仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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プロローグ”貴方の名前”

「君、大丈夫かい? こんなところで何を……」

 

 女性の声とともに身体を揺すられ、深いところに沈んでいた意識が浮上する。

 薄く目を開けば地面が近く目の前に女性の靴だけが映り、上から声が降ってくる。そのことから自らが横たわっていることを理解できる。

 

「怪我は……していないようだね。良かった」

 

 目を醒ましたことに相手も気づいたのか身体の各所に触れている。外傷が無いとのこと故、自身が不感症になったのではなく、痛みが無いのだと認識できる。

 

「起きているなら答えてくれ。君はどこの誰なんだ?」

「……私、は」

 

 自らの機能を確かめるように口を開く。

 掠れのない少女(自ら)の声が周囲に響く。女性の質問に答えるべく続く言葉を口にする。

 

「……誰。……わからない……私は誰……?」

「自分が誰なのかわからないのかい……?」

「わからない……私は誰なんですか……」

 

 どこから来た誰なのか、記憶にぽっかり穴が開いている。やるべき事がある(・・・・・・・・)ことは覚えてる。だけど、それが何かは覚えていない。

 自身の状態を認識すればするほど不安による嫌悪感と寒気が押し寄せてくる。

 

「ふむ……そうなるとまさか……いや……」

「……?」

 

 何か思い当たる節があるように女性思案する声が響く。

 自身が知らない何かに心当たりがあるのかと期待を寄せ、ぎこちなく視線を上へと向ければ照らす太陽の光に目を細めることとなった。

 逆光がその表情を隠す中、ブロンドの長い髪と白衣が目に映る。こちらが上を向いたのに気づいたのか女性の顔が近づけば笑みを浮かべた青い瞳がこちらを見つめていた。

 

「そうだな……そういうことなら私の家に招待しよう。狭いところだがね。だが、名前が無いのは不便だな……」

 

 こちらの答えを聞かず、女性は再び思案すると「うん、そうだ」と納得行く答えを見つけ出した様に言葉を続ける。

 

「貴方の名前は───」

 

 

******

 

 

「あなたは一人ぼっちなの?」

 

 うずくまる私に何かが語りかけてくる。

 兄弟姉妹と異なる容姿に産まれた私は彼らから孤立していた。

 父母は私も分け隔てなく育ててくれる、かといって仲裁をすることもなかった。

 共に住む者も近づかなければ我関せずを決め込んでいる。

 他のものが持たぬものを産まれたが故かあるいはそれが正常なのか、幼い私には判別がつかない。

 そんな折に語りかけてきた何か。

 見覚えのある姿をしているが随分と小さい。それに聞こえる声も高い。

 

「ちっちゃいし……ふわふわ! 可愛い!」

 

 観察していると私に伸びた手が私を包み込む。

 ───温もりが私に伝播して心地が良い。

 その心地よさに前に同じようにされた時とは違う安堵を覚える。

 抵抗せずにいると薄紫の瞳が近づいてくる。持ち上げられ、顔に近づけられたのだろう。

 

「えへへ……ねぇねぇ! ここにいる時一緒に遊ぼ?」

 

 それの言葉に私は反応しない。前に見たそれと同じなら反応したところで伝わらないだろう。それでも嫌な気持ちは無い故、身体を擦り付けることでアピールする。

 

「いいの? やったぁ!」

 

 ぱぁっと光が差したようにそれが破顔する。どうやら、こちらの意図が通じたらしい。───いつぶりだろうか、こちらも嬉しくなる。

 

「それじゃあそれじゃあ、名前いるよね……えっと……」

 

 眼の前のそれが目をつむり何かを思案する。

 名前。

 考えたことがなかったがそういえば無かった。いや必要がなかった。

 すると何かを閃いたのか「そうだ!」と眼の前のそれはぱっと目を開き、こちらを見つめる。

 動いたことでふわりと銀の長い毛が揺れて光を反射する中、口が動く。

 

「貴方の名前は───」

 

 

******

 

 

「……いやがった」

 

 木の陰に隠れ、女が様子を伺っている。

 その視線の先にはキョロキョロと何かを探す複数の人影。

 いや、背格好や二足で立ってはいるがそれは人ではない。

 色を塗り忘れたモノクロのような灰色の体躯、しかし、その鋭い爪の生えた腕にだけ疎らに鮮やかな赤い鱗が散りばめられていた。

 そして最も目を引くのがその顔。

 鋭い牙が並んだ大きな口の上にはぎょろりとした巨大な目が1つ、浮かんでいる。

 その異形に囲まれるように立っているのが魚に似た異形。

 モノクロな一ツ目たちと違い、胸部に赤く四角い”プレート”を付けた鮮やかな赤い鱗に全身を覆われたノッポな魚、それに鱗に覆われたヒレのような装飾を纏う手足が生え直立している。

 

「あれは……アロワナか……?」

 

 女に気づくこと無く、異形たちは草木をかき分けていく。

 向かう先にはまだ遠いが民家が、街がある。

 そちらへと吸い寄せられるように異形たちはフラフラと歩き進む。

 女は再び木の裏に隠れるとポケットから物を取り出し───

 ガサリ! っと草木を揺らす音が周囲に響く。

 異形たちは音の方へと一斉に顔を向け、女も同じくそちらを向く。

 

「な、何!? おばけ!?」

 

 そこにいたのは1人の少女。

 制服に身を包んだ、長い銀髪が特徴の彼女は異形たちの姿に驚き、後ずさる。

 少女の姿を目視した異形たちは目標を変え、そちらへと歩みを進める。

 

「なんで来るの!? 来ないでよー!」

 

 叫びを上げながら少女が走って逃げ出すとその後を追うように異形たちもその少女を追いかける。

 1人残された女は「面倒なことになったな……」とつぶやきながらも少女と異形、その後を追って同じ方へと進んでいった。

 

 

******

 

 

 夕暮れと夜が交わる逢魔ヶ刻。

 羽頃盛市(はごろもし)の外れにある森の草木をかき分けて少女が走る。

 

「はっ、はっ! だ、誰かー! 助けてくださーい!」

 

 セーラー服に身を包み、スカートだと言うのに気にする素振りもなく銀の長い髪を振りまきながら全力で駆け抜ける。

 ちらりと後ろを覗き込めば、彼女の後を追いかける追跡者たちの姿が目に映る。

 その数は5人。

 4体は同じ姿……灰色の一ツ目。

 そしてそのリーダー格だと思われるアロワナの異形。

 ぎょろりと精気の無いその瞳は少女の姿のみを写し、逃さない。

 叫びをあげ、少女を追走する異形たち。その足は速く、少しずつ少女との距離を縮めていく。

 

「なんで追いかけてくるのー! 私、何もしてないよ! 落とし物拾ってただけー!!」

 

 少女は手に握ったネックレスを掲げる。

 細い鎖の先に少し大きめの四角いケースが付いたロケットペンダント。

 昼間にこの森で遊んでいた時、落としたこれを探し、見つけたところで偶然にも異形たちと出くわしたのだ。

 だがしかし、それを見せつけたとて異形たちの速度は落ちることはない。

 今はまだ追いつかれていないが少女の体力も無限ではない。タフネスのある異形たちにいずれ追いつかれてしまうだろう。

 

「もー! 追いかけてこないでー! きゃっ!?」

 

 走り続けた少女であったが前を見なかったことが災いしせり出した木の根に足を引っ掛け、盛大に転倒する。

 受け身こそ取れたがバタリと倒れた折に身体の至る所に擦り傷を負う。

 

「いたた……あっ」

「ぐぎゅぐぅ……おい、づいだ」

 

 転んで止まった少女に追いついた異形たちが迫る。

 アロワナの異形は拙い、しわがれた声にのような音を口から漏らし、一ツ目たちを少女にけしかける。

 低く唸る異形たちは逃げられないように少女の周囲を囲み、精気のない巨大な瞳が少女を捉える。

 少女の瞳には悲観の色はない。諦めず、活路を探るが見出すことはできず、異形たちの腕が迫る。

 逃げ場は無く、己の最後を悟った少女は強く目を閉じ、うずくまる。

 ───少女の身に恐れていた衝撃は訪れない。

 

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)!》

REQUIP(リクイップ)! ブラストホーク!》

 

「ぎ、ぐがぁ!?」

「ギィ、ギィイイイ!?」

 

 かわりに耳に届いたのは聞き覚えのない電子音声と鋭いものが地面に突き刺さる音、異形たちの苦しそうな叫び。

 何事かと少女が顔をあげると異形たちから鳥の羽根が生えていた。いや、刺さっていた(・・・・・・)

 そして、風を切る音と共に空から何かが飛来し、少女の背後に回った一ツ目を突き飛ばし、着地する。

 

「な、なにこれ……」

「惚けるな! さっさと逃げろ!」

「えっ!? きゃっ!」

 

 女性の声と共にグイッと背後に降り立ったモノに襟首を掴まれ、後ろへと投げられる。同時に投げたモノの正体を目にする。

 それは鎧かあるいはロボットか、鈍く光る茶色いスーツ、鳥の羽根模様のそれに身を包んだモノ。

 後ろからは良く見えないが、その腰にはベルトが巻き付けられており、鳥を模した頭部には嘴の様な冠と黄色く光るアイレンズが浮かぶ。

 その背はブースターの様に隆起しており、そこから溢れたエネルギーが鳥の翼を象っていた。

 それを見た少女の脳裏にはとある単語が浮かび上がり、自然と口から漏れ出す。

 

「───ヒーロー?」

「……そんな大層なもんじゃない。いいからさっさと走って逃げろ! そして忘れろ」

「ぐるぅううう! じゃま、ズルなぁあ!!」

「黙ってろ!」

 

 痛みから暴れるアロワナの異形が鳥のスーツへと襲いかかる。

 しかし、緩慢な動きの異形に対して鳥のスーツは素早く拳を叩き込み、吹き飛ばす。

 同時に翼を羽撃かせると先程異形たちに刺さっていた羽根が舞い飛び襲いかかろうとした一ツ目たちに突き刺さる。

 

「さっさと行け!」

「は、はい! そうだその前に……」

 

 スーツの女に急かされた少女は立ち上がり、背を向けて走り出したがすぐに立ち止まって振り返る。

 

「後でお礼をしたいから教えてください! 貴方の名前を!」

「礼なんて必要ないから忘れろって言ってるだろう!」

「嫌です! 教えてください! 教えてくれないと逃げません!」

 

 少女とスーツの女の言い争いが続く中、異形たちが続々とダメージから立ち直っていく。

 彼らの強さは大したことはない。だが、このままでは少女を巻き込むかも知れない……先に折れたのはスーツの女だった。

 

「はぁ……エリシア」

「えっ……?」

 

 大きく肩を落としてため息をつくと少女に背を向け、異形たちに向き直ったスーツの女がポツリと呟く。

 

「私の名は……仮面ライダーエリシア!」

 

 スーツの女───エリシアの声が夜の森に響く。

 

 この出会いがこの先の運命(さだめ)を変える大きな転換点となることは今はまだ彼女たちは知らない───




初めましての方は初めましてteru@Tと申します。
この度、新規にオリジナルライダーの執筆を開始しました。
皆さんに楽しんでいただけるように精進してまいります。

今回はタイトルの通り、プロローグ。
次話からが本編となります、近いうちに投稿致しますのでどうかよろしくお願いします。
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