仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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第十一話「零番目の名」

「ば、化け物だー!」

 

 昼下がりの繁華街に絶叫が響くとともに現れる2つの影。

 方や斑模様が特徴の獣に似たハイエナ・スコアノート。

 方や白と黒の縞模様を持つトカゲに似たテグー・スコアノート。

 それぞれ命を受けてやってきた2体のスコアノートは人前に現れ行動を開始する───。

 だが、その出鼻を挫く様に一筋の閃光が彼らの行く手を遮った。

 

「現着した! これより、特殊事象への対処を開始する! 変身!」

《フラッシュレディバグ! READY(レディ)! FLASH(フラッシュ)!》

 

 現れたのは温斗、そして彼に率いられた警官たちだった。

 直ぐ様レディッシュへと変身した温斗がスコアノートたちへと挑みかかり、それに合わせて警官たちは市民の避難誘導を開始する。

 何かをする間もなく現れた彼らに2体のスコアノートは驚き、狼狽えながらもレディッシュへと襲いかかる。

 

「グルルル!」

「ギシャアアア!」

 

 ハイエナのアギトとテグーの爪が迫るもレディッシュは慌てずに徒手空拳でそれを捌き、イツツボシューターによる銃撃で2体を捉える。

 放たれた光弾で2体が怯むと立て続けに光弾を叩き込み、ダメージを与えてゆく。

 劣勢を感じ取ったのか2体は距離を取り、ハイエナは自身の体毛から数体のモノコーンを生み出した。

 

「グラァッ!」

《ブレードスタッグ! BUG SET(ヴァセット)!》

「数が増えたところで!」

 

 ハイエナの指示を受けたモノコーンたちがレディッシュへと迫る。

 右腕に生み出したクワガタの角を模した剣でモノコーンたちを切り伏せる。

 どれだけ切り倒されようとも斑模様のモノコーンたちはレディッシュへと襲いかかり続ける。

 やがて、物量に押されてレディッシュに隙が生まれた瞬間、モノコーンの間を縫って接敵したハイエナが牙を剥く。

 

「グルラァッ!!」

「ッ!」

 

 咄嗟に剣で噛みつきを受け止める。

 ガキンと硬質な物がぶつかり合う音を響かせ受け止めるも次の瞬間、牙が刃へと喰い込み、表面にヒビが生まれる。

 喰い付かれた剣はそのままハイエナが力を込めるとバキンと音を立てて砕け散った。

 

「なっ!?」

『オイオイ、それを砕けるならレディッシュの装甲も砕ける。絶対受けるなよ、温斗! 絶対だぞ!』

「振りだとしても受けられない、なぁ!」

 

 勢いに乗るハイエナのアギトはレディッシュの腕へと狙いを変える。

 後退しながら噛みつきを回避するレディッシュだがそれを妨害するようにモノコーンたちからの攻撃も激しくなっていく。

 更に視線をハイエナの背後へと向ければ戦闘に参加していなかったテグーがこちらを無視し警官が避難させる住人へと向かっている。

 

「くっ……! このままだと……!」

『心配するな温斗! 2人共、今着いたってさ』

 

 焦るレディッシュをなだめる煌琉の言葉と同時にテグーの行く手を阻むように白いエネルギーの矢が上空から突き刺さった。

 更にそれに続くようにレディッシュを囲うハイエナとモノコーンたちの上空から茶色い羽根が降り注ぎ、モノコーンたちを塵へと還してゆく。

 何事かと羽根吹雪を浴びながらもハイエナが上空を見上げれば天を舞う一翼が飛来した。

 

「反応が遅いんだよ!」

「グルァ!?」

 

 降り注いだのはデュアルラプターの斧の刃。

 上空から振り下ろされた一閃がハイエナへと大きなダメージを与える。

 振り下ろしたのは茶色の装甲(ブラストホーク)を纏ったエリシアが変ずるエリシアだった。

 

「タァ!!」

「ギシャッ!?」

 

 更にテグーの方も上空から放たれた2射目の矢が突き刺さるとその痛みに悶える中、立ちふさがるように空から白い翼が舞い降りる。

 それは白い装甲(フライトイーグル)を纏う盈月が変じるエリシアだ。

 着地すると同時にツインラプターを双剣に分割、テグーへと相対する。

 

「レディッシュー! 博士ー! こっちは任せて!」

「だーかーら! この時はそう呼ぶなって言っただろ! 全員正体隠してるんだから!」

「あ、そうだったごめん!」

 

 いつもの調子で自身を呼ぶ盈月に声を荒げたエリシア、そのやり取りにレディッシュは苦笑しながらもハイエナへの警戒を怠ることはない。

 奇襲から立ち直った2体のスコアノートは激昂しモノコーンを生み出すとそれぞれ相対する相手へと突撃する。

 対する3人もそれぞれの得物を構え迎え撃つ。

 

「エリーゼ。この姿の時は仮面ライダーエリーゼと呼べ、分かったな!」

「りょーかい! レディッシュ、エリーゼ! そっちお願いね!」

 

 エリシア改エリーゼは再度斧を振るい、寄ってくるモノコーンを斬り裂いていく。

 それに合わせてエリーゼをフォローするようにレディッシュの銃口が光り、集団で攻め増やされ続けるモノコーンの数を減少させていった。

 状況が変わり焦るハイエナはエリーゼとレディッシュへと突貫する。

 

「ハッ! 単調な攻撃だな!」

「アイツの噛みつきには注意してくれ、僕の装甲でも砕かれる」

「そういうことなら、考えがあるよ!」

 

 迫るハイエナへに対抗し駆け出すエリーゼ。

 エリーゼを噛み砕かんと大きく開いた口が激突の瞬間に閉じられる。

 しかし、噛み締めたのは空気のみ。

 突如消失したエリーゼ。だが、ハイエナはエリーゼの行方を予測しており、反撃へと備えて空を見上げる。

 

「正解だが、足りないな!」

SET(セット)! スイープオーストリッチ!》

 

 背中に備える”ブラストスパウト”より噴出したエネルギーの翼で飛行するエリーゼは斧へとスコアプレートを装填。

 エネルギーが巡り放出され光の刃を形成する中、翼より放つ羽根吹雪がハイエナを襲う。

 降り注ぐ羽根はハイエナを突き刺し、ダメージを与えるとともにその動きと視界を封じる。

 

RESOLVE(リゾルブ) SPLIT(スプリット) FINISH(フィニッシュ)!》

「ぶった切れろ……!」

 

 チャージが完了した斧のトリガーを押し込むと同時に振り下ろす。

 ハイエナはカウンターの噛みつきが放つが振り下ろされたのはプレートの力で範囲と射程を拡張された光の刃。

 噛み砕かんと閉じるアギトをものともせず、刃は進みハイエナの肉体を両断する。

 

「グルルアアアア!?」

 

 切り裂かれたハイエナは断末魔と共に爆散、変身させられていた男性とスコアプレートを残し消滅した。

 主が消えたことでハイエナが呼び出したモノコーンたちも消滅、手が空いたレディッシュは残るテグーの方へと視線を向けた。

 

「シャッ! ギシャアア!」

「はぁ! やああ!」

 

 爪を振るうテグーに対し構えた双剣で受け続けるエリシア。

 一見するとテグーが優勢に見えるが余裕を持って受け続け機会を伺っていたエリシアが反撃に転ずる。

 大ぶりに振り下ろされた爪を剣で弾くと空いた腹部へとキックを叩き込みテグーを弾き飛ばす。

 

「グエアッ!?」

「反撃、行くよ!」

 

 弾かれたテグーを追ってエリシアが駆け、双剣の柄尻を合わせて双刃モードへと移行。

 更にその柄にあるスロットへとスコアプレートを装填する。

 

SET(セット)! スティングペッカー!》

「たあッ!」

 

 エリシアが柄のトリガーを引くと同時にテグーへ向けて両刃剣を投げつける。

 なんとか着地し踏ん張って止まったテグーだったがそこに勢いのノッた両刃剣が殺到、その勢いのままテグーを突き刺し背後のビルへと突き刺さる。

 貼り付けられたテグーだがまだ完全に貫通はしていない。

 発光する刃を今引き抜けばまだ戦えるだろう、だが。

 

「これで……!」

 

 テグーが引き抜くよりも早く、勢いを乗せ突き出したエリシアのキックが片刃の先端へと着弾する。

 

RESOLVE(リゾルブ) SLASH(スラッシュ) FINISH(フィニッシュ)!》

「終わりだぁぁ!」

 

 エネルギーが最高潮に達した両刃剣がエリシアに蹴り込まれ、貫通力に優れるプレートの力も借りて壁を貫く。

 当然、壁とキックに挟まれたテグーは必殺技の直撃を受け突き刺された腹部に大穴を開け、そこから流し込まれたエネルギーにより全身が爆散。

 内部から機能と止めたプレートと変身させられていた男性が気を失い倒れ込み、エリシアによって受け止められた。

 

「ふぅ、はか……エリーゼ! 終わったよ!」

「見れば分かる。被害は……あー」

「えっ!? 誰か怪我したの!?」

「いや、お前後ろ見てみろ」

 

 エリーゼに指差されエリシアが背後を振り返るとそこにあったのはエリシアの必殺技を受け、両刃剣が貫通し穴の開いた壁があった。

 それを確認したエリシアが前を向けばエリーゼの横に仮面で表情は読めないがなんとも言い難い雰囲気を醸し出したレディッシュが立っていた

 

「あっ……レディッシュ、ごめんなさい!」

「まぁ……戦闘中の物なので仕方ないですが、それでもなるべく気をつけてください」

「分かりました!」

「事後処理は僕たちが請け負います。今回もありがとうございました」

「悪いな、何かあればまた言ってくれ!」

 

 状況の確認が終わるとエリシアとエリーゼは空へ飛び立ち、変身を解いた温斗は他の警官たちに指示を出し事後処理を始めるのだった。

 

 

******

 

 

「たっだいまー!」

「えいげっちゃんおかえりー!」

「お疲れ様、2人共。はい、コーヒー勝手に淹れといたよ」

「わーい! ガルダちゃんもただいまー」

 

 盈月とエリシアが盈月の家に帰宅すると出迎えたのはガルダだけではなかった。

 リビングに行くとガルダに加え吉美と詩歌の2人が待っていた。

 本来、今日は平日であり3人とも学校のある時間だ。

 だが、学校襲撃事件の爪痕は深くあれから1週間近くが経過しても再開は未定となっている。

 

「えいげっちゃん今回は危ないことしなかった?」

「うん! してないよ!」

「嘘つけ。毎回無茶しやがって」

「博士も無茶するのかわらないよ!」

 

 4人は談笑しながら席につきガルダも近くにある止まり木へと止まる。

 机の上にはお菓子や勉強道具が広がっている。

 学校が休みとなったことで3人は自習のために集まっていたのだ。

 2人には自身のこと、そしてエリシアのことを()()()()話している。

 いくら変身し戦う姿を見せているとはいえその全てを明かした時には2人共に驚いていた。

 

「でもえいげっちゃん本当に頑張るよね。ちょっと休んで良いんだよ?」

「そうだよー。ほらお菓子」

「えへへー。仮面ライダーしてたから成績落ちましたとは言えないしね!」

「偉い。吉美も見習わないとだめだよー? 明日から吹奏楽部は場所借りて練習なんでしょ?」

「うっ……ま、まぁ。2人と博士のおかげで英語の成績はきっと上がるだろうし?」

「教えた覚えないがな」

 

 今となっては前と変わりなく友として2人は盈月と接している。

 深い爪痕の残った日常も少しずつ元に戻り始めていた。

 そんな3人の様子を眺めながらエリシアも今回の戦闘における報告書の作成を行っていた。

 

「あ、そうだ! 昨日ね、温斗さんのお兄さんが挨拶って来てね、お菓子貰ったの!」

「待てお前! その話、初めて聞いたぞ!?」

「昨日、博士がお部屋籠もってるときだよ? 持ってくるからちょっと待っててね!」

「ピィピィピィピィー!」

 

 寝耳に水な話題にエリシアが驚く中、彼女の静止の言葉をかける間もなく盈月の姿がキッチンへと消えていき、ガルダもそれを手伝うためか後ろを付いて飛び去っていった。

 吉美と詩歌がその様子に楽しそうに笑みを浮かべる横でため息をつきながら諦めたように椅子へと腰掛ける。

 

「随分懐いてるんですね、餌付けでもしました?」

「いやいや、詩歌違うよ。餌付けしてるのはえいげっちゃんの方。博士の御飯作ってるんだって」

「えっ、女子高生に食事をタカってる大人って……」

「ちゃんと金は出してるしやりだしたのはアイツだからな!?」

「お金出して女子高生に作らせてるほうがむしろヤバいような……?」

 

 反応が面白いのか事あるごとに2人はエリシアのことをからかっている。

 無視すれば良いものをエリシアもムキになって反応するせいでその度に2人はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 エリシアも慣れたのかため息を1つ吐くと改まって2人の方へと向き直った。

 

「えっ、なに? 言い過ぎた?」

「いやまぁ言い過ぎな時はあるがそれは良い。アイツがいないうちにお前ら2人に話しておくことがある」

「改まってどうしたの? というかえいげっちゃんに聞かれたくない話?」

「そういうわけじゃないが……アイツの前で話すは小っ恥ずかしい話だ」

 

 エリシアが気恥ずかしそうに目を泳がせる。

 2人はどんな話題なのか首を傾げながらエリシアの方を向くと咳払いを挟み、口を開く。

 

「お前らなら知ってるかもしれないがアイツ……盈月は結構()()()()質なんだよ」

「あぁー……確かにね。あんま言わない」

「学校でもライダーのこと一切言わなかったしね、ああ見えて抱え込みがちだよね、えいげっちゃん」

「……私はさ、正直そういうの察するの苦手だしそもそも人付き合いが苦手だ」

「知ってた」

「これで得意って言われたらちょっと困るよね」

「えぇい! 茶化すな! 泣くぞ!」

 

 女子高生たちの容赦のない言葉に目尻に涙を浮かべながらも気を取り直し話を続ける。

 

「まぁなんだつまり……これからアイツの友達でいてやってほしい」

「? どゆこと?」

「……最大限努力するがそれでも戦いである以上、割り切れないこともきっとあると思う」

 

 自身がそうであったから、その一言が聞こえてきそうな表情(かお)を浮かべるエリシアに吉美と詩歌も真剣な面持ちを浮かべる。

 それを認識したからなのかエリシアは2人に向け深く、頭を下げる。

 

「そういう時、仲の良い奴の助けはアイツの力になると思うから……だから盈月のことをこれからも支えてやって欲しい。頼む」

「……博士って意外と過保護だよねぇ」

「ほんとにねー。そりゃあえいげっちゃんも懐くわって感じ!」

「人が恥を忍んで真剣に頼んでんのにその言い草はなん……」

 

 あまりの言われようにバッと顔をあげたエリシアだったが2人はからかっている様子はなく穏やかに笑みを見せていた。

 

「私は元々やめろって言われてもえいげっちゃんの友達やめるつもり無かったよ? 詩歌は?」

「私も。頼まれなくたって支えるつもりだったしね」

「うんうん」

 

 2人は互いの意見を確かめ合い、同じことを考えていたことが嬉しいのかニコリと笑い合う。

 

「だからちゃんと博士もえいげっちゃん助けてあげないとダメだよ?」

「そうそう。戦う時は私たちなんもできないんだから」

「……あぁ、恩に着る」

「どういたしましてー」

「あ、博士も甘えたくなったら甘えていいよー? 甘やかすよー?」

「それを受け入れたらマジで社会的に死ぬから勘弁してくれ」

 

 緊張の糸が解けたのかあるいは不安が払拭されたのかエリシアは安堵の笑みを浮かべる。

 盈月の築いた良い関係を嬉しく思う、それはエリシアだけでなく吉美と詩歌も思っていることだった。

 そんな会話が終わったちょうどそのタイミングでお盆に切り分けたパウンドケーキを持ち、肩にガルダを載せた盈月が戻ってきた。

 

「おまたせー! すっごい美味しそうだよ! あれ? みんなでなんか楽しいことしてた?」

「ピィー?」

「ふふーん、秘密ー」

「たまにはえいげっちゃんにも秘密作らないとねー」

「えぇー! ずるい! 私も教えて欲しい!」

 

 吉美がべーと舌をだし詩歌が口に人差し指を当て盈月にウィンクする。

 2人が内容を教えてくれないために盈月はエリシアの方を向くが当のエリシアは顔を逸らし知らない振りをしていた。

 

「わぁ、ケーキおいしそー。はい、博士どうぞー」

「郡山の持ってきたもんなら多分うまいぞ。アイツは人としては信用できないが菓子の味は信用できる」

「それは楽しみ。ほら、えいげっちゃんも食べよ?」

「食べる、食べるけどー!」

 

 納得のいかない様子の盈月の叫びが屋内に響く。

 それぞれの関係に変化が生まれようともその友情が変わることは無かった。

 

 

******

 

 

「失敗ですかぁ。まぁ、分かりきっていたことですけどねぇ」

 

 無機質な廊下をコツコツとステッキを突く音が響き渡る。

 その音の元にいるのは1人の男。

 白と黒の燕尾服を纏い、チェックのシルクハットを被った若い男。

 その男へ向かって誰かが駆ける音が響き、1人の少年が近寄ってくる。

 短い黒髪の小柄な少年、羽織っている学ランは成長を考えてなのか1サイズ大きくぶかぶかであった。

 

「おやぁ、意外と元気そうじゃないですか。ライノス……あぁ、いえその姿の時はなんという名前でしたっけ?」

「……剣侍(けんじ)です。タイガー……()()

「はは、そうでしたねぇ。ケンジくん」

 

 ライノスの変身者───剣侍を人の姿となったタイガーは品定めするように眺める。

 目深に被ったシルクハットで目元は隠しているが口元にはスコアノートの姿の時から変わらぬ笑みを浮かべて。

 

「それで? 何か用ですか? これでも忙しいんですけどねぇ」

「いや用ってほどのことじゃ……この前のことを謝りたくて」

「ふぅむ。何のことかわかりませんがそういうことなら歩きながらでも構いませんかね? ほら、行きますよぉ」

「えっ、ちょっと待ってくれよ!」

 

 わからない、そういった割には剣侍の言葉で事情を察した様子のタイガーはそのまま剣侍を追い越し歩み出す。

 それに驚きながら剣侍は置いていかれないようにその後ろを追いかけ始めた。

 

「この前というのは貴方が大成功を収めたあの襲撃の件ですかねぇ?」

「……そうだよ。女帝に言われてあんたをダシにして仮面ライダーを分断した。あんたに何も相談せずに勝手をして悪かった」

「気にすることじゃないですよぉ。そもそも命令されてやったのでしょう?」

「そうだけど! でも、あんたの方が先輩……みたいなもんなんだから筋は通すべきだった」

「律儀ですねぇ」

 

 粗暴な印象のライノスから一転、剣侍の性格は別物と言って差し支えなかった。

 そんな変化をタイガーは驚くことなく受け入れている。

 

「カープさんとあんたにはここに連れてきてもらった()があるのに……あの時はどうかしてたんだ」

「でしょうね。スコアプレートを使った弊害ですから」

「? どういうことだ?」

「そのままの意味ですよ。赤いスコアプレートは生物の負の衝動を多く記憶しています。故に適合した者はその衝動に飲まれ暴れ出す。その衝動に打ち勝ったのが我々。あの女(女帝)がスコアマウンタ───呼びやすくマウンターと呼ぶ存在なわけです。ここまではよろしいですよね?」

 

 タイガーの言葉に剣侍がコクリと頷く。

 その様に「よろしい」と満足げに呟くとタイガーは更に言葉を続ける。

 

「しかし、程度の差はあれ衝動にはさらされ続けているのには代わりありませんからね。マウンターといえどその影響を全く受けないわけではないのですよ。僻みや妬みを抑えられなくなったり、暴力性が抑えられなくなったり……ねぇ?」

「! そういう、ことだったのか……でも、あんたやカープさん、それにアリゲーターさんもそんなこと無さそうだけど……なんでなんだ?」

「簡単だ。意志を強く持て」

 

 答えは2人の正面から返ってきた。

 手にサンドイッチと水のペットボトルを載せたお盆を持ったカンフースーツの男───カープだった。

 

「カープくん。ちょうど良かった、彼女の元ですよねぇ。ご一緒しますよぉ」

()()、この姿の時はリーと呼べ。そう名乗れと言ったのはお前だろう」

「あぁ、そうでしたそうでした。すみませんねぇ、リーくん」

「カープさんなのか……?」

「この姿の時はリーだ。ケンジ。名には頓着はないがフゥがうるさいのでな」

 

 それだけ告げるとカープ改めリーは2人を先導するように歩き出す。

 彼の登場に気分を良くしたのかタイガー───フゥは弾むように足取りで彼の横を並び歩く。

 

「それでえっと……意志を強く持ってのはどういうことなんだ?」

「そのままの意味だ。衝動に飲まれぬよう振る舞う。以上だ」

「そんなアナログな……」

「まぁ、きっと他にも方法を隠しているんでしょうがそれを知らない我々はそうするか無いというわけですよぉ。精進ですねぇ」

「……アドバイス助かりました。俺も頑張るよ……次は負けないためにも」

「それで良い」

 

 剣侍の決意の言葉を聞いたリーは仏頂面のまま頷き、フゥは肩を竦める。

 そうこうして歩いているとリーが無機質な廊下に作られた扉の前で立ち止まった。

 お盆を片手で器用に支えたまま、その扉を力強くノックする。

 数度、繰り返し叩く───よりも早く1度目のノックで扉が開き、その中から1人の不機嫌そうな女性が姿を見せた。

 オレンジベージュの髪の女、ピトフーイに変じていた女だった。

 胸元の開いた大胆な白いドレス姿に剣侍は思わず頬を赤らめ視線をそらしてしまう。

 

「……今日はやけに大人数ですね」

「偶然だ。ほら、受け取れ、今日の食事だ。リヴィアナ」

 

 4人でいる姿にピトフーイ───リヴィアナは驚くもそれを意に介さずにリーから差し出されたお盆を深い溜息と共に受け取った。

 

「おやおや、随分と素直ですねぇ」

「……前に拒否したら受け取るまでドアを叩かれ続けた。それと食べるまで居座られるのなら素直になる方が楽なだけよ」

「あぁ……まぁ、彼はそういう人ですかねぇ……」

 

 辟易とした様子のリヴィアナにこの数日間のやり取りを察したフゥは珍しく同情するような視線を送る。

 彼女も剣侍ほど顕著ではないがピトフーイであった時よりも落ち着いた立ち振まいだ。

 

「それで……そこの2人はなにか用なの? 用がないなら食事を済ませて1人にしてほしいのだけれど」

「お、俺は特には……フゥさんに付いてこいって言われただけで」

「話すなら喋りながらと言っただけですが……まぁ3()()に用事があったのですからさっさと済ませましょうかぁ」

 

 言葉とともにフゥは3人の前に手を差し出した。

 そこにあるのは3枚のプレート。

 赤いフレームにそれぞれ別の生物が描かれたスコアプレートだった。

 

「これは……!」

「女帝様からの招集ですよ。2人の謹慎も終わりだそうで」

「ふん……あいも変わらず勝手な女だ」

「全くですねぇ」

 

 愚痴をこぼしながらリーは自らのスコアプレートを手に取り、それに続くように剣侍とリヴィアナも受け取り、それぞれ握りしめる。

 

「さっさと向かいたいところですが……貴方が食べ終わるまでは彼がテコでも動かないということならさっさとお食事をどうぞぉ、リヴィアナさん」

「その気に障る喋り方は変わらないんですね、タイガー。5分だけ時間を貰います」

 

 3人の男を待たせ、扉を閉めたリヴィアナは部屋の奥。

 作業中のパソコンの前へと移動する。

 受け取ったサンドイッチを口にしながらわずかでも作業を進める。

 それは腕時計に似た機械の3Dモデルとその設計図。

 

「あとは出力だけだったが……呼び出されたのなら仕方ない、か」

 

 スコアプレートを取り出すために抉られた胸元を押さえながら諦めるように呟く。

 痛みこそすでに無い。それでも逆らった時のことを考えればズキリと恐怖(痛み)が思い出される。

 

「……あぁ、そうだ。今度こそ私は認められるんだ。()()()にじゃなくていいから……」

 

 暗い部屋の中。

 恋い焦がれる少女のような憂いを帯びたつぶやきが木霊する。

 

「そのために私の犠牲になってくれ……エリシア」

 

 

******

 

 

 夕暮れが町を包み込む中、勉強会を終えた吉美と詩歌を送り出すために盈月とガルダ、エリシアは玄関まで送り出していた。

 

「そんじゃあねー、えいげっちゃん、ガルダちゃん。またそのうち来るね~」

「博士もえいげっちゃんに迷惑かけちゃダメだぞー」

「逆だと思うがな」

「博士なら大丈夫だよ!」

「お前らいい加減怒られてもおかしくないからな!? 寛大な私に感謝しとけよ?」

 

 最後まで軽口を叩き合いながら2人は手を振って帰路へとついた。

 2人が見えなくなるまで手と翼を振って見送り、エリシアも手こそ振らないが付き合った。

 そして2人がいなくなったタイミングでエリシアが口を開く。

 

「盈月。勉強会は当分の間ないんだった?」

「うん! 吉美は部活の練習が始まるし詩歌はお家の用事だって言ってた!」

「よし、なら今のうちに行きたいところがある」

「お出かけ? どこに?」

()()()()()()()()

 

 自信満々なエリシアの様子に盈月とガルダは顔を見合わせ首を傾げる。

 

「? 誰が知ってるの?」

「お前の知ってる場所だ」

「? えーと……私の知ってる場所に博士が行きたい……うん、どういうこと!?」

「私が行きたい場所はそいつの故郷だよ」

 

 エリシアは首をかしげ、クエスチョンを大量に浮かべた盈月───その肩に止まったガルダを指さした。

 

「ピィ?」

「ガルダちゃんの?」

「あぁ、そうだ」

 

 盈月とガルダの主従がキョトンと視線を合わせる。

 その主従でも分かるようにエリシアは言葉を紡ぐ。

 

「そろそろ解明しとくべきだと思ってな。なんでそいつがスコアプレートを純化(クリア)できるのかを」

 




こちらではお久しぶりです。
エリシアも新章突入です、色々動いたり動かなかったりな展開ですが話を進めてゆきたいと思っております。
どこかで章タイトルみたいなのも考えて付けてきたいですね!

そして気がついたら半年更新が止まってました……反省。
なんとか年内に更新ができてホッとしております、今後はもうちょっとちゃんと上げていきたいですね……
反省はこの程度にしてここからは宣伝パートとなります。

恐らく、すでにお読みいただいた方もいらっしゃるとは思いますがただいまコラボ小説を投稿中です!
それがこちら!

『仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ イリス×エリシア 夢幻審理のパラドックス』
https://syosetu.org/novel/357863/

夜野千夜さん作の仮面ライダーイリスと初のハーメルンジェネレーションズ交流! お声かけていただいた時驚き嬉しくて狂喜乱舞しました。
めちゃくちゃオシャレな世界と言葉選びが素晴らしい作品なので仮面ライダーイリス、コラボ作品どちらもまだ目を通していないという方はこの機会にぜひどうぞ! オススメです!

年内更新はこれでラストになると思います。
来年以降もヴァジュラもエリシアもコラボ作品もガシガシ書いてゆきます! とりあえず年明けちょっとしたら何かあげれるように執筆してますのでどうかお楽しみにしていただけると嬉しいです!
では皆さん、少し早いですが今年もありがとうございました! 良いお年を!
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