仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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RESOLVE(リゾルブ) BURST(バースト) FINISH(フィニッシュ)!》

 ピトフーイへと放たれたレディッシュの必殺技、エリシアも巻き込まれないために高度を上げ空中から見下ろしながらガッツポーズを上げる。

「やった! レディッシュすごい!」
『油断するな……とはいえ、流石に避けられないだろうな』
「うん!……あれ、今のは……?」
『盈月、何があった?』

 見下ろしていたからこそエリシアのみは気づくことができた。
 ピトフーイが光に飲み込まれる直前、何かが間に割り込み共に光飲まれた姿を。
 そして次の瞬間───
 
 ───輝きが十字に切り裂かれた。



第七話「案ずる心は未だ遠く」

「一体何が……?」

 

 光に飲まれて数秒、目を閉じて訪れずであろう身を焼く痛みに身構えていたピトフーイであったがそれが訪れることはなく、不審に思って目を開けば輝きが自身を避けるように十字に開けていた。

 正確には自身と光の間に割り込んだ()によって切り裂かれていた。

 

「……カープ、なぜ……」

「悪いが……今は受け答えをしている余裕はない……! はあああああ!」

 

 錦鯉の様な着物と鎧を組み合わせた様な武装を着流した鯉に似た怪人───カープが曲刀と直剣クロスさせ、攻撃を受け流していた。

 だが、場所は空中。踏ん張りが効かず、攻撃を受けながら浮かされている状態のカープはその勢いに飲み込まれ始めていた。

 

「(なぜ、そこまでして私を……私は……)」

 

 ピトフーイの現状はすべて自身の身勝手が原因だ。

 それどころかカープたちの手勢であるスコアノートを勝手に駆り出し、剰え彼らを犠牲にした。

 罰せられる事はあっても身を危険にしてまで助けられる立場にはない。

 困惑はすれど身体はやるべきことを咄嗟に実行していた。

 

「ッ!? 何をする……!」

「うるさい……! 抱えて飛んだことなんてないんだから暴れるな……ッ!」

 

 カープを後ろから羽交い締めに抱き、拡散したことで威力の落ちた光を無理矢理突き抜け突破する。

 威力は減衰しているとはいえ必殺技を受けることになるがカープ、ピトフーイ両名共に窮地を脱する結果となった。

 

「嘘!?」

「なら、追撃を! ガッ……!?」

「レディッシュ!? どうしたの!?」

 

 驚愕するエリシアを尻目にピトフーイたちは近くのビルの屋上へと着地し、どちらも膝をつく。

 即座に動こうとしたレディッシュだがその装甲からスパークが迸り動きを止める。

 心配して近づこうとするエリシアだがそれをレディッシュが静止する。

 

「僕のことは良いからアイツらを!」

「っ……分かった!」

 

 高度を上げながら屋上へと近づくと2体のスコアノートも限界を示すように肉体がひび割れ、身体のいたるところからエネルギーが溢れている。

 屋上に降り立ったエリシアは弓を分離した双剣を動けないスコアノートたちへ向けて構える

 

「動かないで! 動いたら斬るよ!」

「できるのならやると良い、仮面ライダー。お前の動きは前に見たがお前、戦いは素人だろう?」

「そ、そうだけど頑張るよ!」

『わざわざ答えるな、バカ! どちらにしろ必殺技が撃てない以上、警察の応援までは時間を……』

「技術もそうだが、駆け引きもまだまだだ。すぐに斬れば倒せたのに残念だったな」

「えっ……?」

 

 カープの言葉にエリシアが首を傾げた直後、横から現れた新たなスコアノートの鋭利な爪がエリシアを切り裂いた。

 白と黒の縦縞模様の燕尾服に似た衣をまとい、白黒チェックのシルクハットをステッキを持つ手で押さえるトラのスコアノート───タイガーが威嚇するかのごとくカツンとステッキを鳴らし、立ちはだかる。

 

「くぅ……! もう1体いたんだ!?」

「カープくん、ご無事……ではなさそうですねぇ……全く、やってくれましたね、ピトフーイさん」

「……タイガー、さん……」

 

 ギロリと横目で睨まれたピトフーイは視線を逸らす。

 タイガーは受けたダメージもあってか弱々しい彼女とカープを交互に見た後、はぁっとため息をつく。

 

「動けますか。さっさと帰りますよ」

「あぁ。動けるか? ピトフーイ」

「えぇ……なんとか」

「ダメ! 逃がさな、きゃっ!?」

 

 動き出そうとするスコアノートたち、彼らを咎めようと武器を構えるエリシアをタイガーの狂爪が切り裂く。

 エリシアの刃は躱されはじかれる一方、大仰な動き、さりとて高速で振り下ろされる爪は受け止めようものならガードの上からでも吹き飛ばされる。

 

『無茶するな盈月!』

「でも、レディッシュがあんなに頑張ったのに……!」

「初めましてですねぇ、仮面ライダーさん。私はタイガー、この2人と同じく帝国(エンパイア)を護りし剣が一振り」

「エンパイア……? それがあなた達の名前なの?」

 

 恭しくお辞儀をするタイガーに対しエリシアは聞き慣れない単語に首を傾げる。

 タイガー自身に注目を集め、その隙に他のスコアノートたちは逃げ出していく。

 

「えぇ、そうですよぉ。我々は女帝(エンプレス)の元に集いし帝国(エンパイア)。いずれこの世界を統べる者……と喋りすぎですかねぇ」

「捕まってくれたらもっとお話できるよ!」

「ハッハッハ、中々面白いですねぇ。ですが、今日はこのあたりで失礼いたします。それでは、またいずれどこかで、仮面ライダーさん」

「っ、待って!」

 

 演技がかったお辞儀の後に振るわれた爪、それにより発生した衝撃破が屋上を砕き瓦礫と風を巻き上げる。

 エリシアの視界が晴れた時にはタイガーはおろかピトフーイとカープすらその姿を消していた。

 後に残されたエリシアの視界に映るのは日が沈み夜闇に包まれた街、その耳に届くのは遠方より近づいてくるパトカーのサイレンのみだった。

 

 

******

 

 

 温斗が特殊事象対策課のオフィスに戻ってきたのは戦闘が終了してから数時間後、どっぷりと夜の帳が降りた時間になってからだった。

 事後処理等は部下や応援に来た警官たちに任せていたのだが戦闘の最後に変身システムの異常が発生したためその後医務室で検査を受けることになってしまったのだ。

 逐一報告は入っており、処理など必要なことは全て終了しているがその確認やその他の業務ためにも休むわけにはいかなかった。

 室内に入れば芳醇なコーヒーと甘いお菓子の香りが鼻腔をくすぐった。

 

「やぁ、温斗お疲れ! お察しだとは思うけど来客だよ」

「だろうね……」

 

 ケーキを頬張りながらキーボードを叩く煌琉からの予測していた言葉にハァとため息が漏れる。

 それに呼応したかのように部屋奥からお盆を抱えた1人の男が現れた。

 柔和な笑みを浮かべ、その笑みに似つかわしくない大きな傷を頬に持った黒髪の男。

 黒のビジネススーツのうちには特徴的な青のカッターシャツを覗かせ、今はその上に白いエプロンをつけていた。

 雰囲気や顔立ちが温斗に似たその男は2人分のケーキとコーヒーの乗ったお盆をデスクに置くとつけていたエプロンを脱ぎ去った。

 

「大変だったみたいだね。温斗」

「来てると思ってたよ……兄さん」

 

 男の名は郡山(こおりやま)(りょう)

 温斗の兄であり、エリシア、煌琉を見つけてきた国の役人だ。

 

「ライダーシステムが完成したって聞いたからね、初陣お疲れ様。身体の調子はどうなんだ?」

「問題ないよ。それより煌琉、最後の不具合の原因は分かったのか?」

「当然さ! いや威張れるものでもないが……まぁ、簡単に言えば5枚装填が想定よりもパワーが大きかったという話さ。調整すればもう発生することはないよ」

「そうか……なら、頼む。今後のためにも」

 

 レディッシュリーダーとベルト、イツツボシューターを取り出し煌琉へと渡すと、椅子へと深く腰掛ける。

 その隣に涼がケーキとコーヒーを置くと躊躇うこと無くコーヒーを一口啜った。

 

「挽き立てはやっぱり違うね……相変わらず凝り性だ、兄さんは」

「はは、残念ながらケーキを作ってくる時間はなかったけどね」

「本音を言えばケーキより軽食のほうが嬉しかったけどね……それで何の用?」

 

 ケーキを一口頬張り、コーヒーで流し込むと雑談はそこそこに涼に鋭い視線を向ける。

 その視線にも柔和な笑みを崩すこと無く、涼もコーヒーを啜る。

 

「大した用じゃないよ。ライダーシステムがどこまで実用化できたかの確認……それと今回、敵が言っていたことについてだね」

「エリシアからの報告書はもう読んだかい? 温斗」

「あぁ……帝国と女帝か……」

 

 エリシアから報告された盈月が聞いたという敵の組織とその首魁らしき人物の名。

 自然に発見されるスコアプレートのみではありえない頻度でのスコアノートの出現数、そしてそれに伴う行方不明者の増加から背後に組織的な動きがあるのでは想像されていたのが確定した形だった。

 今後の捜査方針などにも影響する事実だろう。

 

「悩みのタネと考えるべきか、進展と捉えるべきか……そういえば、そのエリシアさんは?」

「戦闘が終わったらすぐに帰ったよ。盈月ちゃんが心配だってね」

「僕も一度挨拶しにいかないといけないなぁとは思うんだけど中々時間が取れなくてね……と、遅い時間で温斗もまだ仕事もあるだろうしその前にもう1つの本題聞いておかないとね」

 

 柔和な笑みを崩さないまま涼は話題を切り替える。

 先程のことが本題だと思っていた温斗と煌琉は涼の言葉に首を傾げながらも気を張り直す。

 

「そのエリシアさんのことだけど……研究が進展したとかの話はなにか聞いてないかい?」

「いえ特には……煌琉は?」

「仮に何かあっても俺に言うことはないだろうよ。俺も言わないし」

「そうか……いやね。彼女から純化については聞いてるけど……少し気になることがあってさ」

 

 そういうと涼はスマホの画面を2人に見せる。

 映し出されていたのは2枚の写真。

 戦闘中のスティングペッカースコアのエリシア、そして監視カメラの映像だろうか画質が悪いがキツツキに似た姿の怪人───ウッドペッカースコアノートだった。

 

「この怪人は1週間前……報告では盈月さんが初めて戦った日に出現した怪人。そしてこっちがその翌日にエリシアが見せた新しい姿だ」

「……あぁ、そういうことか」

「煌琉、分かったのか?」

()()()()()()を使ってるんだろう? この怪人とエリシアが。純化したにしては早すぎる」

 

 煌琉の言葉にハッとなった温斗は再び2つの写真を見比べる。

 確かにあの時(タートル戦)のエリシアの姿は件のスコアノートの特徴を受け継いだ姿であった。

 純化には1週間要する、それはエリシア本人が言っていたことだがこれでは矛盾している。

 

「なるほど……悪いけど僕も煌琉も何も聞いてないよ」

「そうか……本人が教えてくれると良いんだけどねぇ。悪かったね、こんな時間に温斗も休みなよ」

「兄さん……は言うまでもないか。今回もサボってきたんだろ?」

「いやいやそういうわけじゃ……と、もう1個忘れるところだった。ほら」

 

 肩を竦め笑みを浮かべる涼はポケットから取り出したUSBメモリを温斗へと投げ渡す。

 特に何か記されているわけではないどこにでもあるメモリだ。

 

「これは?」

「うちの研究所の研究成果。向こうが組織で動いてるなら……役立つものだよ」

 

 顔を見合わせる煌琉と温斗を尻目に涼は別れの挨拶代わりに背中越しに手を挙げるのみでオフィスから立ち去って行った。

 

 

******

 

 

「説明してくれるよね? ピトフーイ」

「がっ……申し訳ござい……ぐぅ!」

 

 殺風景な部屋───帝国たちのアジト、その女帝の間。

 カープとタイガーに連れ帰られたピトフーイに待っていたのは敬愛する女帝からの折檻だった。

 

「謝れとは言ってないよ、ピトフーイ。仮面ライダーは放置でいい、そういった私の命令を無視してその上彼らの配下を勝手に連れ出してまでちょっかいをかけた理由を話せと言っているんだよ?」

「それ……は……がああ!」

「ほら、早く」

 

 女帝の透明感のある白い腕はピトフーイの胸をえぐり貫通していた。

 そのまま高々と持ち上げ、ピトフーイが言葉を発する度に腕をグリグリと動かし、ピトフーイを苦しめる。

 その様子をアリゲーターは女帝の横で静かに静観。

 カープとタイガーは跪き頭を垂れ、それぞれの表情は伺えない。

 

 

「ほら、ほらほらほら」

「エン……プレ……やめ……!」

「んー? それならいい加減、説明を」

「……女帝、お戯れはその程度に」

 

 痛みと苦しみから言葉を発することもできなくなったピトフーイをなぶり続ける女帝。

 その女帝を咎めたのは横に控えていたフードの男、アリゲーターだった。

 

「仕置はその程度でよろしいのでは? 理由も興味はないのでしょう?」

「……まぁ、そうだね。悪かったね、ピトフーイ。()()()()()

「ッ! がああああ!」

 

 アリゲーターの言葉、そして今までの行いで溜飲を下げたのか女帝は口角をあげ、答える。

 その直後、ズブリと音を立て女帝の腕がピトフーイの胸から引き抜かれ、その身体が落下する。

 ビクリビクリと痙攣し胸を抑えるピトフーイ、鳥の特徴を持った踊り子のようなその身体が変化を始めた。

 

「うーん、予想以上にダメージが大きいね。アリゲーター、頼んだよ」

「御意。彼に修理するよう渡しておきます」

 

 ピトフーイから引き抜いた腕、その握りこぶしの中身を確認した女帝はそれをアリゲーターへと差し出、開く。

 ポトリとアリゲーターの手に落ちたのは鳥、ピトフーイの描かれた赤いフレームのスコアプレートだった。

 

「直るまでは大人しくしているんだね、ピトフーイ」

「……は、い。この度は申し訳ありません」

 

 女帝が話しかけた先、ピトフーイの姿は人間へと変貌していた。

 ウェーブのかかったオレンジベージュの髪を持つ、顔立ちの整った女性。

 胸元の開いた白いカジュアルドレスに包まれた彼女は痛みに耐えながら跪く。

 

「うん、次はないから気をつけてくれ給え。それと……あぁ、カープ。君のプレートも取り出そうか。おいで」

「……いや、女帝の手を煩わせることはない。ッ!」

「ん? おやおや……」

 

 首を傾げる女帝の前で立ち上がったカープは自らの腕を胸に突き刺した。

 全身に広がる激痛に顔を歪めながらその腕を引き抜き、プレートを抜き取ると人の姿へ変じながらアリゲーターへとプレートを投げ渡す。

 黒のカンフースーツを身に纏った茶色の髪の男は肩で息をしながらも女帝のことを睨みつけ、ピトフーイであった女性に肩を貸し部屋を去っていった。

 

「ふぅむ。何か嫌われるようなことしたかな? 私は。どう思う、タイガー?」

「えぇ……まぁ、カープくんは気難しいですからねぇ。まぁ、ご心配いりませんよ。お二人の分も私が働きますから」

「そうかい。なら気にしなくてもいいね、任せたよ」

 

 心の底から意味が分からない、そういった様子の女帝の言葉にタイガーは愛想笑いを浮かべ相槌を打てば女帝は満足げに頷き玉座へと深々と座り込む。

 タイガーは笑みを崩さず、一礼し2人の後を追って部屋を立ち去った。

 振り返る一瞬、女帝に向けた軽蔑するような冷めた眼差しに気づいたのは静かに佇むアリゲーターのみだった。

 

 

******

 

 

 時間は遡り、戦闘の直後。

 

「ただいまー!」

「ピィピィピィー!」

 

 その後の処理、被害者のケアなどで手伝えることのない盈月は無闇に正体を明かさないためにもすぐに帰るようにと温斗から連絡を受け、その指示通り帰宅したところだった。

 元気よく家に入るといつものようにガルダが出迎えに飛んできた。

 1週間前の謎の発光現象で倒れたガルダだったがその後に獣医にかかったところ、疲労によるものと分かり、食事を与え休ませたら翌日には元気を取り戻していた。

 エリシアからの返事がないところを見るに彼女はまだ帰宅していないようだ。

 いつものようにガルダを腕に乗せ、ガルダは撫でられやすいように頭を差し出す……だが。

 

「……ピィーピィピィ?」

「……ごめんね、ガルダちゃん。ちょっとだけこうさせて……」

 

 盈月はガルダを乗せていない腕で軽く抱きしめ、ペタリと力なくその場に跪いてしまう。

 首を傾げるガルダだったが自身に顔を埋め、わずかに身を震わす盈月の様子に静かに身を寄せた。

 

「今日もね、頑張って戦ったんだよ。でもね……強かったの。温斗さんや博士が助けてくれたから勝てたけど、そうじゃなかったら私……」

「ピィ……」

「……エリシアになって戦えること、本当に嬉しかったんだ。ヒーローみたいになれたこと、みんなのために戦えること憧れてたから」

 

 幼い頃から連れ添ったガルダにだからこそ話せる本音。

 ポツリポツリと瞳の雫とともにそれが口から溢れてくる。

 

「痛いこともいっぱいあったけど頑張れる……そう思ってた。でも、毒で身体が動かなくなって一方的に蹴られて……本当に怖かった。死んじゃうって思った」

「ピィー。ピィ」

「……ありがとう、励ましてくれるの?」

 

 震える盈月に抱かれたガルダはその身を寄せ、ふわふわの羽毛で盈月の頬を撫でる。

 鳴き声の意味は分からずとも仕草から慰め励ましてくれていることは理解できる。

 だからこそ、盈月はガルダの好意に甘え、羽根に顔を埋める。

 

「……弱音吐いてごめんね、ガルダちゃん」

「ピィピィピィーピィ!」

「博士はいっぱい頑張ってくれてる、私のことすごい考えてくれてるから……博士の前では強くいなくちゃ、だね。助けてくれたかっこいい博士みたいに」

 

 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、「よぉし! 頑張るぞ!」と奮起し立ち上がる。

 元気を出したこと褒め称えるようにガルダは盈月の手の上でバサバサと大きく翼を羽ばたかせる。

 

「博士が帰って来る前に夕飯の支度をしなくちゃっと!」

「ピィ!」

 

 立ち上がった盈月の顔は少し目の周りが腫れている以外、いつもの明るい笑顔になっていた。

 それを応援するようにガルダも笑顔を見せる。

 盈月はガルダに今日の出来事を報告しながら玄関を去った。

 このやり取りは主従だけの秘密───とはならなかった。

 

「……当たり前だろ。まだ高校生だぞ、それくらい最初から分かってたんだ……」

 

 玄関、その扉に隔てられた外、そこにエリシアは帰ってきていた。

 すでに日は落ち切り暗くなった屋外、心配から勢いよく扉を開け放とうとする思いは内から漏れ聞こえた盈月の独白によりピタリと止まってしまった。

 

「私があいつに託して戦わせてるんだ……それなのに何も助けてやれてない……それどころか……」

 

 『博士の前では強くいなくちゃ』

 先ほど盈月の口から出た言葉を思い出し、思わず拳を壁に叩きつける。

 その顔には悔しさと自身への怒りがにじみ出ている。

 

「私が助けてやらないとダメなんだよ……私が押し付けてしまったんだから……」

 

 叩きつけた拳を握りしめ、爪が食い込み血が滴り落ちる。

 睨む視線の先は未だ分厚いギプスと包帯に包まれ言うことの聞かない右腕。

 この腕さえ治っていれば彼女を傷つけずにすむ───。

 そう思っても腕が治ることはない。

 その時、玄関の扉がガチャリと内側から開いた。

 

「……あ、博士! どうしたの? なにか音が聞こえたけど」

「いや……虫がいただけだ……」

 

 音を聞きつけた盈月がキョトンとした表情で扉の中からこちらを覗き込む。

 いつもどおりの表情……だが、よく見ればその頬には涙の痕跡が残されている。

 エリシアはその盈月から一旦目を逸らし、一度呼吸を整える。

 

「そんなことよりも、だ! 大丈夫か? 怪我とかは?」

「えへへ、心配してくれてありがとう。でも……うん、大丈夫だよ!」

「…………そう、か。なら、いいんだ」

 

 口元まで出ていた言葉を飲み込み、盈月に促されてエリシアは家の中へと入っていく。

 互いの本心を表層に表すこと無く、会話が終わる。

 笑顔で今日あった出来事を話す盈月とそれを同じく困ったような笑顔で聞くエリシア。

 本心を隠し合う2人はエリシアの包帯に覆われたギプス、その中から淡く青い光が漏れ出ていることに気づくことはなかった。




こちらでは年明け初投稿になります。
ここまで読了ありがとうございます。
活動報告の方にも記入し、タグを見ておや?と思った方もいらっしゃるかと思いますが改めてこちらでも告知致します。
この度、御縁がありまして当作品がハーメルンジェネレーションズへと参加する運びとなりました。
コラボなどがあった際にはそちらも楽しんでいただければと思っておりより一層精進していこうと思っております。
今後も頑張っていきますのでご意見ご感想、評価などしていただければ画面の前で喜びの舞を踊ります。
次回もお楽しみに!
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