突如、スコアノートたちの襲撃を受けた公立羽頃盛高校。
その校内では吉美と詩歌を護るため盈月が自らのもう1つの姿、仮面ライダーエリシアへと変じリザード・スコアノート、そして複数のモノコーンたちと対峙していた。
「黙っててごめんね……2人共今、助けるよ!」
わずかに振り返り、2人に声をかけるとエリシアはスコアノートたちへと突進する。
狭い廊下、突然の反撃に対処し切れなかったリザードとモノコーンたちはエリシアのタックルを避けることもできず弾かれる。
その隙にエリシアはドライバーを操作しツインラプターを呼び出し、取り回しの良い双剣モードで斬りかかる。
「リザアア! ザアド!」
「やぁ! はああ! 喰らえ!」
振り回す両の刃がモノコーンたちに傷を与え、リザードの爪撃を受け止める。
一見すれば戦いは拮抗している。だが、その場から下がることができず慣れない狭所での戦いはいずれ不利となる、そう感じたエリシアは周囲を見回し打開策を模索する。
「2人共! ちょっと目を閉じて頭守って!」
「えっ!?」
「えいげっちゃん!? な、なに、きゃっ!?」
「壊してごめんなさーい!」
攻撃を弾くと同時に背後へと向き直り、スーツによって補助された力を活かし2人を抱えあげるとそのままスコアノートたちに背を向けたまま窓へ向かって飛び込む。
ガラスの割れる音と破片を伴って空中へと飛び出すエリシアと抱えられた2人。
2階であったため大した高さではないが安全のために翼を展開し落下傘代わりとしながらゆっくりと地面へと着地。
2人を地に下ろすと恐怖と驚きから抱き合ったままぺたりと座り込んでしまった。
「大丈夫!? 怪我ない!?」
「それは大丈夫……ちょっとビックリしたけど」
「今ならバンジージャンプ余裕でできちゃうかも……」
「怪我なくて良かった……」
仮面越しで顔はわからないが安堵し胸を撫で下ろすエリシアの姿に吉美と詩歌は顔を見合わせる。
確かに姿が変わっている、だがそこにいるのは自分たちが知っている盈月と変わりはない、それに安心し2人共に顔が綻んでいた。
だが、異形たちは待ってはくれない、リザードを筆頭にエリシアたちを追いかけるように彼女たちが飛び出した窓から飛び降りてくる。
更に外にいたモノコーンたちも音を聞きつけ集まってきたのだ。
『盈月、連絡が遅くなって悪い。煌琉から事情は聞いている、今戦闘中か?』
「博士! うん、モノコーンがいっぱいにスコアノートもいるよ!」
『……分かった。なら朝に渡したプレートを使ってみろ。多人数相手には有効なはずだ』
「了解! ありがとう!」
『あぁ……無理はするなよ』
博士から入った通信、朝の雰囲気とは打って変わり、2人の会話は滞り無く行われていた。
それでもお互いに違和感を拭い去れぬままであったが悩む時間が惜しいと言わんばかりにエリシアは新たなるプレートを装填する。
《スイープオーストリッチ!》
「スコアチェンジ!」
《
エリシアの操作に合わせて彼女の装甲が変化する。
頭部は白、上半身は黒、下半身は白をメインとしたツートンカラーの色合い。
頭部のヘルムはダチョウのクチバシを模して幅広く丸みを帯びた形状に、装甲は厚く、かといって動きを阻害しない様に装着される。
そして全身に駆け巡るように黄色いエネルギーライン”スイープオグジアリー”が描かれる。
更にスコアとの相性を考えツインラプターを1つに合わせ両刃剣、双刃モードへと切り替える。
「ザアアア! リザア!」
「いっくよー!」
エリシアの変化に恐れることの無いリザードの指示によってモノコーンたちはエリシアを取り囲み、眼から放つビームで攻撃を開始する。
それに対し両刃剣を振り回し尽くを撃ち落としながらスイープオグジアリーが輝き、エネルギーが両手へと集まり始める。
全て対処し切ると同時に刃を水平に振るうと集まったエネルギーが光の刃を形成、拡張された斬撃が取り囲むモノコーンたちを一薙に薙ぎ払う。
新たなスコアの
「やあああ!」
「ザアア!? リザアアア!!」
剣を振るうたびに数体のモノコーンを纏めて薙ぎ払っていくエリシア。
やがてその刃はリザードにも及びその身体を横一文字に両断、その場に倒れ伏せる。
「……あれ? これで終わり……?」
「えいげっちゃん! 横!」
呆気ない幕切れに首を傾げた直後に響いた詩歌の叫び。
直後、真横から切り裂いたはずのリザードの爪がエリシアを襲う。
「リザアアド!」
「えっ!? 今たしかに斬ったのに!?」
ギリギリで反応し、咄嗟に肘でリザードの腕を弾くことで攻撃の軌道を逸らし回避すると正面と横のリザードを見比べそのからくりを理解する。
エリシアが斬ったのはリザードの尻尾。
モノコーンに紛れている間に尻尾を伸ばし膨らませることで自身の身代わりを産み出し奇襲攻撃を仕掛けてきたのだ。
だが、その尻尾は切り離され、無くなってしまっている。
「あれならもう使えないはず!」
「ザアアアド!」
それを肯定するかのようにリザードは距離を詰め、エリシアの強みを潰しにかかる。
長物を振り回しづらいように顔がぶつかりそうなほどの近距離で爪を振り回すリザードにエリシアは反撃を行わずに最小の動きで回避を続ける。
更にその2人を取り囲み、エリシアにトドメを刺すためにモノコーンたちも再び集まってくる。
防戦一方、詩歌と吉美の目にもエリシアがそう映り不安になる。
「リザアア!」
「……今!」
「ザアア!?」
トドメとばかりにリザードが大振りに爪を振り上げた瞬間、エリシアが動く。
武器は振れない、だが拡張できる攻撃は武器によるものだけではない。
いつの間にかスイープオグジアリーを辿るエネルギーは右碗部へと集まっておりラリアットの要領で腕を振るうと同時にエネルギーが腕の攻撃を拡張、モノコーンもリザードも纏めて弾き飛ばした。
吹き飛ばされ距離が開き、猶予ができたエリシアはトドメのためにベルトを操作する。
「これで……!」
《
「終わりだ!」
必殺技を起動すると全身を走るエネルギーが量を増し、右脚へと流れ込む。
エネルギーが集まり切るより早く、体勢を立て直そうとするリザードとモノコーンの元へと駆け出した。
《
「はあああああ!」
敵を射程内に収めたその時、脚部にエネルギーが溜まり切り、飛び上がると同時に横薙ぎの回転蹴りを撃ち放つ。
集ったエネルギーがエリシアの蹴りを拡張し光の波となって全ての敵を一掃する。
それを至近距離で受けたリザードは仮に身代わりが残っていたとしても躱すことができなかっただろう。
「ザアアアアアアド!?」
横薙ぎに切り裂かれたリザードは断末魔を残し、爆散。
スコアノートとされていた人をエリシアが支え、同時に落下するスコアプレートをキャッチする。
産み出したスコアノートが消えたことでいまだ残るモノコーンたちの一部が塵となって消滅、目視できる範囲のモノコーンは消滅した。
周囲の敵がいなくなったことで安全となり、戦闘を終えたエリシアはへたり込む吉美と詩歌がの元へと駆け寄った。
「えいげっちゃん、すごいよ!」
「えへへ、黙っててごめんね……本当は誰にも言っちゃダメって言われたの」
「まぁ……あんまり言いふらせないよね……それでも私たちにも秘密はひどいから今度お詫びするように」
「うんうん、ケーキねケーキ!」
声色と仕草から普段の盈月のように振る舞うエリシアに少し落ち着いた2人も笑顔で労う。
自分を受け入れてくれた友人たちに心を安らげるが戦いはまだ終わっていない。
別の場所では生徒か教師かの悲鳴が上がっている。
「うん! 今度、絶対お詫びする!」
「よしよし、それなら行っといで。私たちも歩けるようになったら逃げるから」
「本当は止めたいんだけどね……気をつけてね!」
「うん……! 後、ごめんこの人もお願い! 気絶してるだけだから!」
約束を交わし、スコアノートにされていた人を2人に預けるとエリシアは走り出す。
狙うはもう1体のスコアノート。
騒ぎの場所を巡れば人を助け、数も減らし目的に辿り着ける、そう言った考えであった───だが。
「急にモノコーンが消えたと思ったらいるじゃねぇか、仮面ライダー」
「っ! きゃあ!?」
「「えいげっちゃん!?」」
走り出した直後のエリシアに向けて校舎の陰から声が聞こえたとともに飛んできた何かが直撃し、吹き飛ばされる。
驚く2人とエリシアの前に声の主が地響きを響かせながら現れた。
それは一言で表すならば灰色の鎧武者。
皮の装甲で全身を武装した鈍重そうな重装甲と鼻先から伸びる1本角とピンと上を向いた2つの耳が頭部を兜のように見せている。
そして肩に担いだ一振りの剥き身の大刀。
口角を上げ、ニヤリと獰猛な笑みを見せるその異形、その元となったであろう生物を吉美と詩歌はすぐに思い至った。
「今度はサイの怪物なの……!」
「それも今度は喋ってる……」
「あん? 逃げ遅れか……適性はねぇみたいだが全部連れてこいって命令だったしな。てめぇらにもついてきて貰うぜ」
吉美と詩歌の声にそちらを気付いたサイの異形───ライノス・スコアノートは品定めするように眺めた後に倒れるエリシアに背を向けて2人の方を見る。
恐怖で動けないでいる2人へ向けと一歩踏み出す、それと同時に背中から斬撃を浴びせられた。
振り返れば起き上がったエリシアが射程を延長させた両刃剣を構え再び振り下ろすところだった。
「2人に手を出すなぁ!」
「ちっ! めんどくせぇなぁ!」
だが、その一撃は大ぶりに振るったライノスの大刀がたやすく光の刃を砕く。
中途半端な距離では意味がない、そう感じたエリシアは危険と分かりながらも接近する。
「2人は逃げて! スコアチェンジ!」
《
「やる気満々だなぁ! いいぜ、遊んでやるよぉ!」
吉美と詩歌に避難を促すとともに姿を近接戦に長けるスティングペッカーへと換装、更にツインラプターも再び双剣へと分ける。
2刀の剣を用い連続で斬りかかるも見た目通りの重装甲にダメージを受けた様子はない。
そしてライノスの振るう刃は重く片手の剣で受け止めるも受けきれず、剣を弾き飛ばされてしまった。
「っ! これなら、どう!?」
あまりの重さに腕へと感じる痺れを我慢しライノスへと拳を向け振るう。
同時にスティングバンカーより杭が飛び出しライノスへと打ち付けられる……だが。
「その程度、効かねぇなぁ?」
「そん、な……1発でダメなら!」
ゴムのようなライノスの
諦めず左右で連続で杭を射出するも後退すること無くそれどころか1歩ずつ、勢いをつけながらエリシアへと向けて進み出す。
「攻撃ってのはよぉ! こういうのなんだよぉ!」
「くっ!? きゃああああ!!」
「おらぁ! おまけだぁ!」
勢いを乗せ下段から振り上げられるライノスの大刀、残った一刀で防御しようと構えるもその凶刃の前では小枝と言っても差し支えがなかった。
防御に差し出した剣は力任せの一撃に砕け、エリシア自身も切り上げ、空中へと吹き飛ばす。
悲鳴を上げ宙を舞うエリシアへ向けてライノスは頭部の1本角をミサイルのように射出、指向性を持っているのかエリシア目掛け真っ直ぐに飛来する。
その攻撃に気づくも回避は間に合わず直撃、エリシアは更に吹き飛ばされ、度重なるダメージと重い一撃に限界を迎えたのか変身が解除、更には地面に落ちた衝撃によりベルトが外れ盈月は地面を転がることとなった。
「えいげっちゃん!?」
「いやあああ!」
「うっ……2人、とも、お願い、逃げて……」
受けたダメージに起き上がれない盈月はこちらを見て涙を流す友人たちに呼びかける。
全身に激痛は走るが身体は動くならば少しでも時間を稼がなければ、そう思い起き上がろうとする盈月だがその背をライノスが踏みつける。
「あ、がっ……!」
「へぇ、まだ起きてんのかタフだな、お前……それに適性もあると来たもんだ! へへへ、初仕事にしては良いもん手に入ったなぁ!」
「あああ……!?」
「やめて! えいげっちゃんが死んじゃう!」
上機嫌になりながらもズシリと体重をかければ盈月は苦しそうに肺の空気が押し出される。
吉美が叫びをあげるもライノスが聞き入れる理由はないとばかりに盈月を踏みつけたまま新たにモノコーンを生み出す。
生み出されたモノコーンは即座に主の意志に答えて吉美と詩歌を捕らえてしまう。
「心配すんな、殺しゃしねぇよ。ただこうやって痛めつけとけば上下関係を刷り込めるってもんだろぉ!」
「っ、うぅ!」
見せしめとばかりに盈月を蹴り飛ばす。
相当加減はしているのだろう、それでも盈月はゴロゴロと地面を転がされ痛みに呻く。
遠くから複数のサイレンが聞こえてくる。
まもなく助けが来るだろう、だが彼らがそれまで待ってくれるはずはない。
「ちぃ! もうかよ、全然時間稼げねてぇじゃねぇか。情ねぇ先輩だな……まぁ良い。こいつを連れ帰れればな」
「ふた、り……だけでも……」
「お前には何もできねぇよ! おら、そいつら先連れてけ」
「だ、め……!」
盈月の言葉も虚しく、ライノスの指示を受けた吉美と詩歌を捕らえたモノコーンたちは足早に2人を何処かへと連れて行ってしまう。
吉美も詩歌も涙を流し、盈月に手を伸ばすも届くはずもなく2人は校舎の陰へと連れて行かれ見えなくなってしまう。
打ちひしがれる無力感、盈月の目からは自然と涙がこぼれ落ちる。
「心配すんな。すぐに同じところに連れて行ってやるからよ!」
捕らえるためにニタニタと笑みを浮かべ盈月へと近づくライノス。
その彼の耳が1つの音を捉える。
それはバイクの駆動音、周囲が騒がしい中で徐々に大きくなるそれがこちらに近づく音であると認識するのにさほど時間はかからなかった。
次の瞬間、フェンスを飛び越え1台のバイクがこちらへと突っ込んでくる。
盈月はその正体を一目で理解する、タカを模した塗装を施された改造バイク───スコアダッシャーだ。
「誰が……あつ、とさん……?」
「オイオイ、新手かよぉ!」
「……!」
謎の乗り手はバイクをギリギリまで倒し、盈月が落としたドライバーを拾い上げると勢いのままにライノスへと突撃。
バイクの一撃程度受け止めきれる、そう考えたライノスは回避することもなくその場でバイクを睨みつける。
だが、考えていた衝突は発生せず、バイクはライノスの直前で急停止、勢いの余りに後輪が浮かび上がるがそれこそが乗り手の狙いだった。
「なにっ!?」
「……」
後輪を浮かばせたまま急旋回、バイクの重さを乗せた一撃をライノスの顔面にのみに集約して叩きつける。
正面からならば動くことはなかっただろう、だが予想外の位置、それも頭部への一撃は流石のライノスといえど耐えきれず、その場からわずかだが後ろに後退する。
だが、そんな無茶な軌道をしたためにスコアダッシャーは転倒、巻き込まれる前に乗り手は飛び降り、盈月を護るようにその前に立つ。
盈月は目を見開く。
その後ろ姿を、その
「なん、で……だって……」
「……待たせて悪かったな。盈月」
その声を、ヘルメットを脱ぎ捨てたその顔を彼女は知っている。
だが、その人がこの場に現れるわけがない。
だって彼女はまだ腕が治っていないのだから───
「後は私に任せておけ。今まですまなかった」
「はか、せ……」
折れていたはずの右手が優しく盈月の顔を撫で、こぼれ落ちる涙を掬い取る。
目を見開き涙を流すその
ついぞ理解し合えることはなく、それでも互いを思い合う2人の視線は今、離れてしまう。
そして、エリシアは敵へと向き直る。
「いってぇなぁ、女ァ!」
「ハッ! 少し休んでる間にベラベラ喋るようになりやがって、うるさくて叶わないな!」
「戦えもしねぇ奴が出しゃばってんじゃねぇよ!」
「戦えもしない……か。ハッ、笑わせる!」
ライノスの言葉を鼻で笑い、構えたドライバーを腰へ押し当て装着、スコアリーダーを引き抜いた。
「これは元々……私のだ!」
女は───エリシア・フェリキタスはプレートをリーダーに差し込むと左手で握りしめ下に向かってかざす。
《ブラストホーク!》
「変身!」
裂波の気合とともにスコアリーダーをベルトへと差し込むと周囲をエネルギーが包み込む。
それがエリシアへ張り付くとアンダースーツへと変貌し更に装甲が出現する。
《
茶色のアンダースーツ、鳥の羽根模様が描かれたその上にタカを摸した茶色の装甲が装着されていく。
クチバシを模した冠と鳥の顔を模した頭部に黄色いアイレンズが輝き、ライノスを睨みつける。
その背中にはイーグルと同じ様なブースター、”ブラストスパウト”が装着され、そこから吹き出すエネルギーが翼を生み出す。
「仮面ライダーエリシア……ここでお前をぶっ倒す!」
───少女に背を向け、戦士は今立ち上がる。
「粋がるんじゃねぇよ! もう1回ぶっ倒してやるよぉ!」
「ハッ! 言ってろ!」
ライノスとエリシア、同時に動き出した2人だが速度で勝るエリシアが先に仕掛ける。
地を滑るように低空を飛び、ライノスの眼前で翼を羽ばたかせると鋭い羽根が舞い飛びライノスへと襲いかかる。
「ちぃ! こんな羽根ごとき!」
咄嗟に腕で目を守ると大刀を振るい全てを打ち払う。
続けざまに正面へと突き出すもその攻撃は空を切った。
「っ! いねぇだと!?」
《
「上かぁ! ぐっ!?」
電子音声に釣られライノスが上空を見上げる、それと同時に光の矢がライノスの硬い装甲を貫いた。
発生源はエリシアの手元。
新たに呼び出された鳥の翼を模した弓が取り付けられた白いボディラインと黒い射出口の組み合わせがハクトウワシを思わせるボウガン───デュアルラプターであった。
続けざまに2発、3発と光の矢を発射するがそれらは全て大刀に打ち払われてしまう。
「狙いが見えてりゃそんな程度あたるかよ! 死ねぇ!」
「その攻撃は知ってんだよ!」
反撃として放たれた角が上空のエリシアへと一直線に飛ぶ。
だが、盈月との戦闘でその存在を知っていた彼女は焦ること無く回避すると再度羽根を射出した、舞い飛ぶ羽根はライノス視界を封じる。
煩わしく思うもボウガンでの攻撃も大したダメージにはならない。
有効打があるとすれば話に聞いている
「(そのまま上……もしくは後ろ! どっちにしろぶった切る!)」
「……ハッ、喋れるだけで知能は大して変わらないみたいだなぁ!」
「っ!? 下だとぉ!?」
足元から響く声に下を向けばそこにいたのは身を屈めたエリシア。
ライノスが武器を構え直す暇を与えず、手に持つデュアルラプターを振り上げる。
先程までボウガンだったそれは弓が90度回転し刃となった片手斧へと変化していた。
「ぶった斬れろ!」
起き上がり、上空に飛び上がると共に逆手に構えた斧を振り上げる。
勢いの乗ったその刃はライノスの装甲に食い込み、肩口までを一直線に斬り裂いた。
だが、致命傷とはならない。
寸前でライノスが半歩身を引いたことで直撃を免れていたためだ。
「チィ! なら、今度こそ!」
「クソがぁ! 死ねぇ!」
「逃がすわけが……!?」
トドメを刺すために上空から飛来するエリシアに対しライノスは角のミサイルを飛ばす。
しかし、それはエリシアを狙ったものではない。
地を這うように放たれたその軌道上にいたのは限界を迎え、気を失い倒れている盈月。
エリシアがそれに気づくと同時にライノスはミサイルとは逆方向に走り出す。
「間に合え……!」
ライノスへと向かう自身の身体を翼の制動を駆使して迷うこと無く反転、背後の盈月へと向かう。
反応が早かったことも相まってミサイルが到達するよりも早く着地すると同時に迫るミサイルを斧を振り上げ、両断。
背後に被害がないことだけを確認すると砕けた破片が校舎を砕くのも気にせず、斧をボウガンへと変形し、逃げたライノスへと照準を合わせる───しかし。
「クソ、クソォ! 覚えとけぇ! 次は殺す!」
捨て台詞を吐くライノスはその身体の半分を空間に開いた裂け目───エリシアが武器を転送する時と同じそれに飲み込まれていた。
誰にも気づかれることなく街の中を移動していたカラクリ、それこそがこれだったのだ。
憎々しいエリシアを睨みつけながらライノスは裂け目にその身が全て飲み込まれるとそこには何もなかったかのように元の景色が広がっていた。
周囲の騒ぎも収まり始めたのか静かになっていく、モノコーンたちも同様に消え、助けも徐々に増えているが故であろう。
「……あぁ、クソ……もっと早く着いてれば……!」
変身を解除したエリシアは振り返り意識のない盈月の手を握りしめる。
土と血に汚れ傷ついたその手を強く、強く握りしめる。
「……もうお前が傷つく必要はないんだ。盈月」
唇を噛み頭を垂れたエリシアは、少女の顔を見ることができなかった。
もし、見ることができたのならば2人の繋がれた手に淡く輝く青い光を宿していることに気づけていたかもしれない───
******
羽頃盛高校の襲撃から数時間。
空が茜色に染まり始め、警察による事情聴取や現場検証、安否確認などが続く中、教師生徒を搬送した市民病院のベンチにて一段落を付けた温斗は重い溜息を吐き出す。
近くの休憩室のテレビからは何度も繰り返される音声が聞こえてくる。
『引き続き公立羽頃盛高校で起こったテロ事件に関する情報です。
本日昼頃、武装集団によるテロ並びに連れ去り事件が発生しました。
警察発表によれば死者は0名、重軽傷者18名、行方不明者は現在97名となっております。
また、校舎も破損の影響で崩れるおそれがありますので近づかないように呼びかけがされいます。
犯人グループの詳細などは分かっておらず、情報の提供などは───』
「……休憩か?」
「部下に少しは休めって進展が無くなったところで仕事を無理矢理取り上げられてね」
レポーターの声が響く中、やってきたエリシアを一瞥すれば先ほど学校で会った時とは服装が変わっていた。
その間の時間で自宅に帰り着替えは済ませたのであろう、だが、昼間のときからあった目の下に浮かぶクマから察するに彼女も休めているとは言えないようだ。
「おや、2人共いるのかい。丁度いいね」
「やぁ、温斗。それにエリシアも随分と元気そうじゃあないか」
「兄さん、それに煌琉も」
そんな2人の下へ煌琉を引き連れて涼が現れる。
その手には菓子折りを入れた紙袋が提げられていた。
「彼の意見も交えて今後について色々話したくてね……まぁでも何よりも」
「エリシア、君の腕折れてたのは嘘だったのかい?」
3人の注目がさも当然と腕を組むエリシアへと集まる。
「嘘じゃないわ、しっかり折れてた。診断書もあるぞ」
「全治3ヶ月と聞いてましたが?」
「……何か知らんが先週治った」
目を逸らすエリシアに温斗も煌琉も怪訝な顔を浮かべる。
だが、今そのことを議論している時間は残されていない。
「私のことはどうでもいい。気になるなら後で好きに調べろ。それよりもスコアノートの方が優先だろ」
「はは、間違いない。温斗、捜査状況とかはどうなってるんだい?」
「良いニュースはゼロじゃないよ。行方不明だった人間の一部が発見された。混乱を防ぐためにメディアには伏せてるけどね」
温斗が受けた報告では事件が収束した後に市内のいくつかの交番に拐われていた教師生徒が自らの足で駆け込んできたのだ。
現在は簡単な検査の後、事情聴取のために警察署にて保護をしている状態だった。
「軽く検査もしたけどスコアノートの反応は一切なし、純粋に被害者が減ったみたいだよ」
「ふむ……わざわざ逃がしたのかい?」
「いや、全員、解放された理由は同じだったよ。突然、捕まえてた化け物が消えたってね」
「……
モノコーンは産み出したスコアノートが倒されれば消滅する、故にリザードを倒したことでリザードが産み出したモノコーンは消え、捕まっていた人たちが解放されたのだ。
「変身して戦う以外にも避難を促したり、襲われそうなところを助けられたって証言を多く貰ってます」
「今回の襲撃、彼女がいなければもっと被害が広がっていただろうね」
「……その結果、本人が傷ついてちゃ意味ないんだよ」
エリシアが吐き捨てた言葉に温斗も目を逸らす。
自分がもっと早く到着していれば……その思いを抱えているのは2人共同じだった。
「反省するのは後……と言いたいけど実際手詰まりなんだよねぇ」
「レーダーを常に稼働させてるけど反応なし。今までの反応からして能力を使うか移動する時にだけ反応するみたいだね」
「なるほど……詳しいデータは後で貰うよ。改良の余地ありってね……行方不明者のスマホとかの反応は探せないのかい、温斗?」
涼の言葉に温斗は首を横に振る。
「通信会社に問い合わせてすでに最後に反応があったところを探したけれど、どれも壊されて捨てられてたよ」
「……位置情報を辿れることはしっかり理解しているわけか……厄介だね」
3人がなんとか追跡の手段がないか考えを出し合う中、エリシアはその場から立ち去ろうと踵を返す。
「珍しいね。エリシアこういう時は率先して話に参加してくるだろ? 本調子じゃないのかい?」
「一々突っ掛かるな、煌琉……今は思考が纏まらなくて役に立てそうにないだけだ。それなら居ても居なくても変わらないだろ」
「それが珍しいと思うけどね。悩み事かい?」
「……話すようなことじゃないことは確かだよ」
会話を打ち切り、今度こそ歩きさろうとするエリシアを今度は涼が呼び止める。
煩わしそうにエリシアがそちらを振り返れば涼は笑顔で紙袋を手渡してきた。
「彼女の様子を見に行くんだろう? ついでによろしく。目を覚ましたら改めて挨拶に行くよ」
「……私も勝手に食うからな。進展あったら連絡してくれ」
それだけを言い残し、紙袋を受け取ると今度こそエリシアはその場を立ち去る。
目指す先は1つ上の階の個室の一室。
本来は面会時間を過ぎているが捜査の一環という形で無理を押し通し病院からの許可をもぎ取っている。
扉を開けばそこに眠るのは1人の少女───盈月だった。
あの後、病院へと運び込まれた盈月は外傷こそあったが
「……その割にはまだ目を覚まさない、か」
サイドボードの上に紙袋を置き、パイプ椅子に腰をかけると盈月の顔を覗き込む。
寝息を立てる彼女の瞳からは涙が溢れていた。
「お前が起きるまでに全部終わらせてやれてれば良かったんだけどな……」
エリシアは盈月の瞳から溢れる涙を指で拭う。
それに呼応するように差し込む夕日が地へと沈み明かりのない部屋を暗い静寂が包み込む。
「……はか、せ……?」
その静寂を破るように発せられた少女の声。
薄っすらと定まらぬ意識の中、目覚めた少女が目にしたのは。
「……なかないで。博士は何も悪くないから……」
頼り続けた彼女が───憧れているあの人が自分のために涙を流す、その姿だった───
ここまで読了ありがとうございます。
元々は前後編で書き始めた今回の話なんですが筆が乗りすぎて伸びました……本当は戦闘シーンまで前回の話に収めたかった……それでも妥協できなかったのです。
今回のお話は1つの節目になる……予定で書いているので楽しんでいただければ嬉しく思います。
次の話でこの一連の話の区切りとなる予定ですので次回もよろしくお願いします!