仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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 殺風景の廊下を3体の異形が練り歩く。
 明かりは彼らを導く様に照らすフットライトだけの空間、3人に会話はなく、それぞれの足音のみが廊下にこだまする。
 その無音を切り裂いたのは1人、遅れて歩くピトフーイだった。

「タイガーさん。何故、エイプに戦わない様指示をしたんですか?」
「おや、わかりませんかぁ? そうですか、あなたはこんな簡単なことも分からないのですねぇ」
「っ! 下手に出れば貴様……!」
「抑えろ、ピトフーイ。タイガー、お前もだ。意地が悪い」

 一触触発、ピトフーイが鋭利な刃物のような翼を広げタイガーに向ける。
 二人の間にカープが割って入り、それぞれを睨みつけるとピトフーイは納得のいかない様子だが、翼を下ろし、タイガーも肩を竦める。

「場の空気を和ませようと思っただけだったんですがねぇ」
「タイガー」
「おっと、ふざけ過ぎましたねぇ。すみません、カープくん」
「謝るのは私にだろう……!」

 タイガーは仰々しく、大げさな仕草でカープに対して頭を下げる。
 その様子を見て、舌打ちと共に小声で苦言を呈するピトフーイだったが「なにか言いましたかぁ?」とわざとらしく投げかけられた言葉にそちらを睨みつける。

「なんでも無い。それよりも理由も教えてくれ」
「えぇ。まぁ、大した理由じゃありませんよ。逃げ回らせた方が多くの方に見つかる、それだけです」
「それなら、どこかを襲わせても良かったんじゃないかと私は思ってるんですが」
「分かってませんねぇ……良いですか。我々の今回の目的はスコアノートの適合者探しです。そして、その目的は達成、先ほど閉じ込めた人間たちを連れ去ることができました。ですが、貴方の怪物(ウッドペッカー)が暴れた直後ですから警察も警戒を強めていることでしょう」

 説明の途中だったが振り返ったタイガーがカツン、カツンとステッキを鳴らしながら再度進み始める。
 それに合わせ、カープと一拍遅れてピトフーイが追いかける中、タイガーの言葉が続く。

「そこでエイプの出番です。エイプが逃げ回り、移動を続ければ警察も追わざる得ない。当然、そちらに人員を割かざる得ず、それ以外の警戒は薄めるしか無い訳です」
「……なるほど。通常のスコアノートと違い、私たちが通れる”ゲート”の場所は決まっていてそこまでは移動する必要がある。その移動時の発見のリスクを下げるため、というわけか」
「尚且つ、彼には我々が人を拐ったポイントにも回って貰いました。こうしておけばその後の捜査もエイプの行動範囲を重点的に捜査することでしょう」
「……探したところで痕跡など無い。無駄足を踏ませるわけですか」
「えぇ……思ったよりも早く仮面ライダーに邪魔されましたが撹乱という点いえば役割は果たしてくれたでしょうとも」

 会話が一区切りついたところで進む3人は広い空間に出る。
 最低限の光量のみに照らされた殺風景な空間。
 物といえば、中央にある特徴のない、シンプルな作りの玉座のみである。
 その玉座には暗く、陰に隠れているが誰かが座し、その横にフードを目深に被り、全身をマントでその身を包んだ大柄な何かが立っていた。

「やぁ、おかえり。首尾は上々のようだね、3人とも」

 玉座から穏やかな女性の声が響く。
 その声を聞いた、ピトフーイは我先にと玉座の前に跪き、平伏する。

「只今戻りました。女帝(エンプレス)
「ピトフーイ、初出撃お疲れ様。聞いたよ? 3人も捕まえたんだってね。初めてにしては上出来さ」
「えぇ……ありがとうございます」

 女帝の労いの言葉をピトフーイは素直に受け止められず、感謝こそ述べたがその気持は複雑だ。
 なぜなら、その手柄の全てはタイガーから押し付けられたもの。自身の作戦の成果は0と言っても過言ではない。

「カープとタイガーもご苦労さま。どうだったかな? ピトフーイは」
「よくやっていると思う。まだ、詰めの甘いところもあるが経験を積めば問題ないだろうな」
「カープくんは甘いですねぇ……あぁ、私も右に同じということで」
「……チィ」

 嘲笑するようなタイガーの態度にピトフーイは舌打ちをする。
 それに気づいてか気づかずか、女帝は「そうかそうか。なら良かった」と満足そうに頷き、3人を見回す。

「次も私にお任せください、女帝!」
「まぁ、待ちなさい、ピトフーイ。慌てなくても機会はすぐに来るから少し休んでいなさい。そうだね……アリゲーター」
「……何用でしょうか」

 逸るピトフーイを宥め、女帝が名を呼ぶとここまで静かにしていたアリゲーターと呼ばれたフードの大男が返事を返す。

「人間はそこそこ集まっているんだよね?」
「今回のを含め、30人ほど。自我を保てるほど適合するものはどれだけいるかは分かりませんが」
「なるほどね。良い数だ。そういうことなら余裕もあるし、君のところの子を遊ばせておいで。そろそろ邪魔者の戦力分析も必要だろう?」
「……心得ました」
「俺も同行させてくれ。戦うに値する相手か改めて見極めたい」
「あぁ、行っておいでカープ」

 ズシン、ズシンと地響きを響かせ、部屋を去るアリゲーター。その後ろをカープが同行し、共に部屋を後にする。
 その様子をタイガーは笑みを浮かべて、ピトフーイは悔しそうに拳を握りしめそっぽを向く。

「さぁて、抗ってくれよ、仮面ライダー。簡単に潰れてしまってはつまらないからね」

 そして女帝はクツクツと笑みをこぼし、彼らのことを見送った。


第三話「特殊事象対策課」

 盈月にとって激動となった日の翌朝。

 仮面ライダーになったとて学校が無くなるわけではないため、いつもの通りガルダに起こされて起床し、支度を終えるといつもより早めに、ガルダを連れて家を出る。

 その足で向かったのは隣家、エリシアの家だ。

 

「博士ー。起きてるー?」

「ピピピィー?」

 

 昨夜のうちに渡された合鍵を早速使い、中に入るが返事はない。

 そのまま、屋内を進むとリビングのソファーにその人の姿があった。

 昨夜、病院に付き添い、別れたときのままの服装で処置を施されてギプスをはめた腕をかばいながら眠るエリシア。

 相当疲れが溜まっていたのか、盈月たちが近づいても起きる気配はない。

 

「もぉ、こんなところ、こんな格好で寝て……よし、ガルダちゃん、毛布か何か探してきて」

「ピィ!」

 

 ガルダが屋内を飛び、探しものを始めると盈月は資料と脱ぎ捨てられた衣服が散らばる床を慎重に進み、食卓へ。

 机の上にはビニールゴミが溜まっていたがそれを全てゴミとして片付け、机をキレイにすると持ち込んだおにぎりと弁当箱、水筒などを用意していく。

 それを支度終えるくらいにガルダの鳴き声が聞こえ、廊下に出ると階段手すりに薄手の毛布を咥えたガルダの姿があった。

 

「ありがとう、ガルダちゃん!」

「ピィー!」

 

 盈月が受け取るとそれをエリシアへとかける。

 当の本人はそれらの音にも気づかず微睡みの中を揺蕩っている。

 その時、盈月のスマホが鳴る。確認すれば着信の相手は吉美だった。

 

「あれ? 朝練中じゃないのかな? もしもし、吉美? どうしたの?」

『えいげっちゃーんおはよー。改めて昨日大丈夫だった?』

「うん、メッセージにも送ったけどあの後、無事に家まで帰れたし、女の子も無事だったよ!」

『良かった良かった。こっちは大変だったよー。警察に事情聴取だーって長い間待たされるし、また怪物が出たって帰してくれないしー……あ、でもパトカーで送ってもらったのはちょっと珍しい体験だったかも?』

 

 吉美と詩歌とは昨夜のうちに連絡を取り合ってお互いの無事は確認済みだ。

 最も、自身の体験を正直に言う事のできない盈月は何もなく、無事であったと嘘を付く。

 その嘘と怪物(エイプ)のせいで友達に迷惑をかけたことが盈月の胸を締め付ける。

 

「それで吉美どうしたの? 今、朝練中じゃない?」

『あ、そうだった! 本題なんだけどね。今日と明日は休校だってさ。後でせんせーからも電話かけるって』

「休校? お休みなの?」

『そう。私も部活に来たらすぐにせんせーに帰れって言われちゃってさー。ここの所、色々起きてるから週明けまで休みにして対策考えるんだって』

 

 今日は木曜日、たしかに2日休みにすれば土日を挟む。

 今までも事件は起こっていたがやはり、昨日の出来事が決定打となったのだろう。

 

『ふつーの休みだったらえいげっちゃんと詩歌でどっか行こうぜって言うんだけど……昨日の後だからねぇ。私は大人しくしてるわー』

「そうだねー。うん、それじゃあまた来週だね!」

『ねー、また来週ー! じゃあねぇ~』

 

 通話を終え、スマホをしまうと何かを感じ取ったのか肩にガルダが乗ってきた。

 甘えるように、慰めるように頬に顔を擦り寄せるとふわふわとして羽毛が盈月の頬をくすぐる。

 

「ピィピ?」

「ありがとう、ガルダちゃん。今日学校お休みだって……それなら」

 

 チラリとエリシアの眠るリビングを見回す。

 そこには脱ぎ捨てられた衣服、飲み切って捨てられてないペットボトルや栄養ドリンクの瓶、日本語英語が入り混じった様々な書類、その他多くが床に転がっていた。

 「よし」となにかを決意した盈月は一度玄関に向かう。

 

「今日は博士のお家をキレイにしよう。着替えてくるからガルダちゃんはちょっとまっててね! 博士起きたらお世話もお願い」

「ピピィ!」

 

 翼をあげるガルダに見送られ、玄関を出る。

 するとエリシア宅の前に一台の黒いセダンが止まり、運転席から男性が降りてきた。

 ヨレのないピッチリしたスーツをまとった短めの黒髪の男性。

 精悍な顔つきで全体の印象から真面目な人であることが伝わってくる男は盈月に気づくと少し驚いた様に目を瞬かせる。

 

「えっと……ここってフェリキタスさんのお宅で間違い無いですよね?」

「そうですよ! あ、でも博士……エリシアさん、まだ寝てるんです! 起こしてきた方が良いですか?」

「あぁ、いえ。怪我をしたと聞いてお見舞いに来ただけなので日を改めますよ……もしかして、日向盈月さんですか?」

「はい! 日向盈月です! 初めまして!」

 

 自身の名前を知られていたことを特に疑問にも思わず笑顔で男性に挨拶する。

 男性もそれに答えてながら「あなたが……」と小声で呟くと内ポケットから取り出した手帳を開き、盈月へと向けた。

 

「初めまして、警視庁羽頃盛署特務事象対策課所属の郡山温斗(こおりやまあつと)と申します。お話を伺いたいのでご同行お願いできますか?」

「ふぇ……?」

 

 

******

 

 

「自分が捕まると思ったんですか? はは、突然、泣かれそうになるから何事かと思いました。何もしてない人を捕まえたりしませんよ」

「そうですよね。ビックリしたぁ……」

 

 温斗の運転する車内で2人の笑い声が響く。

 よもや自分に警察から同行を願われることがあると思っていなかった盈月は彼の前で涙目になったことよる羞恥から頬を染めている。

 

「特殊事象対策課はスコアノートに対抗するための部署なんです。エリシアさんとは協力関係にあってこちらにもどんな敵だったのか報告をしてもらっています。どちらも公には公開していませんが」

「そうだったんですね!」

「あなたの事も伺っていますよ。今回伺ったのはあなたに会うのも目的でしたから」

 

 温斗の声は穏やかな物言いだ。しかし、バックミラー越しに盈月を見るその瞳はどこか盈月を品定めするかのような色が窺える。

 

「そういえば、そのまま連れ出しましたけど学校は大丈夫ですか?」

「休校になっちゃったんです。昨日のスコアノートのせいで……」

「なるほど……警察からも警戒を呼びかけてるのでその影響もありますね。昨夜あなたが倒した猿の怪物、その経路上に何か残されているといいのですが……」

「そういえば……スコアノートになっていた人には話を聞かないんですか? 博士から2人とも警察に保護されて病院に入れられたって聞きました!」

「そこまで話したなら警察が協力者だって話しておけばいいのに……聞かないのではなく聞く意味がないんです。スコアノートになっていた人は例外なく、その前後の記憶がありません」

 

 朝のラッシュによる渋滞のためか静止した車の中、温斗の呆れる様なため息が響く。

 

「記憶がですか?」

「えぇ、エリシアさん曰くプレートを分離する際の副作用だそうです。おかげで被害者が暴れたり物を破壊した記憶に悩まされないので良し悪しですけどね」

 

 情報を得ることはできない、代わりにスコアノートとなっていた人は体さえ治れば容易に社会復帰ができる。

 警察としては一長一短の複雑な思いだろうことが言葉から窺える。

 はじめに詳しくは署に着いてから、もう1人紹介したい人物がいると言われていた為、そこまでで会話が途切れてしまう。

 渋滞のまま車も動かず、手持ち無沙汰となった盈月がふっと車窓から外を眺めれば不思議な光景が目に飛び込んでくる。

 自身たちの前、すなわち進行方向から多くの人が血相を変えて走ってくるのだ。時折り背後を振り返るものやスマホを片手に何かを撮影するものもいる。

 

「あれって……まさか」

「盈月さん? どうかしましたか……これは」

 

 盈月の言葉に温斗をその異常に気づく。

 それとほぼ同タイミングで車載無線に特殊事象発生───スコアノート出現の報が入る。

 場所は温斗の車から数百メートル先の交差点、すなわち渋滞の始点て見られる場所。

 

「温斗さん! 私、行ってきます!」

「ちょっと、盈月さん!? あぁ、もう! 気をつけて!」

 

 温斗が何かを言うより早く、盈月は車を飛び出し、人波に逆らって走り出す。

 少し進めば人の数は減り、目の前に白煙が上がっているのが見て取れた。

 そこを目指し、走り出そうとした所で思い止まり、周囲に人目がない事を確認してから路地へと入る。

 

「正体バレちゃいけないんだった……よし、ここでなら」

 

 改めて周囲を確認した後、イマージュベルトを装着、スコアプレートをイマージュリーダーへと装填し、それ高く掲げる

 

《フライトイーグル!》

「変身!」

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)! REQUIP(リクイップ)! フライトイーグル!》

 

 掛け声とリーダーをベルトへ装填すると変身音と共に盈月の姿を戦士(エリシア)へと転じさせる。

 変身が完了するとフライトスパイトから放出した翼を使い、路地から空へ飛び上がる。

 空から見下ろせば車に阻まれて見なかった交差点の光景が目に映り込んだ。

 交差点では1台の全面のひしゃげたトラックが横転、ガソリンは漏れ出ていなかったがそのエンジン部分からは白煙を上げている。

 その交差点の中心に待ち構えるように両手に甲羅を模した盾を1枚ずつ持ち、背にも甲羅を背負った亀の異形───タートル・スコアノートがいた。

 

「あれだ……! 周りに人はいないし……よぉし!」

 

 エリシアは周囲の状況を確認すると空中で大きく旋回。

 勢いを付け、更にはフライトスパイトからエネルギーを放出、更に加速しながらタートルへ向かって突撃する。

 

「たあああああ!」

「ガメェ?」

 

 勢いのままに脚を突き出し、空中からタートルへ向かって急降下キックを行うエリシア。

 声に気づいたのか、ゆっくりとした動きでこちらを視認したタートルは緩慢な動作で右手の盾をエリシアへと向けて迎え撃つ。

 ガギィン!と大きな音が鳴り響きエリシアの蹴りと盾が激突する。

 ぶつかった衝撃が周囲に広がり、衝撃波が発生する中、両者ともに激突のまま数秒その動きを止める。

 

「いっ~~~たぁい!」

「ガメェ!」

「きゃっ!?」

 

 最初の激突、敗北したのはエリシアだった。

 勢いを付けた蹴りは硬い盾に阻まれ、タートルにダメージを与えることはできず、反対にその硬度により帰ってきた衝撃をエリシアに痛みと痺れが走る。

 そのまま空中で固まっていたエリシアをタートルは防いだ盾で横薙ぎに払い除けた。

 

「いてて……それなら!」

APPORT(アポート)! ツインラプター!》

「たぁっ!」

 

 翼を使って体勢を整え着地するとツインラプターを呼び出し、分離して両手に剣を構えると再度、タートルへ突撃する。

 左右それぞれ別方向から大振りに振り回す、しかし、その全ては吸い込まれるようにタートルの操る両手の盾に防がれ、弾かれる。

 数度の打ち合いの後、エリシアが大きく仰け反ったところを狙い、盾を押し出しエリシアを本人を弾き飛ばす。

 

「盾が邪魔で攻撃が効かない……!?」

「ガメェ~」

「でも、動きは遅い……! それなら!」

 

 エリシアは体勢を立て直し、両手に剣を構え直すと再度突撃する。

 接近し、左手の剣を振り上げるとタートルも同じく盾を持ち上げ、迎撃の構えをとる。

 

「今……!」

 

 盾によりタートルと自身の視界が遮られたその時、フライトスパイトより翼が現出、羽ばたきで強引に自らの身体を浮かび上がらせる。

 

「たぁっ!」

「ガメッ!?」

 

 体を捻り、無理矢理剣の方向を整え振るう。

 振るわれた刃は盾を飛び越え、タートルの顔面へと迫り、切っ先が眉間を掠め、確かな傷跡を残した。

 決して大きなダメージではない。しかし、予想外の一撃に驚き、タートルは目を瞑って仰け反った。

 

「ガ、ガメガァ……」

「今だ……!」

SET(セット)! フライトイーグル!》

 

 タートルが顔を抑えよろめく中、ドライバーを操作し必殺技を起動。

 力強く羽ばたき距離を取る中、右足にエネルギーが集約。

 最大まで高まるとタートルへ向かい、再びとなる急降下キックを放つ。

 

RESOLVE(リゾルブ) FINISH(フィニッシュ)!》

「これで……!」

「ガッ!? ガメェ!」

 

 放たれた必殺技が迫る中、タートルは自身へ迫る脅威に気づく。

 タートルに盾を構えられても盾ごと蹴り抜ける、エリシアにはその自信があった。

 しかし、タートルの行動はエリシアの予測とは異なる行動を取る。

 慌てふためきながら両手の盾をエリシアへ向けて投げ捨て、エリシアに背の甲羅を向け、丸く縮こまる。

 すると、投げ捨てた2枚の盾は連なって空中で静止、拡大して進行を阻む壁へと変化する。

 2枚の壁と甲羅、3重の護りがエリシアの前に立ちはだかった。

 

「っ! それでも……! はあああ!」

 

 烈破の気合と共にキックが1枚目の壁に炸裂。

 叩き込まれたキックは火花を散らしながら壁に止められるもその勢いは止まらず、やがて盛大な音と共に粉々に粉砕し、2枚目の壁へと激突する。

 1枚目同様、火花を散らしぶつかり合う中、壁の中央へヒビが走る。

 このまま、2枚目も砕ける───しかし、そこまでだった。

 必殺技のために蓄積されたエネルギーが全て消費され、エリシアの勢いは完全に削がれてしまう。

 タートルの撃破どころか2枚目の壁の破壊すら叶わぬまま静止してしまった。

 

「そんな……!」

「ガァ……メェー!」

「っ!? ああああっ!?」

 

 エリシアが静止したのを見計らい、タートルが縮こめていた身体を伸ばし、受けた衝撃を弾き返す。

 甲羅から伝わり、壁へと伝わった衝撃は咄嗟に離れられずにいたエリシアへと伝わり、勢いよく弾き飛ばす。

 とてつもない衝撃に防御することもできずに弾かれたエリシアは受け身も取れず、人が逃げた乗用車に直撃、複数台を巻き込んで車にめり込んでしまう。

 

「ガメメメメェ」

「いつっ……まず、い……!」

 

 壁が再び盾となり持ち直したタートルがエリシアに向けてゆっくりと向かってくる。

 対するエリシアは全身に走る痛みとめり込んだ車が邪魔をして動けずにただ、近づいてくるタートルを見つめるしか無かった。

 しかし、先ほどの一撃はタートルとて無傷では無かった。

 先ほどのエリシアの必殺技によるダメージを0にできなかったのか膝を着き、倒れそうになると残った盾で身体を支えるもその衝撃で限界が来たのか、盾は音を立てて砕け散る。

 

「ガ、ガメェ……ガァ……」

 

 フラフラ立ち上がったタートルは恨めしそうにエリシアを睨みつけると盾を失ったことで多少身軽になったのか、先ほどよりも素早い動きでどこかへと逃げていった。

 助かった、その安堵にエリシアが力を抜くと同時に変身が解除される。

 そこに市民の避難を終えた温斗が走って近づいてきた。

 

「盈月さん!? 無事ですか!?」

「あっ……温斗、さん……ごめんなさい、スコアノート、逃しちゃ……」

「盈月さん!?」

 

 温斗に助け起こされた盈月はそこで限界を向かえ、気を失ってしまった。

 揺すり起こそうとした温斗だったが、目を覚まさないと分かると慌てた様子で盈月を抱え、自らの車へと走って戻っていった。

 

 

******

 

 

 エリシアとタートルの激突、その様子をビルの上から見下ろす2つの影。

 女帝の命によりタートルを送り込んだ張本にであるカープとアリゲーターだ。

 2人が見下ろす中、エリシアの必殺技が破られ、弾き飛ばされる。

 そこまで見たところでカープをそちらに背を向けて歩き出した。

 

「どこに行く、カープ」

「帰る。どの様な強者(つわもの)かと思ったが、期待が外れた。アリゲーター、それは貴方も分かっただろう?」

「……」

あれ(エリシア)は弱い」

 

 つまらなさそうに吐き捨てたカープの言葉に返答はない。

 無言の肯定ということなのだろう。

 

「今回を生き残れたとして、いずれ死ぬ奴だ。期待をして損をした」

「……報告と姿が異なっていた。見極めるのにはまだ早計と思うが」

「言わせるな、アリゲーター。貴方ほどの強者ならわかるだろう? 性能以前の問題だ」

「……お前がそう断じたならば今それを曲げることは無かろうな。私はタートルの修復のためにも残る……気になることもある」

「そうか。ならば先に失礼する」

 

 引き止めることをやめ、アリゲーターはカープに背を向ける。

 それを確認するとカープも振り返ること無く何処かへその姿を消していく。

 

「……強さを得るのも考えものだな」

 

 呆れたように呟くと再度、下を見下ろす。

 すでに戦いは終わり、タートルそしてエリシアもその姿を消していた。

 タートルが移動したことを受け、合流のためアリゲーターも移動を開始した。

 

 

******

 

 

「ん……ここは……?」

「ピィ! ピィーピィピィ!!」

「わっ、ガルダちゃん……えへへ、くすぐったいよー」

 

 盈月が目を覚ますと見覚えの無い天井が広がり、そこにガルダが抱きしめる様に顔に身体を擦り付けてきた。

 そのガルダを撫でながら周囲を見渡せばそこがエリシアの家、先ほどまでエリシアが寝ていたソファーに寝かされていたことに気づく。

 

「起きたか。調子はどうだ? 盈月」

「博士! それに温斗さんも! 身体は……うん、大丈夫! ちょっとまだ背中痛いけど……」

「派手にぶつかりましたからね、その程度で済んで良かった……気を失った時は焦りましたよ」

「うん……運んでくれて、ありがとうございます」

 

 ガルダの声に気づいたエリシアと温斗が近づき、異常が無いかを確かめる。

 そうしていると何故気絶したのかを思い出したら盈月の表情が沈む。

 

「スコアノートを逃しちゃってごめんなさい!」

「気を落とすな。記録を見たがあれはどうしよう無い、知らなきゃ対処できない類だ。それより、今後のこと考えるぞ」

「えぇ、あの防御の突破方法を考えなければ……」

 

 2人が悩む姿を見た盈月は落ち込んでいる場合ではないと顔を上げると「はい!」と元気に手を挙げ2人を驚かせる。

 

「盈月さん? どうしました?」

「私、防御破る方法思い付きました!」

「なるほど。じゃあ、盈月。答えてみろ」

「はい、博士! あの壁、必殺技で壊せたんです。1枚は完全に2枚目も半分くらい! だから必殺技2回で3つ全部壊して3回目で倒せます!」

「脳筋すぎるが理に適ってるな……よく気づいた」

「えへへー」

「却下だ」

「えぇ!? なんで!?」

 

 盈月とガルダが揃ってエリシアの怪我していない腕に縋り付き、抗議する。

 エリシアが鬱陶しいと一喝、振り払うと向かいのソファに散らばる書類を適当にと退け座り込む。

 

「もう少し片付けては?」

「言うな、温斗。気にしてるんだから」

「気にしてるなら片しましょうよ……」

「それよりも、却下の理由は単純な話だ。リゾルブフィニッシュは3回使えない」

「使えない……?」

 

 疑問を浮かべる盈月と温斗。

 エリシアはスマホを取り出し、2人に見える様、机に置く。

 画面に表示されているのはエリシア、そして複数のグラフやメーターが並んでおり、その中の1つを示しながら説明を続ける。

 

「仮にエリシアのエネルギー残量を100と仮定すると大体稼動に20程使用する。変身時間が伸びたり、ダメージを受ければその分増えると思え」

 

 エリシアが画面に触れ、メモリの光を1/5削る。その後、同じ様に先ほどの倍くらいの量を削った。

 

「それでこれがリゾルブフィニッシュ1発分。大体35程の消費だ」

「かなり使うんですね」

「それだけ大変なんだよ、スコアノート化した奴からプレートを分離するのは」

「でもまだ45残ってるからまだまだいけそうだよ!」

「いけないわ! もう1発撃てばそれで残り10。その前のダメージ次第で即変身解除もありうるんだぞ!」

「あ、そっか……うーん……」

「ピィ……」

 

 エリシアに諭され、腕を組んで悩み始める盈月。

 それに倣う様にガルダも羽根をクロスさせ首を傾げる。

 

「必殺技がダメなら有効なプレートはないんですか? 前に資料を拝見しましたけどプレートによって姿と能力が変わるのなら防御を破るのに有効なプレートもありそうですが」

「それは……できないんです。温斗さん」

「? それは、どういう……?」

「全部試したわけじゃないがこいつはイーグル以外のプレートを変身に使えない。新しい武器を作ろうにも時間もそうだが私がこれではな」

 

 ギプスの嵌められた左腕を挙げ、動かせないことを温斗に見せると彼も頭を抱え考え込む。

 

「さっきみたいな奇襲は? 盾を超えてそこに必殺技ドーン!って!」

「可能性は無くはない……が、厳しいだろうな。お前はさっき奇襲を当てた。そして必殺技の威力も身をもって知ってる。その2つを無警戒でいてくれる敵なら良いが」

「普通は難しいですね。あの時は隙を作れたと思いましたが決めきれなかったのは痛いですね……」

「うぅ、ごめんなさい……」

「あ、いや! そう言うわけではないですよ!? いい動きでした! はい、間違いなく!」

 

 しゅんと肩を落とす盈月に温斗は慌てて取り繕う。

 その様子をエリシアはふざけた調子で「やーい、泣かしてやんのー」と指をさして笑う。

 

「真面目にやってもらえませんかね!?」

「超真面目に考えとるわ!……現状、ここにある物だけじゃ手詰まりだ」

「なら、どうするの……? 無理だから無視はダメだよね?」

「まぁな……いや、これはしゃあないか……よし、出かけるぞ。温斗、車出せ。車」

 

 髪を弄りながら思案し、諦めた様に肩を落とすとそこから顔を上げて一息に立ち上がる。

 ハンガーにかけた適当な白衣を手に取り、羽織ると1人玄関へ向けて歩き出す。

 

「博士、どこに行くの?」

「警察署、温斗(こいつ)の職場だよ……私が打開策を作れない以上、作れる奴のところに行く」

「あぁ、なるほど」

「えっ? 温斗さんはわかるの?」

「えぇ……うちにもいるんですよ」

 

 エリシアの意図を理解した温斗が車のキーを取り出し、同じく立ち上がる。

 ガルダと共に首を傾げる盈月へと振り返ると言葉を続けた。

 

「仮面ライダーを作る男が」




第三話、読了ありがとうございます。

最初女所帯で始まったエリシアですがここ数話で敵味方含めて男キャラが増えましたし今後も増えます。
2号ライダーフラグも立っているので今後の展開を楽しんでいただければ幸いと思います。

励みになりますので評価、感想、ご意見などございましたらご記入いただけると歓喜の余り甘いもの食べます。

次回の更新もお楽しみください。
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