仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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第十四話「重なる混沌」

「できた。これで先輩を見返してやれる……! 私が優れてるって知らしめられる……!」

 

 モニターの画面のみが輝く機械部品が散らかった部屋の中、リヴィアナは完成させた物を掲げ恍惚とした表情で見つめていた。

 それは無骨な銀色の腕時計型のユニット。文字盤に相当する箇所へ搭載されているのはスコアプレートの挿入スロットだった。

 

【ピトフーイ】

 

 自身の胸元へスコアプレートを押し付けピトフーイ・スコアノートへと変じた彼女は部屋を後にし女帝の座す謁見の間へと向かう。

 スコアプレートの材料を採取する任務は女帝からは労われたがライノスという犠牲を出したことは彼女にとってシコリとなり、成功とは言い難かった。

 ここまで失敗続きであった彼女にとって初めて誇れる成果、それが手元にある。

 

「……えぇ、そう。これは女帝のために……私を見出してくれた女帝のため……」

 

 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎながら胸元を押さえる。

 かつてスコアプレートを無理矢理抜き取られた時の痛みはすでに癒えている。

 しかし、それでも痛む胸を恐怖ごと押し殺すように押さえつける。

 

「……? あれは……?」

 

 込み上げてきた感情を押し殺し、謁見の間を見やれば見慣れた2人のマウンター(カープとタイガー)とフードを被ったアリゲーターそして玉座に座す顔を見せない女帝の他にもう1人、見慣れないスコアノートがいた。

 大柄になることが多いスコアノートの中では珍しく、その体躯は小さく鱗や毛ではなくツルリと白い皮膚がむき出しとなりその体には粘液を纏っていた。

 サイズの大きい白衣は彼の身体から出た粘液でぬめりを帯びて床を引きずりながら首の周りに鬣のような物を生やしたその生物にピトフーイは心当たりがある。

 

「やぁ、ピトフーイ。そうだ、君は会ったことなかったね? 紹介するよ、彼はアホロートル。うちの技術屋さ」

 

 近づいてきたピトフーイに気づいた女帝が紹介するとアホロートル───ピトフーイの予想した通り、メキシコサンショウウオ(ウーパールーパー)のスコアノートはピトフーイの方へと振り返った。

 その手に握られていたのは淡い照明を反射する銀色の腕輪。

 それを見たピトフーイは目を見開く、なぜならばそれは自らの手に握られているものと全く同じものだった。

 

「お前……なんでそれは……!」

「おぉ、お前がピトフーイか。この前はお使い助かったよ。今は()()()()発明品を麗しき女帝に発表しているところでな」

 

 目を細め、下卑た笑みを浮かべるアホロートルを見たピトフーイは理解する。

 ───あぁ、ここでも私の成果は奪われるんだ。

 

 

******

 

 

「よう、来たぞ……なんか、人数増えたか?」

 

 ライノスを撃破した数日後、温斗から呼び出しを受けたエリシアは特殊事象対策課のオフィスを訪れていた。

 何度か訪れたことのあるプレハブは1つ増設されており中にいる面々も見知らぬ警官たちが増えていた。

 

「申し訳ありません、用事でしたら受付の方にお願いできますか?」

「郡山温斗に呼ばれてきた、エリシア・フェリキタスだ。受付に同じこと伝えるべきか?」

 

 怪訝な顔をして声をかけてきた女性警官にエリシアが名乗るとハッとした様子で敬礼を行う。

 それに合わせて周囲の警官たちもエリシアへと視線を向けた。

 

「失礼しました。初めまして、エリシア博士。ヒトツボシ隊所属の峯崎と言います、以後お見知り置きください」

「ヒトツボシ隊……? なんだそりゃ?」

「それについては追々説明するよ。待たせてすまない」

「よっ、エリシア」

 

 奥からやってきた温斗が話を引き継ぐ。

 彼の後ろにはいつものように派手なアロハシャツに白衣を纏った煌琉もいた。

 

「それじゃあ行こうか。峯崎、留守の間は任せる。何かあったら連絡をくれ」

「はっ!」

 

 大げさに敬礼する峯崎と名乗った女性警官に見送られながら3人は外に停めてあった温斗の車へと乗り込んだ。

 

「なんか偉そうにしてるな温斗」

「だろう? レディッシュがしっかり結果残してるから昇進したんだよ。ま、俺のおかげってわけ」

「つまり、ドライバーの問題を解決した私のおかげってわけか。敬え」

「君たち相変わらずだね……まぁ、2人共に感謝してるよ」

 

 後部座席で睨み合う2人の博士に温斗はため息を吐きながら目的地へと車を走らせる。

 

「というか、警察署にいないんだな。ライノスだった奴」

「基本的に()()()ってことになってるからね。本人も協力的だったから病院で検査入院って形をとってるんだ」

「そんでその立役者のえいげっちゃんはどうしたんだい? てっきりくるかと思ってたんだけどね?」

「友達と買い物行ってるよ。学校ももうすぐ始まるしな……そもそも今日は呼んでない。後で内容の共有はするがな」

「いいのかい? また拗ねられるよ?」

「いや、今回は僕から勘弁して貰ったんだ」

 

 ニヤニヤとサングラスの奥で笑みを浮かべてからかう煌琉だったがそれに対する答えは運転する温斗から深いため息とともに帰ってきた。

 目的地である病院が近づく中、温斗が盈月を呼ばなかった理由を語り出した。

 

「彼女には戦闘で頼りっぱなしになっているからね、なるべく彼女の日常を奪いたくない。それが理由だよ」

「自分の日常は全部捧げてるくせにね」

「僕は良いんだよ。最初からそのつもりだから。さてと、着いたよ」

 

 煌琉の言葉に温斗が笑みで返し、車を駐車場に停めた温斗たちは剣侍の待つ病室へと向かった。

 入院患者の少ない階にある角部屋の個室の扉を開けば退屈しのぎに漫画を読んでいる小柄な少年───剣侍がいた。

 声を掛けるよりも早く、こちらに気付いた剣侍が温斗たちの姿を見てペコリと会釈する。

 

「刑事さんと……あんたは確か盈月さんじゃない方のライダーの人」

「エリシアだ。合ってるがその言い方はやめろ」

「俺ははじめましてだね? 俺はDr.フラッシュ! ライダーのアイテムを作ってる」

「あんたが全部……?」

「私と盈月が使ってるのを作ったのは私だ。なんで誇張する?」

 

 いつものように言い合いを始めた2人をぽかんと眺めていた剣侍の横にため息を吐く温斗が椅子に腰掛ける。

 やがて一通り言うことを言い切ったのか、2人も温斗の後ろに同じ様に椅子へと腰掛けたのを確認してから温斗は剣侍へと向き直った。

 

「調子はどうだい? 医者からは変わりないと聞いたけども」

「あぁ、特に悪いところはない……やることなくて暇なくらいだよ、問題は」

「今度何か暇を潰すものを持ってこよう。その前に今日は話を聞かせて欲しい」

帝国(エンパイア)のことだろ? 分かってる……俺が話せること何でも話すよ」

 

 剣侍の言葉に温斗は頷く。

 スコアノートを操り、人を攫う帝国。

 その名前すらタイガーと名乗った言葉を話すスコアノートから一度聞いたのみであり、その存在は警察のみならず人間側で把握しているものは皆無だった。

 スコアノートの被害者たちは皆、スコアノートにされた直前までの記憶がなく情報を得ることすらできなかった。

 だからこそ、スコアノートであった時の記憶も保持する剣侍の情報は貴重であった。

 

「まず、こちらが把握してる君のことを確認したい」

 

 そう言って温斗が取り出したのは1つの捜査資料だった。

 

大藩(おおば)剣侍、14歳。市立羽頃盛中学の()()3年生で剣道部の所属」

「あ、そっか……年度変わってるから俺3年になってたのか……」

「そうだね。君が行方不明になったのが今年の2月、2年生の頃。部活に参加して、学校から帰路についたところまでは確認してる。その帰宅途中に攫われたってことで間違いないかな?」

「あぁ、あってるよ」

「なら、その後に何があったのかをまず教えてくれ」

 

 剣侍が当時のことを思い出す様子を3人はじっと見つめる。

 それぞれのその視線を受けて緊張しながら剣侍は自身にあったことを語りだした。

 

「帰ってる途中でタイガーさんに襲われた……というか一方的にスコアプレートを埋め込まれたんだよ」

「なるほど……その先に何があったのかを聞いてもいいかい?」

「あぁ。まぁ、言っても全部覚えてるわけじゃないけど───」

 

 前置きをしてから剣侍は自らがライノスであった時のことを語りだした。

 

「気がついた時は牢屋の中にいた。拐われた人間も全員そこにいたよ……スコアノートにされて」

「ッ! なんのために!」

「マウンター……えっと、俺みたいに意識のあるスコアノートを作るためと世話をなくすためだって聞いた」

「ふぅむ、そういう話には俺も興味あるね。エリシアもそうだろ?」

「……まぁ、気にならないと言えば嘘になるな」

 

 後ろで話を聞くだけであった2人は興味のある話題になったことで話に割り込む。

 剣侍が話すところによるとマウンターとなるためには必要なのは()()()()の2つ。

 常にスコアノートに変じさせるのはその慣れのためであり、同時に逃走の意志を奪うためであるとのことだった。

 

「なるほど……他にも知っていることを教えてくれ」

「おう、えっと住んでるところは城とか帝城とか呼ばれてて……」

 

 温斗の質問に答える形で剣侍の知る情報が順次共有されていく。

 スコアノートたちの暮らす何も無い無機質な城、ゲートと呼ばれる羽頃盛市内の好きな場所に一時的に出入り口を生み出す装置、そしてタイガーの検証により温斗たちが使用するレーダーの脆弱性と言った剣侍からもたらされた情報は温斗、ひいては警察にとってありがたくもあり頭の痛くなるような内容でもあった。

 

「そう……か。煌琉、レーダーの調整はできるかい?」

「今までのデータで改良はできなくはないと思うよ。基礎システム自体は涼が持ってきたものだからそこで引っかからなければ」

「そういや、最近見ないな。どうしてんだ?」

「兄さんなら忙しいらしいよ。まぁ、あの森も兄さんが新設した研究機関に権限持っていかれたし、色々暗躍してるみたいだ」

 

 剣侍から手に入れた情報を資料にまとめながら温斗はうんざりしたように呟く。

 

「あとそうだ。マウンターは何人いるか分かるかい? こちらではカープ、タイガー、ピトフーイ……それと暫定で女帝もかこの4人は把握している」

「俺が知ってるのはもう1人いるよ、名前はアリゲーター。常にフードを被っていて何の動物かは見たことない……けど爬虫類なのは間違いないと思う」

「名前からしてワニか……僕からはとりあえず以上で大丈夫だよ。協力してくれてありがとう」

「いや、こんなことしか俺にはできないから……」

「そんなことないよ。君がいなかったら知り得なかった情報ばかりだ」

 

 深く頭を下げる温斗に剣侍は恥ずかしそうに目を背ける。

 温斗は顔を上げると後ろへと振り返り、煌琉とエリシアにも聞くことがないかと声をかけると煌琉が率先して手を上げる。

 

「俺も質問良いかい? 前回、羽頃盛市以外に現れただろ? あれはなんのためだい? マウンターの候補者集めにしては言っちゃあれだけど僻地だったわけだしさ」

「あぁ、あれはプレートの材料を取りに行ってたんだよ。必要だからって」

「ストップ! プレートの材料だって? 君等……あぁ、いや帝国はプレートを作れるのかい? 何を使って?」

 

 驚きと興奮のあまり身を乗り出した煌琉を温斗が椅子へと引き戻す。

 エリシアもピクリと眉を動かし、剣侍の答えを気にしている様子だった。

 それもそのはずだろう。スコアプレートは発見され、解析はできても原料が未知であったが故に限りになく再現した疑似プレートを作るのが精一杯だった。

 その原料が判明したのであればその前提が覆ることになる。

 

「詳しくは分かんないよ。俺は取ってこいって言われただけだから。なんか灰色の岩だよ。あそこの山の一部」

「……あれか。あの山管理してる播磨ってじいさんに聞けば場所わかるしきっと採らせてくれるはずだ」

「そりゃいい! すぐに頼もう! 連絡先分かるんだろう? 早速調べないと!」

「落ち着けよ……ここまでのこと全部コイツが本当のこと言っていることが前提だぞ?」

 

 ジロリとエリシアは剣侍へ鋭い視線を投げかける。

 それを受けて煌琉も冷水を浴びせられたように静まり、頭を掻く。

 

「俺は嘘なんかは……!」

「悪いがなんと言われてもお前のことを完全に信用しきれない」

「気持ちはわかるけど本人の前で言うことじゃないんじゃ」

「本人の前だからこそ言ってるんだ。ついでだからはっきりさせたい」

 

 諌めようとする温斗を言いくるめ向けられたエリシアの射殺すような視線に剣侍はビクリと怯えながらも「な、なんだよ」とエリシアの言葉を待ち受ける。

 

あいつ(盈月)から話は聞いてる。自分から帝国に協力したって。なら、今はなんで私たちに素直に話す? 私たちはどこまでお前の話を信じれば良い?」

「それは……確かに俺はライノスとしてすごい乗り気で暴れてたよ。命令されたからって盈月さんの学校を襲ったのもこの前あんたたちを攻撃したり……学校の時、盈月さんを傷つけて拐おうとしたのは間違いなく俺が自分の意志でやったことだ」

 

 悔いるように剣侍は視線を下に落とす。

 しかし、罪の告白に対して誰も優しい言葉をかけることはなくただ、彼の言葉の続きを待っていた。

 

「信じてもらえないかもしれないけど、あの時は……というかライノスだった時はどうかしてたんだ。苛立たしいというかムカつくというかそういう気持ちがずっと心にあって暴れても良いんだって思ってた。そこに女帝が言ってくれたんだ、『望み通りの体躯を手に入れたなら好きに暴れればいいじゃないか』って」

「だから言われた通り暴れたわけか?」

「そうだよ……馬鹿なこと、というか今考えるとありえないことした自覚あるよ。だからこそ、償いたい……なんて言うと薄っぺらいかも知んないけど」

 

 まとまらない言葉を思いついた言葉を口から垂れ流す。

 最適な言葉でなくとも自らの意志を伝えるために。

 そして思い起こされるのは自らを倒した少女(盈月)の姿。

 

「それでもさ、俺を助けてくれた盈月さんの役に立ちたい、というか俺自身がちょっとでもあの人と対等に話しても良いって自分を許したい……いやこれだとすげぇ自分勝手だな……俺の知ってることで俺のせいで拐われた人や傷つけた人だけじゃなくてこの先の被害が減らせるなら協力したい、これが理由だよ」

 

 意を決し、言葉を放ってエリシアを見つめ返す剣侍の目は真剣そのものだ。

 剣侍の必死の訴えを聞いたエリシアは目を伏せて椅子へと深く座り直す。

 

「意地の悪い言い方して悪かった……お前の話が貴重なことは分かってる。私も聞きたいことがあるしな……だからこそお前がどういう気持なのか知りたかったんだが、あいつの名前出されたら信じるしかないだろ」

「相変わらず盈月ちゃんに甘いねぇ」

「うるせぇ、お前だって温斗に肩入れしてんだろ。それと一緒だよ」

 

 煌琉にからかわれたエリシアは顔を赤らめてプイッとそっぽを向く。

 エリシアの雰囲気が軟化したのを感じ、剣侍ははぁっと安堵の息を漏らす。

 しかし、空気が和らいだのは一瞬。エリシアは改めて剣侍へと向き直ると疑いの眼差しとは違う、なにか緊張した様な面持ちでを向ける。

 

「改めてだが私も聞きたいことがある。お前、ピトフーイの変身前に会ったことはあるか?」

「あるよ。この前の時、一緒にいたし」

「それはこの女じゃなかったか?」

 

 エリシアが提示したスマホの画像を温斗と煌琉も覗き込む。

 画面に写っていたのはショッピングの途中に撮ったであろう、学生時代のエリシアの自撮り写真。共に写っているのはオレンジベージュの髪をした女性───学生時代のリヴィアナの姿だった。

 それを見た煌琉は「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げ、エリシアへと目を向ける。

 

「ちょっと待てよエリシア! リヴィがピトフーイなわけ無いだろ?」

「多分この人だよ。写真のほうが若いし……こんな笑顔じゃなかったけど」

「───どういうことだい、エリシア?」

「前回あった時、本人が言ってたんだよ……信じたくなかったが間違いないわけか……クソが」

 

 驚き、困惑する煌琉に対してエリシアは確証を得たことに悪態をつく。

 

「……純化のコードのこと、恨んでた。あいつ」

「恨むって……あのコード産み出したのはリヴィだってみんなわかってただろ、気にしてるの本人だけだよ」

「私もそう思ったよ……でもアイツ自身はそれを気にして……スコアノートになるまでに私のことを……」

 

 いつもならば軽口を叩き合うエリシアと煌琉はそれぞれ別の場所に視線を向けて静かになってしまった。

 重い空気が室内に流れる中、温斗が「今日はもう終わりにしよう」と剣侍に礼を言って2人を連れて病室から連れ出す。

 外に出て車へと向かい、外の新鮮な空気を吸っても2人の気分が変わることはない。

 

「下手なことは言えない……ただ、剣侍くんの様子を見るにそのリヴィって人も正気じゃないのかもしれない」

「……慰めありがと、温斗。そう思っておくのが建設的そうだ」

「……だな。どっちにしろやることは変わらない、か……リヴィを倒して止める」

 

 温斗の言葉にどれだけ考えても出せる結論がそれだけだと思い直した2人は諦めたように無理にでも気を紛らわせる。

 その時、レディッシュリーダーとイマージュリーダーから警戒音が鳴り響く。

 スコアノートの出現レーダーに反応があった証拠だ。

 ほぼ同時に鳴った着信に温斗は即座に出ると相手は予想通り峯崎だった。

 

『郡山刑事! スコアノートの反応、来ました!』

「把握してる! 峯崎、ヒトツボシ隊出撃だ。現場で合流を!」

『了解!』

 

 通話が終わるか終わらないか、いち早く着信を切ると車のキーを煌琉へと投げ渡す。

 

「煌琉、運転任せた。僕とエリシアさんを現場近くに送ったら君は戻って支援頼む」

「OK! 安全運転じゃなくても逮捕しないでくれよ!」

「程度による!」

「前提として安全運転を諦めるなよ!」

 

 

******

 

 

 ビルの屋上から地上を見下ろすアホロートルとピトフーイ。

 その眼下では2人が連れてきたオレンジの体躯と身体に幾本ある白いラインを持った魚、カクレクマノミ───クラウンフィッシュ・スコアノートと黒い体毛に覆われた大柄なゴリラ・スコアノート、そして彼らが産み出したモノコーンたちが街を破壊し民間人に襲いかかっている。

 

「ひっひっひ! 新兵器のテストのために2体も貸し出してくれるとは! 女帝も太っ腹だ! 2、3人は拐って貢献しておいた方が覚えがめでたいかなぁ、ピトフーイとやら?」

「知らん……暴れさせなくても向こうから来てくれるのにわざわざ暴れさせる理由もな」

「そんなの決まってるだろう? その方が見ててわたしが楽しいからだよ!」

「相変わらず、異常者共の思考は分からん……来たぞ」

 

 ニタニタと下卑た笑みで街を壊すスコアノートたちを眺めるアホロートルから呆れた様子で視線を外したピトフーイの瞳にこちらへと近づく1台の車が映り込む。

 この状況でこちらに近づく理由がある者は限られている───彼女の考え通り、停車した車から降りてきたのはエリシアと温斗だった。

 ピトフーイに言われ、アホロートルもそちらを見ると怪訝な顔を浮かべた。

 

「仮面ライダーは3人いるらしいがもう1人はいずこに?」

「さぁな。中身を知ってるのはあの2人だけだ。心配しなくてもそのうち来るだろ……それに」

 

 エリシアと温斗を交互に見下すピトフーイはニヤリと笑みを浮かべ、その腕に装着した銀色の腕輪を愛おしげに撫でる。

 

「あの2人がいれば私の目的は十分果たせる」

 

 

******

 

 

 エリシアと温斗が訪れると暴れまわっていた2体のスコアノートは興奮した様子でこちらへと視線を向けた。

 しかし、モノコーンたちは変わらず暴れまわり、街を破壊している。

 

「数が多いな……スコアノートは抑えといてやるからモノコーンは任せていいか?」

「その必要はないよ」

「あん? それはどういう……」

 

 エリシアが怪訝な顔を浮かべ温斗へと目線を向けると共に現場へと複数のサイレンの音が近づいてくる。

 音の方へと目を向けると5台の白バイが隊列を組んで向かって来ており、そこに乗っていたのはプロテクターを身にまとった峯崎を始めとした特殊事象対策課にいた刑事たちだった。

 

「お待たせしました、郡山刑事! 応援もすぐに来ます」

「よし。そちらの指示は峯崎、頼んだぞ。モノコーンたちを任せる」

「了解!」

 

 峯崎が先陣を切って腰のホルダーから抜き放ったのは拳銃ではない。

 それはレディッシュが使用する武装、イツツボシューターと良く似ていた。

 人の手でも扱いやすいように軽量化、小型化されておりスコアプレートの挿入スロットも1つだけ。扱いやすさを重視したカスタムであることは明らかだった。

 

「構え───撃てッ!」

 

 峯崎の号令に従い、他の4人も同様に抜き放つとモノトーンへと向けて発砲する。

 射出されたエネルギー弾は1発では致命傷とならずとも数発が重なることでモノコーンの1体を仕留め、消滅させる。

 

「煌琉曰く、機能調整版イツツボシューターことヒトツボシューターだとさ。僕らが戦いに集中して1人でも多く助けるために結成したヒトツボシ隊、というわけだよ」

「なるほどな、周囲を任せられるなら助かる! 私たちもやるぞ……!」

「あぁ! こちらは僕らの仕事だ!」

 

 背後を任せ、2人は臨戦態勢を取っているスコアノートへと視線を向けると腰にベルトを装着、イマージュリーダーとレディッシュリーダーを起動する。

 

《ブラストホーク!》

READY FLASH(レディッシュ)! BUG SET(バセット)! 》」

 

「「変身!」」

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)! REQUIP(リクイップ)!》

I(アイ) AM(アム) MAJORITY(マジョリティ)! REQUIP(リクイップ)!》

 

 2人がそれぞれリーダーをベルトへ装填すると周囲をエネルギーが包み込み装甲を形成、その身を変化させる。

 

《ブラストホーク!》

《フラシュレディバグ! READY(レディ)! FLASH(フラッシュ)!》

 

 変身が完了し並び立つエリーゼとレディッシュ。

 その姿を見たゴリラは獰猛に雄叫びを上げて突撃、クラウンフィッシュは白いリング状のビームを放つ。

 エリーゼが飛行し振り上げられたゴリラの剛腕をスレスレで回避しながら構えた斧でビームを弾く。

 対して待ち構えたレディッシュは真正面からゴリラの一撃を受け止めた。

 僅かにアスファルトを砕いて足をめり込ませながらも受け止めると腕のスロットへとプレートを装填する。

 

《ランスビートル! BUG SET(バセット)! 》

「オオオオオオッ!」

「ウホォッ!?」

 

 ゴリラの腕を受け止めた腕にカブトムシの角を模した槍が出現、気合とともに力を込めてゴリラの腕をかち上げると腹を突き、ゴリラはくの字に曲がりながら吹き飛ばされる。

 天を舞うエリーゼを撃ち落とさんとばらまかれるクラウンフィッシュのビームを縫うように飛行しクラウンフィッシュへと接近したエリーゼは斧を振り上げる。

 だが、危険を察知したクラウンフィッシュの方が1歩早く後退したことでその斧は空を切り、エリーゼはそのまま上空へと飛び上がる。

 そのエリーゼへと追撃のビームを放とうと顔を上げたクラウンフィッシュへと射出された無数の羽根が襲いかかった。

 

「クルクウルル!?」

「親切心で教えてやるがさっさとどいてやった方が良いぞ」

 

 予想していなかったクラウンフィッシュの全身、そして瞳に羽根が突き刺さりその場で悶え苦しむ。

 エリーゼからかけられた言葉の意味を考えるよりも早く、レディッシュに吹き飛ばされたゴリラがクラウンフィッシュへと激突した。

 

「クルクガッ!?」

「ウゴウハッ!?」

「いわんこっちゃない。おまけだ!」

 

 絡み合うように倒れる2体のスコアノートへと斧からボウガンへと切り替えたデュアルラプターから矢を連射し追撃する。

 このまま必殺技でトドメを刺そうとした矢先、レディッシュがこちらを呼ぶように手を上げていることに気づいたエリーゼはそちらへと飛来する。

 

「どうした?」

「1つ気になることが。さっき打ち合った時、スコアノートの腕に銀の腕輪の様な物を付けていましたがそちらは?」

「腕輪だと?」

 

 レディッシュに言われ改めてスコアノートたちに目を向ける。

 彼の言う通りゴリラの腕、そしてクラウンフィッシュの腕にも銀の腕輪の様な装置が取り付けられていた。

 今までスコアノートたちは武器も持つ個体はいたが同一の装飾をしているものはいなかった。

 

「確かに付けてるな……なんだありゃ?」

「貴方が分からなかったら僕に分かるわけ無いでしょう……とにかく気を付けるしかなさそうですね」

 

 2人はデュアルラプターとイツツボシューターを構え、警戒を怠らない。

 起き上がった2体のスコアノートが怒りに任せ突撃しようとしたその時、彼らの前にボトリと白い肉体のスコアノート───アホロートルが着地し2体を静止した。

 

「お前、何者だ……!」

「ひっひっひ! わたしはアホロートル、見ての通りのスコアノートだよ」

アホロートル(ウーパールーパー)……両生類のスコアノートだと……!?」

「オイオイ、この程度で驚いてたら今から見るものはもっと驚くぞ? そら、やれ!」

 

 驚く2人を前にアホロートルが命令を下すとゴリラとクラウンフィッシュは腕輪の液晶画面を押し込む。

 すでに装填されていたスコアプレートが反応し装置が起動する。

 

【ホース】

【ポキューパイン】

DIGSESSION(ディガゼイション)

 

 電子音声が響き渡り腕輪から黒いエネルギーが溢れ出す。

 溢れ出したエネルギーは触手のように伸びると装着したそれぞれのスコアノートたちへと突き刺さり、肉体に潜り込むとその肉体を変質させていく。

 ゴリラは上半身はそのままにメキメキと音を立てながら下半身が肥大化、馬のような形状へと変化する。

 クラウンフィッシュの変化は全身に現れる。背中から腕にかけ、肉体を突き破って出現した体色と同じオレンジに白いリング状のラインを持った無数のトゲが出現する。

 姿が変化したスコアノートたちは溢れる力を誇示するように雄叫びを上げる。

 

「何だアレは。オーバーコート……いや、それならあんな変化はしないはず……何が起こっている」

「すまない、エリーゼ。僕も困惑してるけど考察は後にしてくれ……彼らが待つ気は無いみたいだからね!」

 

 言い終わるよりも早く、4足のゴリラが地を駆け出した。

 重厚な地響きを轟かせアスファルトを割り砕きながら猛スピードで向かってくるゴリラに対し、ボウガンの矢と銃撃で応戦する。

 しかし、猛進する巨体は光の矢と光弾を物ともせず両腕を振り上げラリアットを仕掛ける。

 咄嗟に一歩前へ出たレディッシュが先ほどと同じ様にランスを構え受け止めようと腕をクロスさせる。

 

「ゴルヒガァア!!」

「ッ!」

 

 バキッと構えたランスが飴細工のように砕け散る。

 危険を感じたエリーゼが咄嗟にレディッシュの身体を引き寄せたことでランスの先が砕けただけで済んでいる。

 もしも先程のように受け止めていればレディッシュの腕から先は消し飛んでいただろう。

 

「助かったよ……なんてパワーなんだ……」

「呆けるな! もう一体も来るぞ!」

「クルククキュアア!」

 

 その場から動かなかったトゲの生えたクラウンフィッシュは背後を向くとトゲを逆立たせる。

 先程ビームを放った白いライン、それがすべてのトゲに携えられている。

 その意味はそれぞれのトゲから放たれた無数のビームが証明した。

 放たれたビームはビルを貫き、大地を砕き、そして天を舞うエリーゼを地で躱すレディッシュを焼かんと輝く。

 

「ぐぅッ!?」

「無差別かよ……!」

 

 全てのビームを躱すことができずエリーゼとレディッシュは被弾してダメージを受ける。

 軌道上にいたゴリラも被弾するが厚い毛皮で大したダメージにはなっていない。しかし、背中から撃たれたことに文句を言うようにクラウンフィッシュを睨みつけ雄叫びをあげる。

 そんな様子を安全な位置からアホロートルは高笑いを浮かべながら観察を続けていた。

 

「ひっひっひ! いかがかな? 異なる2種が混ざり合うそう……”C(カオス)スコアノート”たちは!」

 

 アホロートルの声が響く。

 新たな脅威に仮面の下で冷や汗を流すエリーゼとレディッシュ。

 ビルの上に立つピトフーイは見下ろすだけで戦場に加わる様子はない。

 まるで何かを見定めるかのように表情の読めぬ顔で両陣を見下ろすのみだった。

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