ミカとナギサのアソビ大全   作:あるふぁせんとーり

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ゆるふわ日常系ティーパーティーです!


1つ目:ミカとナギサと花札

「ミカさん、少し遊びませんか?」

 

 ミカの屋根裏部屋を訪れるなり、ナギサはそう言った。時刻は12時過ぎ、つまりはティーパーティーの業務時間内。彼女の彼女らしからぬ行動に、ミカは少し戸惑った。

 

「えっと、つまりナギちゃんは……」

「はい、サボりに来ちゃいました」

 

 いつもよりもずっとリラックスしたような表情で彼女は答える。そしてそんなゆったりとして幸せそうな幼馴染の顔を見て、ミカも「まあいいや」と笑い返した。

 

「それで、何して遊ぶの?」

「ふふっ、実はこのようなものをご用意したのですが」

 

 そう言って、彼女は楽しげに一つの箱をミカに見せた。色鮮やかな和紙の包装を丁寧に剥がし中身を取り出すと、幾つかの札の束が出てくる。

 

「あ、見たことある!これ……」

「はい。『花札』というものです」

「あははっ、綺麗だね!これナギちゃんが用意したの?」

「はい、テレビで見て遊んでみたくなりまして……百鬼夜行から取り寄せました」

「サボる気満々だったんだ?……うん、いいよ!やり方教えて!」

 

 ナギサは「もちろん」と頷いて、花札の束を拡げ始めた。

 


 

「……まず、花札は12ヶ月×4枚で、48枚の札を使って遊びます」

「これ……月ごとに絵柄が違うってこと?」

「はい、そういうことです」

 

 ナギサは一番端に置かれた束を手にとって拡げてみせた。

 

「例えばこれ。1月は『松』となっています。『松に鶴』『松に赤短』そして『松のカス』が二枚です」

「2月は……梅?」

「そうですね。『梅に(うぐいす)』『梅に赤短』それと『梅のカス』二枚です」

 

 ナギサは月ごとに分けられた束を一つずつミカに紹介していく。3月は『桜』、4月は『藤』、5月は『菖蒲』、6月は『牡丹』、7月は『萩』、8月は『(すすき)』、9月は『菊』、10月は『紅葉』、11月は『柳』、12月が『桐』。一通り紹介し終えたところで、ミカはナギサに質問した。

 

「そういえば前見た映画で『五光』ってやってたんだけど、あれも花札だよね?」

「はい。もう少し深く解説しましょうか」

 

 そう言って、ナギサは1月、3月、8月、11月、12月から一枚ずつ札を取った。

 

「この5枚、『松に鶴』『桜に幕』『芒に月』『柳に小野道風(おのみちかぜ)』『桐に鳳凰』……これらをひっくるめて『光札』と呼びます」

「あ!これ全部集めたら『五光』ってこと?」

「はい、そういうことです。そして、この内『柳に小野道風』以外の4枚の内、3枚を集めると『三光』、4枚集めると『四光』、『柳に小野道風』含めて4枚集めると『雨四光』となります」

「へぇ!じゃあその辺が強いんだ?」

「そういう訳ではありません。まだまだ役は沢山ありますので」

 

 続けてナギサは1月、2月、3月から一枚ずつ、加えて6月、9月、10月からも一枚ずつ取り出した。

 

「こちらの3枚、『松に赤短』『梅に赤短』『桜に赤短』……この3枚を揃えると『赤短』が、そしてこちらの『牡丹に青短』『菊に青短』『紅葉に青短』を集めれば『青短』が成立します」

「赤短……この絵柄も赤くない?」

 

 そう言うと、ミカは5月や11月の短冊の書かれた札を指差した。

 

「いえ、そちらは『短冊』です。『赤短』は短冊に文字が書いてありますので」

 

 ナギサは『菖蒲に短冊』と『桜に赤短』を手に取り、並べてみせた。確かに彼女の言う通り、『桜に赤短』には「みよしの」と古めかしい字体で記されていた。「ほんとだ」とミカは納得したようにポン、と手を叩いた。

 

「……それで、他の役ですと、『萩に猪』『紅葉に鹿』『牡丹に蝶』の3枚で成り立つ『猪鹿蝶』、動物などが描かれた札を5枚集める『タネ』、『赤短』『青短』『短冊』問わず短冊が描かれた札を5枚集める『短冊』、カス札を10枚集める『カス』、『菊に盃』と『桜に幕』、あるいは『芒に月』を揃えることで成り立つ『花見に一杯』、『月見に一杯』……まあ、メジャーなものだとこの辺でしょうか」

「うう……何か多くない?覚えるの大変……」

「ミカさんはそう言うと思いまして、このようなものを持ってきました」

 

 ナギサがポケットから取り出したメモのようなものをミカに手渡す。拡げてみると、ノートから切り取られたB5サイズの紙に札や役の一覧、ルールが手書きで記されていた。

 

「……これ、手作り?」

「その……届いた時にテンションが上ってしまって……」

「そんなに私とやりたかったんだ?……いいよ、やろっか!」

 


 

「……『菊のカス』です」

「『桜に赤短』だから……私が親だね!」

 

 花札の先行決め……つまり『親』決めはめくり札という方法で決まる。互いに一枚ずつ札を引き、その月が小さい方が親となる。

 

「……ってことは……これを配れば良いんだよね……」

 

 互いの札を戻し、48枚の山を適度に切った後、ミカはパッパッパっと配り始めた。花札の初期盤面は場に8枚、互いの手札8枚の計24枚だから、山札も24枚。今回彼女達が遊ぶ『こいこい』はどちらかが上がるか、山札が切れるまで続く。そして互いの手札を配り終え、ミカはナギサに見えないようにそれを手に取った。

 

(えっと……『カス』が3枚に……『赤短』2枚……『タネ』が一枚で、『桐に鳳凰』と『松に鶴』……うん、結構強いんじゃないかな!)

(『萩に猪』と『牡丹に蝶』がありますので『猪鹿蝶』狙いが良いでしょうか……いえ、『菊に盃』も『芒に月』もありますからそちらも……)

 

 花札はターン制。自分の番に手札を場に出した時、場に同じ月の札があったら、出した札と場の同じ月の札を回収して、それを自らの役のための札として使えるようになる。例えるならば、場に『桜に幕』があるとき『桜のカス』を出すと、『桜に幕』と『桜にカス』が手に入るため、『桜に幕』を自らの役として使えるようになり、『花見で一杯』などを狙えるようになる。そして場に出し終えたなら、次は山の一番上を捲り、それも場に出す。この時それと同じ月の札があったら、それも同様に山の一番上と一緒に手元に加えることが出来るようになる。

 そして、色々と二人が考える中、ミカは手元の『芒に(かり)』の札で『芒のカス』を取った。そして捲った山の一番上は『菖蒲に短冊』。ミカは続けて場の『菖蒲に八橋』も手に入れた。

 

(……なるほど、そこそこ順調な滑り出しをされてしまいましたね。『月見に一杯』で速攻を狙いたいですが、どちらの月もありませんし……)

 

 少し悩んだ後、ナギサは手元の『松のカス』を場に出した。同じ月は無かったが、山から捲れたのは『菊に青短』。念願の菊にナギサは心の中でガッツポーズした。

 

「……じゃあ、これかな!」

 

 何の躊躇いもなく、ミカが出したのは『菊のカス』。ナギサの野望は儚く散った。そして捲れた『紅葉に鹿』を場に出してナギサの番。

 

(『月見に一杯』は遠退きましたが……幸いにも手元に『紅葉のカス』はあります。ここは猪鹿蝶で……)

 

 ナギサは思考通りに『紅葉のカス』を出し、続けて捲った『桜に幕』で光札も確保した。

 

(あちゃー、『三光』狙いたかったんだけど……じゃあ『赤短』かな?」

 

 そんなことを考えて、ミカは『桜のカス』を場に出した。そして山から捲った『桜に赤短』を見事確保。手札も込みで『赤短』が確定したところで彼女の番は終わり。

 

「では、こうしましょうか」

 

 場の『牡丹に青短』を『牡丹に蝶』で確保したナギサ。そして『萩に短冊』を山から場に出して、彼女はミカに番を譲った。

 

(……ナギちゃん『猪鹿蝶』揃いそうだけど……止められないかなぁ)

 

 ひとまず場に2枚あった『桐のカス』の1枚を『桐に鳳凰』で回収したミカ。捲れたのも『桐のカス』で、結局彼女の手元に『桐』の札……つまり12月が全て集まった。

 

「これで……!」

 

 そう言って、ナギサは手元の『萩に猪』を出し、『萩に短冊』ごと手元に加える。これで『萩に猪』『紅葉に鹿』『牡丹に蝶』が全てナギサの手元に揃ったため『猪鹿蝶』が成立。

 

「あちゃー……負けちゃった。もう一回やりたいな!」

「まだ終わってませんよ?……『こいこい』です」

 

 『こいこい』、敢えて上がれる状況でゲームを続行する選択。万が一相手に上がられると相手の点数が二倍になるというデメリットがあるが、自分も点の上積みを狙えるハイリスクハイリターン。さっきのメモを見てそれを理解したミカは笑って言う。

 

「いいよ、後悔しないでね!」

「もちろんです、ミカさん」

 


 

「……ナギちゃん、そろそろ戻った方がよくない?」

「……!いつの間にかこんな時間に……?!」

 

 気がつけば時刻は午後の5時過ぎ。その間二人はずっと花札に勤しんでいた。流石にマズいと急いで花札を片付け始めるナギサとミカ。そして後片付けを終えて部屋を出ようとしたナギサに、ミカは声を掛ける。

 

「あのさ、ナギちゃん。……何かこの感じ、すっごく懐かしくない?」

「そうですね。日が暮れるまで二人で色んなところで色んなことをして……」

「だからさ、また遊びに来てよ。今日みたいに、新しい遊び道具持ってきてさ。私も用意するし」

「……もちろんです。二人で、また沢山遊びましょう」

 

 これは、彼女達が目一杯色んなことで遊ぶお話。




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