舞踏会が終わり、数日後。
俺達は船団護衛の依頼を果たすべく出港の準備をしていた。
そこに現れる平民風の服を着た美少女。
「ソニヤと申します! 今日からお世話になりますっ!」
「帰れ」
露骨に変装して来やがった。
「とりあえず事情を聴こうか」
俺は船内にソニア……ソニヤ? まあソニアでいいや。彼女を連れ込んで、じっくりと話をすることにした。
「きみ、一応王女だろ? 気軽に旅にでていいはずないだろうに」
「あのー、勇者王様も王様ですよね? 別に退位してませんよね?」
「まあそうだが」
ちょっとこの切り口はブーメランになるからやめとこう。
「きみがいなくなったらポルトガはどうするんだ? 王様がいないと国が回らんだろ」
「先王のお父様がいます! だいじょーぶです!」
つい最近まで王様を現役でやっていた人物だ、確かに今のタイミングなら簡単に引き継げるかもしれない。
それはそれで、王女様としてどうなのかと思うけど。
「お父様ってのはどんな人なんだ?」
「おう、俺に用があんのか、勇者王よお」
のっそりと巨漢が船に入ってきた。
海運ギルドのギルド長、マルコ氏だ。
「ギルド長? ……え、あんたが先王?」
「そうだ。ソニアから勇者様に直談判するって聞いたんで、見にきたんだ」
この筋肉達磨が、一つ前のポルトガ王なのか? てっきり元船乗りかなにかかと。
だが隠居した王様が適当な役職につくってのは地球でもよくある話らしいし、経験がものをいうであろう海運ギルドの長ってのは適職なのかもしれない。
悪い言い方をすれば天下り。
権力者の身内で要職の椅子を回すとは楽しそうですねえ!
「実際、こいつを連れていくのもありだとは思うぜ? こいつはアホだが顔は広い、世界中の海を渡るなら必要だ」
「まあ、そういうタイプの娘だとは思うけど」
この娘、コミュ力は高そうだ。
俺は考える。
この旅において、おおよそ地中海を東に進むことになる。
知っての通り地中海は東に進んでも行き止まりだ。スエズ運河があるわけじゃないし。
つまり、船団護衛の依頼達成後は結局ポルトガ、というかジブラルタル海峡まで戻ってくるわけだ。
もしソニアが仲間として不適切だと思えば、その時にポルトガに残していけばいい。
だが、王女を乗せるというのは大きなリスクであることも間違いない。俺にはとても責任を持てない。
いや男の責任とかじゃなくて。
「だめ……ですか?」
上目遣いでこちらを見るソニア。
ううむ、どうしたものか。
「こういう時は……」
俺は一枚の通貨を取り出した。
「いっそ神様に委ねてみよう。ソニア、裏と表、どっちがいい?」
「え? えっと、では裏で!」
俺はコインを弾く。空中でくるくると回転するコインは、俺の手の甲にポスっと収まった。
――――――――――――――――――――――――――――
コイントスの結果をサイコロで決定します。
1〜5 表
6〜10裏
5
――――――――――――――――――――――――――――
「……表だな」
「そんなっ!」
愕然とするソニア。
だがコイントスの結果は絶対。覆すわけにはいかない。
「残念だが、やっぱり連れて行くのはなしだ」
「うううー」
がっくりと項垂れるソニア。
「まあそう気を落とすな、勇者王様も意地悪で言ってんじゃないんだ。魔王討伐の旅ともなればなにがあるかわかんねえ、王女様の身になにかあったら一大事だから連れて行けねえってのは当然の考えだ」
ギルド長が助け舟を出した。
当然だと思うなら最初から止めてほしかった。
「……なるほど、3回勝負の1回めは私の負けですね!」
「えー……」
往生際が悪いぞ、この娘。
「きみもわかってるんだろ、旅は何があるかわからない。帰ってこれない前提くらいの覚悟が必要だ」
「勇者様に嫁ぐつもりなので、それは覚悟していますが……」
「するな」
「お願いしますっ! なんでもしますから!」
「ん? いまなんでもするって、いやそうじゃない。何を言ってるんだ俺は」
俺は再びコインを指に乗せる。
「しょうがないな、3回勝負だったか、じゃあ2回目だ。裏と表、どっちにする?」
「むむむっ、では裏です! 2回目も3回目も裏です! 初志貫徹です!」
再びコイントス。……手の甲に収まる。
――――――――――――――――――――――――――――
コイントスの結果をサイコロで決定します。
1〜5 表
6〜10裏
3 10
――――――――――――――――――――――――――――
「表、裏だな」
「あばばばー!!」
ソニアは泡を吹いて倒れた。美少女が台無しだ。
「ソニアよお、いい加減認めちゃどうだ? 勇者王様の言い分だってその通りだぜ」
「……ふっふっふ、3本勝負の第1試合は私の負けのようですねっ」
ほんと往生際が悪いな、この人。
「じゃあ、裏表、どっちにする?」
「言ったはずです、初志貫徹と! 2回戦目も3回戦目も裏です!」
それじゃあ一気にいくぜ、コイントストストストストストス。
――――――――――――――――――――――――――――
コイントスの結果をサイコロで決定します。
1〜5 表
6〜10裏
3 8 9
8 9 10
――――――――――――――――――――――――――――
「……まじかよ」
第2回戦は表裏裏で裏。
第3回戦は裏裏裏で裏となった。
「やった……やったぁー!」
ぴょん、と飛び跳ねるソニア。
……この女、駄々こねて粘り勝ちしやがった!
俺の雑な計算だと、1勝負で出るパターンは8通り、うち裏が2回でるパターンは3通りだ。
つまり1勝負での勝率は8分の3。それが2回連続となると、64分の9となる。
これをパーセンテージにすると、ソニアが逆転できた可能性はおよそ14%となる。
まあ無理だろうと思ったからこそ、彼女の見苦しい延長戦にのったのだ。
まさか、ここで逆転してみせるなんて。
「はあ……しょうがないな」
「あ、ありがとうございますっ! 勇者王様!」
そう言って俺の手を握りブンブンと振るソニア。
「おおー、やったなソニア。魔王討伐の戦いは過酷だろうが、お前は図太い、なんとかなるだろ」
「はいっ! 私、きっと勇者様の妻となってみせます!」
ここまで露骨に目的を宣言できるのって逆に凄い。
俺の立場に置き換えれば、ルナリアを嫁にするからついていくぜ! って宣言するようなものだ。
下心もろ出しである。
まあ、しばらくは付き合ってみることにしようか。
それから数時間後、俺達は地中海へ出航した。