけではないが、俺も野蛮な方法で存在感を示した。
武道会編である。
学園編と並んで冗長となる定番の流れだが、俺はイシスの新たな王として親睦を深めるという名目で大会を開催。
そのまま圧倒的な実力差で優勝してみせた。
表彰台にたった時の、兵士達の冷めた目が忘れられない。
「よし、片付いた」
俺は一息つく。諸々の指示を出し終え、ようやく役人達が捌けた。
今部屋にいるのは、俺とアミーラちゃんだけだ。
「アミーラちゃんもその様子だと身辺整理を済ませて来たんだな?」
「…………。」
頷くアミーラちゃん。
俺達はしばらく前から、とある計画をたてていた。
「いつまでも国家運営なんてしてられっか! 俺は旅に出させてもらう! 計画の準備が整ったな」
そも、当初の予定ではここまで長期間の滞在をするつもりだってなかったんだ。
ずるずると来てしまったが、そろそろ俺は旅立たねばならない。
「けどアミーラちゃんはいいのか? 現状は商人として一つの成功だろう」
街一つを支配しているんだ、商人としての大成といっていいんじゃないだろうか。
「…………。」
アミーラちゃんは黒衣の首元を引く。
そこに見えるのは、白い首筋に似つかわしくない首輪。
ああ、そういえばこの子は俺の奴隷だったっけ。すっかり忘れてた。
「それだって今更だ、きみを奴隷扱いなんてする理由がない。それでもついてくるのか?」
頷くアミーラちゃん。結局この子はどんな大望を抱いて勇者のパーティーに参加したのだろうか。
「……まあいい。俺は城を離れられないから、ルナリアへの伝言は頼んだ」
アミーラちゃんは頷き、執務室を出ていった。
頼んでおいてなんだけど、無言キャラの彼女はどうやって伝言を伝えるつもりなのだろうか。
滞在期間をサイコロで決定したわけですが、作者としてはせいぜい3ヶ月くらいと予想していました。
まさか1年滞在するとは。