仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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第十六話「登場、空中殺法」

───時は僅かに遡る。

 

「だめぇ……! にげ、てぇ!」

 

 締め付けられ、身動きの取れないエリシア(盈月)の叫びが木霊する。

 無情に振るわれた触手は誰にも咎められること無くまっすぐにヒトツボシ隊へと向かってゆく。

 直撃が予想された次の瞬間───振るわれた触手が蒼き一閃に切り飛ばされ空を舞う。

 

「ゲゴシガ!?」

「なんだ!?」

 

 べチャリと切られた触手が地面に落ちる中、皆の視線は斬り裂かれた触手へと向かう。

 そこにはいつの間にか1人の仮面の戦士が立っていた。

 蒼きコウモリの仮面ライダー───今は名もなき戦士、仮面ライダールシエ。

 

「4人目の仮面ライダー……!?」

「ぬっ、いるとは聞いたこと無いな……Cフロッグ、奴も捕まえろ!」

「ゲコリアァ!!」

 

 命令を受けたCフロッグは触手を切りられた怒りも込めてルシエへと触手を殺到させる。

 その数は5本。

 エリシアと同じく手足と首を縛り付け、拘束する算段なのだろう。

 

「───遅い」

 

 だがしかし、迫る触手がルシエを捉えることはなかった。

 彼女は身軽な動きで1本、2本と躱し前へと飛び込む。

 前転で距離を稼いで迫る触手を更に躱すと地を蹴り、空へ。

 無防備となったルシエに更に2本の触手が迫る。

 だが、伸び切っていた触手に手をかけると鉄棒のようにスイング、更に空へその身を投げ出し回避する。

 

「んなっ!?」

「ゲコリィ!?」

 

 複雑に放たれた全ての触手を躱され驚愕する中、ルシエの動きは止まらない。

 投げ出した身の先にいるのは拘束されたエリシア。

 狙ってそこへと飛び込んだルシエはその腕を振り上げる。

 

「シッ───!」

 

 腕の軌跡に沿って描かれる蒼き一閃。

 その正体は手首と足首のプロテクターに搭載された2対4翼、コウモリの翼を模した小型ブレード”アクロバットナイフ”だった。

 鋭い刃がエリシアを縛る触手のうち右手足の2本を両断。

 目的を果たしたルシエはくるりと空中で1回転して速度を殺しながら地へと降りった。

 

「ッ! たあッ!」

「ギエコギィィ!?」

 

 片手が自由となったエリシアは腕のブレードを振るう。

 残された触手と首に巻き付く舌を両断その一刀をもって両断せしめる。

 触手では痛みをあまり感じていなかったCフロッグ、だがもとより備わっていた舌は違っているらしく切断されたことでのたうち回る。

 解放されたエリシアは地面に降りること無く、名を知らぬ戦士(ルシエ)を一瞥した。

 

「あの! ここを任せてもいいですか! 仲間も戦ってるんです!」

「ふむ……こういう時は確か……あぁ、そうだ」

 

 エリシアの訴えに対してルシエは顎に手を当て考え込む。

 そして何かを思い出したのか、1つ頷くと親指を立てサムズアップをエリシアへと送った。

 

「ここは私に任せて先にいけ───参考書(コミック)に描いてあった」

「ありがとうございます! あ、あの! あの触手の方、2枚のスコアプレート使ってるので気を付けて!」

「なるほど。情報感謝する」

 

 短い会話の末、エリシアはスコアをハウリングライオンに切り替え、羽ばたく。

 その音を衝撃へと変換、加速しするとエリーゼたちの元へと翔け出した。

 それを見送ったルシエは再度Cフロッグへと向き直る。

 痛みに悶えていたCフロッグは怒りを隠す様子もなく憎々しげにルシエを睨みつける。

 再度構えを取り直した彼女の元へ野太い男性の声で通信が入る。

 

『ヘイ、レディ。何読んだか知らないがさっきのシボーフラグって奴だぜ?』

「ふむ? どういう意味だ?」

『あぁー……MFD(Marked For Death)

「なるほど……難しいな、日本語」

 

 男性の声に僅かに肩を落としたルシエ。

 どれだけ落ち込もうと敵は待ってはくれない。立ち直ったCフロッグの触手がルシエへと殺到する。

 即座に切り替えたルシエは身軽な動きで触手を回避。

 その粘液の一滴すら触れさせること無く、距離を取り直す。

 

『っと、悪いレディ、戦闘中にお喋りが過ぎたな』

「問題ない。あぁ、えぇと……そう、()()()()が言ってたアイツ、プレートを2枚使ってるらしい」

oops(おっと)、それは新情報だ。悪いが今ドライブ中でな、パソコン見て手助けできそうにない。大丈夫そうか、レディ?』

「それならそれで好きにやるだけ。集中するから静かにしてくれ」

『OK、任せた! 出し惜しまずやってくれ!』

 

 通信を終えたルシエはCフロッグへと突撃する。

 すぐに殺到した触手を身軽な動きで躱し、飛び込み、動き続けて手足のナイフで切り裂いてゆく。

 本体の元へと辿り着いたルシエの拳がCフロッグへと叩き込まれ、続けざまに鋭い蹴りが見舞われる。

 だが、ブヨリとした皮膚と滑る粘液を纏うCフロッグはその打撃を物ともしない。

 それならばと続けざまに振るわれるナイフだったが粘液の守りがその軌道を逸らし切断を防いでしまう。

 

「打撃も切断も効果薄。その上、触手か……厄介」

「ゲリリアア!」

「だけど───付け入る隙はある」

 

 Cフロッグの反撃をいなし、突き飛ばすために放たれた舌を後ろに跳んでギリギリで回避しながらナイフで切り付ける。

 その痛みにCフロッグがたたらを踏む中、ルシエは腰のホルダーから新たなスコアプレートを取り出した。

 灰色のフレーム、蜘蛛の絵が描かれた疑似プレート。それをドライバーの右翼のスロットへと装填した。

 

UPSIDE(アップサイド) COAT(コート)! スパイスパイダー!》

「スコアチェンジ」

DRESS-UIP(ドレスウィップ)!》

 

 ルシエが装填したスロットを押し込むとドライバーが稼働する。

 直後、彼女の上空から銀色の蜘蛛の形の装甲が出現。

 横向きにルシエへと覆いかぶさるとその上半身へと装着されてゆく。

 左腕に蜘蛛の腹を模し、射出機構を備えた装甲が装着。右腕に蜘蛛の頭型を模して同じく射出機構を備えた武装と4脚の脚が絡まり装甲へと変ずる。

 残るパーツは胴体のアンダースーツを埋めるように元から備えた僅かな装甲と重なり合って装着された。

 

《スパイ×アクロバット バット!》

 

 エリシアと異なり、上半身のみに集中した装甲を纏うオーバーコート。

 新たな姿のルシエにCフロッグは驚きながらも負けじと触手を放つ。

 それに対してルシエは徐ろに左手を軽く持ち上げ、明後日の方向へと向ける。

 直後、触手が到達するよりも早く射出機構”スパイシューター”より蜘蛛の糸が放たれて近場のビルに張り付き、その張力を利用してルシエの身体が宙を舞う。

 

「ゲアッ!?」

「さて、糸が貼り付けば楽なのだが」

 

 右手からも糸を射出し、乗り継ぎながらスイング。

 Cをフロッグの周囲を蜘蛛糸を使って飛び回りながら拘束のための糸の塊を発射する。

 ベトリとCフロッグに糸が纏わりつくもその粘液が貼り付くことを拒絶し、べちゃりと地に落ちる。

 だがそれは想定通り。気にすること無く善後策へと移行する。

 

「ゲコリアァ!!」

「───そうそれでいい」

 

 Cフロッグの周囲を飛び回るルシエを捉えようと触手が伸ばされる。

 だがしかし、それこそがルシエの狙い。

 回避すると共に触手が伸び切ったタイミングを見計らってCフロッグへと糸を射出。

 Cフロッグ自身ではなく彼の前の地面へと張り付いた糸、その対角はビルの壁面へと繋ぎ、ピンと張っていた。

 繰り返し放たれた糸が幾重にも折り重なる

 やがてそれは繭のようにCフロッグを包み込んでゆく。

 

「ゲリアコガ!?」

 

 完成したのは一見すると糸で形作られた奇妙なオブジェ。

 幾重にも重なり産まれた繭のような糸の塊。その隙間からは何本もの触手が伸びてウネウネと蠢いている。

 内のものを守る繭、だがしかし、その繭は中身を守るための物ではない。

 その内にいるCフロッグを閉じ込め、封じ込めた糸の檻。

 糸を切断しようにも強靭な蜘蛛の糸は触手を叩き付けられた程度ではびくともしない。

 

「さぁ───ピリオドだ」

 

 檻に唯一開かれた天頂の窓、見上げればそこにルシエがいた。

 ビルとビルの間に張った糸を弦のように引き絞る───矢となるのは己自身。

 ドライバー中央のスロットを連続で押し込み必殺技を起動すると共にルシエが射出される。

 

SET(セット)! スパイ×アクロバット!》

 

 エネルギーが右腕へと集約、それに合わせて装甲となった8脚の蜘蛛の脚”スパイマニピュレータ”が稼働し右腕へと集う。

 螺旋を描く様に腕に絡み付き、伸ばした手刀と合わさってドリルの様な形状へと変化した。

 蒼き輝きを纏わせ、勢いを乗せた右腕が捻りを加えて繭の中へと突き入れられる。

 

DUO(デュオ) RESOLVE(リゾルブ) FINISH(フィニッシュ)!》

「ハァッ───!」

 

 打撃にも斬撃にも強かったCフロッグ。

 だがしかし、突き出された手刀はドリルのように脳天から抉り貫く。

 一瞬の静寂の後、繭の中で蒼き光が爆ぜる。

 直後、解けるように崩れた繭の中に残されていたのは被害者の男と2枚のスコアプレート。

 エリシアと同じく、一撃でCスコアノートを撃破したのだ。

 

もう1匹(アホロートル)は……逃げたか」

 

 戦闘が終わり、蜘蛛の鎧を解いたルシエが周囲を見回すがアホロートルの姿はどこにもない。

 戦っている最中に分が悪いと察したのか空間の裂け目から逃げ出していたようだ。

 そのことを認識したルシエはこちらに警戒するヒトツボシ隊へと向き直る。

 

「助けていただいてありがとうございます。ですが……」

「警戒するのも無理はない。だが、詳しいことは後から(リョー)が離してくれると思う」

「涼って郡山刑事のお兄さんの……」

「ここを任せる。私もあちらの応援に行ってくる」

「あっ、ちょっと待って……あぁ、もう!」

 

 必要なことだけ伝え終えるとルシエはエリシアを追ってその場を立ち去る。

 それを呼び止めようとした峯崎だったが彼女の声は届くことはなく、思い通りにならない彼女の叫びだけが木霊した。

 

 

******

 

 

───そして現在

 

 名乗りを終えたルシエは戦いを終えたエリシアたちの元へと近づく。

 

「さっきは助けてくれてありがとう! えっと、私は───」

「エリシア、だろう? 心得ている。状況的にそちらがエリーゼとレディッシュでいいのだろうか?」

「私達のこと知ってるの?」

「あぁ、雇い主から聞いている……あれだ」

 

 エリシア(盈月)の疑問にルシエが答えるとともにこちらへと近づいてきた黒いセダンを指し示す。

 セダンが停車するとそこから降りてきたのは涼だった。

 

「やぁ、久しぶり……って挨拶してる場合じゃないね。盈月ちゃん、エリシアさんと温斗をこっちに」

「いや、私は大丈夫、ただ疲れただけだし。それよりコイツ(ルシエ)について説明しろ、郡山」

「分かってる。温斗を病院に送ったらすぐに説明するよ」

 

 彼の部下であろうスーツの男たちが温斗を支えながら車に乗せる。

 ルシエもそれに続いて車に乗り込もうとして忘れていたのかドライバーを外し、変身を解除する。

 装甲に隠されていた素顔は声の通り女性だった。

 プラチナブロンドの髪をなびかせた整った顔立ちの美女。

 モデルのような美しい身体にラフなTシャツとジーンズ、オーバーサイズの迷彩柄のジャケットを羽織ったラフな出で立ちの彼女は同じく変身を解いた盈月たちの姿を一瞥していた。

 

「それとそうだ、盈月ちゃん。説明するの君の家でも大丈夫かな? 先に戻っていてくれて大丈夫だから」

「えっ? うん、私は大丈夫ですけど……」

「なんでこいつの家なんだよ。普通会議室とかでやるもんなんじゃないのか?」

「まぁ色々事情があってね……帰れば分かると思うから、また後で。ほら、君も乗って」

 

 意味深な笑みを浮かべた涼はルシエだった少女を促し彼女とともに車へと乗り込むと走り去ってしまった。

 その後、事後処理のためにやってきたパトカーのサイレンが響く中、盈月とエリシアは集合場所として指定された盈月の自宅へと帰宅する。

 日が傾き始め、夕日に照らされた見慣れた我が家。

 しかし、今日はいつもと違うところがあった。

 

「あれ? 家の電気が点いてる?」

「不用心だぞ。ちゃんと消せって言ってるだろ」

「消したと思うんだけどなぁ……それに忘れててもガルダちゃんがちゃんと消してくれるし」

「それもそれでダメだと思うけどな……」

「や、2人ともおつかれ」

 

 首を傾げながら玄関の鍵を開けているとそこに煌琉が1人でやってくる。

 彼もまた涼に呼ばれ、盈月宅を訪れたのだ。

 

「なんでえいげっちゃんちなわけ?」

「知らん。私も聞いたが言わなかったぞ」

「まぁ、どっちにしろ温斗の容態も聞かなきゃいけないし良いんだけどさ」

「うーん、お茶菓子にできるものあったかなぁ……今から買いに行く時間無いし」

「どうせなんか持ってくるだろ」

 

 室内に入ると廊下やその奥に見えるキッチンにも明かりが灯っていた。

 リビングだけならまだしも全ての部屋の電気消し忘れるだろうか?

 そんな疑問を抱き、首をかしげていた盈月の元へ興奮した様子のガルダが飛来する。

 

「ピィーピィピィ!!! ピィピィッピィ!」

「わっ、ガルダちゃん。ただいまー。どうしたの? 良いことあった?」

「ピィッピィピィピィ!」

 

 盈月の肩に乗り、パタパタ羽ばたく姿は何かを喜んでいるかのようだった。

 明らかに普段と違うガルダの様子だが、その理由には思い当たらない。

 何事かと更に謎を深めていたところ、()()の方から姿を見せた。

 

「やぁ、おかえり。盈月」

「ッ!? 誰だ!」

 

 リビングから顔を出した赤い眼と白い髪の男性。

 薄く温和な笑みを浮かべた顔にはどこか見慣れた雰囲気を感じる。

 だがしかし、初めて見る見慣れない男にエリシアは油断無く咄嗟に身構えた。

 エリシアが次の問いかけをしようとしたその時、それよりも早く、盈月が男の元へと駆け出した。

 バサリとガルダが飛び上がり、盈月が勢い良く男へと飛び掛かる───

 

「おとーさん! おかえり!」

「おっと。はは、相変わらず元気で安心安心」

 

 満面の笑みを浮かべた盈月が男へと抱きついた。

 それを受け止めた男もにこやかに笑みを浮かべ、胸に顔を埋める盈月の頭を撫でている。

 ガルダまでもが嬉しそうに男の肩に止まると頬へと体を擦り付け喜びを表現する姿を見せた。

 取り残されたエリシアと煌琉は何が起こったのか分からないままその様を身構えたままポカンと見つめている。

 

「あら、盈月おかえりなさい」

「おかーさん! ただいま! おかーさんもおかえり!」

「えぇ、ただいま」

 

 奥から更に出てきたのはエプロンを付けた女性。

 彼女の黒く艶やかな長髪を揺らす姿と笑みに盈月の面影がある。

 

「あっ! おとうさん、おかあさん! この2人はえっとね」

「大丈夫、知ってるよ。初めましてエリシア博士、煌琉博士。お噂はかねがね」

 

 盈月が紹介しようとしたところ、盈月の父親が遮るとエリシアと煌琉の前に歩み寄り握手を求めるように手を差し出した。

 困惑していた2人だが彼に応じるように順番にその手を握る。

 

「あぁ、いや悪い挨拶が遅れて。色々混乱してな……」

「はは、まぁだろうね。中へどうぞ、もう少し驚くことになると思いますよ」

「それはそれは楽しみだね」

「えへへ、博士もDr.フラッシュも早く早く!」

 

 ニコリと笑う父親に誘われて盈月に手を引かれながらリビングへ。

 そこには先客がいた。

 ガタイの良いスキンヘッドで色黒の大男。

 普段、エリシアが仮眠することもある3人掛けのソファにドカリと座り込んだ男。

 こちらに気づいた彼は手を上げ、こちらへとにこやかに笑いかけた。

 

「よぉ、久しぶりだな!」

「「ボブ!?」」

 

 驚きの声を上げたのはエリシアと煌琉。

 その声に驚いた盈月は2人とボブと呼ばれた男性を交互に見比べる。

 

「なんでボブがここにいるんだい!?」

「いやむしろお前、アメリカにいただろ! なんで日本にいんだよ」

「えっと、初めまして! 日向盈月です!」

「おう、初めまして! なるほど、ユーマとサクヤに良く似てるな!」

 

 困惑するエリシアと煌琉を余所に盈月の手を握るボブ。

 多くの情報が錯綜し混乱する中、ひとまずは発起人である涼たちの到着を待つということになり腰を落ち着けた。

 

 

******

 

 ───それから数十分後。

 

「やぁ、待たせて悪かったね。はい、これお土産」

 

 遅れてやってきた涼の手にはエリシアの予想通りケーキ屋のものだろう箱が握られていた。

 彼に続いて部屋に入ってきたのはルシエに変身していた少女、そして病院にいるはずの温斗だった。

 

「温斗さん! 大丈夫ですか? 病院行ったんじゃ……?」

「兄さんに連れて行かれる途中で目を覚ましてね。()()怪我は無かったから無理矢理着いてきたんだ……聞かなきゃいけないこともあるからさ」

 

 チラリと向けられた視線の先にいるのはエリシア。

 それに対してエリシアはバツの悪そうな顔を浮かべ目を逸らす。

 

「……悪いがそれは後で構わないか?」

「えぇ、もちろん。まずはその───自己紹介から頼んでもいいかい? 兄さん」

「はは、そうだね。順番に説明していこうか」

 

 盈月宅のリビングに集合した10人の男女。

 残念ながら全員が座れる数のソファーは用意されておらず、ダイニングの椅子を使っても数人が立ったままとなった。

 

「なぁ、ユーマ。やるなら我が家でって言ってた割には用意悪いと思うんだが?」

「いやいや、ボブ。冷静になって考えてほしい。久々の日本なんだぜ? とりあえず娘に会いたいじゃん?」

「思いっきり私用じゃねぇか!?」

「そんなわけで俺は日向遊舞(ゆうま)。盈月の父親だ。こっちが妻の」

「日向朔夜(さくや)です。娘がお世話になってます」

 

 盈月の両親、遊舞と朔夜は盈月に片手ずつ抱えられ、ガルダに擦り寄られながら挨拶をする。

 それを受け入れながらそれぞれを撫でる様子も手慣れている。

 

「そんで俺がロバート、ロバート・ケイブだ。気軽にボブって呼んでくれ。そこ2人(エリシアと煌琉)とは同じ研究室出身さ」

「あ、じゃあ仮面ライダールシエ作ったのボブさんなんだ!」

「おう! ……あーいや、hold up(ちょっと待て)。なんだ、仮面ライダールシエってのは?」

「はっ? いや、本人がそう名乗ってたぞ?」

 

 全員の視線が金髪の女性へと集中する。

 当の本人は涼の持ってきたシュークリームと盈月が用意したコーヒーに舌鼓を打っている。

 視線に気づいた女性は名残惜しそうにそれらを置くと何事も無かったかのように身を正す。

 

「すまない、私の番だったか。私はルシエ、ルシエ・ホワイトバーチ。よろしく頼む」

「あーすまないレディ。仮面ライダールシエって言う奴の説明頼んでもいいかい? 俺の記憶が正しかったらまだ名付けてないはずなんだが」

「む、そうだったのか。エリシアとエリーゼがいたからてっきり本名を名乗れば良いのだと思っていた」

「なるほどなぁ……まぁ、いいか! エーゲツの言う通りあれを作ったのは俺さ!」

 

 開き直ったボブが豪快に笑う。

 自己紹介を終えたルシエは一仕事終えたとばかり再度コーヒーへと口をつける。

 

「それでボブ。お前はなんで日本にいる?」

「お前ら2人が不甲斐ないから俺が呼ばれた、じゃ不満かい?」

「それが本当ならまずは郡山をぶん殴る必要があるが」

「はは、それは勘弁してほしいから僕の方から説明させてもらうよ」

 

 全員の前に歩み出た涼が咳払いをすると説明を始めた。

 

「まず大前提の話になるけどスコアノートの対策そしてスコアプレートを研究することを目的にした機関が()()()できることになったんだ」

「今もレーダー作ったり僕らの研究データ集めたりで動いてる気はするし前に研究所があるって言ってなかったけ?」

「うん、だから正式にってこと」

 

 ニコリと笑みを見せる涼。

 これまでのことが認可されていなかったことを察した温斗、煌琉、エリシアの3名は呆れたように肩を竦める。

 

「と言っても生物譜面学はまだ日本では馴染みが薄いからね。専門家としてロバート博士を呼び寄せたんだよ」

「リョーには前々から戦闘データとか送って貰ってたからな。ルシエの実戦にもちょうどいいだろ?」

「彼女に関しては実は予想外だったんだけどね。まぁ、敵が強くなったタイミングだからちょうど良かったと思うことにしたよ。今後は特殊事象対策課とも連携を取っていくことになると思う」

「また勝手に決めて、こっちには何も話は───煌琉?」

 

 文句を言おうとした温斗を珍しく煌琉が手で制すると徐ろにUSBメモリを取り出し、涼へと差し出した。

 

「そういうことなら早速これを。ヒトツボシューターの設計データと今回の戦闘データ。これだけあれば量産できるよね?」

「いいのか? 兄さんに任せたら何に使われるか分かったものじゃないよ?」

「はは、我が弟ながら酷い言われようだ。まぁ、その通りだから否定できないんだけどね……それでも任せるのは温斗のためだろ?」

 

 見透かしたような涼の言葉に煌琉は素直に頷く。

 

「本当なら俺自身の手で全部やりたかったけど帝国があれだけ強くなったならレディッシュの強化を優先する必要がある。それでも戦力増強も急務だ。ならこれしか道はないよ」

「……なるほど。まるで図ったみたいなタイミングだね。兄さん」

「そう言いたくなる気持ちは分かるけど今回に限っては本当に偶然でね。半ば拒否権がない状態になったことは申し訳ないと思ってるよ」

「どうだかね」

 

 温斗の冷め切った言葉に涼は困ったような笑みを浮かべる。

 2人の間に重苦しく刺々しい雰囲気が漂い、自然と室内に響く音はそれを気にする様子のないルシエの咀嚼音のみとなった。

 全員がその行く末を固唾を呑んで見守る中、それを打ち破ったのはエリシアだった。

 

「そういうの2人だけの時にしてくれ。ボブを呼んだ理由は分かった、ならこいつ(盈月)の親はなんで呼び戻した? というかスコアプレート関係ない研究職って聞いてるから繋がりが見えないが」

「ん、ああ。まぁ、俺たちこの人()に呼ばれてないからな」

「そうなの? じゃあ、おとーさんとおかーさんはなんで帰ってきたの?」

「そんなの決まってるだろ? 盈月とガルダに会うためだよ!」

「そうだったんだ! わぁーい!」

 

 感極まった盈月が戯れるように遊舞へと抱きつく。

 遊舞もそれを受け入れ盈月を撫でるために話が中断されかけるがエリシアが盈月を引き戻す。

 

「そういうの後! ならあんたたちは誰とどういう関係なんだよ!」

「2人は俺の研究に協力してもらってたんだよ」

「ボブの? だって盈月は親は石のこと調べてるって言ってたぞ。お前、生物譜面学以外の研究を……いやそうか、スコアプレートの製造か……!」

「心当たりあんのかよ。なら隠す必要ねぇな! そう、俺はよぉ、スコアプレートの新造に成功した!」

 

 バッと立ち上がりポーズを決めるボブ。

 しかし、想像していた称賛の声や拍手は盈月からしか返ってこなかった。

 

「……私たちは今日たまたまスコアノートだった少年からスコアプレートの材料が石だってのを知ったばかりだよ」

「ハッハー! 残念だがそこら辺分かったのはユーマとサクヤのおかげだから威張れないんだけどな」

「別件でアメリカの方にいたんですけど知り合いの伝手で協力頼まれたんです」

「自分で言うのもなんだが俺と朔夜は結晶学にはそこそこ自信があってな。スコアプレートの構造解析をしてたってわけ」

 

 鉱物を始めとしたあらゆる結晶の構造を研究する結晶学。

 それならばスコアプレートの一部からその構造を解析、原材料やその割合を知ることも可能であろう。

 

「そしてできたのがルシエの使うバットスコアプレートってわけさ───ま、俺だから作れたってわけよ」

「ははは、まさかボブがねぇ……()()()()()()()もちゃんと努力したんだねぇ」

「大学の時は()()()まだまだだったからな。ようやく私の少し下にこれたわけだ」

「ハッハッハ! ()()()()強がんなって。俺に勝てないからって!」

 

 三者三様に笑みを浮かべ見つめ合う博士たち。

 それぞれがそれぞれを1番だと思い、それぞれを下に見ている彼らの間に先程の温斗たちとは別種の緊張が走る。

 

「ふぅー……よし、ユーマ、サクヤ! ちょっと庭借りるぞ。時差ボケのハンデ込みでもヒョロい煌琉とエリシアにゃ負けるわけねぇよなぁ!」

「はぁ~くだらない。図星突かれたからって暴力かい?」

「あぁ、悪い悪い。腕っぷしじゃ勝てないもんな。お前の勝てるもんで勝負してやるよ」

「よぉし表出な! 俺だってしっかり鍛えてるってこと教えてやる!」

「私は疲れてんだがな……ほら、さっさと終わらせるぞ」

SET(セット)! ブラストホーク!》

「「それは反則だろ!」」

 

 取っ組み合いながら窓から庭へと出ていく3人。

 本気で殴り合うようなことはない───というよりもエリシアのドライバーを2人で奪おうと必死になっているので怪我をするような事態には発展しないようだ。

 そんな彼らをぽかんと眺めていた他の面々であったが咄嗟に盈月が立ち上がる。

 

「あっ、コーヒーのお代わりいる人!」

「私は欲しい。エーゲツのコーヒー美味しい」

「えへへ、ありがとう! ルシエさん!」

 

 微笑ましい2人のやり取りに毒気が抜かれたのか温斗は肩を落とし大きなため息を吐く。

 ガルダを肩に乗せたまま小走りでコーヒーを取りに行った盈月はその温斗に何かあったのかと心配そうに見つめた。

 

「大丈夫? 温斗さん、やっぱりどこか怪我が……」

「あぁ、ごめん。ちょっと気を張り詰めすぎてただけだよ。さっきは空気悪くしてごめん」

「そんなことないよ? 大丈夫!」

「そうかい……? なら、良かった。さてと……今日は帰るよ。コーヒーご馳走様」

「あれ? 博士に聞きたいことあったんじゃないの?」

「彼女も疲れてるだろうしね。また今度にするよ───ほら、煌琉、帰るぞ!」

 

 庭で戯れている相方に声をかけ、家主である遊舞と朔夜に会釈をすると温斗は家を後にする。

 最後まで温斗が目を合わせようとしない様子に涼はやれやれと肩を竦めていた。

 

「僕らも帰るよ。ほら、行くよ、ルシエさん」

「えっ!? ま、まだおかわりのコーヒー飲んでないしサクヤのご飯も食べてないが……」

 

 信じられない物を見るような目を向けるルシエに対して涼は困ったような笑みを浮かべる。

 

「さっき教えておいたでしょ。今日はこの後忙しいよって。ほら、今ロバート博士も連れてくるから」

「むぅ……」

「また今度食べに来なさいな。盈月もきっと喜ぶわ」

「そうか……うん、また来る」

「うん! 待ってるね!」

 

 宥められたルシエは意気揚々と立ち上がる。

 涼が未だに庭で争っているボブを説得し、引き連れて帰ると入れ替わるようにエリシアが室内へと戻ってきた。

 

「はっ! 2人とも逃げたから私の勝ちだな」

「ボブさんとも仲良しなんだね、博士」

「うるせぇ。向こうが勝手に突っ掛かってくるんだよ」

 

 やれやれと言った様子のエリシアは残っていたコーヒーを飲み干す。

 言葉ではそう言っていてもその嬉しそうな様子を見て取った盈月はニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「まぁ、あいつらのことはいい。とりあえず、この後は私も家に───」

「あっ! そうだった! はい、ガルダちゃんお願い!」

「ピィ!」

「ん? あ、えっ?」

 

 盈月の肩に乗っていたガルダがピョンと飛び上がり帰ろうとしていたエリシアへと飛び込む。

 咄嗟にエリシアが手を広げてガルダを受け止めるとガルダはすっぽりとエリシアの胸元へと収まった。

 それを確認した盈月はパタパタ廊下へと走ってゆく。

 

「お風呂沸かしてくるからその間よろしくね!」

「はっ!? いや、お前! 今日ぐらい私は1人で……」

「ダメ! 博士、今日すっごい疲れてるでしょ?」

 

 休憩する時間があったとはいえ、先程の戦い───そして疲労伴う謎の発光現象。

 盈月以上に疲労を蓄積しているのは間違いがない。

 

「それはそうだが……」

「そういう日の博士、1人にすると何もしないでそのままソファで寝るから帰るのはご飯まで食べてから! というわけでガルダちゃん監視お願い!」

「いや待てって! 私はそんなにだらしなく……無くは……まぁ……数回に1回はちゃんとしてる……気がするから……」

 

 反論しようとしたエリシアだったが自らの今までを思い返すとその語気は徐々に弱くなっていく。

 その様を慰めるようにガルダは翼でエリシアを撫でていた。

 

「分かれば良い! えへへ、博士のマネ!」

「いや、だけどお前。両親とは会うのは久々なんだろ? なら私はいない方が……」

「そんなことないよ? ご飯はみんなで食べると美味しいもんね!」

 

 楽しそうに笑みを浮かべる盈月にエリシアが何も言えなくなると盈月は制する間もなく風呂場へと行ってしまった。

 残されたエリシアは仕方なくガルダを抱えたままソファに座るとその対面にはニヤニヤと笑みを浮かべた遊舞が腰掛ける。

 

「盈月が良く懐いてるみたいで良かったですよ」

「……お恥ずかしいところをお見せして申し訳ない」

「いやいや、あの子が1度言いだしたら聞かないのは昔からですから───そうじゃなきゃ貴方との出会いが無かったと考えたら美徳ですけどね」

「あぁ……そういや、こいつ(ガルダ)と一緒に残るって言って聞かなかったから日本に残ったんだったか」

 

 かつて聞いた彼女自身の来歴を思い出す。

 口振りから察するに彼らも盈月のあり方に手を焼きながらも否定はしてはいないようだ。

 

「まぁ、そんなわけですから。待ってる間に盈月のことや貴方のこと、聞かせてくださいよ」

「いや、そんな語れるほどの関係じゃ……」

「畏まった話じゃなくていいですよ。普段の何気ないことで。それとなんで戦うことになったのかもね」

「これでも最初聞いた時は私も遊舞も驚いたんですよ?」

「それは……そうですよね。分かった、私で話せることでいいなら。えっと最初は───」

 

 諦めたように笑みを浮かべエリシアはこれまでのことを語り始める。

 それを時折驚きながら穏やかな笑みを浮かべて遊舞と朔夜は聞き入っていたのだが風呂の支度を終えた盈月が照れて顔を赤らめながら中断してしまい、続きは夕食の時となった。

 穏やかなそれでいて明るく賑やかな会話が日が沈み、満月が顔を見せる夜となるまで盈月の家で響き続けるのだった。

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