問い・人は平等であるか否か
僕からすればこんな問いは無駄で無意味で無価値だ。人の社会は不平等に溢れ、人の生活を不公平が騒ぎ立て、人の人生は不穏に満ちている。
真っ暗で先も見えない世界を僕が手探りで歩いている中、隣の知らないヤツは希望という名のライトを手に持ち、先へ先へと進んでいく。それに不平不満を漏らそうと、
火を見るより明らかとはよく言ったもので、平等なんてものはどこを見たって存在しない。ただそれでも、僕たちは考えることが出来る生き物だ。故に、僕は堂々とそれに答えよう。
不平等を前に、人は平等である。と
そういうことを聞いてるわけじゃないって? よせよ、僕たちの仲だろう?
◇◇◇
4月、入学式。僕は赤い制服を身に纏い、これから始まる高校生活に思いを馳せながら、揺れるバスの中後ろを向いて立っている。前を向くと
目的地までまだ時間があるようなので自己紹介をしておこう。
僕の名前は『球磨川禊』、家族構成は母が1人父が1人姉が1人に妹が1人。なんてことは無い一般家庭生まれだ。如何にもライトノベルでありそうな設定だけど僕は漫画派だしもっと言うなら週刊少年ジャンプ派、趣味は週刊少年ジャンプ鑑賞、好きな物は週刊少年ジャンプで嫌いな物は
出来のいい姉妹に挟まれた最低愚作、それが僕だ。
そんな僕が今向かっている学校は高度育成高等学校と呼ばれる政府公認の……これは長くなるからまた今度ね。
そんな他愛のないことを考えるのにも飽きてきたところで前を見ると。自分と同じ制服を着た黒髪ロングの少女に気づいた。本を読んでいるその姿は非常に様になっている。美少女というのはこういう娘のことを言うのだなぁと感慨深く思っていると、少女が視線に気づいたのかチラリとこちらを見た。一瞬、目が合ったと思うと興味なさそうに再び本に目を移した。失礼な女の子だぜ、全く。
それから程なくして目的地に着いた。目の前には学校へと続く門、自分と同じ制服を着たうら若き少年少女達がくぐり抜けていく。
さて、行こうかと足を踏み出そうとした時。
「そこの二人」
どこかの誰かが二人組に話しかけているようだった、今のはお前に声をかけてただろって? いやいやまさか、僕はこれから3年間誰に話しかけられることも無く誰に話しかけることも無い天涯孤独の身で高校生活を送ろうと決めてるんだぜ? それがまさかたまたま隣に並んだ男子高校生とセットで呼ばれるわけ……
「そこに並んでいるあなたたちのことよ」
『うん? どうかしたのかい? 何を隠そう僕たちは幼なじみなわけだけど?』
おもむろに隣の男子高校生と肩を組みピースをしながら振り返る。
「いや、俺たちは別に幼なじみじゃ……」
『僕たちの仲じゃないか!』『ほら、よく言うだろう?』『旅は道ずれ諸行無常』『みたいなやつ』
「それを言うなら【世は情け】じゃないか?」
息のあった二人の会話を見て、少女は露骨に失敗したというような顔をすると、口を開いた。
「あなた達、二人してどうしてこちらを見ていたのかしら」
『見ていた?』『僕が?』『君を?』
驚いたような顔で己を指さしながら確認をとる。
「そうよ、さっき目が合ったじゃない」
『目が合った?』『気のせいじゃないかい?』『もしかして自分の容姿が整ってるからって』『自意識過剰になっちゃってるんじゃないの?』『大丈夫、気にしないで!』『確かに君は可愛いけど』『僕が見てたのは君の読んでいた本だから!』『安心してね!』
「なっ……」
矢継ぎ早に捲し立てられた少女は赤面し絶句する。今にも爆発しそうな少女の様子を隣で見ていた少年が仲裁しようと間に入った。
「あー、見られているのが気になっていたなら悪かった。こいつが君を見ているから何かあるのかと気になったんだ。ちなみにこいつとオレは完全に初対面だし、幼なじみになった覚えもない」
「それよりも、ここで話し込んでいたら遅刻してしまう。早く行こう」
腕に巻いた時計を指さしながら二人を急かす。その言葉に少し冷静さを取り戻した少女が言う。
「はぁ、話してても無駄なようね。あなたたちとこれ以上顔を合わせることがないことを祈るわ」
そう言うと少女は足早に門をくぐり抜けていった。
「
『そういうこともあるさ』『気にしすぎないことが肝心だぜ』
肩を落とした少年の背中を軽く叩くと二人は少女の後を追うように歩き出した。
並んで歩く二人、第三者から見れば周囲を歩く多くの学生達とさほど変わらない様子だろう。しかし、当人たちにとっては違った。たち、と言うよりは一方は笑顔で気まずさの欠けらも無いような表情で歩いているので、もう一方が気まずさを感じているだけではあったが。そして、沈黙に耐えきれなくなった少年が口を開いた。
「えっと、自己紹介がまだだったな。オレは綾小路清隆、よろしくな」
少年の無難な挨拶に対して球磨川は奇術師のように深々と頭を下げ同じく自己紹介を返す。
『これはこれはご丁寧に』『僕は球磨川禊』『人生の中で唯一の自慢』『ならぬ不満は』『人生で1度も勝ったことがないこと!』
そう言うと、大きく手を振りあげ
『じゃん・けん・ぽん!』
掛け声に合わせ出された綾小路の手は【パー】
対して球磨川の手は【グー】
『また勝てなかった』
ほらね、と言わんばかりに肩をすくめる球磨川の勢いに、呆気に取られた綾小路が少し間を空けて口を開く。
「……一応オレがどんな人間かも教えておく。オレは人生の中で特筆すべき自慢も不満もない。事なかれ主義で、趣味とかも特にないけど、何にでも興味はある方だ。友人なんかも沢山は要らないけどある程度いたらいいと思っている、仲良くしよう」
一息に自己紹介を終えた綾小路を相手に、少しの間を置いて球磨川が問う。
『…………』『ほんとに?』
途端に張り詰める空気、空に雲がかかり、地上に影を作る。ともすれば気温の一度や二度下がっているのでは無いかと思うほどの変化。球磨川が不気味な笑みを浮かべ綾小路の顔を覗き込む。その瞳は光すらも呑み込みそうな虚無。何者も映し出さず、常人であれば目を合わせることすら憚られるような黒。
それに対し、
「本当だ。まさか自己紹介を疑われるとは思わなかったが、嘘をつく意味もないだろう?」
『……そっか!』『僕たち、案外気が合うんじゃない?』『よろしく!』『清隆ちゃん!』
「あぁ、よろしく。禊」
先程までの空気が嘘のように、屈託のない笑みを浮かべる球磨川。
その言葉に、その変化に、一切の動揺もなく平然と答える綾小路。
握手を交わした二人の背中を、雲の切れ間から差し込む光が照らしていた。
◇◇◇
握手をしたのも束の間、しばらく歩いていると掲示板の前に人が集まっているのが見えた。どうやらクラス表を張り出しているらしい。しかし、結構人いるな……
『僕が確認してこようか?』
「いや、オレが行こう。人も多いしオレの方が見やすいからな」
そう声をかけて、いざ行かん人混みの中へ。と意気込んではみたものの、目の前の人々を押しのけていく訳にも行かないので少しずつ近づくのを待つ。確認自体は焦るほどのことでも無いのでゆっくりでいい。
問題は禊と同じクラスになれるかどうかだ。せっかく入学式前のこのタイミングで仲良くなれたというのに別々のクラスだった時にはオレに待つのは絶望の日々、いくらか友人の作り方をシュミレートしてきたとはいえ、その通りに行くという保証はない。何よりせっかく仲良くなったのだから末永く友達でいたいと思うのは自然なことだろう。
考え込んでいたらクラス表が十分に見える位置まで来れたようだ……まずは禊から探すか。
禊…禊…あった。1-Dのようだ、さて、ここからが問題だと思っていたらオレの名前も1-Dにあるじゃないか。
思わず出そうになるガッツポーズを内心で抑え、平然とした顔で禊の下に戻る。
「悪い、待たせた。……えっと、そちらは?」
『いやいや』『こちらこそ僕の分まで確認してもらっちゃって悪いね』『ん?』『ああ、この娘は……』
オレが無事に禊の下に戻ると、もう1人、ストロベリーブロンドの美少女が増えていた。
「自己紹介遅れました、一之瀬帆波です! 球磨川くんにぶつかっちゃって謝ってた所なんだよね」
『君みたいな可愛い子にぶつかられるなら』『僕はいくらでも受け入れられるよ』
「ふふっ、球磨川くんは口が上手だね」
禊と一之瀬は既にそれなりに仲良くなっているようだった。
「そうだったのか、オレは綾小路清隆だ。好きに呼んでくれて構わない」
「じゃあ綾小路くんって呼ばせてもらうね!」
その笑顔は太陽のように全てを照らす光だった。というか実際に発光しているんじゃないか? というくらいには綺麗な笑顔だ。ここまで可愛い子に一切物怖じしない禊は何者なんだ……? さん付けで呼んでもいいくらいには尊敬できるな……。おっと、本題を忘れていた。
「そういえば禊さん、オレたち二人ともDクラスだったぞ」
『それはよかった!』『改めてこれからよろしく頼むよ!』
禊は大袈裟に腕を広げ喜びをあらわにした。そこまで喜んでもらえるとオレとしても嬉しいものがある。二人で喜んでいると、一之瀬が羨ましそうな顔をしているのに気づいた。
「二人は同じクラスだったんだね」
「一之瀬はどこのクラスだったんだ?」
「私はBクラスだったんだ…、せっかくなら二人と一緒が良かったな〜」
少しばかりしょんぼりと落ち込んだ様子を見せる一之瀬。そんな一之瀬に禊が声をかける。
『まあまあ』『同じ学年なんだから、話す機会なんていくらでもあるさ』
「まぁ、そうだな。まだ入学式なんだ、これから機会なんていくらでもある」
「そっか…そうだよね!」
うんうんと頷く一之瀬、美少女が様になっている。
「これから3年間よろしく! 二人とも困ったことがあったらなんでも言って!」
元気を取り戻した様子だ。よかった、男二人で女の子を傷つけたなんて話になったら落ち着いた高校生活どころの話じゃなくなるからな。何より美少女とはいくら知り合っても損はない。
『一之瀬さんも困ったら僕たちのことを頼るといい』『なにより僕は、いつだって弱い者と愚か者の味方だから』
「もちろん! 困ったらお願いするよ」
チラッと時計を確認するとなかなかいい時間だった。この3人で話している時間は惜しいがそろそろ行くべきだろう。
「一之瀬、禊。そろそろ教室に行った方がいい。雑談はまた今度しよう」
『おっけー』『じゃあ行こうか』
「うん! 行こう!」
禊が先行して校舎へと入っていく、それに続き一之瀬が、その後ろにオレが。早々に二人も友人が出来たことの喜びを噛み締めつつ教室へと向かうのだった。
◇◇◇
後ろの扉から教室へ入り、クラス中を見渡してみる。よく見てみれば既に何個かのグループが生まれているようだった。本来ならば完全に出遅れている現状、しかし、オレには友がいる。球磨川禊という友人が。
以前までのオレならば、どうやって教室に入ろうか…とか思い悩んでいただろう。しかし、オレには……
『あれ、奇遇だね!』『さっきの子じゃないか!』『さっきは聞けなかったけど名前は?』『ねぇねぇ名前は?』
オレが思考に耽っている間に、禊は己の席へと既に着いていた。オレの隣の席の一つ前。オレから見て右斜め前の席に座っている。そして、禊が声をかけている席。つまりオレの隣の席には……ついさっき、別れたばかりの黒髪ロングの少女がいた。
『ねぇねぇ、無視?』『無視なの?』『おーい、聞いてる?』
完全に無視されている。しかし、少女の方も無敵という訳では無い。本を読み、誤魔化しているようだがその程度じゃ禊は止まらない。ついには席を立ち上がり少女の机に直接話しかけに行く。
『ねぇねぇ、何読んでるの?』『罪と罰?』『いいね、僕も読んだことあるよ』
「はぁ……」
露骨に大きなため息。鬱陶しそうにため息を吐いている。本から一度目を離し、禊に向かって直接、
「私は、あなたを、無視しているわ」
そう言うと再び本に目を落とす。やはりここまでしても禊は止められない。
『ふーん、大丈夫!』『無視とかいじめとかそういうのは慣れっ子だから!』『僕は球磨川禊、君は?』
さすがにそこまでの絡み方は見ていて可哀想だし、助け舟を出してやるか。
「禊、そこまでにしてやった方がいい。これ以上は迷惑だ。仲良くなりたい気持ちはわかるがあまりしつこく聞くもんじゃない」
だが、と前置きをする。
「オレも隣人として名前くらいは聞いておきたいな。どうだろう、互いに自己紹介をするというのは」
オレから禊へのストップと同時に名前を聞く作戦。自己紹介さえ聞ければ禊も落ち着くだろう。しかし、そんなオレの甘い目論見は少女の一言によって潰えた。
「断るわ」
少女はそう言うと再び本に目を落とす。
「いや、でも隣人同士で名前を知らないというのは不便じゃないか?」
「私はそうは思わないわ」
「禊もそう思うよな?」
『もちろん』『僕は君の名前が知りたくて仕方ないよ』
「ほら」
「私は、そうは、思わない。と言ったのよ」
頑なに名前を明かしたくないようだ、しかし、知りたいからと言って無理を言いすぎるのもあまり良くないだろうし。ここら辺が潮時か。
「すまない、迷惑だと言うなら止めよう」
『僕は悪くない』『けれど、しつこかったのは認めるよ』『ごめん』
少女は再び大きなため息を吐くと気持ちを切り替えたのか、真っ直ぐな瞳をオレと禊に交互に向けてきた。
「私は堀北鈴音よ」
さすがにもう答えて貰えないかと思っていたのに、少女…堀北はそう名乗った。
『堀北鈴音……』『すっごく可愛い名前だね!』『これで笑顔を見せてくれたら』『もっと可愛いと思うんだけどなー』
チラチラと堀北の表情を窺うように言葉を続ける。堀北の方は依然変わらない無表情。しかし、堀北の顔もなかなかに整っている。一之瀬でさえ素晴らしく整っていたが、堀北もそれに負けず劣らずの美人だ。1つ2つは年上だと言われても違和感はない。
「残念だったわね、生憎あなたたちなんかに見せる笑顔は用意していないの」
『ふーん、そ』『もちろんのことだけど』『君は笑顔じゃなくても可愛いぜ』
禊はそう言った後、うんうんと少し考える素振りを見せてから顔を上げる。
『一ノ瀬さんが陽気な太陽光だとしたら』『堀北さんは静かに照らす月光だね』
おぉ、納得のいく例えだ。しかし、相手の知らない女の子をの名前を出すというのはどうなのだろうか?
「そういえば、オレは綾小路清隆。気軽にきよちゃんすずちゃんと呼びあ…いや冗談だ。そんな引いた顔しないでくれ」
ちょっとしたジョークのつもりだったが相当嫌だったらしいな、少し席の距離も離れているような気がする。それから数分ほどして、始業を告げるチャイムが鳴った。それとほぼ同時に、スーツを着た一人の女性が教室に入ってくる。
「えー、新入生諸君、私はDクラスを担当することになった
一息に挨拶までを終えると、資料を配り出した。
「これから一時間後に入学式があるが、それまでにこの学校の特殊なルールについて説明していく。この資料自体は以前入学案内と一緒に配布してあるから既に内容を覚えている者もいるだろう」
この資料は合格発表を受けた後に貰った物だ。中身はこの学校のルールについて記されている。特に他の高等学校とは違う特殊なルールは、ここが完全に隔離された施設だということだ。
敷地内にある寮での暮らしを義務付けると共に、外部との連絡は特例を除き、その一切を禁止している。たとえ肉親であったとしても学校側からの許可なく連絡を取ることは出来ない。当然ながら、敷地から出ることも固く禁じられている。
ただしその反面、学生が必要とするようなカラオケやシアタールーム、その他娯楽を取り揃えられている。大都会のど真ん中にある身でありながらその広大な敷地は60万平米を超えるらしい。
そしてもう一つ特徴がある。Sシステムの導入だ。
配布された学生証カードがクレジットカードのような役割をするらしい。カード内に貯まったポイントを使用して、敷地内にある全ての施設を利用したり、売店で商品を購入することが出来る。学校内において、このポイントを利用して購入できないものは無い。敷地内にある全ての物をポイントで購入可能だ、ということだ。
「施設では機械に学生証を通すか、提示することで使用可能だ。それから、毎月1日に
10万ポイント、つまり10万円を突然ポンと渡されたわけだ。その事実に周囲のクラスメイトの多くがザワついている。それは禊も例外ではなく……いや喜びすぎだろ。今にも飛び上がりそうな様子で指を立てたり折ったりして何を買うか考えているようだ。アイツは貯金できないタイプみたいだな。
前に向き直すと、説明がちょうど終わるところだった。
「何か質問はあるか?」
茶柱先生が教室内を見渡し、そう聞く。誰も彼も10万円に気を取られ手を挙げることはないかと思われたが……。
「球磨川、なんだ」
ただ1人が手を挙げていた。
『先生』『彼氏いますか?』
おお、これが噂に聞く、クソ質問……。
噂では誰が得する訳でもないのに意味もなく聞かれるものらしい。本来、プライベートのことなど聞くべきではないし、何よりこの問いはシステムに関することの疑問を解消するためのものだ。
だがこの男、勇気がある。身内での悪ノリでもなく、誰が得することも無い。ただ無意味な質問だが、気になってしまったものは仕方ないだろう。これを口にするのは言葉以上に難しい。
「いない。質問は以上か」
『えーと』『旦那さんはいるって意味ですか?』
食い下がるのか……。
「違う、旦那もいない」
『えー!』『先生綺麗なのにもったいなーい!』『僕立候補しちゃおうかなー!』
括弧つけた話し方なせいで、その言葉が本心かどうか分かりずらい。ともすればバカにしているようにしか見えないセリフを堂々と、茶柱先生の目を見ながら言ってのけた。
「生憎、今は募集していない。質問はそれで終わりか?」
『はい!』『これから3年間よろしくお願いします!』『茶柱先生!』
茶柱先生から発される軽蔑が混ざった眼差しをものともせずによろしくとのたまう禊。やはりさんを付けた方が良いかと悩んでしまうな……。
教室を出ていく茶柱先生の背中を見送っていると、堀北が声をかけてきた。
「思っていたほど、堅苦しい学校じゃないみたいね」
『ね!』『もっと厳しいところかと思ってたよ』
「そうだな、施設が充実してるって話もそうだし。何より生徒全員に10万ポイントだ、1クラス40人だとして1600万ポイント。正直、どこまで信じていいのか分からないな」
正直、毎月10万ポイントなんて上手い話があるとは思えない。何かしらの裏があるだろう。
『ま』『考えてたって仕方ない』『そんなことより』『連絡先の交換でもしようよ』
そう言って禊が携帯を取り出す。それにつられオレも携帯を出す。しかし堀北は渋っているようだった。
『あれあれ?』『もしかして』『携帯持ってないのかい?』
禊が堀北の顔を覗き込み質問する。
「その通りよ。残念だけど携帯は持っていないの、分かったら諦めてちょうだい」
現代人で携帯を持っていない、というのは珍しいがゼロではない。良い避け方なのでは無いかと思ったのも束の間。禊が
『なーんだ』『そんな事だったの?』『ほら、これをあげるよ』『僕は携帯を全機種持ってるんだ』
携帯を持っている。にしても多すぎるし、信じ難い話だが、それよりも堀北の方が心配だ。ドン引きを隠せないという顔をしている。
「……堀北、これはもう仕方ない。携帯を取り出した方がいいんじゃないか?」
「……はぁ、そうみたいね。この調子で3年間絡まれ続けたらさすがに耐えられないもの」
本当に渋々という感じで携帯を取り出した堀北、持ってるなら言ってくれればいいのにと笑っている禊、その二人と連絡先を交換する。堀北には悪いが、一度に2つも連絡先が増えて、オレとしては嬉しい限りだ。
オレたちが連絡先を交換し終えた時、ちょうどクラスメイトの男子の一人が手を挙げた。
「みんな、少し話を聞いて貰えないかな」
聞くところによれば、自己紹介をしないかという話だった。クラス単位で見れば非常に素晴らしい提案だろう。誰もが思いつつも言葉に出来なかったのだから。しかし、ことオレに関してはいい事とは言えない。どういうテンションで挨拶すればいいのか、小ボケは挟むべきか、他とは違う奇抜なことをしてみるべきだろうか。考えることは山のようにある。
そして、提案をした
「えーっと、次の人──そこの君、お願いできるかな」
ついに来てしまった順番、必死に考えた奇抜な自己紹介をすべきか否か、どこまで笑って失敗を誤魔化せるか、そんな考えも立ち上がることで全て消えてしまった。
「あー、えっと、綾小路清隆です。えー、あの、友達募集中です。よろしく、お願いします」
挨拶を終えて、即座に席に座る。
先程までの思考の渦が嘘のように真っ白になってしまった……。
「よろしくね綾小路くん。ちょうど僕も友達募集中なんだ、良かったらなれると嬉しいな」
オレの失敗自己紹介を聞いた平田による爽やか笑顔と完璧なカバー、情けをかけるようにぱちぱちと鳴る拍手が胸を締め付ける……何よりもそれでも少し嬉しいのが残念だった……。
そして、次の自己紹介が来た。オレの後ろに座った球磨川禊の番だ。
『おっと』『次は僕の番みたいだね』
「うん、よろしく頼むよ」
平田により振られた禊は制服の襟を正し、堂々と胸を張り口を開く。
『えー』『球磨川禊です!』『趣味は週刊少年ジャンプ』『好きな物は週刊少年ジャンプ』『嫌いなものは週刊少年ジャンプアンチです!』
週刊少年ジャンプの応酬、趣味や好物全てに週刊少年ジャンプが関わっている。ジャンプ編集部でしか見れない量の週刊少年ジャンプだ。ニコニコと楽しそうな禊。
『よろしく仲良くしてください!』『あ』
気持ち的には長く続いた自己紹介もそこで終わるかと思われた。しかし、何かを忘れていたというような表情で言葉を続ける。禊のこれまでの様子からするに、また突拍子もないことを言うのだろう。何を言うのかと期待して待機していたオレの思考は
『ホワイトルームから進学してきました! 』『よろしくね!』
その一言によって止められるのだった。