仮面ライダーエリシア   作:teru@T

6 / 20
 明かりの乏しい無機質な部屋の中、女帝(エンプレス)を中心に4人の異形が立ち並ぶ。

「───以上だ。仮面ライダーは複数の形態、武装を有している。相性次第では格上とて呑む……あくまで私の見解ですが」
「なるほどね……カープ、君は?」
「アリゲーターとほぼ同意見だ。だが、脅威とするほど強いとは思わない」
「そうかい。カープがそういうのであればまだ放置でいいだろう。降り掛かったのなら払う。それで構わないだろう」

 鈴の音の様な女帝の微笑みが無機質な空間に響く。
 周囲に控える4人は無言を貫き、反応は無い様に見えて様々だ。
 嘆息するカープ、口元を歪め笑みを浮かべるタイガー、女帝の言葉に安堵するピトフーイ、そして何も意志を示さないアリゲーター。

「そういうわけだ。()()()()、ほどほどに頼むよ」
「分かっている……タイガー、アイツを借りるぞ。もう少し鍛えれば馴染むだろう」
「えぇ、お任せしますよぉ、カープくん。まぁ、貴方は貴方自身も楽しみたいのでしょうから止めたら怒れるでしょう?」
「……黙秘だ」
「私も失礼します、女帝」

 肩を竦めるタイガーに背を向け去っていくカープ。
 ピトフーイは女帝に仰々しくお辞儀をするとカープとは別の方へと進んでいく。
 同様にアリゲーターも踵を返したところで「あぁ、忘れていた」と女帝はアリゲーターを呼び止める。

「まだ、何か?」
「名前はなんというか分かるかい? 仮面ライダー、だけじゃ味気ないだろう?」
「ふむ……確か……エリシア、そう名乗っていました」

 アリゲーターの言葉を聞いたピトフーイの足がピタリと止まる。
 振り返るでもなく、足を止めたピトフーイに女帝は「どうかしたのかい?」と微笑みかけた。
 そのやり取りを不審に思ったのかタイガーがニヤつきながら言葉を重ねる。

「何か気になることでもありましたかぁ?」
「……いや、何でも無い。失礼します」
「そうかい。休むにしろ確保した中の適合者を探すにしろ好きにしていなさい」
「……はい」

 振り返ることもなく答え、足早に去っていくピトフーイにタイガーは首を傾げる。
 女帝は三者三様な彼らの様を愉快そうに微笑みを浮かべ眺めるだけだった。

 コツン、コツンと廊下に無機質な足音が響く。
 無言のまま皆の元を去ったピトフーイは徐々に足を速める。何かに追われるかの様に。

「エリシア……エリシアだと……ふざけるな……!」

 堰を切った様に言葉が溢れ出す。
 冷や汗を流すその顔には焦りと恐怖が浮かぶ。

「確かめないと……あの()なら……あの女がまた私の前に現れたなら……ッ!」

 恐怖に震え、倒れそうになる身体を壁に預け、震える腕を逆の腕で押さえつける。
 呼吸が荒くなり、抑えた腕に血が滲むほど握りしめ、腕を伝った体液が地面にポタリ、ポタリと落ちていく。

「私自身が行くのは確定……手駒はどうする? モノコーンだけでは不安だ……だが、鳥のスコアノートはまだ……あぁ、そうか」

 何かを思い浮かんだのかピトフーイの身体の震えがピタリと止まり、ユラリと幽鬼の様に自立し、歩みだす。

「手駒なら……あるじゃないか……そうだ。鳥に拘る必要などない……! あは、あはは!」

 狂ったように笑い声を上げながらピトフーイは足を進める。
 たどり着いた先は牢屋。いくつもの鉄格子に囲まれた部屋が並び、そのいくつかには様々なスコアノートが収監されていた。
 ピトフーイの気配に気づいたのか何体かのスコアノートが格子を破壊する勢いで飛びつき、ガシャンと金属音が鳴り響く。

「クク……待ってろ、今暴れさせてやろう……アハッ!」

 狂喜の瞳でピトフーイはスコアノートを見繕い始める───



第五話「苦悩銘々」

 羽頃盛警察署内の道場は今、機械とそれを接続するコードに占拠されていた。

 いくつかの計器を煌琉と手伝いに駆り出された署員たちが確認している中、道場の中心に温斗が立つ。

 その腰には複数のコードに接続されたイマージュベルトが巻かれ、手にはイマージュリーダーと灰色のスコアプレート───疑似プレートが握られている。

 

「これより、第8回イマージュドライバー変身テストを始めよう。温斗、準備はいいかい?」

「あぁ、今度こそ大丈夫なのか?」

「やれる限りはやったよ。それじゃあ、3、2、1、GO!」

 

 煌琉のゴーサインに従い、温斗は疑似プレートをリーダーに装填、そのままベルトに差し込みイマージュドライバーとなる。

 

《フラッシュレディバグ!》

SET(セット)! I(アイ) AM(アム) MAJORITY(マジョリティ)!》

 

 変身音が鳴り響き、温斗の周囲を人型のエネルギーが包み込み、更にその周囲に装甲が浮かび上がる。

 

「変身!」

REQUIP(リクイップ)! フラッシュレディバグ!》

 

 エネルギーが吸着するように温斗に張り付き、その上に装甲も装着される。

 無地な黒のアンダースーツの上にテントウ虫を模した赤に黒の斑点を携えた装甲が装着される。

 変身が完了すると周囲から感嘆の声が漏れるが計器を覗く開発者である煌琉の顔は暗いままだ。

 

「っ! ぐぁっ!?」

 

 直後、温斗が苦しげな声をあげて膝を着くと装着した装甲からエネルギーが流れるように溢れ出し、その流れに沿って装甲が溶け出す。

 やがて、ライダーの姿は霧散、肩で息をする温斗のみがその場にうずくまっていた。

 心配した周囲の署員たちが駆け寄ってくるが温斗は「大丈夫だ」と手で制し、立ち上がる。

 

「煌琉、結果は?」

「前と同じさ。変身はできるが装甲が維持できない……ここまで来るとやはり問題は疑似プレートとドライバーの相性の問題か」

 

 最終調整を終わらせた疑似プレート、しかし、その先で問題が起こった。

 変身後の姿を維持できない。

 単純ながら大きすぎる問題だ。

 問題発覚後も何度も見直しと改造を行い、改善を心掛けたが結果はついて来なかった。

 

「……落とし穴だったな。イマージュシステムはスコアプレート用に開発したシステム。当然、それを元にした疑似プレートならば同様に機能すると思い込んでたし、実際今までは問題なかったんだ」

「……とにかく一度休んでくれ。ここ数日寝てないんだろう? 同じところで問題が出てる以上、根本的に改良しないことにはどうにもならない気がするよ」

「今回のデータを見直したらそうするよ……待たせて悪いね」

 

 煌琉の去り際の言葉に温斗は「気にするな」と返すも互いに焦りを隠し切れてはいなかった。

 心配そうに見守る署員たちに頭を下げながらも片付けの指示を飛ばし、自身も他の業務を行うため、部屋を後にした。

 

 

******

 

 

 タートルスコアノートを撃破してから1週間が経過した日の午後。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く中、盈月は疲れた様子で机に突っ伏していた。

 

「学校疲れたー……この後、教習行ってー、買い物してー晩ごはん作ってー……うぅー忙しい……」

「おぉーえいげっちゃんお疲れだねー」

「まぁ、先週休みが増えたり、今後も安定しないからって詰め込まれてるからねー、うちもこの後の部活憂鬱だわ……」

 

 この先の予定を指折り数えながら辟易していると吉美と詩歌がやってきて盈月の頭を撫でる。

 

「というか、教習って何よ、えいげっちゃん?」

「あ、えーと……色々あって、バイクの免許取りに行ってるの」

「えいげっちゃんがバイクー? へぇー意外だ」

 

 吉美に聞かれ、咄嗟のことに言葉で詰まったがどうやら気にされなかったらしい。

 バイクの免許取得については他言しても問題ない、だが、当然ながらライダーとして戦っていることについてはエリシアに禁止されているので発言に注意が必要なのだ。

 

「バイクってことはえいげっちゃん、最近話題のあれにハマったかな?」

「あぁー! なるほど、仮面ライダーだっけ?」

「えっ!?」

「あ、もしかして知らなかった? てっきりそうかと思ったけど」

「う、うん。初めて聞いたよ? そ、その仮面ライダーってなに?」

 

 2人の口から出た”仮面ライダー”という単語にドキリと驚く盈月。

 しかし、会話から察するに自身の正体がバレたわけではなかったようなので冷や汗を流しながらもなんとか会話を合わせる。

 すると詩歌が見せてきたのはSNSに投稿されたであろう画像。

 先週、エイプスコアノートと戦った時に撮影されたであろうスコアダッシャーを駆り、道路を疾走するエリシアの姿が写し出されていた。

 

「ほら、公園に怪物が出たじゃん? あいつもこの仮面ライダーがやっつけてくれたって噂だよ! えいげっちゃん見なかった?」

「助けた後一緒にすぐ逃げたから見てない……かなぁ」

「すっごいよねー! バイクに乗って颯爽と駆けつけて、怪物をドカーン!ってやっつけちゃう! かっこいいよね、そう言うの!」

「えへへ、そうかなぁ」

「えいげっちゃんもカッコいいけど可愛いからちょーと違うかなぁ?」

「というか、今はえいげっちゃんは褒めてないかなー? ヨシヨシ」

 

 仮面ライダー(エリシア)のことを褒められ、隠していることを忘れて照れる盈月。

 幸いなことに気づかれた様子はなく、吉美も詩歌も照れる盈月を褒めるように頭を撫でる。

 そこで、盈月がふっと時間を確認するとバイク教習の時間が刻一刻と迫っていることを思い出した。

 

「あ、時間! ごめん2人とも! 私行くね!」

「おぉー頑張れー吉美も部活いかないとまずいんじゃない?」

「思い出させないでよ、詩歌ぁ……えいげっちゃんも頑張れー! いってらっしゃい!」

「いってきまーす! 2人に元気貰ったからいっぱい頑張るよ! じゃあね!」

 

 ブンブンと元気に手を振り去っていく盈月を吉美と詩歌も笑顔で手を振って送り出す。

 あんなにも元気なるほど励ました覚えのない2人は盈月が見えなくなった後、お互いの顔を見合わせ、首を傾げる。

 仮面ライダー(自身)のことをカッコいいと言われたこと、更には話題になっていることを聞き、嬉しさから元気が出た盈月は上機嫌に目的地へと駆けていった。

 

 

「元気は貰ったけど……疲れるのは疲れる……つーかーれーたー……」

 

 学校を出てから数時間後。

 無事に教習を終えた盈月は教習所から自宅へ向けて日が暮れ始めた中を歩いて帰宅していた。

 学校を出る際には忘れられていた疲労もぶり返し、その足取りは重い。

 

「夕ご飯の買い物だけしたいけど何にしようかな~……んー博士も忙しいのかな、既読付かない」

 

 スマホを取り出し、画面を確認するがエリシアとのメッセージのやり取りはこちらが送信したきり、反応がない。

 恐らくは研究に没頭していてメッセージに気づいていないのだろう。

 用事と言っても帰宅中であること、夕飯のリクエストがなにかあるかだけであったため盈月は特に気にする様子もなくスマホをしまう。

 

「うぅ~ん!……最近、スコアノート出ないなぁ……何もできないのかな……」

 

 凝り固まった身体をほぐすように伸びをした時、浮かんだ疑問を口にする。

 エリシア云わく、あの時が異常に多かっただけで普段、()()()()()()()そこまで多くないとのことだった。

 しかし、行方不明者の数は減ることはなく、増え続けている。スコアノートの被害が消えた訳では無いのだ。

 基本、警察の出現報告の連絡を待つしか無い今、盈月には待つことの歯痒さを感じることしかできない。

 その時だった。

 

 ───ガルルルゥ!

 

 獣の様なうめき声が周囲に木霊する。

 周囲の通行人も同じ声を聞いたのかキョロキョロ見回していた。

 

「今の……まさか!」

「グオオオオオ!」

 

 盈月が可能性に思い至ったのと同時にビルから飛び降りた異形がアスファルトを砕く。

 体毛に覆われた筋骨隆々な肉体と鋭利な爪や牙を持つ獣。

 最も特徴的なのは顔の周囲、首から頭頂にかけて豊かに携えたタテガミ。

 ライオンの異形───ライオンスコアノートは手当たり次第に周囲の破壊活動を開始し、周囲にパニックが巻き起こる。

 

「グラアアア!」

「やっぱり、スコアノート……!」

「シャアアアアア!」

「えっ!? わぁっ!?」

 

 暴れるライオンの元へ向かおうとした盈月に向かって何かが突撃してくる。

 咄嗟に回避したその場を鋭い牙が空を切った。

 体勢を整え、盈月が見つめた先にはライオンとは異なる異形。

 ツルリとした体表と背中に突き出した大きなヒレ。両腕にも刃の様に鋭利なヒレを持ち、巨大なアゴを持ったサメの特徴を持った存在───シャークスコアノートがギョロリと盈月を睨みつける。

 2体目の異形の出現は人々のパニックを更に加速させて人々が逃げ惑う中、ライオンもシャークの元に合流し、2体の異形に睨まれた盈月の周囲は人がいなくなっていく。

 

「今なら……!」

「シャア!」

「グルア!」

「あぶな、いなぁ! もう!」

 

 興奮した2体のスコアノートに爪と牙で責め立てられるが盈月は紙一重で攻撃を回避しながらベルトを装着、リーダーにイーグルプレートを装填する。

 

《フライトイーグル!》

「変身!」

 

 2体の大振りな攻撃に合わせて大きく後ろに跳び、リーダーをベルトに装着、盈月の周囲をエネルギーが包み込む。

 

「シャアアア!!」

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)!》

REQUIP(リクイップ)! フライトイーグル!》

 

 盈月の変化にライオンは動きを止める。

 一方、シャークは構うこと無く変身中の盈月へと噛みつこうと飛びかかった。

 だが、噛みつかれるより早く変身が完了、エリシアとなって反撃の拳をシャークへと叩き込み、シャークを弾き飛ばす。

 

「シャ!?」

「グルゥウウ!!」

「よぉし、反撃開始、だよ!」

APPORT(アポート)! ツインラプター!》

 

 痛みに転がるシャークと入れ替わる形でライオンが爪を振り上げ突撃してくる。

 それに対し、エリシアはツインラプターを呼び出して両刃剣の片刃で受け流し、背後に回り込むと爪を受けた勢いを利用して対の刃で背中を斬りつける。

 

「グオォ!?」

「よぉし、成功!」

「シャアアア!!」

「っ、それなら! これで!」

 

 ダメージから立ち直ったシャークが更に背後から迫る。

 いち早く気がついたエリシアはフライトスパウトから翼を放出、噛みつきは躱されると学習したのか腕のヒレで斬りつけるシャークを飛び上がり回避する。

 更に両刃剣を切り離して上下を逆に再装着、蒼弓モードへと変形させてその弓を引く。

 背後に振り返ると姿を消していたエリシアを探し、周囲を見渡すライオンと上空のエリシアを睨みつけるシャーク。

 エリシアへ向けてシャークは口を大きく開くとそこから大量の牙を射出してエリシアを狙い撃つ。

 

「うわっ!? そんなのあり!?」

「シャシャシャア!」

「やぁっ!」

「! グオオオオオオオオオ!!」

 

 驚きながらも飛来する牙を避け、空中で姿勢を整えると矢を連続で放つ。

 牙の合間を縫って飛ぶ矢は狙いを外さず、シャークとライオンそれぞれへと命中する軌道にあった。

 しかし、被弾の直前に空中のエリシアと接近する矢に気付いたライオンが咆哮をあげる。

 その咆哮は文字通り空気を震わす。振動は衝撃波となり、すぐ隣にいたシャークを吹き飛ばし、周囲の地面をシャークが飛ばした牙をそしてエリシアの放った矢を粉々に粉砕した。

 

「っ! 矢を……!」

「グオオ!」

「シャア!!」

「グオ!? グオオオオ!」

「……あれ?」

 

 攻撃を防いだライオンが空中のエリシアに勝ち誇ったように声を上げる。

 だが、その横っ面を何者かに叩かれる。

 叩いたのは先ほど目を血走らせたシャーク。衝撃波に吹き飛ばされた怒りを張本人であるライオンへとぶつけたのだ。

 突然のことに驚いたライオンであったが攻撃を受けたことで反撃とばかりにシャークへ掴みかかり、エリシアを放っておいてスコアノート同士喧嘩を始めてしまった。

 空中で困惑し、暫し2体の殴り合いを眺めていたエリシアであったが絶好のチャンスであることにようやく気づき、風を切って滑空を開始する。

 

「たぁっ!」

「グオ!?」

「シャア!?」

「このまま一気に行くよ!」

《スティングペッカー!》

 

 掴み合う2体のスコアノートを空中からの急降下キックで蹴り飛ばす。

 意識外からの攻撃に驚き吹き飛ばされる2体を尻目に畳み掛けるため、ドライバーにペッカープレートを装填する。

 

「スコアチェンジ!」

SET(セット)! REQUIP(リクイップ)! スティングペッカー!》

 

 着地すると同時にエリシアの装甲が切り替わる。

 翼が消え、紺色を基調にした軽装の姿になるとスティングバンカーと干渉しないように弓を分割、双剣を逆手に構えて大地を駆ける。

 ダメージから立ち直ったスコアノートたちは迫るエリシアにヒレと爪を振り上げ対抗する。

 先に動いたのはシャーク、エリシアに接近し腕のヒレで切り裂こうとするも左の剣で鍔迫り、拮抗する。

 

「この姿なら負けないよ!」

「シャア……アアア!」

「グオオオ!」

「君は少し離れてて、ね!」

「グオォ!?」

 

 動きを止めたエリシアへ右から迫るライオン。

 それに対し、ライオンへと向けて拳を突き出し、スティングバンカーから杭を射出。ライオンに直撃し、再びその距離を引き離す。

 更に動きは止めず、杭を射出した反動でわずかに下がることで力を込めて押し込んでいたシャークはたたらを踏む。

 バランスを崩したところを狙って剣を突き出し、上段へ向け袈裟斬りを見舞った。

 

「ジャアアアア!?」

「このまま……まずは1体目!」

 

 痛みに呻き、動きを止めたシャークへ必殺の一撃を放つために剣の柄へイーグルプレートを装填、トリガーを引く。

 

SET(セット)! フライトイーグル!》

RESOLVE(リゾルブ) RASH(ラッシュ) FINISH(フィニッシュ)!》

「はああああ!!」

 

 両手の剣にエネルギーが滾り、ワシの翼を象るとシャークに接近。

 左右の剣を順手に持ち替え上段から剣を振り下ろし連続で斬りつける。

 一撃ごとのダメージは小さくとも輝く軌跡を残す斬撃はその身に傷を刻み、ダメージを蓄積していく。

 両の剣を揃えて勢いよく振り下ろした一撃がトドメとなり、全身を切り刻まれたシャークは爆散、機能を止めたスコアプレートと宿主となっていた人間が道路へと倒れた。

 

「よし! 後はライオンだけ!」

「グルル……」

 

 スコアプレートを回収し、宿主だった人が巻き込まれないようにその前に立ち、ダメージからは立ち直ったがシャークがやられたことで尻込みするライオンと対峙する。

 勢いに乗るエリシアはその勢いのままライオンへ向けと突撃を行う。

 しかし、

 

「きゃあああああ!」

 

 そんな彼女の背後で女性の悲鳴が響いた───

 

 

******

 

 

 ───盈月が戦闘を開始する数時間前、特殊事象対策課。

 複数の職員が報告書の作成や各所との連絡を取り合う中、煌琉と温斗は奥の研究室で2人揃って頭を抱えていた。

 原因は言うまでもなく変身システムの不備、午前中に行われたテストも含めた複数回の検証により変身が維持できない問題についてだ。

 

「煌琉、どうにかできそうなのか?」

「疑似プレートをイジるかドライバーをイジるか……どっちにしろ案が浮かばないことにはどうにもできないね、これは」

「そう、か……もう彼女たちだけに任せずにおけると思っていたが、中々遠いな……」

 

 肩を竦める煌琉に対し、温斗は肩を落とし歯噛みする。

 あと一歩で警察も特殊事象(スコアノート)への対抗策が手に入る。しかし、その一歩が果てしなく遠い。

 被害が増え続けるいまだからこそ、力を手にしたいと焦る心に実績は付いてきていない。

 そんな2人の元に署員が話しかけてくる。

 

「郡山刑事、お客様です」

「客? まさか兄さんかい?」

「あ、いえ……女性の……あっ! ちょっと!」

「邪魔するぞ、温斗、煌琉」

 

 署員を押しのけるように勝手に入ってきたのは右腕を吊った白衣の女───エリシアだった。

 勝手に入ってきたエリシアに署員が腕を引き連れてこうとするのを温斗が制し、研究室の方へと引き入れる。

 入ってきたエリシアは煌琉へ紙の束を差し出した。

 

「イツツボシューターのレポートだ。病院帰りに近く寄ったからついでに持ってきた」

「あぁー! メールで良かったしなんなら使った翌日ぐらいにほしかったけどね?」

「色々立て込んでたんだお前のは後回しになっても諦めろ。むしろ、私が直々に来てやったことにひれ伏してもらって構わないが?」

「寝不足重なってイライラしやすいから喧嘩なら買うよー? 右腕集中狙いでいいかい?」

「一応今は警察所属が弱いものいじめしてんなよ! お前なんか片手で十分だがな!」

「君たちそういう言い合いしないと話始められないのかな? ほら、座って」

 

 バチバチと火花を散らし睨み合う2人をため息を吐く温斗が宥め、エリシアを椅子に座らせる。

 とやかくは言いながらも煌琉も渡されたレポートを受け取り、流し読みで目を通していた。

 気を利かせたのか署員がお茶と茶菓子を用意して持ってきたものを温斗が受け取るとそれぞれに配膳する。

 

「それでなに詰まってんだよ、煌琉は」

「いや、それは……」

「そいつが寝不足になるのは決まって研究に詰まってる時だ。今なら……ドライバーか?」

「……寝不足だけでそこまで当てられるとか俺のファンかな?」

「そうなるなら記憶消してやるから取り消しとけ……来たついでだ、話聞いてやるよ」

 

 受け取った茶菓子を口に放り込みながらエリシアが語る言葉に温斗と煌琉は顔を見合わせる。

 機密事項もあるため許可を得ていない外部の協力はあまり推奨されていない。

 しかし、手詰まりの現状を考えた時、なりふりを構っていられなかった。

 

「分かりました……煌琉、頼む」

「……変身後、装甲の維持ができずエネルギーが漏れ出すんだ。経験は?」

「無いな……疑似だからこそか……データ見せろ」

「そっちのパソコン貸すよ。データ送る」

 

 煌琉に充てがわれた画面を覗き込み、計測結果や疑似プレートのデータに目を通していく。

 エリシアに感化され煌琉も流し読みであったレポートに集中して目を通し始めた。

 

「……変わりましたね。エリシアさん」

「変わったんじゃないよ。これが元々のコイツさ。今までがおかしかったんだよ」

「人を勝手におかしくさせんな……私1人なら別だがあいつ(盈月)の命預かってるんだ。使えるものは使ってやるさ」

「……確かに、彼女に任せて大人が手をこまねいてはいられないですね」

 

 理由は異なれどこの場にいる誰もが戦えない歯痒さを感じていた。

 だからこそエリシアは画面から目を逸らさずにキーボードを叩き、煌琉もレポート内容をフィードバックするため、同様に作業を始める。

 

「基本は変わらないが……やっぱり疑似を動かすために追加したコードが悪さしてそうだな」

「そうなんだよねぇ、おかげでお手上げさ」

「となると……おい、温斗。2つ案がある。警察として意見を聞かせろ」

 

 エリシアの言葉に温斗だけでなく煌琉も驚いたようにエリシアの顔を見る。

 その顔は真剣そのもの、自信があるようだった。

 

「1つは疑似プレートのコードを書き換えて調整を繰り返すこと。こっちなら時間はかかるだろうがトライ&エラーで確実に私のシステムと同等の力が出せる」

「そうだろうね……俺はそれをやるつもりだったよ」

「もう1つというのは?」

「既存の別システムを流用する。いくつか仕様は変わるがこっちならハードウェアさえどうにかなればプログラムはすぐにでもできる」

「別システム? そんなのどこにあるんだい?」

「お前の作ったやつだよ。ほら」

 

 首を傾げる煌琉や温斗に対してエリシアが画面を2人に提示する。

 画面に写し出されていたのは仮面ライダーの図面とデータだった。

 しかし、その姿はエリシアや温斗が変身に失敗した姿と異なり、各所にアーマーを装着するのではなく全身を装甲が覆い尽くしたパワードスーツの様な形状だった。

 それを見せられた煌琉は「はぁ!?」と素っ頓狂な声をあげる。

 

「おま……これ、学生時代の……!」

「まさにそれだよ。相変わらずファイルがしっかり整理されていて見つけやすかったよ」

「相当埋めといたはずなんだけどさぁ!」

 

 過去の失敗を掘り出され悶絶する煌琉をよそに温斗の言葉にエリシアは画面から目を離さずに頷く。

 キーボードを叩き続けその度に画面内の数値がわずかに変化しているところから修正や調整を行っているのだろう。

 

「これが別システム……なんですか?」

「あぁ……正確には旧システムなわけだが……こっちは疑似プレートでの変身実績がある」

「!! それなら!」

「すでに調整は始めてるが……なんでそいつ(煌琉)が実績あるシステムを使わなかったのかちゃんと考えて決めろよ、温斗」

 

 実績がある、それは停滞した今もっとも温斗が求めていた言葉だった。

 だが、エリシアの言葉に興奮していた自身を律し、悶え続けている煌琉へと向き直る。

 

「煌琉、このシステムの()()()は?」

「……最初から問題があるという決めつけかい? ただ、古いうえに自分の黒歴史だから使わなかっただけかもしれないぜ?」

「お前はそういうことしないだろう?」

 

 温斗の指摘にピタリと動きを止めた煌琉が向き直る。

 煌琉のことを信頼しているからこその言葉に観念したのか部屋の隅に積まれたガラクタを漁りながら言葉を続けた。

 

「まず、出力が落ちる。大体8割だ。最も装甲は厚くなるから防御は得意になるね」

「他には?」

「一番はプレートの切り替えができない。システム自体と変身に使うプレートを紐づけてしまうから他の姿になれず、汎用性が落ちる」

「……なるほど。だから、出力も上で切り替えもできる今のシステムにしたのか」

「それを作ったのは学生の頃だからね……後追いで良いのができたのならそっちを進めるさ。それで、どうする? 温斗の意志に従うよ」

「決まってるだろう? すぐにでも戦いたいんだ……頼む」

「よしきた!」

 

 ガラクタ───失敗品の山から目的のものを発見した煌琉が立ち上がる。

 目的の物品、イマージュリーダーより少し大きいケースのような物を見つけ出すと温斗へと見せつける。

 

「2時間かからず仕上げるから今からテストの場所抑えといてくれよ、温斗」

「あぁ。そっちは任せる。エリシアさんもお願いします」

「この前助けられた貸しを返すだけだ……おら、煌琉、さっさと手を動かせ!」

「うるさいなぁ! 言っとくけどそれそのままなんて芸のないことしないからね!?」

「はぁ!? 機能足して失敗してもケアしないからな!」

「そこは任せなよ!」

 

 再び口では言い争いをしながら手を動かし始める2人。

 エリシアがデータを打ち込み、送られてきたそれを煌琉が確認、調整をしながら同時進行で必要なパーツにそのデータを入力していく。

 その2人を信じ、諸々の手続きと残した仕事を終わらせるために温斗は研究室を後にした。

 

 それから約2時間後。

 定時付近ということもあり、温斗が特殊事象対策課へ戻ってくると上がりの署員が帰り支度をしている中を抜け研究室へと入る。

 

「煌琉、エリシアさん。できましたか!?」

 

 研究室の中では疲労困憊と言った様子で椅子にもたれ掛かり、脱力したエリシアと煌琉の姿があった。

 温斗が入ってきたことに気づくと煌琉はゆっくりと起き上がり椅子を回してそちらを向いた。

 

「やぁ、温斗……ひっさびさに集中してやり切ってね……いやぁ、眠気もあってめっちゃつらい」

「煌琉お前覚えてろよ……半分くらいコード書き換えさせやがって……」

「今は言い合う気がないから覚えとくよ……ほら、温斗」

 

 煌琉が完成した物を温斗へと差し出す。

 赤をベースに黒の斑点を付けたテントウ虫を模したカラーに彩色されたそれを受け取り、確認するように見回す。

 それは先ほど見つけ出した物であり、ガラス面の奥にイマージュリーダーの画面が見えていることから本当にケースとして機能しているようだった。

 裏側は凹んでおり、イマージュベルトとの接合部は露出していることから用法はいままでと変わらないのだろう。

 

「名付けてReady(レディ) Flash(フラッシュ)リーダー……略してレディッシュリーダーさ!」

「レディッシュリーダー……ありがとう。煌琉、エリシアさん!」

「おう、気にするな……名前をつけられてたのは私も初めて知ったし関与してないが?」

「いま1人で決めたからね!」

「共同開発なんだからそこは気にしてもいいと思うがな?」

「と、とにかく! 一度テストを!」

 

 再び言い争いが始まりそうだった2人を宥め、テストのために抑えた場所へ向かおうとしたその時、内線が鳴り響く。

 署員が応対を始めるとすぐに特殊事象の発生───スコアノートの出現が告げられた。

 

「こんな時に……! すぐに応援要請! 市民の避難を優先して、エリシアさんは連絡を!」

「待ってください、刑事! 実は通報によるとすでに仮面ライダーが戦闘中らしく……」

「なんだって?」

「そっちも聞いてないぞ、私は! 場所はどこだ、連絡は……入ってた……気づかなかった……」

 

 署員の言葉に飛び起きたエリシアが自身のスマホを確認すると集中して作業していたときに届いた盈月からのメッセージがいくつか届いていた。

 尤も、内容は他愛のない内容であり、出現した場所が自動車学校からほど近い所であることから偶然遭遇しそのまま戦闘を始めたのだろうと思い至る。

 直ぐ様、自作したアプリを起動してエリシアとの通信を繋げる。

 

「盈月! 聞こえるか!? 大丈夫か!?」

『───はか、せ……』

 

 エリシアが呼び掛けると盈月の答えが帰ってくるがその声はどこか弱々しい。

 自宅であればライダーシステムと同期させ入手することもできるが映像や外部の様子がわからないためエリシアには何が起こっているのか把握する術はない。

 

「どうした、何があった?」

『……博士……たす、けて……』

「盈月!? 盈月ぅ!!」

 

 助けを求める声にエリシアはただ叫ぶことしかできなかった。




第五話読了ありがとうございます。
忙しかったり書けなかったりで前回の更新から3週間経ってました……
定期更新できる人すごいなぁ!って思いながらこれからも頑張って書いていきます。
さて、フラグが立っているので察せられてる方もいらっしゃると思いますが次回、新ライダーが登場します。
今後も頑張って更新していきますのでご意見ご感想、評価などなどいただけますと全力で喜びますのでよろしくお願いします!
次回もお楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。