入学式を終え、レイヴン達とクラスメイトは教室に集まり、
パッと見てもクラスメイト達の視線はレイヴンへと向いている。正確にはレイヴンともう一人の男子へと視線が集中しているのである。
そのもう一人は視線に慣れていないのか居心地が悪そうにしているが、一方のレイヴンは元々感情が希薄であり、尚且つ戦場で視線を集める事には慣れていた事もあり、特に気にする様な事でも無かった為、直ぐに正面へと視線を移した。
「全員集まってますねー、それじゃあSHRを始めますよー」
そんな山田先生からの少し間延びした様な声と共にSHRが開始された。山田先生の相と言えば、背の竹は低く生徒と大差は無い。そして全体的に身に纏う衣服は少々大きく、眼鏡もサイズが余りあっておらず、全体的に幼さの滲む顔立ちも相まって背伸びした印象を受ける。
しかしその外見的な弱さとは裏腹に、強者特有の気配を感じる。恐らく本来はかなりの実力者なのだろう。
「それでは皆さん、一年間宜しくお願いしますね」
「…………」
しかし、教室内は奇妙な緊張感に包まれており、誰一人として反応する者は居なかった。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
少々副担任が狼狽えており、憐憫を感じない訳では無いが。こうも静かでは素直に乗って気にもなれなかった為スルーする事とする。周囲に目を配らせてみればもう一人の男子は精神的な余裕が無いのか表情が硬く、同様に彼女の挨拶に応える事は出来無さそうであった。
例年通りであれば先程の挨拶に対して何らかの返答はあったのだろう、不運な事だ。
不運というならば同じクラスの彼も同じだろうか。本来女子しか居ない学校にもう一人居るとは言え赤の他人である為に現状助け船を求める事すら出来ないのだから。
そんな事を考えていると不意に彼が上擦った声と共に立ち上がった。山田先生の様子を見るに自己紹介の順番が回って来たのだろう。
「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だ、だからね、ゴメンね?し、自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
彼女は随分と気が小さいのか、何度も頭を下げて謝っている。織斑と呼ばれた少年の声に反応してのものだろうが、気配に反して随分と気の毒な性格をしている。過去に何があればこの様な小心者になるのだろうか。
こうしてみると最早小動物と言って差し支え無い印象すら受けてしまう。
「いや、あの、そんなに謝らなくても……って言うか自己紹介しますから、先生落ち着いて下さい」
「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。絶対ですよ!」
まるで自己紹介を拒否する者が居るかの様な物言いである。実際に居たのだとしたらその人物の顔を見てみたいものだ。
其れは其れとして周囲に目を向けると、織斑に山田先生が詰め寄る様にクラスメイト全員からの視線を一身に集めていた。
そして、織斑が意を決した様に立ち上がり、最前列だからだろう、クラス全体を見る様に振り返る。
クラス全体からの注目を浴びているからだろう、一瞬火るんだ様子を見せた。しかし、意を決した様に名乗りを上げる。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
一夏の自己紹介に対して周囲の女子達は其処から先の物を求める様な空気感を醸し出す。何と言うべきか、致し方ないとは言え少々彼が可哀想になってくる。
しかし、思い返してみればレイヴンがこの場にいる原因は、目の前で困り果てている人物、織斑一夏でもあるのだ。織斑一夏がISを起動できてしまった事を要因とし、土壇場で全国で男性へ向けたIS適性への臨時テストが行われてしまった。
無数の候補者の中只一人、レイヴンも又織斑一夏と並び、ISを機動出来た。出来てしまった。
この四方みれば女性ばかりであり、動物園の檻の中で飼育されている動物の様な状況を味わう羽目になった原因でもあり、既に決まったも同然の進路を急遽変更する原因にもなった人物である。
しかし、その中でも一つだけ感謝している事があった。
そう、女性しか動かせないと聞いた時は残念に思い、最早関わる事は無いとして生きてきたが。ここに来て再び闘争の場に立つチャンスを得たのだ。正直な事を言えばレイヴンにとっては動物園の檻の中で飼育されている動物の様な状況など些事でしか無い。只、形は違えども己の半身としてあり続けた“兵器”その物に再び触れられる歓び以外を如何思えと言うのだろうか。
そんな事を考えていると周囲の女子が数名程椅子から滑り落ちる様な音が聞こえる、それから数秒程経過したタイミングだろうか、パァンッという小気味のいい音が聞こえる。
何事かと思い音源へと目を向けた次の瞬間、再びパァンッという先程と全く同じ音がスーツ姿の女性が持つ出席簿から響いた。恐らくは彼女が担任なのだろう。今まで何処で何をしていたのかは分からないが、山田先生と同じく強者特有の気配を感じる。
しかし、それは明らかに山田先生のそれよりも色濃く、そして強いものだった。その風格は正しく
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
と言うその言葉だけで最低でも十名程の名前が浮かぶツッコミが聞こえてきた。あの音から察するに武力方面の英雄だろう、恐らく関羽だろうか。それに関しては強ち間違いでは無いかも知れない。
もしレイヴンがあの立場ならば確実にミシガンの名を挙げていたかも知れないからだ。誰にも通じないのは少々悲しいが別世界の英雄故に致し方無いだろう。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
織斑……?直ぐ其処に居る織斑一夏と同じ苗字であるが、この二人に何か関係があるのだろうか。そして今更ながらに織斑という苗字、歴史上初めてISを動かした織斑一夏とそれ以前に名を聞いた覚えがあるが、思い出せない。はて、何時のことだったか……
そんな思考を両断する様に低めだが女性と分かる声がレイヴンの耳に届く。
「ああ、山田君。挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」
先程の涙声は何処へやら、山田先生から織斑先生への憧憬にも似た熱を帯びた声が響く。こころなしかその視線も又熱を帯びている気さえしてくる。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言う事は良く聞き、良く理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らっても良いが、私の言う事は聞け。良いな」
随分と覇気のある挨拶の直後、教室中が色めき立つ。
そしてレイヴンはと言えば、漸く思い出した。織斑千冬……世界最強のIS操者の称号であるブリュンヒルデの名を持つ人物である。
まさかその様な人物がこの学校で教鞭を執っていたとは想定外であり、少々驚いてしまった。
歓声を上げる女子達の様子に千冬が悪態を吐いたが、それを聞いた生徒達が更に興奮気味に声を上げる。元気なのは良い事だがこの様子では自己紹介が進むのはもう少し先になるかも知れない。そう思っていると再び千冬が一夏の頭を引っ叩いた。
如何やら同じ苗字の他人などでは無く、実の姉弟らしい。
そのやりとりを聞いていた女子達に新たな火種を与えてしまった事を理解したのか一夏の肩が少し跳ねた。
しかし、その喧騒は長くは続かず、SHR終了のチャイムによって幕を下ろした。
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えて貰う。その後の実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか。良いなら返事をしろ。良く無くても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
ここまでの発言を聞く限りでは限り無くミシガンに近い人物と言って差し支え無いだろう。これは評論家対して辛辣である可能性が高い。レイヴンは、そんな事を考えながら黙々と授業の準備を開始したのだった。
≪≪♢♢♢≫≫
「な、なあ。ちょっと話さないか……?」
「構わないが、俺に何か用事でもあるのか?」
一時間目のIS基礎理論の授業を終えた休み時間、恐らく教室内の空気感に耐えかねたのだろう一夏が声を掛けて来た。
少々申し訳なさそうにしていたがもう少し
「い、いや。ほら、まだ名前を聞いてないと思ってな」
「それはそうだろう?お前の自己紹介でSHRが終わったんだからな」
「ぐっ……そ、それは仕方ないというか何と言うか……」
「お前の事情はあの自己紹介で大体理解したから何とも思っていないがな」
「な、ならなんで掘り返したんだよ!」
一夏が少々気まずげにツッコんできた為、タネを明かしてやる
「なに、少し揶揄っただけさ」
『レイヴンも人が悪いですね。これもウォルターの教えですか?』
(いや、ウォルターはこれには関係無い。何方かと言えば今までの人生経験からって、所だな)
『遠巻きから見ていた他者との関係ですか?』
(エアも随分と言ってくれるじゃあないか)
レイヴンの軽口に一夏が黙っている間、思考を通してエアと軽口の応酬を繰り広げて待ち時間を潰していたが、想定より早く復帰した一夏が口を開いた。
「ま、まあ。それは良いとして、名前を教えてくれないか?クラスに二人しか居ない男子なんだし、お互い仲良くしようぜ?」
「そうだな、現状では男同士で固まる方が気楽で良い。俺は
「よろしくな、烏!ところで、何で烏って名前なんだ?」
「名前の由来か。親曰く、何者にも縛られず自由に翔る者だそうだ。」
こうして自己紹介を終え、二人で握手をした所で一人の少女が此方へと向かって来た。随分と決然とした表情をしている。まるで戦地へと向かう新兵の様だ。
「……ちょっと良いか」
「え?」
「……」
此方からは見えていたが、一夏からしてみれば突然声を掛けられた様に思えただろう。事実この状況下で誰かが声を掛けて来る事自体本来ならば有り得なかったのだが。あの状況下で良く声を掛けられたものだと感心していると、一夏が口を開いた。
「……箒?」
「……」
当の少女は閉口したままだが、一夏の口ぶりからして如何やら知り合いの様だ。そんな彼女が漸く口を開いた。
「……一夏を借りても構わないだろうか」
「ああ、俺は特に問題は無い。それよりも一夏に聞いてみたら如何だ?俺の了承など些事でしかないだろう」
「それもそうだな。突然すまなかった」
「そう気にする事では無い」
烏の言葉を聞いてホッとしたような表情を浮かべた少女は、改めて一夏に向き直る。
「廊下でいいか」
如何やらこの場では話しにくい事を話す様だ。この様子を見るに長らく顔を合わせていなかったのだろう。空気感が酷くぎこちなく、この場にいる烏も居心地が悪そうに身動ぎする。
その様子を横目に認識した少女が一夏を急かす。
「早くしろ」
「お、おう」
足早に少女が教室を出る。余程他者に聞かれたくは無い話なのだろう。少女の気迫か、或いは最初に一夏と烏に声を掛けた人物への経緯か、海が割れる様に人集りが割れた。その中を足早に進む少女と慌てて追い掛ける一夏を見送る。
『嵐の様な方でしたね……』
(そうでも無いだろう。こう言う自由な時間は有限だからな。急ぐのも仕方の無い事だ)
再び一人になった烏は、エアと交信しながら休み時間の終わりまで時間を潰していた。
そして、始業のチャイムから少し遅れて入って来た一夏が千冬に頭を引っ叩かれて授業の開始となった。その際、先に入って来た少女は軽く注意されただけだった為、単純に実弟の一夏に対して容赦が無いだけの様だった。
≪≪♢♢♢≫≫
「──であるからして、ISの基本的な運用は現代化出で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したISの運用をした場合は、刑法で罰せられ──」
ダメだ、まるで分からん。山田先生は教科書をすらすらと読んでいるが、ルビコンと言う無法地帯で兵器を運用していた烏からすれば法規的な話など一切関係のないものだった為、教科書に書いてある法規的な内容に対しては殆どが理解出来ていなかった。寧ろ、実際に武力破綻が起き、大規模な戦争が起こってしまえばこんな物は無用の長物となってしまうと言うのに何故ここまで細かく縛りを設けるのかが理解出来なかった。
結局の所、こう言ったものを管理しようと言うのが無理なのだろう、ルビコンが良い例である。
幾ら惑星封鎖機構が管理していてもコーラルの存在を示唆された途端にその管理は破綻してしまった。ならばこの星でコーラルに準ずる資源が発見されたら如何なるだろうか。そうなってしまっては最早ISの時の様には行かないだろう。一国家、一企業、其れ等がそれぞれの思惑で動き、それを確保、独占しようとするだろう。
果たしてそれを止められるのか、否である。もしそうなってしまえばこの星を焼き尽くすまで終わる事は無いだろう。アイビスの火の様に。尤も、地球上でそんなものが見付かるかは不明だが。
しかし、闘争の火種は十二分に存在しており、闘争を求める一個人、或いは組織が行動を起こせば全てが戦火に包まれる事は明白である。
最早授業の内容など烏の頭には入っておらず、教科書に目を落としながら何時起こるかも分からない武力の破綻に思いを馳せる。少なくとも烏はそれ自体は望む所なのだ。其れは、烏自身が平和からは摂取できない感覚を、そして生命の在処を感じられると言う事を知っているからでもある。
だが、其れを能動的に起こそうとした者が如何なったかを知っている為、恐らく自ら動く様な事は無いだろう。
「織斑くん、何かわからないことがありますか?」
そして、その感覚に対して郷愁を憶えていると。不意に既に遠くなっていた山田先生の声が戻って来た。しかし其れは、自分に掛けられたものでは無いと理解したが少し聞き耳を立てる事にした。この場で声を掛けるとするならば一夏か自分だからである。
「あ、えっと……」
一夏の方を見てみれば教科書に目を落としているところだった。あの顔は恐らく何も分かっていないのだろう。宇宙を感じた猫の様な顔をしている。
面白い顔をしていると思ったが、烏の感想は其れだけであり、烏自身は全くの無表情である。
「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」
そう言って山田先生は胸を張る。果たしてそんな当たり前の所で胸を張るものなのだろうかと烏は言おうと思ったが、指すヵに可哀想なので口を噤み、一夏に全てを任せる事にした。
「先生!」
「はい、織斑くん!」
こころなしか嬉し気で、尚且つ妙に張り切っている様にも見える。恐らく普段は教科書の朗読だけで終わってしまうのだろう、正直な所これが初めて……と言う訳では無いだろうが、こう言った機会は限り無く少ないのかも知れない。
しかし、相手は事前学習も何もしていない男子である。何がわからないかなど、言うまでも無いだろう。
「ほとんど全部わかりません」
ものの見事に全てをたった一言に集約して言い放って見せた。その勇気に見事だと拍手の一つでも贈りたいところだ。しかし、完全に山田先生を困らせてしまった様であり、正しく顔に困惑の文字がうきでている様な表情で一夏に問い返す。
「え……ぜ、全部、ですか……?」
これには流石に山田先生が可哀想になってくる。最早目の端に涙を浮かべている様にすら見えて来る。尤も、彼女なら実際にそうなっていても可笑しくない状況である。其れでも念の為だろうか。此方に期待、或いは縋る様な眼差しを向けながらもクラス全体に問いを投げる。
「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
周囲を見渡しても誰も手を挙げる者は居ないが、一夏が素直に分からないと言ったのだ。先生には申し訳ないが此方も素直にならなければ失礼というものだろうと思い、静かに挙手をする。
完全に目の端に涙を浮かべてしまった。恐らく授業と何の関係も無い事を考えている時に教科書に目を落としており時折思考を纏める為にノートに書き込んでいたからだろう。
これに関しては非常に申し訳無いとは思う、しかし、如何にも自分は管理とは相容れないと心の底から実感する。
しかし、今の社会に生きるのならば多少なりともそう言ったものは学んでおいて損は無い。それに、テストに出て来る可能性を考慮すると憶えておいて損は無い。
何故か安心した様な表情をしていた一夏は放置で良い。
「……織斑、詠月。入学前の参考書は読んだか?」
これは不味い。予期せぬ所から斬り込まれ、烏は静かに如何切り抜けるか思案した結果、正直に暴露する事を選んだ。否、現段階では暴露せざるを得なかった。実際、一夏は馬鹿正直に自分のやらかしを暴露した。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
彼は馬鹿なのだろうか。本日四度目の炸裂音が響き渡り、千冬の静かな怒声が一夏に叩き付けられる。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
やってしまったものは仕方が無いとは言え何故真新しい物を古い物と間違えてしまうのか。其処が理解出来ない。しかし次には千冬から一夏に有難い御言葉が投げかけられる。彼女は正しくミシガンの様な女だ。
「あとで再発行してやるから1週間以内に憶えろ。いいな」
「い、いや。一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」
音が聞こえてきそうな形相で一夏を睨む千冬。
一夏は何時か顔の形が変わるまで殴られるのでは無いだろうか。アリーナで見たイグアスのプロフィールデータに記載された文面の様に。
「ISはそと機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遙かに凌ぐ。そういった“兵器”を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解出来なくても憶えろ。そして守れ。其れが規則というものだ」
全く以て正論である。しかし、正論だけで人が動くのならば何も苦労はしない。其れが人を殺す事を目的とした兵器であるならば尚更である。実際ACの生体パーツと言えるであった烏には良く分かる。
幾ら理性のある人間だったとしても、闘争本能に身を委ねてしまえば周囲が定めた規則やそう言った物は一切度外視に殺し合いに身を投じ続ける事になる。
ブルートゥは純粋な狂人であった為、初めから理性的なままに規則などは頭に存在していなかったのだろうが。
こうして思考している間にも一夏への説教は続いており、もう既に一夏は頭上に暗雲を浮かべている様な状態であったが、山田先生の介入によって多少は持ち直した様だ。しかし、次がある事を忘れてはならない。
そう、その次とは、烏に千冬の矛先が向く事である。尤も、特に気には留めていないが。
その直前に少し山田先生の色々と倫理的に不味い言葉が聞こえて来たが、千冬が烏に対して強めの語気で声を掛けた事で再び教室に静寂が齎された。
「次はお前だ、詠月。参考書は読んだんだろうな?」
「はい。二日程で読破しましたが、法規関連がまるで理解出来ず、見れば見るほど疑問が湧き出る程でした。ですが、それ以外の部分は完全にものにしました」
此方も馬鹿正直に全てを話す。それに対し千冬は少々意外な反応を示した。
「ほお?二日で読破した上に法規以外の部分を完全に憶えたと」
「はい」
俺の返答を聞いた後、織斑先生は興味深げに此方に目を向ける。次は何を聞く気やらと予測を立てる間もなく彼女が問いを投げかけてきた。それも、十分な爆弾に成り得るものを。
「法規関連に関して疑問が湧くと言っていたな。具体的にはどんな疑問だ?」
「……」
思わず押し黙る。今この場で言うのは正しく今の社会の中で最大級の地雷ふみかねない為、頭の中で言葉を探す。すると、再び織斑先生が口を開いた。
「黙っていては何も分からん。早く言え」
観念した烏は、千冬に先程思っていた事だけを話す事にした。
!「……疑問と言ってもシンプルですよ。今の法規定では管理は出来ても其れは抑止と抑圧には過ぎず、破綻の予防には成り得ないのでは無いか。と言った疑問です」
「何故そう思ったのか、其れも加えて話せ」
余計に興味を惹いてしまった様だ。覚悟は出来ていたが、怒られるよりはマシだろう。そう思い理由を話す。
一夏からは反応の違いと話が違うと言うような顔をしている。騙した様で悪いが、理解は出来ていないが記憶出来ていないとは言っていない。
「先ず、先程先生が仰った様にISは今でこそ競技用ですが、結局の所は兵器です。其れも世界に存在していた戦車や戦闘機を全て過去のものに変えた代物です。其れを動かすのは他でもない人間です。その人間も所詮は野生動物と変わらない、理性はあっても本能に忠実な生き物。その中でも三大欲求は抗い様の無いものとして有名です。しかし、もう一つ抗い難い本能があります」
其処で言葉を一つ切り、本題を切り出す準備をする。長い前口上なぞスネイルくらいしか使わないだろうと思っていた。しかし、まさか自分がやるとは思わず、妙な気疲れを感じてしまう。
「その本能とはなんだ、言ってみろ」
「誰もが分かっているかも知れない物、戦えば戦うほど大きくなっていく最も野性的な本能。闘争本能です。これは男女に関係無く持ち合わせたものであり、人を獣に変える代物です。その上、ISならば本来は人殺しの道具である兵器。其れは人を闘争へと誘い、果てには殺し合いを望むようになります。自分も、空いても、その双方が死ぬかも知れない状況を望む様になる。其れ等が組織、或いは国家単位で増えた結果起こるのが、武力による社会の破綻です」
「……」
「破綻とは、抑止と抑圧では防げる物では無い。闘争本能は競技で満たせる物でも無い。まして、殺し合いですら満ちることは無く際限なく膨れ上がる物です。だからこそ、白騎士事変でISを兵器として運用する事に人類は合意してしまった。これも又、闘争本能が齎した結果です。俺からは以上です。聞いた事は後悔していませんか?」
「……この場で聞くべきでは無かったとは思っている。確かにお前の言っている事は正しい、だがこれは如何しようも無い事だ」
其れも又全くの正論である。そう、仕方ないのだ。人類は結局最終的には争うことしか出来ない。其れこそが野生、生命の本来あるべき姿だからである。
だからこそ。こう言うしか無い。
「勿論、織斑先生の言っている事も正しい事です。だからこそ、俺もこう言うしか無い。ISは争いの火種である事を忘れてはならない。そして、その火種をより大きくするのは人類なのだと」
烏はそう言うと、静かに千冬を見据えた。
これに対して千冬は一つ納得した様に頷くと。烏の頭を引っ叩いた。
「話は分かった、確かに其れは肝に銘じておこう。だが、何が法規関連は理解出来ていないだ、しっかりと理解した上で疑問を呈しているではないか」
これは流石に横暴だろう、引かれこそすれ、怒られる謂れは無い筈である。しかし、反論すればもう一発飛んで来かねないため、普段通りの無表情で一言言葉を返した。
「其れはすみません、如何やら理解出来ていなかったのは心理的な部分だった様です。以後、気を付けます」
「分かればよろしい。すまない、少し時間を取らせてしまったな。山田先生、授業の続きを」
そう言って千冬は漸く教室の隅に戻り、授業が再開された。
≪≪♢♢♢≫≫
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「……」
二時間目を終えた休み時間、一夏と他愛も無い雑談をしていると突然声を掛けられ、一夏は素っ頓狂な声を上げ、烏は声の主に顔を向けるだけで特に大した反応もせず、ただ静かに目を合わせる。
話し掛けてきたのは米英系の整った顔立ちに、鮮やかな金髪の少女だった。烏の感情の読み取り難い眼で見つめられて少し怯んだものの、直ぐ様白人の中でも最も多い青い瞳は眦を吊り上げ、まるで此方を威嚇する様に見つめてくる。
如何やら相手の目を良く見るのは今回ばかりはバットコミュニケーションとなってしまった様だと思った烏だが、今更視線を逸らすのも不自然な為、そのまま相手の瞳を覗き込み続ける。勿論相手の一挙手一投足を見逃さない様相手をしっかりと観察し、尚且つ名前と容姿を一致させる為に容姿を確認する事も忘れない。
僅かに縦のロールが入った髪は何を意味するのかは良く分からないが、如何にも自分は偉いですと言う様な雰囲気はある男を思い起こさせる。
しかし、こう言った雰囲気を出す人物は実際に地位の高い人物である場合が多く、彼女の様子を見るに何処かの貴人か何かなのだろう。
そして、此方の記憶が正しければ彼女は英国の貴族だった筈だ。
「聞いてます?お返事は?」
「あ、ああ。聞いてるけと……用件はなんだ?」
「聞いてはいるが、初対面の人間から高圧的な態度で話し掛けられれば警戒くらいはするものだろう?」
二人してそんな風に返答すると、目の前の少女は然も予定調和であるかの様に大袈裟に言葉を返してくる。しかし、余り烏の方を見ない様にしている節があり、完全に避けられている事を察する事が出来てしまう。やはり行き成り眼を合わせるのは良く無かったかと心の裡で反省する。
「まあ!何ですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるのではないかしら?」
「………」
「そうでも無いだろう。この学校で地位は意味を成さない、なにより日本には既に貴族は居ないのでね」
嗚呼……完全にほぼスネイルだ。
一夏は黙ってしまったが、烏はにべも無く返す。こんな煽り文句を言っているにも拘わらず、烏の表情に変化は無い。相手からすれば煽っているのか大真面目に言っているのかの判断が付かず、反応に困る。事実、彼女は完全に困り果てて一瞬黙ってしまった。
しかし、反応せずにスルーする様だ。スルーする理由には成る可く烏と話さない様にする意図も感じられるが、其れは仕方ないだろう。
そして、烏の物言いに便乗する様に先程まで黙っていた一夏も言葉を返した。
「悪いな、俺、君が誰だか知らないし」
烏の物言いはド正論である上に煽っているのか大真面目なのか分からない為にスルーし、完全に一夏に矛先を向けた様だ。烏は、これで気楽になるなと椅子に背を預け、静観を決め込む姿勢になる。
「わたくしを知らない?このこのセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして入試主席のこのわたくしを!?」
代表候補生なのと名前は知っていた。しかし、入試主席であることなど知る筈も無い。入試にすら出ていないのだから。
「あ、質問良いか?」
「ふん、下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って何?」
如何やらこの二人はバットコミュニケーションの天才の様だ、お手本の様に互いの地雷を踏み抜いていく、ある意味ではパーフェクトコミュニケーションとすら言える程に。
烏はこの二人を見て何がコミュニケーションに於いて誤りなのかを学ばせて貰う事にした。
「あ、あ、あ……」
「あ?」
「あなたっ!本気で仰ってますの!?」
絵に描いた様な驚き方をするセシリア。最近では漫画でも小児用でしか余り見ない様な驚き方である。
寧ろ、人間は実際にこんな驚き方が出来るのかと感心すらしてしまう程だ。
「おう、知らん」
素直に言うのは良いが、これは正直地雷を踏み抜いただろう事は人との会話に疎い烏にも一瞬で分かった。
「…………」
セシリアの怒りが天元突破した様だ。
しかし、そんな状態から吐き出される独り言は、正しく失言のオンパレードであった。これを言い表すのならば、アグロ失言デッキであろう。
「信じられない、信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビが無いのかしら……」
一夏の所為で日本人に対する間違った認識を与えてしまった様だ。日本初心者の彼女に一夏は劇物だった様である。流石に修正が必要か。
そんな事を考えながら何もせず傍観を決め込む。極力この地雷原でのタップダンサー達とは関わりたくないのだ。
「で、代表候補生って?」
「国家代表操縦者の、その候補者として選出されるエリートの事ですわ。……あなた、単語から想像したら分かるでしょう?」
「そう言われればそうだ」
そろそろこの二人の会話を聞くのが嫌になってきた。しかし、口を開けば面倒事になるのは確定なのでもう暫く放置を決め込むしか無い。
正直、人の地雷を踏み抜く事を得意とする者同士お似合いなのでは無いかとすら思えてくる。
「そう、エリートなのですわ!」
スネイルもこれだけで機嫌を良くしてくれたのならばどれだけ良かった事か。
アレに比べればセシリアの相手は引き金を引くよりも簡単だろう。
「本来ならわたくしの様な選ばれた人間とクラスを同じくする事でも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解して頂ける?」
クラスメイトは所詮クラスメイトだ。其処にエリートと一緒だの何だのは如何でも良い事である。只同じクラスになっただけの学生、其れだけでしか無いのだから。
そして、一夏はまたしても特大の地雷を踏み抜く。
「そうか。それはラッキーだ」
馬鹿なのか此奴は、或いは人を馬鹿にしているのか。脳を切り拓いて中身を見てみたい。其れこそ煽りにしか聞こえないだろう。
「……馬鹿にしていますの?」
こうも見事に地雷を踏み抜かれるといっそ拍手すらしたくなる。そして、今更ながらに気付いたことがあった。一夏は人の地雷を踏み抜くのが得意なのでは無い。女の地雷を踏み抜くのが得意なのだ。
この男が喋るだけで女子との日常会話は地雷原に変わってしまう。ある意味では兵器とすら言える性質である。
段々一夏と話すのが嫌になってきたのか今度は烏に目線を向けて話し始めた。忙しない小娘だ、もう少し落ち着けないのだろうか。
「貴方は如何なのですか?わたくしの言っている意味が分かりますわよね!?」
「分かりはするが、だからと言って俺に関係のある事なのか?幾らお前がエリートとは言え所詮はクラスメイトだ。それ以上でも以下でも無い。そうだろう?」
「なっ……」
真正面から投げ掛けた正論に対してセシリアが言葉を詰まらせてしまった。俺の動きの無い表情も相まって言葉を探すのに窮してしまった様だ。
仕方ない、助け船を出してやろう。
「そう言えば聞きたい事があったな。俺は受けた憶えが無いんだが、入試とはどう言った物なんだ?」
「あら?貴方入試を受けてないんですの?入試は試験管との1対1での勝負ですわ。因みに私は唯一試験官を倒したエリート中のエリートですわよ」
聞いても無い不必要な事を良く喋るものだ。そう思ったが口を挟まず、ISの適性テスト当時の様子を思い出す。その結果のままを口に出そうとした時、喋る地雷原が口を開いた。
「あれ?俺も倒したぞ、教官」
今度は怒りこそしなかったが、驚愕に目を見開いて硬直してしまった。ショックは大きかったのだろう。疑問符を浮かべるので精一杯だった様だ。
「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
エリート特有のガラスの心に罅が入る音が聞こえた気がした。
如何やら地雷の中でも大分厄介な物を一夏は踏み抜いてくれたらしい。今直ぐこの場をラスティに押し付けて離脱したい気分だ。
「つ、つまりわたくしだけでは無いと……?」
「いや、知らないけど」
「貴方!貴方はどうなの!?」
半ば半狂乱の状態で一夏を無視して烏に詰め寄るセシリア、大凡冷静な状態では無いらしい。
「無傷で試験官を墜とせる所まで行ったのは良いが、神経伝達だと調子に乗っていたらブースターがオーバーヒートを起こして自爆しそうになって中断になってしまった」
「「──は?」」
二人して素っ頓狂な声を上げて見事にハモってみせた。
そう、自らの半身であったACと同じ感覚で操縦した結果、危うく自爆して死にかけてしまったのだ。非常に恥ずかしい話しである。
本来ISでは
「自爆しそうになったのはこの際置いておいて……一度も被弾していないというのは事実なのですか……?」
「それは事実だ。後一撃と言うところで俺の機動に付いて来れず自爆しそうになってしまったが」
完全にプライドが逝ってしまった様で、人の机に勝手に突っ伏してしまう。この様子では完封では無かったのだろう。と言うより抑もISに無理を強いる様な戦闘機動を行う様な奴を相手に一撃当てろと言う方が無理な話である。
こんな馬鹿騒ぎをしていると、始業のチャイムが鳴る。其れと同時にセシリアは弾かれた様に顔を上げ、再び一夏と烏に向き直る。
「っ……!又後で来ますわ!逃げない事ね!良くって!?」
言うだけ言って自分の席に戻っていく。正直に言おう、もう来るな。次に来よう物なら中学の時に社会に対する不満が爆発したのか暴徒と化した中年の男を破壊したアイアンクローを見舞ってやろう。そう心に誓ったのであった。
≪≪♢♢♢≫≫
「それでは、授業を始める。この時間では実戦で使用する各種装備の説明を行う」
今回は如何やら千冬が授業を受け持つ様で、受業内容としては恐らくまだ山田先生が担当するには不足が在るのかも知れない。実際、山田先生もノートを取っている様子が窺える。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
思い出した様に千冬がそんな事を言う。学校の競技に出る代表者をこの中から選出すると言う事だろう、面倒事の気配しか感じない。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでは無く、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、学級長だな。因みにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。それと、一度決まると変更は無いからそのつもりで」
(厄介な火種を投下してくれたな織斑千冬……)
この案件、100%男である烏と一夏は槍玉に挙げられるのは明白だった。言ってしまえば此処で推薦し、其れが通ってしまえばめでたくクラスの広告塔である。しかも、厄介な仕事が幾つか付いていた。
生徒会の会議や委員会への出席。戦闘だけならば喜んで立候補しただろう、後者二つが付くだけで断固拒否の意思表明には十分すぎる理由となり得る。
しかし、女子達は無慈悲である。口々に烏と一夏の名前を挙げる。
「はいっ!織斑君を推薦します!」
「私は詠月君を!」
一夏は気付いていないのか他人事のの様に素知らぬ顔をしている。そして、烏は打開策を練り上げる。いっその事セシリアを推薦すれば少しは楽になるだろうか。
そんな事を考えている内にあれよあれよと事は進んでいく。
「では候補者は織斑一夏、詠月烏……他には居ないか?自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
この男は何も考えていないのだろうか。少し考えれば織斑“君”と呼ばれる様な生徒は一人しか居ないというのに。そして、烏は意を決して立ち上がった。
一夏と烏に無責任な期待の眼差しが突き刺さる。
そんな中で千冬が一夏と烏に言葉を投げた。
「織斑、詠月。席に着け、邪魔だ。さて、他には居ないのか?居ないなら決選投票に移るぞ」
「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな──」
「自薦他薦は問わんと言った。他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟をしろ。詠月も同じだ」
「その位の覚悟はしているとも。なにより──」
本題を切り出す直前、半ば叫ぶ様な甲高い声が教室中に響き渡った。下手をすれば隣の教室に聞こえていても可笑しくは無い声量である。
「待って下さい!納得が出来ませんわ!」
勢い良く机を叩いて立ち上がったのは、先程因縁を付けて来たセシリアであった。烏の口元に自然と誰も気付きはしない程の小さな笑みが浮かぶ。
最高のタイミングで声を上げてくれた。ならば存分に利用させて貰おうと。
「その様な選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんて良い恥曝しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえというのですか!?」
随分と言ってくれる。だが、そんな事は如何でも言い。体よく役割を押し付けるだけで良いのだから。
「実力的に言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこの様な島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをするつもりは毛頭ございませんわ!」
男性蔑視に飽き足らず、旧代ブリテンの典型的な日本人差別まで叩き込んで来た。彼女は戦前から戦後間もなくの人間なのだろうか。現代と旧代の悪い部分を煮詰めた典型的な人物な様だ。
この女にこれ以上喋らせるのは危険だと判断した烏は、彼女の言葉を遮る様に口を開いた。
「大体、文化としても後進的な───」
「俺は、オルコットを推薦する。見ての通り精神的に酷く幼く、典型的な戦前から戦後間もなく辺りのブリタニアンだが、技量は確かだ。受験で試験官に勝利した上、俺の様にISを壊していない」
教室から小さな笑い声が聞こえる。しかし、大分言う事は言った為、約一名のプライドに傷が付いた様だが。
これだけならばまだセシリアも黙っていただろう。其処に、喋る地雷原が口を挟まなければ。
「イギリスだって大した御国自慢無いだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「なっ……!?」
一夏もフラストレーションは溜まっていたのだろう。明らかに口を付いて出てしまったと言った印象だったが、一度出てしまったものは仕舞えない。
口は災いの元だと言うが、こうまで口を開けば災いしか振り撒かないこの二人は一体何なのだろうか。新手の兵器だと言われた方が納得が行く。
意図的に言った烏と無意識に口を付いて出た一夏のダブルパンチで遂にセシリアの堪忍袋の緒が切れたらしい。硬く拳が握られている。初日だというのに何度面倒事が起これば気が済むのだろうか。
口に出せば明らかにセシリアは大爆発を起こすだろう。今の段階でも手の付けようが無さそうだというのにこれ以上は御免である。
「はぁ……一夏、お前の余計な発言の御陰で俺も巻き込まれる羽目になったぞ」
「なっ!俺のせいかよ!元はと言えばお前が……」
「まだ不承不承でも我慢出来る範囲だったぞ。後一押しあれば爆発する寸前までは来ていたが」
セシリアを他所に烏と一夏が言い合い、完全に蚊帳の外になったセシリアが爆発する。
「わたくしだけに飽き足らず祖国まで侮辱した上に無視するだなんて……」
二人のしょうもない喧嘩は火種に燃料と十分な酸素を与えてしまった様だ。
こうなってしまえば止まる事は無いだろう。千冬も止めるつもりが無いようで些か楽し気に眺めている様にすら見える。
教師ならば止めろと思うがアレに言ったところで現状の場を収めるつもりは無いだろうと諦め、完全に無視を決め込んで席に着く。
「決闘ですわ!」
セシリアが勢い良く机を叩く。決闘、その言葉に少し心を惹かれたものの、偶然にも勝ってしまえば待っているのは其の他雑務、それを避ける為にも完全に我関せずを貫く。
「良いぜ、四の五の言うより分かり易い」
この男、何も分かっていない。千冬の顔を見れば分かるだろうに、勝者をそのままクラス代表に選出するつもりである。
だからこそ、烏は関わるのを止めたのだ。最早見る事すらせず、会話に耳を
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
馬鹿共が勝手に盛り上がっている。早急に離脱したのは正解だっただろう。
スネイルで無くとも言える、此奴等は正真正銘の駄犬だと。
「そう?何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
「それで、ハンデはどの位付ける?」
馬鹿が又何も考えずに脊髄反射で会話をしている。先ず、ISで戦闘をすると言うのに代表候補生相手にズブの素人がハンデを付けるなど余程の馬鹿がやることである。
それに対してセシリアは受け取り方は違うが、意味合いとしては最も正しい言葉を返す
「あら、早速お願いかしら」
「いや、俺がどの位ハンデ付けたら良いのかなーと」
此奴はISを動かす学園で肉弾戦でもしようというのだろうか。明らかに此奴の頭の中は何かが湧いている。思考能力はラミーと同程度なのではないだろうか。いや、それはラミーに対して失礼だろう。
彼は彼でコヨーテスに付くよりRaDに付く方が良いと考えられるだけの頭があった。こんなのと比べられては流石のラミーも笑わないだろう。
周囲の女子達はしっかりと笑っている。それは余りにも舐めていると。
「……じゃあ、ハンデはいい」
一夏が下がれば、今度はセシリアが調子に乗って一夏を嘲笑する。彼女のテンションはまるでジェットコースターか何かなのだろうか。
そんな中一人の女子が一夏にハンデを貰う事を提案したが、直ぐカッとなる一夏はそれを突っぱねた。
仕方の無い事ではあるが、一夏は代表候補生について甘く見ている上に知らない。寧ろ、烏からすれば何故知らないと言うだけで警戒心を持てないのかが疑問でしかなかった。
「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後に第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして詠月はそれぞれ準備しておくように。それでは、受業を始める」
(やってくれたな織斑千冬……俺が何の為に黙っていたのか分かった上で俺を指名したな……)
額に手を当て、盛大な溜息と共に授業が再開された。
烏の心情など微塵も知らないセシリアと一夏は、今更思い出した様に烏の事を凝視していた。千冬が巻き込まなければ烏はこのまま蚊帳の外で呑気に観戦出来ていたのだ。
心の裡で千冬への恨み節を吐きながらも、意識は次週の戦闘へと向いていた。既に頭の中では万全の状態で挑む為のメニューは決まりつつあった。
有識しゃぁぁ!ヘルプ!タグの変え方を教えて頂きたい。オリジナル兵装とAC6兵装を間違えてた!
次回!烏君の初陣!多分!