「ミカさん、キャンプへ行きましょう」
いつものようにミカの部屋に遊びに来たナギサ。唐突な彼女の発言にミカは思わず聞き返す。
「え、冬に擦るやつ?」
「それは乾布ですね」
「週間のやつ?」
「それはジャンプですね」
「被るやつ?」
「それはキャップですね」
「意外なやつ?」
「それはギャップですね」
「洗濯機とか作ってるやつ?」
「それはシャープですね」
「ライブでやるやつ?」
「それはクラップですね」
「なんかオーストラリアで強かったやつ?」
「それはファーラップですね」
「相手嵌めるやつ?」
「それは──」
「え、じゃあホントに……」
「はい、キャンプです」
十何分を満たすか満たさないか程度の問答を終えた後、ミカは目の前の幼馴染に対して有り得ない物を見るかのような視線を向けた。
「ナギちゃん頭おかしくなっちゃったのかな……」
「聞こえてますよミカさん」
「……っと、そんなことはさておいて……随分突然だね?」
「まあ、善は急げと言いますし」
そして話を聞いてみると、何でも今流行りのゆるいキャンプアニメを興味本位で見てみたら無性にキャンプに行きたくなったのだとか。ナギサの意外なミーハー要素に「ドハマりじゃんね?」とミカは笑った。
「じゃあもう準備とか出来てるの?私は行くだけって感じ?」
「いえ、まだ何にも」
「……え?」
「何か問題でも?」と言わんばかりのナギサにミカは唖然とした。
「えっと……テントは?」
「買ってません」
「寝袋は?」
「見つけてません」
「グリルは?」
「まだです」
「タープは?」
「何ですかそれ?」
「じゃあ……」
「……ナギちゃん何なら用意してるの?」
「だから何も用意してないって言ってるじゃないですか」
「えホントにあのゆるいキャンプアニメ見たんだよね?」
「はい、15分くらい」
「それ七割くらい未視聴って言うんだよナギちゃん」
再びの問答を終えてまたため息を吐くミカ。しかしナギサは悪びれもせずに笑って言う。
「でも、ミカさんなら買い物にも付き合ってくれるでしょう?」
「ナギちゃん……」
彼女の屈託のない笑みに「そんな顔されたら断れないじゃん」とミカは心の中で呟き、そして「しょうがないなぁ」と笑い返す。
「オッケー、準備するからちょっとだけ待っててくれない?」
「はい、もちろんです。私も少し準備がありますので」
そう答えるとナギサは素早くその場を離れていく。「最近ナギちゃん楽しそうだなぁ」と楽しそうに呟いて、ミカも部屋の奥へ引っ込んだ。
「見て下さいミカさん!すごくおっきいです!」
「あっはは!何やってるのさナギちゃん!」
高さ2mはあろうかという大型のワンタッチテントの中から楽しげに手を振るナギサに彼女も笑って振り返す。ランタンを吊るしてみたり、寝袋に入ってみたり、一分一秒が経つたびに財布の紐が緩んでいく。
ここはトリニティ総合学園から車で30分、大手キャンプメーカーが集まったトリニティ最大のフラッグシップストア。述べ3000坪程の広大な売り場面積にはありとあらゆるキャンプグッズが揃っていて、平日真っ昼間ながら客足の途絶えることのなく店内は活気に満ちていた。
「……そういえばナギちゃん、結局キャンプは何人来るの?」
「えっと、セイアさんとサクラコさんとミネさんと……5人ですね、多分」
「オッケー、じゃあ一番大きいサイズで良いのかな?店員さーん!!」
「はい、ただいまー!」
彼女の声を聞いた店員が素早く二人の下へ駆け寄る。そして二人は迷うことなく一番大きいサイズの一番高いやつを所望した。
「……こちらでどうでしょう?」
「お、かなりいいんじゃない?」
「そうですね、悪くないです」
付けられた値札は三桁万円。しかしナギサは迷うことなく「学生証で」と自らの財布を取り出す。桐藤ナギサの散財が幕を開けた。