仮面ライダーエリシア   作:teru@T

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第八話「悩みと決意を仮面に隠し」

「……誰かに付けられてる?」

 

 星と月が闇夜を照らす中、女は1人帰路についていた。

 いつも行き来する何の変哲もない道。

 だが、偶然にもいつもより遅い時間に帰宅した今日、いつ頃からか背後に気配を感じ続けていた。

 

「気味悪い…‥早く帰ろ」

 

 背後を振り返っても誰もおらず、その度に首を傾げるが感じる気配が消えることはなかった。

 徐々に不気味に感じる気持ちが強くなり、歩みを速めるもそれに合わせて気配が強くなっていく。

 ついに横にある植え込みがガサガサ!と大きな音を立て、女はビクリと驚いて足を止めてしまう。

 

「……だ、誰かいるの!?」

 

 女の声にガサガサと揺れていた植え込みがピタリと止む。

 恐れながらも音のした植え込みを凝視し続ける。

 ───にゃあああ。

 

「……何よ、驚かさないでよ!」

 

 植え込みから聞こえた猫の鳴き声にホッと胸を撫で下ろし、再び帰路へつこうと横を向く。

 その彼女の眼前へと猫によく似た顔が覗き込む。

 

「ニャアアオ!」

「き……きゃあああああ!」

 

 女性の目の前に突如現れた尖った耳を持つ猫に似た異形は鋭利な爪を振り上げていた。

 それに気づき、大声を上げるも抵抗の間もなくその爪は───

 

「そこまでだ」

 

 ───振り下ろされることはなかった。

 異形の振り上げた腕はその身体ごと側面より放たれた光弾に弾き飛ばされたのだ。

 それに続いてレディッシュとその部下の警察官が現れ、襲われていた女性を助け出す。

 

「指示に従って避難をお願いします!」

「は、はい……ありがとうございます!」

 

 女性はレディッシュに礼を述べると同伴した警察官に促され足早に現場から避難する。

 その間にも起き上がろうとするスコアノートへとイツツボシューターを放ち、牽制して動きを封じ続ける。

 

「こいつは……ネコか?」

『いいや、特徴からしてヤマネコ、リンクススコアノートだね! 相変わらず夜目が効く敵だから注意してくれよ温斗!』

「あぁ、任せておけ!」

 

 異形───リンクススコアノートは妨害された怒りからか毛を逆立たせその場から大きく跳躍、近場の樹の上に着地しレディッシュの連射から脱する。

 闇の中で赤く輝くレディッシュの瞳はリンクスの姿を一瞬見逃すが即座にそちらへと銃口を向け、次の動きを警戒する。

 

「ギニャアアオ……!」

「速い……けど捉えられない速さじゃない!」

「ニャアオ!!」

 

 レディッシュの銃撃を皮切りに戦闘が再開された。

 不意打ちではない攻撃にリンクスは樹から飛び退き回避するとそのままレディッシュへと飛びかかる。

 自身の武器が鋭い爪であることも考慮して銃撃主体の敵に対し本能的に接近戦を選択したのだ。

 だが、レディッシュそれに対抗し、左腕のスロットにクワガタ虫が描かれた疑似プレートを装填する。

 

《ブレードスタッグ! BUG SET(ヴァセット)!》

 

 迫るリンクスの爪に対して右腕を突き出すと右腕の各所からエネルギーが吹き出し、クワガタ虫の角を模した歪曲した剣を形作り受け止める。

 爪と剣、両者の力は拮抗し弾き合う。

 弾かれる度にリンクスは高速で移動しレディッシュの死角を狙うがそれ全てにレディッシュは対処する。

 数度の打ち合い、その後に変化を見せたのはレディッシュだった。

 

「ギニャアオ!!」

「……ここだ!」

《スプリングホッパー! BUG SET(ヴァセット)!》

 

 攻撃と攻撃の狭間で左腕に新たにバッタの描かれた疑似プレート装填。

 その変化も厭わずにリンクスが振るった爪はその場で空を切る。

 その場にいたはずのレディッシュの姿が消え、踏み出したリンクスはその場でたたらを踏むこととなった。

 

「ニャ!?」

READY FLASH(レディッシュ)! スプリングホッパー!》

 

 姿を消したレディッシュを探し周囲を見回すリンクス。

 しかし、自身の位置を示すように鳴り響いた必殺技の起動音が響いたのは上。

 咄嗟に見上げたリンクスの目に写ったのはバッタを模したスプリング、その力を使い跳躍しリンクスへとトドメを刺すために狙いを定めたレディッシュだった。

 

RESOLVE(リゾルブ) FINISH(フィニッシュ)!》

「はあああああ!」

 

 赤い閃光を宿した両脚。

 右脚で空中を蹴り付け落下速度を加速、直後に左脚を突き出しリンクスに接触の瞬間にスプリングを解放、全てが破壊力へと変換された一撃が叩き込まれる。

 必殺の一撃を受けたリンクスは悲鳴を上げる間もなく爆散、スコアプレートと依代になっていた人間へと分離された。

 

『スプリングで跳躍力を上げて死角からフィニッシュ! 単純だけど使いこなしてるじゃないか!』

「単純は余計だ……しかし、これで深夜の出現は今週4件目か」

『こんな時間、それも夜行性の動物をベースにして活動させていたなら……まぁ、どんだけ昼間に注意しても行方不明の被害が減らなかったわけだねぇ』

「……兄さんのは感謝しないといけないね。()()のおかげでその被害も減らせている」

 

 変身を解除した温斗がレディッシュリーダーを操作すると周辺の地図が映し出された。

 初めて変身し戦ったあの日、兄である涼に渡されたデータの正体、それはスコアノートを発見するレーダーだった。

 まだ開発中であり、精度には難があるが今まで暴れたところに駆けつける後手の対応しかできていなかったことを思えば大躍進だろう。

 

「そういえば煌琉、これをエリシアさんと盈月さんには?」

『さっさと取りに来いって定期的にメッセージ送ってるんだけどなぁんか忙しいの一点張りでまだなんだよ』

「ふむ? 何かやってるのか? まぁ、とにかく事後処理終わらせて戻るよ。流石にここ最近寝不足でね……」

 

 会話も程々に切り上げ、通話を終了すると温斗は事後処理や被害者のケアを行う警察官の元へと合流するのだった。

 

 

******

 

 

 ───帝国、女帝の間。

 現在、女帝の前にいるのはタイガーとアリゲーターのみ、プレートの修理が終わっていないカープとピトフーイには暇を出したままだ。

 

「どういうことかな。ここ最近、スコアノートが減る一方みたいだけど?」

「バレにくいように深夜に動くように指示しているんですがねぇ」

「……今までと同じでこうも撃破される以上、何らかの策が人間たち側にもできたとみるべきでしょう」

 

 苛つく様子を隠すことのない女帝に対しまたかと呆れ気味なタイガーとフードに隠れ顔は見えないが普段と変わらぬ様子のアリゲーター。

 そんな彼らに更に苛立ちを募らせたのか女帝は更に言葉を続ける。

 

「いやいや、報告が聞きたいわけじゃないよ。どうやって補填するのかって聞いているんだよ?」

「……すぐにでもこちらも策を講じます故しばしお待ちを」

「……タイガー、君も同意見かい?」

「えぇ、向こうが何をやったかは推測はできますがまずは検証からですから。なるべく急ぎますよぉ」

 

 女帝が言葉で詰め寄ろうとも両者ともにのらりくらりと受け答える。

 その様に女帝は苛立ちを隠しもせず、大きなため息をつく。

 しかし、何かを思い出したのかタイガーへと視線を向けた。

 

「ねぇ、タイガー。君が動くまでまだ時間がかかるんだろう? それならライノスを連れてきてくれ。良い作戦を思いついてね」

「……彼はピトフーイよりも精神が安定していないのでまだスコアに慣らしている状態と前にお伝えしたはずですがねぇ?」

「覚えてるよ。だからこそ、都合がいいんだ」

 

 女帝の言葉に苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべるタイガー。

 命令であれば断るわけにはいかない、だが面倒なことを考えているのは間違いないだろう。

 タイガーの表情に溜飲を下げたのか女帝は上機嫌に催促する。

 

「……はぁ、今お連れしますよぉ。悪いようにはしないでくださいねぇ」

「あぁ、頼むよ」

 

 先に折れたタイガーはシルクハットを目深にかぶり、静かに退室していく。

 それを見送った女帝は玉座に深く座り直すと経過を見守るアリゲーターへと視線を向けた。

 

「君にはライノスの補助をお願いするよ」

「御意に……して、何をなさるおつもりで?」

「なに、大したことじゃないよ」

 

 フードで表情の見えないアリゲーター、さりとて女帝の気まぐれにも声色1つ変えることはない。

 彼はただ女帝の言葉を聞き、実行するそれだけでいい。

 

「ちまちま集まらないなら大量に持ってくればいいだけって思ってね」

 

 静まり返った部屋の中、弾むように語る女帝の言葉のみが反響していた。

 

 

******

 

 

 ピトフーイによる襲撃から1週間ほどが経過したとある朝。

 

「博士ー。朝ご飯とお弁当持ってきたよー?」

 

 盈月が2種類の手提げ袋とタンブラーを持って研究室をノックする。

 中から声は帰ってこずに扉が開かれ、エリシアが姿を見せる。

 相変わらず右腕を吊っているのに変わりはないが目の下には新たにクマを蓄えていた。

 

「毎日悪い。朝飯もわざわざ」

「気にしないで……でも、ちゃんと休んでね?」

「……あぁ、もう少しで完成するからそうしたら休むよ」

「そっか……」

「あぁ、それとこれを」

 

 会話もそこそこに手提げとタンブラーを受け取ると代わりとばかりにエリシアは1枚のプレートを盈月へと手渡した。

 ダチョウの描かれた青い純化済みのプレートだ。

 

「これ、この前ガルダちゃんが純化した……?」

「もう1週間経った、好きに使え。それだけだ」

 

 用件を終えるとエリシアはすぐに研究室の扉を閉じ始める。

 それに対し盈月は「あ、あの……えっと」と言葉を詰まらせながらエリシアのことを引き止めた。

 

「まだなにか用事か?」

「あ、いや……えっと、夕ご飯はどうするのかなぁ~って思って」

「あぁ……用意が面倒なら作らなくてもいい。何か適当に頼むよ」

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「それじゃあな、まだ忙しいんだ。お前も学校いかないとダメな時間だろ?」

「あ……うん……」

 

 盈月が何かを話したそうにしている中、強引に話を打ち切るとバタンと扉を閉じてしまった。

 再度扉を開くのも忍びないそう感じたのか、はたまたまたあしらわれると直感したのか盈月は肩を落として扉の前から玄関へと向かう。

 そのまま靴を履き替え、外へ出る前にチラリと廊下の奥に見える研究室へと視線を向ける。

 

「……いってき、ます」

 

 小声でつぶやくその声に返ってくる言葉はなく、そのまま踵を返し玄関を施錠すると浮かない表情のまま学校へと向けて歩を進めていく。

 対するエリシアは扉を閉めた後、作業場へと戻ること無く扉にもたれるようにその場にうずくまっていた。

 

「何が忙しいだよ……どんな顔してればいいか分からないから逃げたくせに……」

 

 やり場のない思いを抱えたまま、自身に向かってついた悪態を噛みしめる。

 

「……盈月、何話したかったんだろうな……」

 

 この1週間、彼女(盈月)のことを考えなかった時間はないだろう。

 それでも対面した時間は短い付き合いとはいえ今までよりもずっと短い。

 ふらりと幽鬼の様に立ち上がり、作業場へと向かう。

 開発が終わっていないことは本当だった、作業場の上には斧の様な形状の新たな武器、そして純化の終わったプレートなどいくつかの品が並んでいる。

 

「……こんなの作る意味は無いんだ……あいつが戦いたいわけあるはずない……」

 

 そのうちの1つを握りしめる。

 よく手に馴染む、見慣れた()()を。

 

「それでも……それでももし、あいつが求めるなら私は……」

 

 偽る必要のなくなった三角巾を床へと投げ捨て、エリシアは再び開発へと没頭し始めるのだった───

 

 

******

 

 

「はぁ~……」

「おぉー? えいげっちゃんがため息とは珍しいねー」

「今日ずっと元気ないけど何かあった? ほらほら、甘いの飲んで元気だそう?」

 

 朝のエリシアの態度にモヤモヤを抱えたまま昼休みを迎えた盈月は大きなため息をつく。

 珍しい盈月の様子に吉美と詩歌が顔を覗き込んでくる。

 励ますために詩歌から差し出されたパックジュースのストローを「ありがとぉー」と浮かない顔のまま咥え、一口啜る。

 

「そんで? どうしたの。嫌なことあった?」

「んー……ちょっと色々ー」

「この前から勉強してた免許の試験に落ちたとか?」

「んと、それはね……じゃーん」

 

 盈月はパスケースからカードを取り出し2人へと見せた。

 それは緊張しているのか少し表情の硬い盈月の顔が映し出された正真正銘の二輪免許だった。

 

「この前の休みにちゃんと合格したんだよ」

「おぉーすごいじゃん」

「頑張ったねーえいげっちゃん。はーい、お祝いにサンドイッチ1つあげちゃおう」

「えへへ。学校終わって勉強いっぱいしたもん」

 

 詩歌から渡されたサンドイッチを美味しそうに舌鼓を打つ盈月。

 そんな彼女の目の前に吉美がポケットから取り出したものをかざした。

 それは白と黒で彩られデフォルメされたワシを象ったキーホルダーだった。

 

「そんじゃあ、私からこれ! はい、お祝い!」

「わぁ、可愛い! ガルダちゃんみたい!」

「そーでしょう! ひと目見てえいげっちゃんはこれ!って思ったの! あ、詩歌にはこれねー」

「私もあるんかい。まぁ、今知ったのにお祝い用意してあるわけ無いか。あんがと」

 

 詩歌にはきつねのキーホルダーを渡し、自身のスマホケースに付けた犬のキーホルダーを見せた。

 3つとも同じ会社の製品のようで良く似たデザインをしていた。

 

「3つとも可愛い! ガチャガチャで余ったりしたの?」

「ちゃんと買ったやつですー! ちょっと高かったんだよー……GPS付きキーホルダー」

「えいげっちゃん、回収回収。悪いことしようとしてるよこの子」

「しーまーせーんー! ちゃんと理由あるから聞いてよー!」

 

 GPS付き、それを聞いた詩歌は咄嗟に吉美の近くを離れ、きょとんとする盈月を守るように密着する。

 さすがの盈月も怪しむような視線を向けるがその二人の前で吉美は弁解を始める。

 

「ほら、行方不明の事件まだ無くならないでしょ。それに公園の時みたいな化け物もいるし……」

「それは……確かにそうだけど」

「だから、縁起でもないけどもし2人が学校来なくなったときとか私が来ない時にこれあれば探せるかなって……」

「吉美……うん、ありがとう」

 

 言葉にすることで改めてその不安が過ぎり、手を握りしめる吉美の手を盈月が包みこんだ。

 先ほどまで励まされていた盈月が今度は励ますような柔和な笑みを浮かべる様子に詩歌も納得したのか、はたまた諦めたのか吉美の髪をくしゃくしゃに撫でる。

 

「しょうがないなぁ悪用するなよー?」

「しないしー! それと髪くしゃくしゃになるでしょー!」

「後でといてあげるからーそれと私たちにも探し方教えなー?」

「私も撫でるー! いつも撫でられてばっかりだもん!」

「うぅー! 2人共あとで覚えてろよー!」

 

 3人で戯れた後、ボサボサになった吉美の髪を詩歌がとかしながらGPSの探し方を3人で共有し合う。

 盈月の悩みが消えたわけではない。

 それでも、友人との他愛のない時間、彼女の日常は掛替えのない安らぎを彼女へと与えていた。

 

「おい、あれなんだ? ほら、正門のところ」

「何だあいつら。コスプレ集団?」

 

 吉美の説明が終わった辺りで屋上にいる生徒たちがざわつき始めていた。

 周囲の反応から正門に謎の一団が現れていたようで騒ぎに気づいた生徒から順次、下を眺めている。

 盈月たちも集まる生徒たちに従うように金網の隙間から正門を覗き込む。

 

「……ねぇ、2人共。あれって」

「うん……公園のときの……」

「なんで……ここにスコアノートが……!」

 

 彼女たちが青ざめた顔で覗き込んだ先、正門には集ったモノコーンの集団と2体のスコアノートが正門を乗り越え学校を進行し始めていた。

 初めに被害にあったのは異常を聞きつけ駆けつけた体育教師。

 何事かとモノコーンたちへと近づいたそのままに捕獲され、有無を言わさぬままに正門の外へと運び出されていく。

 野次馬をしに校庭へと出てきた生徒たちはその様に危険を感じ逃げ出すが先の教師と同じ様に次々と捕獲、抵抗の激しいものは殴打され気を失わされる者もいた。

 

「……吉美、詩歌。ここにいるみんなと一緒に避難して! 私もすぐに行くから!」

「あっ、ちょっと!?」

「えいげっちゃん!? 待って!」

 

 混乱が伝播する中、生徒たちが階段へと殺到するよりも早く盈月が走り出す。

 飛び降りる勢いで段を飛ばしながら階段を駆け下り、階下へと向かう。

 出遅れた吉美と詩歌も追いかけようとするも盈月の動きに触発された生徒たちの波に飲まれ彼女の姿はすぐに見えなくなってしまった───

 

 

******

 

 

 ───学校の襲撃とほぼ同時間。

 

「反応があったのはこの辺りだが……なにもないな……」

 

 昨晩のリンクスの件の事後処理を片付け、仮眠をとっていた温斗だったがレーダーに反応があったため白バイを駆り出しその地点へと向かっていた。

 だが、反応を見つけた時点から違和感はあった。

 示した地点は街の外れ、人気も少ない田畑や空き地が複数ある地域であり今まで人の多い場所に出現するケースからは外れていたのだ。

 

『目視では確認できない……煌琉、レーダーの反応はどうだ?』

『こっちもダメだ、反応がすでに消えてるよ。誤作動だったのかもしれないねぇ』

『被害が出てない無いのならそれでいいが……』

 

 実際に反応があった空き地へとやってきたが農作業具を収めているであろう倉庫以外目立ったものはなく、人影も当然無かった。

 違和感は残るが実際何も無い以上、帰還しよう。温斗がそう考えたときだった。

 

「おやおやぁ、本当に来ましたねぇ……やはり、何かこちらを探知する仕組みを作りましたね?」

「ッ! 誰だ!」

 

 響いた声は倉庫の裏、コツコツと地面を叩くようにステッキを鳴らしながら現れたのは先日姿を見せた喋るスコアノートの1体───盈月から報告のあったタイガーだった。

 同時にタイガーの従えるモノコーンたちが温斗を取り囲み逃げ道を無くす。

 それに対し温斗はイマージュベルトを腰にセット、レディッシュリーダーを構えて迎え撃つ。

 

「私の位置を特定できなかった辺り精度はそこまででも無さそうですが……どういう代物か、教えていただけませんかねぇ? こちらも対策しますから」

「はいそうですかと教えるわけがないだろう?」

「でしょうねぇ……ならば、無理矢理聞き出すとしましょうか。これは必要なことですからお咎めもないでしょうしねぇ!」

「逆に洗いざらいお前たちのことを話してもらうことにするよ……! 変身!」

 

 タイガーが動き出したのに合わせて温斗はレディッシュへと変身、同時にランスビートルを装填する。

 周囲から迫るモノコーンたちを銃撃で牽制し、タイガーの振り上げた杖はランスで受け止めた。

 正面から受け止めたにもかかわらず、重い一撃にレディッシュはわずかに後退させられていた。

 

「くっ……!」

「ほらほら、そんな程度ですかぁ!」

 

 タイガーの動きに合わせ、白と黒の虎柄の毛が腕に生えたモノコーンたちがレディッシュへと殺到する。

 四方八方から迫る敵にランスを振るい、銃撃を織り交ぜ順番に撃破していく。

 素早く重いタイガーの攻撃は体勢を崩していては受け止めきれないと回避に専念するもそれを邪魔するかのごとくモノコーンが群がる。

 

「舐めるな!」

《サイスマンティス! BAG SET(ヴァセット)!》

 

 新たにカマキリの疑似プレートを装填するとレディッシュの両脚に歪曲したブレードが一対出現、ブレイクダンスの様に逆立ちし足を回転させることで群がったモノコーンたちを一息に切り裂く。

 予想外の攻撃に対しタイガーは深追いすること無く距離を取る、しかし、その着地点を狙うように放たれた赤い閃光(ひかり)

 咄嗟に身を躱すもその腕を掠め、自慢の一張羅に一筋の傷を刻みつけた。

 

「ハッ! 多才ですねぇ! ストレス発散には丁度いいですよぉ!」

「っ! 目的は一体なんなんだ!?」

『温斗! 大変だ! 街にもスコアノートが!』

 

 煌琉から入る通信に仮面の奥で温斗が目を見開く。

 長引かせるように戦う目の前の敵、そしてこのタイミングそれが意味することは───

 

「陽動か……! くそ、最初からハメられてた訳か!」

「はい……? 何の話でしょう?」

「あくまでしらを切るつもりか!」

 

 温斗の言葉に首を傾げるタイガー。

 その態度と急ぎ戻る必要ができたレディッシュは反撃を恐れずにランスと両脚の鎌、銃撃を組み合わせ今まで以上に過激に攻め通す。

 だが、困惑しながらもタイガーはその攻撃を捌きながら思考し、やがて1つの結論へと至るとステッキを用いてランスの一撃を受け止め、その威力を利用し大きく距離を取る。

 

「……あぁ、そういうことですか。えぇ、理解しました……はぁ、興醒めですねぇ……」

「なに……?」

「今日はここまでにしておきましょう……どうぞ、行ってあげてくださいな」

 

 察しのついたタイガーは突如やる気を無くしたのかクルリとレディッシュに背を向け、シルクハットを軽く上げ会釈するとその場から素早く移動しその姿を消してしまった。

 突如訪れた静寂にレディッシュはしばし呆然としていたが煌琉に呼びかけられ、急ぎバイクへと戻り、発進させる。

 

「すまなかった。出現場所は?」

『場所は羽頃盛高校。通報も入って署内も相当慌ただしくなってるよ』

「高校を!? 分かった、対応はこちらで考えるから煌琉はエリシアさんに連絡を頼む」

『了解、出るまでかけるよ。盈月ちゃんにはどうする?』

「そちらは必要ない。エリシアさんに伝えればそっちから伝わるだろうから被った方が面倒だ。それに」

 

 変身を解除し通話をハンズフリー通話へと切り替える。

 逸る気持ちを抑えながらそれでもギリギリの速度を出し急ぎ移動する。

 

「───彼女がなにか言われるまで大人しくしているとは思えないからね」

 

 

******

 

 

 スコアノートたちの襲撃を受けた羽頃盛高校は阿鼻叫喚となっていた。

 モノコーンたちは昇降口から校舎内へと入り、内部の生徒にも手を出し始めていた。

 生徒たちはパニックに陥りながらも教師の指示で裏口へと走り、逃げ惑う。

 

「きゃっ!」

 

 そんな中、他者に押されたのか足がもつれたのか1人の女生徒がつまずき転んでしまう。

 すぐに起き上がり再度走り出そうとするも顔を上げればこちらを見下ろすモノコーンと目があってしまう。

 恐怖に顔がひきつる中、モノコーンの手はその女生徒へと伸ばされ───

 

「たああああ!」

「っ!?」

 

 彼女を掴むよりも早く踊り場から飛び降りた盈月の飛び蹴りがモノコーンを壁へと吹き飛ばした。

 蹴りの反動で勢いを殺しその場に着地すると盈月は女生徒を助け起こす。

 

「大丈夫!? 走れる?」

「は、はい! ありがとうございます!」

「良かった、なら逃げて! 私は逃げ遅れてる人探してくる!」

 

 それだけ言い残し盈月は走り出し、女生徒は呼び止めようとするも盈月が倒したモノコーンが起き上がり始めたのを見て急ぎ裏口の方へと走り出した。

 起き上がったモノコーンは周囲を見回し、逆方向に走る盈月と女生徒をそれぞれ視界に収めると盈月の後を追うように走り出し更に上階から数匹のモノコーンが盈月を追って出現、合流する。

 

「さっきから見つかる度にすっごい追われてる!? なんで!? 助かるけど!」

 

 盈月自身が屋上から飛び出した後、何度か階層を上下し校内の多くの生徒に声をかけたこともあって残っている生徒教師は殆ど避難していた。

 今なら誰にも見られることはない、そう確信した盈月は足を止めイマージュベルトを取り出し腰へと装着、迫るモノコーンたちと対峙する。

 エリシアから教えられたモノコーンの特徴、それは肉体の一部に産み出したスコアノートの特徴が現れるというものだった。

 今、目の前にいるのは赤い鱗を付けたモノと頭部に小さな1本角を生やしたモノの2種類、すなわち産み出したスコアノートも2体いることになる。

 これ以上時間はかけられない、そう考えた盈月はスコアリーダーとイーグルプレートを取り出す。

 

「えいげっちゃんに!」

「手を出すなー!」

 

 響いたと声に咄嗟にリーダーとプレートをポケットにしまい込むと同時に背後から飛び出してきた吉美が消化器をモノコーンたちへと浴びせかけ、詩歌の手が盈月を掴んだ。

 白い消火剤に包まれ足を止めたモノコーンたちを尻目に2人は盈月を連れ出し、走り出す。

 

「吉美に詩歌!? どうしてまだ逃げてないの!?」

「それはこっちの台詞! 一番に飛び出したと思ったら!」

「きっと公園の時みたいに人助けしてると思ったの! 今度は置いてったりしないからね!」

「それは……ごめん、ありがとう……」

 

 詩歌の手は震えながらも込めた力を緩める様子はない。

 吉美の顔にも恐怖の色が見える、それでも2人とも友を助けるために勇気を振り絞っている。

 急がなければならない……だが、その様に盈月はその手を振り払えずにいた。

 

「(どうしよう……このまま一緒に避難したら変身もできない……!)」

「もうちょっと、ここの階段降りたら近道!」

「ザアアアド!」

「こっちにも化け物……!」

 

 2人に連れられ着々と逃げる盈月。

 階下へと降りようとした時、下から1体の異形が上がってきた。

 赤い鱗を持ったトカゲの異形───リザード・スコアノートが立ちはだかる。

 咄嗟に吉美が中身の無くなった消化器を投げつけるが腕を振るうだけでその鋭利な爪が鉄の容器をたやすく切り裂いてしまう。

 更に背後からは足止めされていたモノコーンたちも追いついてきて3人は窮地に立たされる。

 

「ど、どうしよう……」

「囲まれちゃってもうダメなの……?」

「……うん、今は仕方ない、よね……2人共、今から見ることは秘密にしてね」

 

 それでも盈月を守るように固まり、震える2人に対し盈月は覚悟を決めて詩歌の手を振り払い2人の前へと出る。

 正面には自分たちを取り囲むように構えるスコアノートたち、そして背後には恐怖に耐えながら友を救おうとする友人の声、その2つに挟まれながら盈月はリーダーへとスコアプレートを装填する。

 

《フライトイーグル!》

 

 盈月の行動に何が起こっているのか理解できずに驚く吉美と詩歌を尻目に盈月はリーダーを天へと掲げ勢いよくベルトへセットする。

 

「変身!」

SET(セット)! YOU(ユー) ARE(アー) MAJESTY(マジェスティ)!》

REQUIP(リクイップ)! フライトイーグル!》

 

 音声が響くとともに2人の眼前で盈月の姿が光りに包まれ変化する。

 友人の姿が正義の戦士───仮面ライダーへと変わる姿を。

 

「え、えいげっちゃんが……」

「噂の仮面ライダー!?」

 

 驚く2人の前、2人を護るように構えるエリシアはスコアノートたちへと対峙する。

 その胸のうちにある悩みは今は無く、決意のみを抱えて───




ここまで読了ありがとうございます。
月に1話の更新ペースになってきました。
ですが次回はもう少し早いはず……本当はこの話に入れるつもりですでに書いてあるので……そうだと良いな……
色々人間関係に変化が起きそうな感じですが今後も楽しんでいただければ幸いと思っております!

また次回もお楽しみに!
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