キチガイトリオの外征録   作:氷華陸佐

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1.5章です。オチ以外はなんかシリアスになりましたが、これは助走のようなもので逆に言えば次章以降がシリアル化するということです。



リリィ自身が、charmになる事だ

 

 なんか黒幕っぽいヒュージも倒したので帰っていいか理事長に電話で訊ね、まだダメだと言われたしばらく後。

 当事者たる四レギオンの隊長間でのミーティングをしに、とあるドーナツ屋へと訪れていた。ドーナツと聞いて我慢できずに駆けつけた陽菜を連れて。

 果穂乃? ああ、あいつは二泊三日で夢の国へ旅行に行った。流石のヒュージもあそこを襲う度胸は無かったらしい。

 

「えー? 一葉さんは年頃の可愛い女の子ですよぉ」

 

「ふふっ、梨璃さんの言う通りね。一葉はとっても可愛らしいわ」

 

「そうだな、私も同感だ」

 

「や、やめて下さい、皆さん……」

 

 本当に、こういう文明的な会話こそが年頃の女子の会話だよな。と、隣で無言のハムスターと化している陽菜を尻目に感動する。

 うちのどっちかとトレードしてくんねぇかな、マジで。

 その後照れた相澤さんによって話題が軌道修正され、ミーティングも無事終了。しかし外に出た瞬間街中にアラームが鳴り響き、軽く戦闘になった後。

 ドーナツ屋の途中からいたグロピウスさん──略してグッさんによると、更に東京中でヒュージが散発的だが広範囲で出現しているらしい。

 

「んー、じゃあ東京に詳しい今さんと相澤さんには個々で効率的に事に当たってもらおうかな。私達は四人で固まりつつ、行く先々で場当たり的にヒュージぶっ倒してくからさ」

 

「ふむ、それなんじゃがワシは一度司令部に寄っていくゆえ、しばし三人に任せても良いかの?」

 

「りょー。てなわけで今さんと相澤さんはそれでオーケー?」

 

 御二方から了承も得られたので早速解散、十分に離れたのを確認してから私は一柳さんへと軽く問いかけた。

 

「何か悩み事かな? 一柳さん」

 

「えっ……あっ、いえ! 大した事ではありませんので!」

 

「んー、そう? じゃあ勝手に話すけどさ。まずぶっちゃけ一柳さんって戦闘自体得意じゃないっしょ?」

 

 これまで私が見てきて感じたのは、一柳さんの圧倒的な経験不足。

 前線で暴れるわけでもなく、中衛で指揮を執るわけでもない。銃撃も得意ではなさそうだし、本当にいるだけの存在、というのが私が抱く忌憚なき印象。

 

「う……やっぱり酒井様から見ても、そう感じますか……?」

 

「その反応から察するに、劣等感かな? でも私はそんな一柳さんこそ凄いと思うけどね」

 

「凄い、ですか……?」

 

「戦闘が得意じゃない、それなのに戦いに身を投じていられる、今日まで生きている。それだけでも十分に立派だと私は思うけど」

 

 苦手だけど頑張って続ける、言うだけなら簡単だがそれが命が懸かってるとなると別の話になるわけで。

 更にそれが家族や友人の仇などから来るヒュージへの恨みというマイナス方面の感情ではなく、今生きてる誰かの為に戦えるというのはリリィやマディック全体で見ても稀有な存在ではあると思う。

 

「じゃあついでにもう一つ質問。リーダーをやってく上で一番大切な事ってなんだと思う?」

 

「えっと、的確な指示を出したり、いざという時にはヒュージと戦える強さ……でしょうか」

 

「残念、正解は何がなんでも生き残る事。別に一柳さんのその悩みは否定しないよ。でもそれは実戦で無理に一人で前へ出る理由にはならない事だけは覚えておいてほしい」

 

 一柳さんのその真っ直ぐさは太陽を直視する並みに眩しいが、それ故に少し危なっかしいような気もする。

 本来なら同じレギオンの仲間や協力関係にあるグラエプやヘルヴォルの皆様方に任せるべきなのだろうが、こういうのって親しいからこそ言えないってのもあるだろうし、ここはお節介だろうと私が少し厳しく言っておくべきか。

 

「折角戦闘が苦手な事を自覚できてるんだから、今の一柳さんがすべきは多少涙を飲んででも周囲を頼る事。頼る事が出来ない状況を何がなんでも作り出さない事」

 

 もし出来ない状況になったら? 残念だが運がなかったと諦めるしかない。もしくはそれすら出来ない自分を恨むくらいか。

 

「あくまで私の所見だけど、一柳さんって理想的な潤滑油的存在だと思うんだよね。それに今の一柳さんに文句言う人なんていないでしょ?」

 

「は、はい。皆さんいい人達ですから」

 

「それなら殊更焦る事はないんじゃない? 向上心もそりゃ大切だけど、無茶なんてしたっていきなり強くなれるわけじゃないし」

 

 人間個人差はあれど歩幅には限界がある。一柳さんみたいな人はただでさえ大幅で歩もうと努力してるのに、さらにそれを広げようとすればコケてしまうのも必然だ。

 

「そう、ですね。やっぱり凄いです、酒井様は。なんでもお見通しみたいで」

 

「お褒めに預かり光栄、と言うべきかな? 少しでも心が軽くなったのなら、私も言葉を振るった甲斐があったってものだが」

 

「はいっ、それはもう。……ところで酒井様は、先程から何を見ているんですか?」

 

「ん? Googleマップ」

 

 近くの特型ヒュージで検索し、示された場所を司令部及び今さんと相澤さんへと通達。一足先にその場所である都庁へと向かうと、変わり果てた元建物の残骸の前にその特型ヒュージ、クリオンと命名された個体がいた。

 この場所には特型ヒュージが集まる何かがあるのだろうか。というかあのクリオンがどことなく黄昏て見えるのは気のせいだろうか。

 

「よし、せっかくだ。ここは一柳さんにアレを倒してもらおう」

 

「えっ? あ、はい! 頑張ります!」

 

「ちょい待ちちょい待ち、指示はするから」

 

 ブレードモードに切り替えたグングニルを片手に走り出そうとする一柳さんを引き留め、まずは陽菜の前に背を向ける形で立つように言う。

 

「そんじゃあまずはきをつけ。そしたら顔の前に手が来るようにcharmを縦に保持」

 

「こ、こうでしょうか……?」

 

「そうそう、そんでこの先何があってもその姿勢を保っといてねー。陽菜、GO」

 

「ばっちこいです」

 

 陽菜はそのまましゃがみこむと、一柳さんの白いソックスに包まれた細い足首を両手でガッシリと掴んだ。そして。

 

「へ? 東雲さん何してってこれマギ交感──」

 

 一柳さんの声は途中で風切り音に変わり、マギの燐光を伴ったその身をもって特型ヒュージを引き裂いたのだった。

 その時はひたすら放心した表情を浮かべていた一柳さんだったが、後日「これが新しい私の戦い方なんですねっ」なんて宣うものだから、意外と強かな精神の持ち主なのだろう。

 





【使用charm】
酒井六花……バニラ味のアステリオン。
綾瀬果穂乃……盾型のユニークcharm。そのうち詳細が明かされる。
東雲陽菜……ゴツくてぶっといランス型のユニークcharm。そのうちやらかす。
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