仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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第十話「決断の時/重なる仮面」

 盈月の検査を終えた医者が病室から出てくるとエリシアへと検査結果の報告のために近づいてくる。

 

「彼女の保護者様でお間違いないですか?」

「あー……まぁ、そういうことで大丈夫だ。盈月の様態は?」

「心配ありませんよ。どこにも身体的な異常はありませんでした」

 

 医者の言葉にエリシアは安堵する。

 だが、医者は「ただ……」と声のトーンを落として言葉を続けた。

 

「ショックなことが続いたようで相当落ち込んでいるようなので励ましてあげてください」

「……あぁ、分かった」

「もし、続くようならば精神科の紹介もしますからおっしゃってください。では」

 

 話を終えると軽い会釈の後、医者は去っていく。

 それを見送ったエリシアは扉の前に立ち、呼吸を整えると意を決して扉をノックする。

 するとすぐに「博士だよね? 入っていいよ!」と普段通りの盈月の声が聞こえ、それに従って扉を開く。

 

「さっきは悪かったな……元気か……でいいのかこういう時」

「えへへ、どうなんだろう? それにお互い様だから大丈夫!」

 

 先程まで眠っていたベッドに身体を起こして座り、スマホを握りしめた盈月はエリシアへと笑顔を見せる。

 普段通りの仕草をできていると泣き腫らした目を隠すことも忘れて笑顔を向ける。

 その様子にエリシアは唇を噛み、湧き上がる言葉と思いを飲み込んで「そうか」と曖昧な笑みで返す。

 

「……あ、そういえば、腕治ったんだんだよね? もっと時間かかるんじゃなかったの?」

「ん、ああ……先週くらいにな、気がついたら治ってたんだ。悪いな隠してたつもりじゃなかったが私にも理由が分からなかったから切り出せなかった」

 

 エリシアは盈月から目線を逸らし右腕をギュッと抱き寄せる。

 

「そう、なんだ。良かった、大変そうだったもんね博士……それじゃあ、私が気絶しちゃった後ってどうなったか聞いてもいい?」

「……今聞くには辛いこともあるが大丈夫か?」

「うん。何も知らない方が辛いから」

 

 真っ直ぐな瞳で見つめる盈月の視線に観念したようにエリシアは今の状況を話し出す。

 被害状況、スコアノートたちの行方が分からないこと同時に拐われた人間の行方も分かっていないこと。

 予想はしていたのだろう、それでもエリシアが知りうる限りの情報を聞かされ盈月の表情は徐々に曇っていった。

 

「───こんなところだ。今は行方が分かってないからその先、手が出せない」

「……被害者って多分スコアノートのところにいるんだよね?」

「まぁ、どこかに監禁はされてるだろうが基本近くにはいるだろうな。だが、居場所がわからないんじゃ……」

「私、分かるかもしれない」

 

 盈月の質問に答えるもその意図がわからないエリシア、だが続く盈月の言葉にそちらを向けば握りしめたスマホを差し出していた。

 

「吉美と詩歌……友達がね、拐われる前に場所が分かるようにってGPSの辿れるキーホルダー交換したの」

「本当か? いやだけど荷物ごと捨てられてたら……」

「持ってきた吉美はそうだけど……渡されてすぐに騒ぎが始まったから詩歌はどこかに付ける時間なかったはずだから多分ポケットに入ってると思う」

 

 いくら警戒しているとはいってもポケットの中のキーホルダーまでは処分されないだろう。

 発見への糸口が現実味を帯びてきたことでエリシアは盈月に確認するように促した。

 

「えっと……こうして……出たよ」

「よし、見せてみろ……これはビンゴかもしれないがこの場所は……」

 

 映し出されたこの街一帯の地図には2点の光と共に登録名が記されていた。

 吉美の方は街中に反応があるのに対し、詩歌を示す光は明らかにそれとは異なる場所にそして2人が見覚えのある場所を示していた。

 そこは羽頃盛市の外れにある森。

 広大な広さこそ無いが鬱蒼としたその場所は2人にとって思い出深い場所であった。

 

「……私が助けられた森だね」

「あぁ……お前に私が仮面ライダーだってバレた場所だ」

「なら、ちょうど良いかも」

 

 懐かしむ様な儚げな笑みを浮かべた盈月はエリシアへと地図の映るスマホ、そしてあの日落としたことで2人を引き合わせたイーグルスコアプレートを差し出していた。

 

「お前、これ……」

「私にとって()()()()()ただの御守りだけど博士にとっては役に立つでしょ?」

「それは……そうだが……」

「元々、エリシアとして戦うのは博士の腕が治るまでって約束だったでしょ? それなら一緒に役立ててほしいな」

 

 目を覚ました後の僅かな時間で、いや、倒れ伏しエリシアに助けられたあの時から盈月の中で確固たる意志を固めていたのだろう。

 ただ受け取るだけ、そうと理解しながらもエリシアは浅く呼吸を繰り返し盈月と差し出されたプレートを見比べるしかできない。

 やがて、スリープし画面が消えたスマホに映り込んだ涙を堪える自身の顔を直視したエリシアは力なく脱力する。

 

「……そう、だったな」

 

 そして顔を上げたエリシアは───

 

 

******

 

 

「お前はそれで本当に後悔はないのか?」

 

 口から出た言葉は自分が考えていたものと違っていた。

 違う、私はただあいつを労いたいだけなんだ。

 

「……うん、後悔はないよ」

「そんな顔でか?」

「っ……」

 

 私の言葉にあいつが動揺する。

 見れば分かる、心からの笑顔なのか我慢して、無理して笑ってるのかなんて。

 私が病室に入った時から無理して笑ってるお前をもう苦しませたくないだけなのに。

 

「……ダメだよ。これ以上は博士に迷惑をかけちゃう」

 

 絞り出すように、隠し通すつもりだったのであろう言葉が目の前で涙を堪えるあいつ(盈月)の口から漏れ出る。

 それと同時に私の我慢も限界だった。

 

「かけろよ! 迷惑くらい……! 私はそんなに頼りないか!?」

「そ、そんなことはないよ! でも……」

 

 ───違う、困らせるな。

 それはダメだと思っていても私の中でどうしたいかなんてずっと決まってたんだ。

 それでもそれは───

 

「……今ならまだ私はお前に力を与えられる」

「───え?」

 

 そう、それは今後もこいつにリスクを背負わせることになる。

 今回も前回も偶然怪我をしなかっただけで心の傷は着実に増えている。

 それでも───

 

「最初は私を助けるために戦った。そしてその後は私の代わりにと私が託した」

 

 そうだ、こいつにはここまで選択肢はなかった。

 戦うしか無いままここまで連れてきてしまった───戦わせてしまっていた。

 

「そして私の傷が治った今、お前はもう戦う必要はなくなった……それでも」

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()今こそ、こいつに選ばせるべきなんだ。

 

「それでも、お前がまだ戦いたいと、自分が危険になったとしても誰かを救いたいと望むのなら───」

 

 私の言葉に目を見開いて呼吸を繰り返すだけの盈月へと手を伸ばす。

 握手を求めるように、彼女自身を求めるように───

 

 

******

 

 

「───私の手を取ってくれ」

 

 目の前の彼女は私に手を伸ばしている。

 私の答えを待っている。

 

「私、は……」

 

 ここで手を取ってしまえばまた迷惑をかける、また博士の負担が増えちゃう。

 それは博士も分かってる、それなのに私に選ばせてくれている。

 ───ふっと思い返すと戦うかどうか選ぶのはエリシアになって初めてだ。

 最初は私がやらないといけないと思った。

 その後、イマージュドライバーを託されたときも選ばせてはくれたけど私がやらないと被害が出てたから手に取るしか無いと思った。

 だから、やめるなら今。

 

「……私、ヒーローのことずっと好きだったんだ。私もなってみたいって思ってた」

 

 ───あれ、何を言っているんだろう?

 もうやめます、戦いませんっていうだけなのに……。

 

「だから、博士がヒーローだって分かった時、私もいつかお手伝いしたいなって思ったのでも」

「……」

 

 博士は私の言葉を静かに聞いてくれている。

 ───あぁ、そうかやっぱり私は。

 

「戦ってみて分かったよ……痛いこといっぱいあるし普通の生活にヒーローの生活も重なってすごい大変だね」

「そうだな。骨折した私の世話もあっただろ? 迷惑しかかけてないな……」

「うん……大変だったよ。でも、いやじゃ……なかったこともたくさんあったよ」

 

 たくさん怖かった、たくさん苦しかった。

 今もそうだ。

 吉美と詩歌を拐われて戦いにも負けて……全てを諦めてヒーローをやめようって考えてた。

 

「私はまだまだ弱いからこれからもいっぱい迷惑かけちゃうけど……いい?」

「はっ! 託した時にも言っただろ? 足りない分は補ってやる」

 

 私の好きな自信に満ちた笑顔を浮かべた博士。

 その姿に私も覚悟を決めた。

 ずっと握りしめていたスマホをベッドの上に置き、手を空けそして───

 

「お願い博士……私も一緒に戦わせて」

 

 人を助けるために───再び戦うために───仮面ライダーとしてあるために。

 博士が伸ばした手を取った。

 

「よし……なら、善は急げだ。行くぞ」

「行くってどこに?」

「決まってんだろ? 助けに行くのさ!」

 

 博士が立つのに合わせて繋いだ手を勢いよく引っ張られる。

 力は強くはないけれど突然だったのでびっくりしたけどそういうことなら断る理由もない。

 それに合わせて私はベッドから起き上がった。

 

 

******

 

 

 病院の待合室で時間を潰してた温斗たちは看護師から盈月が目を覚ましたとの報告を受け、彼女の病室へと向かっていた。

 

「警察としては話を聞かなきゃいけないんだが……落ち込んでいないといいけども」

「どうだろうね。元気なように見えて年頃もあって意外と繊細みたいだしねぇ」

「あぁ……それでも今は彼女にすがるしかないか……それで、兄さんも一緒に来るのどうしてだい?」

 

 重い足取りをで歩く温斗は隣を歩く涼へと目を向ける。

 

「うーん、まぁ必要かはわからないけど折角なら顔合わせをね」

「それにしたって今じゃなくても……」

「ははは、まぁいい機会だからね」

 

 明らかに言葉を濁す涼に「相変わらずだねぇ」と煌琉は肩を叩くが温斗はジト目で睨みつける。

 

「兄さんの場合、こういう時は何か目的があって来てるだろ?」

「いやいや、そんな……おや?」

 

 温斗の追求をのらりくらりとかわしながら歩みを進めていると3人の行く手にある病室の1つの扉が開く。

 記憶が間違っていなければそこは盈月のいる部屋であり、それを示すようにエリシアと彼女に手を引かれた病院着のままの盈月が飛び出してきた。

 

「盈月さん!? もう起きても大丈夫なんですか!?」

「あ、温斗さん! うん、もう大丈夫です! それとこれ!」

「えっ、スマホ……とこれは位置情報?」

「そこに捕まってるやつがいる可能性が高い! 私と盈月は先に向かうからお前も人員動かしてなるべく早く来いよ!」

「よろしくお願いします!」

 

 自身のスマホを温斗に託し、嵐のように走り去ろうとする2人。

 だが、その前に涼が行く手を塞ぐように立ちはだかった。

 

「郡山、なんで止める」

「あ、温斗さんのお兄さんですか? はじめまして! 日向盈月です!」

「うん、はじめまして。病院ではもうちょっと静かにしようね?」

 

 涼の言葉にハッとなった盈月は口を閉じ、改めてペコリと元気にお辞儀をし、そのまま2人で横を抜けていこうとするも今度は温斗がその行く手を阻む。

 

「なんだ、2人して!」

「何だも何も盈月さんを連れて行ってどうするつもりなんだ!? 彼女は……」

「エリシア、君が変身するなら彼女はもう戦えないだろう? だから、温斗は連れてきたくないんだよ。危険だから」

「あ、そうだった……どうしよう」

「あぁ……そのことなら問題ない。ほら」

 

 エリシアはポケットからある物を取り出し、盈月の手へと握らせた。

 それはイマージュリーダー。だが今までのものと異なり、液晶の前に2つ目のプレートの挿入口が搭載されていた。

 

「元々ドライバーの予備として用意してたんだが、この前レディッシュの開発を手伝った時のデータを参考に強化させた。名付けてE(エクスパンド)イマージュリーダー……盈月の生体データを登録してある」

「じゃあ、これは……!」

「あぁ、お前専用のドライバーだ。これで文句ないだろ?」

「……いや、ダメだ。彼女は行かせられない」

「なっ……!?」

 

 盈月も戦える用意をした、それでも温斗は首を縦に振らない。

 驚くエリシアを尻目に全員が見守る中、険しい表情のままの温斗は不安げに見つめる盈月を見つめる。

 

「……行くのなら入院着を着替えてからだ。それくらいの時間はあるだろう?」

「! はい!」

 

 温斗は肩に手を置き、柔和な微笑みを見せる。

 その言葉の意味を語るまでもなく、ぱぁっと明るい笑みに変わった盈月は元気に返事をするのだった。

 

 

******

 

 

 羽頃盛市の外れにある森の中。

 満月の月光が照らすは鬱蒼と茂る草木に隠れて外からは見えないように木々を薙ぎ倒して作られし広場。

 そこには羽頃盛高校から拐われた人の一部、30人ほどの男女と彼らを監視し逃さないように取り囲むモノコーンたちが集っていた。

 教師や男子生徒の中には抵抗し、1人でも逃がそうと或いは逃げ出そうと試みてモノコーンたちに痛みつけられ傷を負っている者も居た。

 抵抗を諦めた今、複数人で集まり、負傷者の介抱をしながら励ましあい、行く末を見守るしかなかった。

 

「大丈夫だよ! 絶対助けは来てくれるから!」

「うん、今は警察を信じて待とう? ほら、怪我見せて」

 

 そんな中、吉美と詩歌の2人は諦めず全員に呼びかけ、カバンなどは奪われているため傷口の泥を拭うなど簡単なものでしかないが傷の手当を積極的に行っていた。

 それでも拐われてから数時間、全員の気力が限界なのかそれに呼応する声は上がらない。

 

「無駄無駄! 助けなんか来るわけねぇよ!」

 

 嘲笑の声とともに枝を踏み砕きライノスがドスドスと存在を示すかのようにあえて大きな足音をたてて森の奥から現れる。

 その肩から胴にかけてはエリシアとの戦闘で負った切り傷が大きく残されていた。

 

「あと少しで2回目のゲートを開けばお前らは俺達の本拠地に連れてっちまうんだからな!」

「その前に助けが来るかもしれないでしょ……!」

「ありえねぇな! ここじゃ多少騒いだくらいじゃ森の外に声は届かねぇ。そして荷物もスマホもぶっ壊して適当なところに捨ててきた! 見つける足掛かりがねぇんだよ!」

 

 吉美たちが連れてこられた当初は今の倍の人数がここに集められていたがその半数は少し前に森の奥へと連れて行かれ帰ってきていない。

 今の話からするとゲートとやらを通ってどこか別の場所に連れ去られてしまったようだった。

 

「そ、そんなの分かんないじゃん! 誰かが通りがかって偶然見つけてくれるかもしれないし!」

「ありえねぇな! あんまり騒ぐようなら見せしめに斬ってやろうか? 今更1人や2人数が変わったところで文句も言われねぇだろうからよぉ?」

 

 希望が少ない、それは理解していても吉美は強がるように食い下がる。

 それを鬱陶しく感じたのかライノスは肩に担いだ大刀の切っ先を吉美へと向ける。

 それによりこの後に起こる悲劇を想像し、ざわめき出す人々に囲まれる中、吉美は怯えながらもライノスを睨み返す。

 

「ちょっと吉美、やめなよ! あんたもさ、下手なことして痕跡残したら面倒くさいと思うからさ!?」

「あん?」

「詩歌!? ダメ、やめて!」

 

 吉美と切っ先、その間に割り込んだのは詩歌だった。

 恐怖に震えながら友人を守るために割り込んだ彼女だったがそれをわずわらしく感じたのかライノスは不機嫌を露わにしておもむろに大刀を振り上げる。

 周囲がにわかにざわめき、短い悲鳴が上がる───悲劇は避けられない、人々はそれから目を逸らすことしかできなかった。

 

 ───その悲劇を阻んだのは森を貫き、夜の闇を斬り裂いた一筋の赤い閃光。

 一直線に飛来したそれは振り下ろされようとしていた大刀へと命中、弾くことこそできなかったがその動きを押し留めた。

 

「なにっ!?」

「警察です! 皆さん、こちらへ! 助けに来ました!」

 

 驚くライノスを前に閃光の出どころから草木かき分け現れたのはレディッシュ。

 それに続くように彼の背後から茶色い鳥の羽根が舞い飛び、モノコーンたちへと飛来するとともに茶色い(ブラストホークの)エリシアが飛び出した。

 

「レディッシュ! お前、自分で合図するって言ってたのになんで飛び出してんだよ!?」

「悪いとは思ってる! だが市民の安全を優先した!」

「分かってるよ! だから私が合図送るって提案してたんだろうが!」

 

 口ではレディッシュへの文句を漏らしながらもエリシアは空中を飛び回り、モノコーンたちを次々と撃破していく。

 捕まっていた人々は敵の数が減ったことでできた逃げ道をレディッシュに促され、手を貸し合いながら森の外へと逃げ出し始める。

 吉美と詩歌もそれに続いて逃げ出そうとする、だがそれよりも早くライノスが回り込みその行く手を阻む。

 

「クソッ! なんでここがバレた!? せめてお前らだけでも……!」

「彼女たちに手を出すな!」

「背中向けるとは余裕だな!」

「それくらい効かね……ぐあっ!?」

 

 ライノスの背中へとレディッシュの銃撃とエリシアのボウガンの矢が突き刺さる。

 多少のダメージこそ受けども致命傷にはならず無視を決め込んでいたライノスだったがその背後からエンジン音が響くと共に強い衝撃により吹き飛ばされる。

 森を突き抜け走り込んできたバイク、スコアダッシャーにより弾かれたのだ。

 呆然とする吉美と詩歌の横でバイクが停止し、その乗り手がバイクから降りてくる。

 黒いジーンズと紺色のブルゾンにヘルメットを被った長い銀髪の女性。

 ヘルメットを脱ぐ彼女の胸元に2人の見覚えのある四角いロケットペンダントが下げられていた。

 

「2人共、お待たせ!」

「えいげっちゃん!? 無事で良かった……」

 

 現れたのは安否が気になっていた大切な友人である盈月。

 分かれる前に最後に見た笑顔と変わらぬ笑顔で2人を抱き締めた。

 

「それはこっちの台詞だよ……2人共無事で良かった」

「うん……信じて待ってて良かった……」

「ありがとう、えいげっちゃん……怖かった」

 

 安堵からか張り詰めていた緊張が解け、2人の瞳から涙が溢れる。

 気丈に振る舞っていたとはいえ彼女たちも普通の高校生、怪物と対峙する恐怖は相当なものであっただろう。

 

「盈月さん。2人は僕が」

「うん、お願いします。2人共、もう大丈夫……後は任せて」

 

 2人を残し他の全員を逃がしたレディッシュが2人の世話を引き継ぎ、2人を連れて森の外へと駆けていった。

 今回の作戦はレディッシュが護衛しながら捕まっていた人たちを連れて森の外へ逃がし、エリシアが追おうとするモノコーンたちを対処する。

 そして───

 

「てめぇ……痛めつけてやったのにもう一度くるとはなぁ!」

 

 轢かれて倒れていたライノスは起き上がり、怒り心頭の様子で盈月へと立ちはだかる。

 それを睨み返す盈月の腰にはイマージュベルトが巻き付けられている。

 

「リベンジマッチだよ……今度はあなたを倒す!」

「ハッ! 今のお前に何ができる!?」

「もちろん……できることは1つ、だよ!」

 

 勢いよく取り出したのは先ほど渡された新たなる力、Eイマージュリーダー。

 そしてそこにイーグルプレートをいつも使用している挿入口へと装填、更にもう1枚のスコアプレートを取り出した。

 

《フライトイーグル!》

 

 Eイマージュリーダーの新たなる力は大まかに2つ。

 1つは当然、2つ目のプレート装填によるパワーアップ。

 そしてもう1つはアップデートによる強化ではなく、盈月専用にしたが故に発覚したイレギュラー。

 

OVER(オーバー)COAT(コート)! ハウリングライオン!》

 

 鳥系のスコアプレートしか使えなかった制限の撤廃である。

 2枚のスコアを装填し、月を掴むかのように空へと腕を突き出すと彼女の周囲を白と黄色、二重にエネルギーが包み込む。

 

「……変身!」

 

 鳴り響く待機音に胸を躍らせ、緊張を解すように小さく息を吐き出すと目を見開き、ライノスから目を離さぬままベルトへとリーダーを装填した。 

 

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)!》

 

 響く音とともに形成される白いアンダースーツ。

 そこに張り付く見慣れた白いワシを模した装甲が装着されていく。

 

CROSS-UIP(クロスイップ)!》

 

 聞き慣れない音声とともに今までにない変化が訪れる。

 装甲と装甲の合間を埋めるかのごとく新たに装着されるのは獅子を思わせるタンポポのような鮮やかな黄色の装甲。

 全身の至る所に装甲が追加され、腰部の装甲からは脚を覆うスカートのように白に縁取りされた黄色いマントが伸びる。

 そしてその胸部には獅子のタテガミを模した増幅装置”ハウリングアンプリファイア”が装着される。

 

《ハウリング×フライト! イーグル!》

 

 ワシの力とそこに重なるライオンの力。

 異なる2種の生物のスコアからなる新たなるエリシアの姿。

 盈月は驚くライノスに向かって一足先に教えられていた新たなる姿の名を宣言する。

 

「仮面ライダーエリシアOC(オーバーコート)! これが私だけの力!」

「ちぃ! 多少姿が変わったくらいで調子に乗るんじゃねぇよ! またすぐにぶっ倒してやる!」

「負けないよ!」

 

 ライノスが駆け出すと同時にエリシアは白い翼を広げ飛び上がり、上空からライノスへと迫る。

 飛ぶことを読んでいたのかニヤリと笑うライノスはこちらへと向かってくるエリシアへと角を発射した。

 

「やああ!」

「なにぃ!? なら、たたっ斬ってやる!」

 

 だが、放たれた角をエリシアは拳を振り下ろし、砕き落とす。

 有効打であった攻撃を軽くいなされたことに驚愕しながらも止まること無く迫るエリシアへ向かって大太刀を突き出す。

 それに対するエリシアはベルトを操作し、武器を呼び出した。

 

APPORT(アポート)! ウェポンラプター!》

 

 取り出したのはツインラプター……その片刃。

 先の戦闘によって片刃を砕かれた不完全な物であった。

 

「はっ! 2本で敵わなかったのに1本で何ができる!? 叩き折ってやる!」

「これで大丈夫! 足りない分は……別の力で補えば良いんだよ!」

 

 迫る大太刀に片刃の刃を振り下ろす。

 今まで通りならば受けることはできない。

 だが、新たに加わった装甲()が光を放つ。

 

「たあああああ!!」

 

 ハウリングライオンの能力、それは発生した音を蓄え、ハウリングアンプリファイアを通じて望む形で衝撃波として出力すること。

 エリシアの気合の声、そして戦闘音を変換した衝撃波を振り下ろす刃へと纏わせる。

 衝撃は振動へ変換され、高周波ブレードとなり振り抜かれた刃は鍔迫り合うこと無く大太刀を両断する。

 

「なぁ!?」

「すごいでしょ! このまま攻めきるよ! たああ!」

「がぁっ!?」

 

 更なら驚愕に宙を舞う自らの得物の破片を目で追い動きを止めたライノスをすれ違いざまに刃を当てる。

 振動する刃は力を込めること無く強靭な防御性能を誇ったライノスの皮膚をたやすく切り裂き、ダメージを与える。

 空中で180度旋回したエリシアが再度ライノスへ向かって滑空、刃を構える。

 痛みに苦しむライノスは回避もできず、再度切り裂かれる───かに思えた。

 

「引っかかったなぁ! こんな程度、屁でもねぇんだよ!」

 

 それはライノスの演技であり刃が当たるよりわずかに早くサイドステップで斬撃をかわすとエリシアの方へと向き直り、拳を振り下ろす。

 だが、下にはすでにエリシアの姿は無くその拳は空を切り、大地へと叩きつけられる。

 

「やつはどこに……上か!?」

 

 上空から聞こえる羽根の羽ばたく音に気づき見上げればライノスは目にする。

 翼をはためかせ天空に留まり、大地を見下ろすエリシアの姿を。

 満月を背負い、月光に照らされ輝く彼女は神々しささえ感じられ、敵でありながらライノスはその姿に一瞬目を奪われてしまう。

 

「……はっ!? てめぇ、俺を見下すんじゃねぇ!」

「大丈夫! 今、そっちに行ってあげるから……ね!」

 

 我に返ったライノスがエリシアへと啖呵を切るがそれを意に介さず、ドライバー中央のボタンを2度押し込む。

 

SET(セット)!》

 

 必殺技の起動と共に黄金色に輝き始めた両拳をライノスへと突き出すとそこから何かが解き放たれ、それに合わせて翼の制空を利用しエリシア自身も加速しながら下降を始める。

 ライノスへと向かう彼女の右足にエネルギーが集まり、それはまるで降り注ぐ月光が空に白い筋を描くように夜空に線を描いて伸びていく。

 

「っ! 反撃……いや、かわしちまえば……!!」

 

 エリシアの行動と変化に危険を感じたライノスは攻撃を諦め、回避に専念しようとする。

 だが、動き出すよりも早く上空から不可視の重圧により押さえつけられる。

 

「ぐぉっ!? うご、けねぇ……!?」

 

 重圧の正体はエリシアの放った衝撃波。

 上昇する風切音、羽ばたきの音を変換した大地を押し固める圧を放つそれはライノスの動きを完全に封じる。

 もがくライノスだがその頭上で白い閃光が強く輝く。

 

「これで───!」

《ハウリング×フライト!》

 

 右足のエネルギーが最大まで高まると翼を巧みに操り宙返り、足をライノスへと向ける。

 わずかに失った速度を一際大きく風を掴むはばたきとそれに合わせ背後に向けて放たれた衝撃波により加速させる。

 月から地球へ向けて真っ直ぐに伸びた白線はエリシアの動きに合わせくるりと円を描き、一筋の槍となってライノスへと降り掛かる。

 

DUO(デュオ) RESOLVE(リゾルブ) FINISH(フィニッシュ)!》

「終わりだあああああ!!」

 

 夜闇を切り裂く白と黄金の二重奏。

 周囲の木々を揺るがす衝撃と共に炸裂した一撃はライノスを光に包み、貫いた。

 翼を広げ受けた風と大地を抉ることで得た抵抗を使い減速、停止したエリシア。

 その背後ではライノスの肉体にヒビが入り、その隙間から光が溢れ出していた。

 

「クソ……クソオオオオオオ!! があああ!?」

 

 断末魔と共に溢れ出した光に飲み込まれライノスの肉体は爆散した。

 その直後、広場の中央から空間が裂け、その一帯を飲み込むように穴が開く。

 

「えっ!? なんでぇ!? わわ、おち……ない?」

「お前……飛べるだろうが!? なにそのまま落ちそうになってんだよ!」

「博士! ありがと! あ、そうだプレートとスコアノートになってた人が!」

 

 突然の出来事に反応もできぬまま穴に飲み込まれそうになったエリシアOC(盈月)だったが既のところでエリシア(博士)によって引き上げられ事なきを得た。

 安堵したのも束の間、自身の撃破したライノスの居たところを見れば穴の中へとその奥に広がる無機質な広間へと落ちていく人物が目に入る。

 それは学ランを身にまとった小柄の少年。

 同学年、あるいは年下の彼は気を失うこと無く、重力のままに落下しながらエリシアたちの方を憎々しげに睨みつけていた。

 

「絶対に許さねぇ……! 次はお前らをぶっ殺す!」

「記憶が残っているのか……!?」

「待って! 今助けに……!」

「行くな! お前も巻き込まれる!」

 

 ライノスの時と異なり声変わりの済んでいない高い男子の声で恨み言を叫ぶ声とともにライノスであった少年は裂け目の中へと消えていった。

 閉じ始めた裂け目へと下降しようとする盈月を博士が掴み、阻止する。

 やがて裂け目は盈月の伸ばした手を拒むかのように閉じると再び元の森の中の広場へと変貌、静寂が周囲を包みこんだ。

 

「……本当はああやって捕まえた奴らを連れてくつもりだったわけか」

「そうみたいだね……ライノスだった人、私達のことを……」

「覚えてたな。喋るスコアノートは色々違うらしいが……まぁそれは後に置いておいて帰るか」

 

 変身を維持したままだった2人だが博士が解除するのに合わせて盈月も身にまとった鎧を脱ぎ捨てる。

 後味こそ悪くなってしまったが2人の表情は晴れやかであった。

 

「あーなんだ……よくやったな、盈月」

「うん! 博士のおかげで全員は無理だったけど……友達は助けられた!」

「そうか……なら良かった」

 

 ぎこちなく褒めるエリシアだったが満面の笑みを見せる盈月を見てその顔にフッと笑顔が溢れる。

 わずかに進んだ相互理解、それは2人の笑顔を引き出すに足る変化だった。

 それをそれぞれ噛み締めながら2人は帰路につく。

 

「吉美と詩歌に会うのは難しいかな?」

「今日は遅いし警察の取り調べあるだろ……明日にしとけ」

「そっかぁ……あ、じゃあケーキ食べたい!」

「いやなんで急に……」

「だってほら! まだ博士からバイクの免許取ったお祝いしてもらってないもん!」

 

 件のバイクにいち早く盈月がハンドルを握りしめその行動に諦めたようにエリシアがその後ろに座り、ため息をつく。

 

「分かったよ……夕飯もまだだからな。なんか買って帰ってガルダも一緒にお祝いだ」

「……うん! そうしよう!」

 

 再び笑顔をお互いに笑顔を零しながら2人を乗せたバイクは夜の闇から光灯る街へと向かって走り出した。




ここまでの読了ありがとうございます。

前回書きました通り一区切り……盈月が改めて仮面ライダーとなるお話でした。
ある意味で言えばここまでプロローグみたいな感じになりましたがこれ以降も決意新たに彼女たちの戦いは続きます。

ここ数話暗い展開が続いていたのでスカッとする話が書けていれば良いなぁって気持ちです。

色々やりたいなぁ欲もありますしハージェネ側でも動ければなぁって気持ちはあるので無理のない範囲でこれからも頑張っていきます!

また次回もお楽しみに!

追加
後書きに書き忘れてたんですが現状のエリシア2人いますが次の話でその辺解決します
悲しい展開とかではないです。
そうしないと共闘中の視認性ががが
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