仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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 星と月が暗い夜空を照らす深夜1時。
 街が寝静まる中、3つの影が大通りを練り歩く。
 それは人ならざるのモノ。
 色を塗り忘れたかの様な白と黒、そして混ざり合う灰色で彩られた人型の異形たち。
 顔の中央に座し、ぎょろりと周囲を見回す一ツ目が人でない事を主張する。
 ふっと、前を見た一ツ目の1体が人の影をその目に捉える。
 残業が長引きに長引き、終電が終わってしまい歩く羽目になり、仕事の疲れも合わせてフラフラと歩く会社員の姿を。

「全く……仕事押し付けやがって、あのスケベ部長が……」

 悪態を吐き、下を向いて歩く男は異形の存在に気づいていない。
 男に気づいた一ツ目が仲間の肩を叩き、指で示す事でそれを伝える。
 全ての一ツ目が男を見つめ、そちらへ向けて速度を上げながら近づいていく。
 やがて、男との距離が近づき、一ツ目たちは爪を振り上げ───
 
 物音(・・)が聞こえて前方の人影に気づいた男が億劫そうに顔を上げる。
 その眼前には───いつも通りの街の風景が広がっていた。
 先程見た人影などはそこには無かった。
 疲れすぎて幻覚かあるいは職業病か……男は改めて肩を落としてとぼとぼと帰路へとついた。

 ───男を襲おうとした一ツ目たちは斜め上から受けた衝撃により路地へと吹き飛ばされた。
 即座に体勢を立て直し、前を向けば路地の出口を塞ぐように空から人型が降り立った。
 鳥を模したヘルムに浮かぶ黄色いアイレンズ、羽根模様が散りばめられたアンダースーツの上に鳥の羽毛のようなアーマーを纏った戦士。
 その背後には非実体であるエネルギーの翼を携え、腰の中央には音楽プレイヤーのような物がはめ込まれた長方形のベルトのバックルが浮かぶ。
 その戦士の名は仮面ライダーエリシア。

「また”モノコーン”だけか……まぁいい。さっさと終わらせてやる。来い」

 モノコーンと呼ばれた一ツ目の異形共はエリシアの挑発に乗り、1体がエリシアへと迫る。
 残る2体はその場から一ツ目にエネルギーを貯め、迫った1体を援護するように白黒混じったビームを放つ。
 それに対してエリシアは背後の翼を羽撃かせ、羽根を前方に発射する。
 迫る異形に突き刺さり動きを止め、その背後から発射されたビームも複数の羽根によって撃ち落とされる。

「ハァッ!」
「───!?!?」

 動きを止めたモノコーンへ接近しながらハイキックを放ち、その顎ごと自慢の一ツ目を砕く。
 空へと放られたモノコーンはそのダメージに砕け、塵となって消える。その余韻に浸ること無く、エリシアは奥の2体へ迫る。
 ビームを放ち、迫るエリシアへを攻撃するモノコーンたちだがエリシアは翼で身体を包み、盾代わりにして意に介さず突っ込む。

「ぜやぁ!」

 モノコーンたちの眼の前を超えてその間をすり抜ける、その瞬間に烈破の掛け声と共に翼を大きく開く。
 狭い路地の間で行われたそれは爪を振り上げたモノコーンたちを押しのけ、壁へと叩きつける。
 そのまま身体を捻り、叩きつけられ動きが止まったモノコーンたちへ順番に拳を叩き込み、蹴り飛ばすとトドメとばかり羽根を乱射。
 貫かれた2体のモノコーンは先の1体と同じ様に塵となって消える。

「……さっきの男はどうなった?」

 戦いを終えたのを確認し、バックルから四角い音楽プレイヤーを取り外し、その中に入っていたプレートを外すと纏っていた鳥のスーツが光となって消え、白衣の女が現れる。
 静寂の戻った路地から顔を覗かせ大通りを見れば、モノコーンに襲われそうになっていた男が遠くへ歩いていっており、女は安堵を漏らす。

「バレてないな……前のときは大変なことになったからな……それにしても連休で数でも増えたのか?」

 チラリと先程の異形たちがいた方を睨む。
 GWの後から毎晩のようにモノコーンのみの出現が相次いでいる。おかげでここ数日は夜に眠ることもままならない。

「まぁ、どっちにしろ出てきたなら倒すしか無いか……ふぅ……一度どこかで休むか」

 女は大通りに人がいないことを確認して眠そうに目をこすりながら路地を出るとスマホで何かを入力しながら夜の街を歩いていった───



第一話「荒鷲の生誕」

 ───長期休暇が終わり、夏の足音が近づく5月中旬の羽頃盛市。

 快晴の青い空に夜の気配が潜み、朝の日差しが世界を包み始めた早朝5時。

 

 ピィーピィピィ! ピィピィピィピィ!

「───うーん……むにゃ……」

 

 ペットにうずくまって眠る少女、日向盈月(ひゅうがえいげつ)は目覚ましにしては独特な鳴き声により微睡の中より引き上げられる。

 瞼を擦りながら身体を起き上がらせるとその肩に何かが飛来し、バサリと飛び乗る。

 

「ピィピィピィー!」

「おはよう、ガルダちゃん。いつもありがとねー。ふぁあー」

 

 眠そうに撫でる手の先には羽毛に包まれ鳴く鳥(さっきの目覚まし)が満足気に盈月の手に顔を擦り付けている。

 彼女の飼っているハリスホークの”ガルダ”だ。薄茶色の翼と従来のそれとは異なり、白い羽毛に覆われた頭部は一見するとハクトウワシかの様に見える。

 ガルダを育てたブリーダー曰く突然変異、あるいは先祖に雑種個体がおりその隔世遺伝のどちらかであり、異常はないとの事だ。

 

「ガルダちゃん、着替えて行くから先に下で待っていてね」

「ピィ!」

 

 ガルダはバサリと盈月から飛び降りるとそのまま部屋から飛び出し、階下に飛び立つ……訳ではなく、トコトコ歩いて扉を超え、階下へと向かっていた。

 それを確認してから一度大きく伸びをして改めて覚醒を確かめると学校指定の制服に袖を通す。

 髪は改めて整えるが最後にロケットペンダントを首にかけ、もう無くさぬためにも先を制服に包まれた胸の間にしまい込む。

 

「よし、と! ふんふーん♩」

 

 姿見で自身の服装に歪みがないことを確認する。

 腰まで伸びた自慢の銀の髪と整った顔立ちの薄紫色の瞳が映り込む。

 女子高校生として高い背は今年の春には170に達した。決してふくよかではなく、同年代と比べて大人びた彼女は幼さの残る笑顔を浮かべ、鼻歌混じりにガルダの後を追い階下へと降りる。

 1階2階、どちらにも彼女以外の人の気配はない。彼女の両親は彼女が小学生の頃より海外へと出張に出ている。

 海外で共に暮らすことも考えていたがその時、まだ飼って間もないガルダを空輸するのは危険だと彼女1人が日本で暮らすこととなった。

 中学の途中までは近所付き合いのあった家庭が面倒を見てくれていたがその家庭も引っ越して以来、盈月とガルダは1人と一匹では広いこの家で暮らしていた。

 

 顔を洗い、髪を整えて食卓に行くとガルダが足を使って器用にコーヒーカップと自分の餌皿を机の上に配膳している。

 盈月はお礼の代わりにガルダを軽く撫でエプロンをまとう。

 ポットにお湯を沸かしながらガルダのための食事を冷凍庫から取り出し流水で解凍、その間に自身の食事も用意を始める。

 卵焼きやウィンナーなどを焼き上げ、昨夜の夕飯とした唐揚げと共に2つ(・・)の弁当箱へと手早く詰める。彩りと栄養のために空いたスペースをレタスとピンで刺したプチトマトときゅうりで埋めた。

 最後に白米を仕切られたスペースに入れ、黄色いふりかけを振りかければ昼食が完成。

 朝食として余分に作った卵焼きとウィンナー、レタスそしてトーストをプレートに盛り合わせるとガルダが用意してくれたコップにコーヒーを注ぐ。

 

「でーきた! いただきます!」

「ぴぃ!」

 

 エプロンを脱ぎ去り、食事を始めた盈月に合わせてガルダも盈月が食べやすくしてくれた餌を食べ始める。

 支度に時間がかかるため、先に食べられる様に用意していたがガルダはいつも律儀に盈月のことを待って食べ始める。

 

「ガルダちゃん美味しー?」

「ピィピィ!」

「うんうん、反応はするけどがっついてるから今日も元気だね!」

 

 ガルダの様子にニコリと笑みを浮かべ盈月自身も食事に舌鼓を打つ。

 今日の卵焼きは程良い甘味で焼き加減で良くできたと噛み締める。

 プレートの中身を食べ切り、ゆっくりとコーヒーを飲み干して時間を確認すると時刻は7時になっていた。片付けなどを終えるといつも出発している時刻になるだろう。

 ガルダも食事を終え、自身の餌皿を流し台の方へと引っ張っていた。食後すぐは飛びたくない様だ。

 

「運んでくれてありがとう、ガルダちゃん。洗い物は私がやるね!」

「ピィ!」

 

 一仕事終えた様に胸を張って誇るガルダを撫でると餌皿を受け取り、自身の食器と共に洗う。

 学校の支度も終え弁当も包み、1つはカバンへもう1つは巾着に入れて手に持つと程良い時間となっていた。

 

「ガルダちゃーん、出るよー! おいでー」

「ピィッピィ!」

 

 盈月の言葉を聞いたガルダが肩に飛び乗ると玄関へと向かい、そこに設置してある止まり木に繋ぐ。

 習慣的に繋いでいるが長い付き合いで外し方を覚えてしまったのか帰ってくるとリードが外れている事があるのは少し悩ましい。

 

「それじゃ、行ってくるね!」

「ピィッピィピィピィ!」

 

 羽根を広げて見送るガルダに手を振りながら外に出て鍵をかける。

 玄関を出て左を向けばちょうど白衣の女性が隣の家に入ろうとしているところだった。

 臆する様子もなく、盈月は笑顔を浮かべ、小走りで女性に近づいて行く。

 

「博士ー! おはようございます! 今日も朝帰りなんですね!」

「……朝帰りというのはやめろと言ってるだろう。聞かれたら勘違いされる」

 

 博士、そう呼ばれた白衣の女性がこちらへと振り返る。

 手入れをあまりしていないのかサイドテールに纏めた薄青い髪は少しボサつき、綺麗な青い瞳の下にはクマを携えた女性。

 白衣の下には胸元が肌けた服とスカート、それにストッキングと勘違いの原因は盈月の言動だけではないのではと感じる服装で気怠げに盈月に応対する。

 

「第一、忘れろって言っただろう。そのくせ毎日毎日……」

「博士のことを忘れろとは言われてないもーん!」

「屁理屈だろう……まぁ、もういい。疲れてるから寝させてくれ」

「あ、そうだよね! これ、お弁当! 起きたら食べて!」

 

 盈月が笑顔で巾着に入れた弁当を差し出すと女性はジト目で盈月を睨み、僅かな間の後「はぁ……」と根負けしたのかため息を吐きながらそれを受け取る。

 

「…‥容器と一緒に今月分の弁当代入れとくよ」

「そんなの気にしなくていいのに。1人分も2人分も変わらないよ?」

「女子高生に食事代も払わずに養われる大人は流石にヤバいだろ……私なりのケジメと思って受けとってくれ」

「しょうがないなぁ。ありがとう! 好きな物教えてくれたら入れるね!」

「また今度な……ほら、さっさと行かないと遅刻するぞ」

 

 時間には余裕があるが女性が帰宅して休む事を考え盈月は頷くと学校へ向かうために振り返り、すぐに何かを思い出したかの様に再び反転する。

 

「どうした? まだ何か用か?」

「あ、うん。あの、博士が助けてくれた時使って───」

 

 盈月の言葉に被さる様に女性のスマホが鳴る。

 女性が画面を確認すると「あいつか……」と煩わしそうに呟く。

 

「悪いがまた今度にしてくれ。出ないと面倒な相手なんだよ」

「あ……うん! 気にしないで! 大した事じゃないから! それじゃあ、行ってきまーす!」

「前みたいに転ぶなよー……もしもし、朝っぱらから何のようだ郡山───」

 

 盈月が小走りで走り出すと女性は軽く手を挙げて盈月を見送り、電話を受けながら家の中へと入っていった。

 盈月も「まぁ……いっか!」ともやもやした思考を切り替え、学校へと向かう。

 

 

******

 

 

「えいげっちゃーん。今日学校終わったらパンケーキ食べいこうぜー」

「SNSに上げてバズっちゃおうぜー」

吉美(きび)詩歌(しいか)おはよー! パンケーキ?」

 

 盈月が通う公立羽頃盛高校、その2年C組の教室。

 時刻はSHRの始まる15分前、盈月の元へ2人の友人が話しかけていた。

 片や黒い長髪の少女、二宮吉美(にのみやきび)。キッチリと制服は着ているが朝練終わりで少し眠たげに欠伸をこぼす。

 片や短い髪を茶色に染めた少女、三珠詩歌(みたましいか)。制服を着崩し、スカートの丈もギリギリまで短くして3人の中では派手な格好をしている……最も同世代離れした盈月のプロポーションに隠れているのだが。

 

「そうそう。最近話題のところ。クリーム盛々でじゃーん! クマさん乗ってるの!」

「すごい! 可愛い! いいよ、いこいこ!」

 

 吉美が見せた写真には複数枚のパンケーキの上に巻かれたクリーム、その上に宝石のように散らばったフルーツとマジパンか砂糖菓子で作られたくまのぬいぐるみ型の人形が乗っている可愛らしいものだった。

 それを見た盈月もすぐに目を輝かせ、吉美の手を取る。

 

「まぁ、問題は……吉美、部活サボって大丈夫なの?」

「あ、そうだよ。吹奏楽部、朝練もしてたんだよね? 放課後もあるんじゃないの?」

「ふっふっふ、朝練の時に家庭の事情で午後を休むって言ってあるから先輩のシゴキも回避しつつ合法的にパンケーキ食べれるっていう完璧な策を練っておいたからご心配なく!」

 

 キランと効果音でも鳴っているように決めポーズを取る吉美。

 しかし、同じ吹奏楽部のクラスメイトが調子に乗る吉美へと話しかける。

 

「あ、二宮さん。佐藤先輩が明日覚悟しとけって言ってたよ。パンケーキのカロリー分ランニングだって」

「うぇっ!? なんでバレるの!? しかもパンケーキまで!?」

「そりゃあ前科あるし……後、廊下出てすぐに『うぇーい! パンケーキのためにサボりひゃっほー!』って叫べば誰だって気づくわ。大会前じゃないから加減はしてやるって、よかったねー」

「よかないわ! 他人事だと思ってぇ……パンケーキのカロリー分って何キロ……?」

 

 ワナワナと震える吉美に詩歌と盈月は頭を撫で慰める。

 

「それでも謝りに行かない辺りいい性格してるよね、吉美」

「そんなにパンケーキ食べたいの?」

「いや、謝りに行ってもどうせ走らされるのは分かってるから、それなら食べてから走ろうかなって……」

「「なるほど……」」

 

 盈月と詩歌が呆れたように顔を見合わせた時、チャイムが鳴ったためそれぞれが席につく。

 担任からは複数の連絡事項に混ざって行方不明や正体不明の怪物の目撃情報が話題に上がっているため、寄り道はなるべくせずに複数人で登下校を心がけるようにと話があった。

 盈月も遭遇したあの異形……それがGWの休みが終わった辺りから目に見える形で目撃情報が増えていた。

 しかし、学校内にいる間は教師の目も生徒同士の目もあることから生徒たちは普段と変わらぬ様子で1日を終える。

 

 尚、吉美は盈月と詩歌に説得され、彼女らに付き添われながら先輩の元へと謝りにゆき、翌日に校庭10周という条件を元に無事許しを得た。

 

 

******

 

 

「あ、ああ……や、やめて助けてくれ!」

 

 昼下がりの午後、会社員の男は人通りの無い路地を血相を変えて走っていた。

 その背後からは一ツ目の異形……モノコーンたちが迫る。

 路地を抜け、まもなく大通りが見えていたが……その前に別の異形が立ちはだかる。

 鯉に似た頭部、その口の中にもう1つ顔がありその瞳が男を睨みつける。

 鎧とも着流しとも思える赤と白と黒、錦鯉の様な斑模様の衣服を身にまとい、背中に横向きに直刀が一本、腰に差していた曲刀は手に握られ男へと突き付けていた。

 

「悪いが止まってもらおう」

「ひぃっ!?」

「殺す気は無いが……逃がす訳には行かないのでな。ピトフーイ、今度こそ大丈夫なんだろうな?」

「えぇ、狙い通りですよ。カープさん」

 

 カープと呼ばれた鯉の異形が呼び掛けると男の背後、モノコーンたちを従えた異なる異形が姿を見せる。

 ピトフーイ、そう呼ばれたのは鳥の異形。艶やかな女性の声と赤いボディ、翼のようになった黒い腕と黒い鳥の頭を模した頭部の異形は羽根の手で怯える男の顎を撫でる。

 

「な、何を……」

「心配はいらないわ。ただ、力をあげるだけだから……ふふ、さぁ産まれなさいな」

 

 黒い翼が男の頬を包み込むとぞぶりと逆の翼が男の胸へ何かを押し込む。

 それは1枚のプレート、赤いフレームにキツツキの絵の描かれたそれが男に張り付くと淡く光りだす。

 

【ウッドペッカー】

「あっ!? があ、ぐあああ!」

 

 プレートから溢れた光が男を包み込むと苦しそうな叫びをあげて男の肉体が変質する。

 キツツキのような鋭く伸びたクチバシを持つ異形の怪人へとその身を変じ、力なくその場に跪く。

 

「ふふ、成功ですね……さぁ、行きなさい。ウッドペッカー・スコアノート!」

「……クケェー!」

 

 ピトフーイの命令を受けた男だった異形───ウッドペッカー・スコアノートと呼ばれたそれは翼を羽ばたかせ、獲物を求めて空を舞う。

 その瞳に、その叫びに理性は感じられないが本能のまま主人の命令を遂行する。

 

「これで問題ありませんよね? カープさん。後は彼が暴れて他の適合者を探すだけです」

「ふん、適合者と言っても意識を失っていては戦力としては物足りないが及第点だろう……行くぞ。後は手出しせず、見ているだけだ」

 

 カープが曲刀を腰へ差し直し、路地から垂直に飛び上がって屋根の上に着地する。

 愛想が良い風に振る舞っていたピトフーイであったがカープの姿が見えなくなると「ちっ!」と大きな舌打ちと共に従っていたモノコーンを憂さ晴らしに翼で切り裂き、塵とする。

 それだけで晴れる物でもないが溜飲を下げ、カープの後を追い、路地から姿を消した。

 

 

******

 

 

 白衣の女は盈月と別れた後、電話の相手の指示で溜め込んでいた報告書の作成を強制され、その後一睡もできぬまま午後の日差しを浴びていた。

 

「はぁ……寝れん」

 

 疲労は溜まっているが脳が中途半端に覚醒しており、椅子にもたれ掛かり、天井を見上げる。

 眠れない故に報告書を終わらせた後も作業を続けていたがそれもどん詰まってしまった。

 作業を進めていた机の上には資料やペットボトル、栄養ドリンクの空き瓶が散乱する中。先程受け取った弁当箱が空になって放置されていた。

 散らかる机の中、弁当箱のある一角のみキレイに片付けられていた。

 

「……美味かったな、弁当。食べて眠くなれなかったのだけ誤算だが……はぁ、散歩でもするか」

 

 ため息をつき、椅子から立ち上がる。

 歩くスペースも無い散らかった部屋の中、弁当箱を洗い、干すと玄関へと向かおうとして足を止める。

 

「……流石に着替えてから行くか……」

 

 昨夜から服を着替えていなかったため、同じ様な服に袖を通し、白衣の代わりに白のジャケットを羽織る。

 必要なものをすべて持つと足早に家を出て近場の公園へと向かう。

 現在時刻は16時、まだ外は明るいが太陽は徐々に西へと向かっていた。

 公園に到着すると適当なベンチに座り、日光を浴びながら周囲を見る。

 まだまだ盛況な様子で井戸端会議を開く主婦たち、サボりなのか仕事の終わりなのか自身と同じ様にベンチで休む会社員、ボールを使ってドッジボールに興じる小学生たちやそれに混じって遊ぶ女子高生など千差万別であった。

 

「……いや、待てあいつは……」

「よぉしいっくよー! それ!」

 

 小学生に混じった女子高生をよく見ると見覚えがあった。

 朝にも会った、いや最近毎朝会っている少女───盈月だった。

 良く見ればその奥のベンチに座る女子高生2人も彼女のことを応援しており、恐らく連れなのだろう。

 加減はしているようだが、小学生と高校生ではポテンシャルが異なり、蹂躙……とはならず程々に手を抜きながらそれでもチームの勝ちへと貢献していた。

 

「くっそー! やっぱえいげつ姉ちゃんつえー!」

「えっへん! そうでしょそうでしょー!」

「えいげっちゃーん、小学生相手に強がらないでー」

「逆に負けたらそれはそれで面白いけどね」

 

 ドッジボールを終え、盈月は2人の友達(吉美と詩歌)の元へ戻る。

 小学生たちは「次はかくれんぼやろうぜ! えいげつ姉ちゃんもやる!?」と無邪気に次の遊びにも彼女を誘うが時計を確認してから彼女は断った。

 小学生たちのかくれんぼを応援し、荷物を持った盈月が振り返ると眺めていた女と目があった。

 

「あっ……」

「あ、博士だ! お昼に会うの珍しいね!」

「おっ? 博士? 何々、えいげっちゃんの知り合い?」

「博士……というにはかなり格好ラフじゃない?」

「普段はね、白衣着てるんだよ! 白衣! 朝帰ってくる時に良くすれ違うの!」

 

 博士(白衣だった女)が逃げ出すよりも早く、姦しい女子高生に囲まれる。

 盈月の言葉を聞いた2人は朝帰りという言葉に反応し何かを察したようにこちらを見つめる。

 

「それは……博士ではなくもしかして女医なのでは?」

「朝帰り……女医の格好した派手な女……これは意味深なお医者さんごっこの人?」

「お前たち、初対面に対して失礼すぎないか? お前も友達はちゃんと選べ」

「2人とも仲良しのいい子だよ!」

「今それを言うのはもしかしてお前も私を馬鹿にしてるか?」

 

 女の言葉の意味が理解できないのか盈月は首を傾げ、仲良しと言われて喜んだ吉美と詩歌に撫で回されていた。

 その様子に女は肩を落としため息をつく。

 

「大丈夫? 朝も眠そうだったし今もあんまり元気無いよ?」

「ちょっと色々あって寝られてないだけだ……今のでドッと疲れたから帰ったらぐっすり寝られるだろうし心配するな……じゃあな」

「うん! お弁当箱明日でもいいからね! ゆっくり休んでね!」

「帰ったら扉にかけとくから回収してくれ」

 

 ベンチから立ち上がり、盈月たちに背を向けて歩き出す。

 背中から聞こえた盈月の言葉に手を上げて答え、公園を出ようとしたその時。

 ズゥン! と、背後から何か巨大な物が地面に落ちる音が聞こえ、何事かと女が振り返ると盈月たちや公園内にいた者全員が同じ方を注目している。

 視線の先には土煙が上がり、その奥に身を屈めた人間大の影が揺らめく。

 その影が立ち上がり、砂煙を払うと鋭く伸びたクチバシと翼を持つ異形、ウッドペッカー・スコアノートがその姿を晒す。

 

「クケェー!!」

「っ!! 全員、逃げろ!!」

 

 ウッドペッカーの叫びと女の叫びが重なり、公園内が阿鼻叫喚となる。

 動き出したウッドペッカーは自身の黒い羽根をむしり、地面に落とすとその羽根が砂をまとい、複数の一ツ目の人型を作り出した。それらが目を見開くとウッドペッカーと同じ羽根を身体から生やしたモノコーンとなり、人々に向けて目からビームを放ち襲い始める。

 叫びが上がり、人々が逃げ惑う中を女は突然のことに固まる盈月たちへと近づくき、3人を公園の入口の方へと押しやった。

 

「な、なにあれ……」

「化け物……? ねぇ、吉美えいげっちゃん、ヤバくない? これ」

「呆けてるな! お前たちも逃げろ!」

「は、博士……分かった! 吉美、詩歌、こっち!」

 

 女の言葉にうなずくと盈月は吉美と詩歌の手を引き、公園から外へと向けて走り出す。

 それを確認すると女は他の逃げ遅れている人々の元へと走り、同じ様に逃げるように促していく。

 

「いやぁ! 来ないで!」

 

 逃げる盈月の耳に男の子の叫び声が届く。

 振り向けば先程まで遊んでいた子の1人にモノコーンが迫っていた。

 

「た、助けて……!」

「やぁああー!」

「っ!?!?!」

 

 爪を振り上げ、男の子を襲おうとしてモノコーンは意識していない横から突進してきた盈月に弾かれ、地へと倒れる。

 男の子は涙目を浮かべながらも助かったことに安堵しその場に膝を付きそうになるが盈月が抱えて走る。

 

「大丈夫!? 走れる?」

「だ、だいじょうぶ……で、でもゆうちゃんが! ゆうちゃん隠れたまままだ見つかってないの!」

「!! ……分かった。お姉ちゃんに任せて。吉美、詩歌、この子をお願い! 私、まだ見つかってない子を探してくる!」

「えいげっちゃん!?」

「危ないよ!?」

 

 2人に男の子を預けると盈月は化け物たちがいる公園の中へと再び走り出す。

 その彼女を止めようと声をかけ、2人も追いかけようとするがそこに化け物が近づいて来たため、盈月の安全を祈りながら男の子を連れて逃げ出した。

 そして盈月が公園内へと戻る様子を見ていた人物がもう1人、博士と呼ばれた女もその様子に舌打ちを打つ。

 周囲に逃げ遅れがおらず、ウッドペッカーも盈月の向かう公園の奥へ向かったため、その後を追うように走り出した。

 

「ゆうちゃん! ゆうちゃんどこ! 返事して!」

 

 盈月が公園内を走り、小学生が隠れそうな場所を探す。

 小学生の足ならばそこまで遠くに隠れてはいないはず……その予測は当たっており、少し外れにある用具入れの陰に先程共に遊んでいた少女が怯えてうずくまっているのを発見する。

 

「見つけた! 大丈夫!? 怪我はしてない?」

「お、お姉ちゃん……うん、大丈夫」

「良かった……よし、立って! 一緒に逃げよう!」

「う、うん……お姉ちゃん! 後ろ!?」

 

 少女の叫びには振り返るとそこにはウッドペッカーが精気のない瞳で盈月と少女を見下ろしていた。

 ウッドペッカーは品定めする様に盈月と少女を眺めるとやがて2人に向けて手を伸ばす。

 

「そいつらから離れろ!」

「クケェ!? クケェッ!」

「博士!?」

「くっ!? 今のうちに……逃げろ……」

 

 後を追っていた女が追いつき、誰かが落としたバットでウッドペッカーに殴りかかる。

 その一撃ではウッドペッカーはビクともしなかった。しかし、不意の一撃に怒りを覚えたのか、ギョロリと女の方を向くとその首を掴み、持ち上げる。

 呼吸を封じられる中、女は盈月たちに逃げるように促し、盈月もそれに従って少女とともにその場を離れるように移動する。

 女がバットを手放しポケットから何かを取り出そうともがくがそれに気づいたウッドペッカーは女を勢い良く投げ飛ばす。

 

「ぐぁっ!?」

 

 投げ飛ばされ、女は木に叩きつけられる。

 位置が悪く、身体と木で腕が挟まるようにぶつかり、腕からゴキリと嫌な音と鮮烈な痛みが走る。

 それだけでなく、ポケットに手をかけ取り出しかけていた中央に何かを差し込むくぼみのついた長方形の箱のような物と音楽プレイヤーに似た機械は衝撃ではじき出され、地面へと転がる。

 膝を付き、なんとか立ち上がろうとするが痛みによりふらつき、ぶつけた腕はだらりと垂れ下がっていた。

 更に状況が悪いことにウッドペッカーの叫びを聞きつけたのか配下のモノコーンたちが集まってくる。

 

「博士! 大丈夫!? 怪我したの!?」

「お前……! なんで戻ってきた!? 危険だ、さっさと逃げろ!」

「でも……博士が……何かできることはない!?」

「~~っ!? わかった、それなら落ちてるあれを取ってきてくれ! そうしたら今度こそ逃げろ! 分かったな!?」

 

 少女を逃した盈月が女の元へと駆け寄る。

 痛みに耐えながら叫ぶ女だが盈月は顔を俯けながらも女のことを放ってけないと女を支え、逃げようとしない。

 女に言われた方を見れば、そこには見覚えのある2つの機械……盈月は女に言われた通り、その機会の元へ向かい、拾い上げる。

 それ(・・)を盈月は何かを知っていた。どうすればいいかも、過去に焼き付いた記憶から予想が付いていた。

 

「速くそれを……」

「……博士、ごめんなさい!」

 

 手に持った機械を見つめた後、盈月は謝罪を述べながら長方形の機械を腰へとかざす。

 すると機械の左右からベルトが伸び、彼女の腰へと巻き付いた。

 盈月の行動に女は目を見開き、叫ぶ。

 

「お前! 何やってるんだ!? その2つだけじゃそれは使えないんだ! スコアプレートはここにある! 馬鹿なことはやめて渡せ!」

「あるよ……」

「はっ!? 何を言って……」

 

 女の怒声に盈月は少し震える声で答えながら、ロケットペンダントを取り出し、そのフタを開いて中を見せる。

 本来は写真などを入れるそのスペースに入っていたのは1枚の青いプレート。

 その中央には空を飛ぶワシの姿が描かれていた。

 それを見た女は絶句する。

 

「なぜ……そのプレートをどこで手に入れたんだ……」

「……全部後で話すよ。でも今は……!」

《フライトイーグル!》

 

 盈月が取り出したプレートを音楽プレイヤーの上から装填すると音声が鳴り響き、画面表示が変化する。

 女が長方形の機械から音楽プレイヤーを外し、そこからプレートなるものを外し、変身を解除する姿を盈月は見たことがある。だから今はその逆を行えば良い。

 盈月がウッドペッカーたちの方へと向き直り音楽プレイヤーを持つ右手を高く掲げる。

 

「……いや、待て。ダメだ! ドライバーは私しか変身できないように認証登録をしてある! お前では変身は……!」

「……変身!」

 

 女の言葉を待たず、盈月はベルトのくぼみへと機械をはめ込む。

 しかし、特定の誰かしか変身できないようにロックの掛かっていたベルトはそれに反応───

 

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)!》

 

 ───した。

 

「……なぜ、反応する。バグ……なのか……?」

 

 驚愕する女をよそに、けたたましい音声とともに盈月の周囲を人型のエネルギーが包み込み、その周囲に装甲が浮かび上がる。

 

REQUIP(リクイップ)!》

 

 変身音が鳴り響き、その音声とともに周囲を囲むエネルギーが吸着するように盈月へと張り付き、その上に装甲も張り付く。

 白いアンダースーツの上に羽根模様が随所に施された白い装甲。

 手甲と足甲は黒く、手首には金の腕輪のような装飾が付く。

 肩にはまさに鳥の翼を模したショルダーアーマーが装着され、背中の装甲は肩から胸辺りまで左右対称に一対細長く浮かび上がる。

 鳥を模したヘルムはクチバシを模した突起が突き出した下に黄色いアイレンズが光る。

 

《フライトイーグル!》

 

 最後にその姿の名をベルトが声高々に告げると少女の姿は戦士のものへと変わる。

 盈月だった戦士は変化した自身の姿を軽く眺めた後、突如現れた存在にたじろぐウッドペッカーたちへと向き直り、構える。

 

「仮面ライダーエリシア……あなた達を倒します!」

 

 ───今ここに新たな戦士が産声をあげた。




ここまでの読了ありがとうございます。
仮面ライダーエリシア、今回から本格スタートとなります。
盈月、並びにエリシアの活躍を楽しんでいただければ幸いです。

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次回の更新も楽しんでいただければ幸いです。
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