入学式を終え、禊に
「なぁ、さっき言ってたホワイトルームってどんな所なんだ?」
極めて自然に、そういえばさっき…くらいのノリで聞き出す。
『ホワイトルームのこと?』『えー別にどうでも良くない?』
どうでも良さげに平然と、カップ麺の棚を見ながらそう答える。だが短い付き合いでも禊がそう簡単に行かないことは分かっていた。だから間髪入れずに再び探りを入れる。
「いや、ほら、友達の出身校くらい聞き合うのが普通だろう? 聞き慣れない単語だから、友達として気になるんだ」
下手な言い訳かもしれないが、問題は無い。どちらにせよ禊がホワイトルームからの、父親からの刺客ならどうしたって詰みだ。ならば多少のリスクを負っても
だがロケーションは失敗したかもしれないな。どうしても好奇心に勝てないままコンビニに来てしまったが、誰かに聞かれるリスクもある。ならば尚のこと早く、尚のことカップ麺選びを楽しみたい。
『うーん』『清隆ちゃんもなかなかしつこいね』『はぁ、やれやれだよ全く』
露骨に大きなため息をつき、禊が顔を近づけてくる。ちょっと待ってくれ、オレにそういう趣味はな…
『僕は君の味方だよ』『間違いなくね』
「オレの?」
『そう』『僕はいつだって友達の味方だ』
そう言った禊の顔は、とても嘘をついているようには見えなかった。例えここで禊が嘘をついていようと、ついていなかろうと、オレに出来ることは
球磨川禊、不思議なカリスマがある男だ。オレには無い物を持っている。つまりオレは……
『おやおやおや?』『これはこれは』『堀北さんじゃないか!』『偶然だね!』
一際声のトーンを上げ、禊が動き出す。
「今日の私は随分と運が悪いみたいね」
オレが感傷的な思考を巡らせている間に、堀北が現れていた。
「そんなに落ち込まないでくれ、オレたちの方が落ち込んでしまう」
露骨に肩を落としヨヨヨと涙を拭く仕草を見せる。オレの隣で禊も同じポーズを取っている……反応が早すぎる。それに対し堀北は
こちらに目もくれず、手に取ったシャンプーなどの日用品をテキパキとカゴの中に運んでいた。
「もしかしてオレたちは無視されてるのか?」
「あら、勘がいいわね。その調子で私の今の気持ちも察してくれると助かるのだけど」
『今の気持ち?』『ははーん』『さては僕たちに再会できて内心喜んでるね?』
顎に手を当て名推理だとばかりに答える。どこからその自信が湧いてくるのかは分からないが、オレも見習いたいマインドだ。この男、球磨川禊の辞書に悩みという字は存在しないのだろうな。
「はぁ、全くだわ」
堀北は反応するのもめんどくさいとばかりにため息だけをしている。仕方ない、アドバイスでもしてやるか。
「堀北」
「なにかしら」
「恐らくだが、禊の一挙一動に反応するのは非効率だと思うぞ」
「……私もちょうどそう思い始めてたところよ」
それより、と禊がオレと堀北の間を指さしている。一体何があるのかと目を向けて見るとそこには【無料】と書かれたワゴンが置かれていた。
『不思議な話だよね〜』『月に10万ポイントも貰えるって言うのに』『無料のワゴン品なんて』『ま、僕としては助かる限りだけどさ』
そう言いながら【1ヶ月3点まで】の但し書きに従い、無料商品を3つカゴに放り込む禊。
「ポイントを使い切った人への救済措置、かしら」
「少し、生徒に甘すぎる気もするが。そういうものなのか?」
『さぁ?』『ここまで甘いと不気味さを感じるくらいだね』
不気味さ、正直10万円を生徒一人一人に握らせる時点でおかしさは感じていたが、学校の所々で生徒に都合のいい設備や様子を見ていると、陰謀論者が生まれる気持ちが分かる気もする。もっと深く考えてみれば、
『優遇してくる存在っていうのは二種類いる』『一つは、ただ甘やかしたいだけの奴』
「もうひとつは?」
禊がその唇を楽しそうに歪めながら言葉を続ける。
『できるだけ高いところから落としたい奴』
背筋に薄ら寒さを感じながら、堀北を見ると……
食品をテキパキとカゴに入れている。よく見てみればその全てが安価なものだ。
『また無視かい?』『堀北ちゃんったら』『失礼しちゃうよ』
「ちゃん付けはやめてちょうだい」
『結構仲良くなれたと思ったんだけど』『勘違いだったかい?』『僕は悪くないけど』『誤った以上は』『謝った方がいい?』
悪びれずに口を回す禊、正直なところ、外から見てる分にはこの2人は結構な仲良しに見える。堀北が刺々しいのは常だし、それを禊が気にせず話しかけていく様はなんというか、俗に言うケンカップルのような……
「綾小路くん。今くだらないことを考えなかった?」
「……考えてないぞ?」
「微妙な間が気になるのだけれど」
全く、鋭いやつだ。話を逸らした方が良さそうだな。
「そんなことよりもアレだよな、アレ、うん全くアレだよな」
「あなた、人と話すのに慣れていないみたいね。誤魔化し方が下手すぎるもの」
図星をつかれ、内心で落ち込んでしまう。この煽りはボディブローのようにじわじわと効いてくるな…。
『そういう堀北ちゃんこそ』『慣れていないんじゃない?』『突き放すようなことは言うけど』『案外優しいし』
「そんなことないわ」
「確かにそれはそうだ。なんだかんだ言いながらも話しかけたら答えてくれるしな」
「聞こえなかったかしら? そんなことないわ」
『ツンデレってやつ?』『いいと思うよ』
「それは間違っている、と言っているのだけど?」
『堀北ちゃんほどの美人なら』『僕は許せるね』『裸エプロンなんかしてくれたらもっと許せるんだけど……』
「絶対にしないわ」
和やかなBGMを背景に続ける会話、会話と言うには堀北から否定の言葉しか出ていないが、まぁそういうものなのだろう。それよりも、このままでは堀北がため息をつき続ける機械になってしまう。
「堀北、もう諦めた方が……」
堀北に諦めるよう促そうとしたところ、レジの方からやたらと大きな声が響いてくる。
「っせえな! ちょっと待てよ! 探してんだよ!」
どうやらレジで揉め事が起こっているようだった。男同士でにらみ合い、一触即発の空気を纏っていた。大きな声で怒鳴っていたのは赤髪の男、よく見てみれば自己紹介の時に率先して出ていった男だった。
「何かあったのか?」
「あ? なんだお前」
敵が増えたと勘違いしたのか、こちらを睨みつけてくる。
「同じクラスの綾小路だ。困っていそうだから声をかけたんだ」
オレが話しているところに禊たちも遅れてついてくる。
『僕も同じクラスの球磨川』『君は?』
「あぁ、そういや見覚えのある顔だな。……俺は須藤だ」
自己紹介を挟み、須藤は少し落ち着きを取り戻した様子で答える。
「学生証忘れたんだよ、これからはあれが金の代わりになることを忘れてたんだ」
「なるほどな、良ければ立て替えようか? 寮まで取りに戻るのも手間だろうし。そっちが構わないならだけど」
「……そうだな、ぶっちゃけ面倒だ。ムカついてたしよ」
寮までの距離はそこまで遠くないが、オレたちの後ろには既に長蛇の列が出来ようとしている。
「ここはお前の世話になることにするぜ、ありがとな」
そういうと須藤は、カップ麺にお湯を入れてくるよう指示して店を出ていった。
その短いやり取りを見て禊と堀北が声をかけてくる。
「初対面からこき使われているわね、彼の従順な下僕にでもなるつもり? それともこれがあなたなりの友達作りなのかしら」
「友達作りというか、まぁついでだし……」
『そんなことよりも早くお会計済ましちゃおうよ』『みーんなこっちみてるよ?』
振り向いてみると列に並んだ生徒たちがこちらを見ていた。衆目に晒される経験はこれが初めてだが、なかなか恥ずかしい。
「それもそうだな」
そう答えると支払いを済ませる。学生証の提示を求められたのでレジの機械に通すと即座に支払いが終わった。作り方に苦戦するかと思ったが、蓋を開け内側の線までお湯を入れるだけの簡単なものだった。これでオレのカップ麺童貞は失われたわけだ……。
オレに続き会計を終わらせた禊と堀北がお湯を注いでいるオレのところにやってきた。学生証をヒラヒラと見せびらかすように手の中で弄ぶ禊が声をかけてくる。
『それにしても』『ホントにお金として使えるんだね』『
「10万円もの大金を生徒個人個人に渡して、なんのメリットがあるのかしらね」
分からないことが多いわ、と顎に手を当てて少し考える様子を見せる堀北。
「あと、指図できるようなことではないけれど、極力無駄遣いは避けた方がいいわよ。人は楽な暮らしを1度覚えると、それを容易く手放せない。特に球磨川くん、ポイントの話を聞いた時には随分と嬉しそうだったみたいだけど、気をつけた方がいいわよ」
『はーい』『気をつけまーす』
「肝に銘じておく」
オレたちからの元気なお返事を無視し、コンビニから出ていこうとする堀北。ちょうど3分が経ちカップ麺も出来上がったようだった。少し気になり中身を見てみるとそれなりに美味しそうな。いかにも体に悪いですよと言わんばかりの香りがする。
それにしても、ちょうど3分でコンビニから出ようとしている様子から見て、オレが時間をカウントしていなかった時のために堀北も時計を見ていてくれたのだろう。口にして感謝するようなことではないと思うので、心の中で礼をする。
そして店外へ出ると須藤はコンビニの前で座って待っていた。
「まさかここで食べるのか?」
「当たり前だろ、ここで食うのが一般常識だ」
『うんうん』『全くもってその通り』『健全な男子高校生たるもの』『路上でラーメンくらい食べれなきゃね』
禊が須藤の隣にしゃがみこみ意気揚々と口にする。そうは言っているが禊自身はラーメンを持っていない。
「私は帰るわ、こんなところで品位を落としたくないし」
「何が品位だよ、高校生だったら普通だろうが。それともいい所のお嬢様ってか?」
『全くその通りだ! お高く止まりやがって!』
堀北に噛み付く須藤。そしてそれに便乗する禊。そして、その全てを無視し、目を合わせることすらもしない堀北。
それが癪に触ったのか、須藤がラーメンを置き立ち上がる。
「あぁー? 無視すんじゃねぇよおい!」
『そうだそうだー!』
「彼どうしたの? 急に怒り出して」
あくまでも堀北は、須藤を視界に入れることなくオレに聞いてきた。こいつのメンタルはどうなっているのか。それが余計に気に食わなかったのか、須藤は掴みかかる勢いで吠えた。
「こっち向けよ! ぶっとばすぞ!」
『おらおら! やんのか! コラ!』
「待て待て、堀北の態度が悪かったのは認めるが、お前も少し怒りすぎだ」
幾ら何でも須藤にはキレるまでの前触れが無さすぎる。
「それに禊もだ、あまり便乗してふざけるもんじゃない」
オレの窘める言葉に対して禊は悪びれる様子もなく口を開いた。
『いや〜ごめんごめん』『だって彼があんまりにも可哀想だったからさ』『僕は悪くない』
てへぺろとばかりに舌を出し笑う禊、それに対しさらにヒートアップする須藤。
「おい! 俺が可哀想な奴だって言いてぇのか!」
『もちろん!』『そう言ってるじゃないか!』『ほら、あれを見てよ』
須藤の言葉に飛び跳ねるように返事をする。そう言いながらコンビニの壁に設置された監視カメラを指さす。
『入学初日に』『カメラに見られるようなところで』『暴力1歩手前』『みたいなことをしている君が可哀想じゃないわけないだろう?』『君は入学初日に退学になるかもしれない!』
バカにするような声音で須藤がカメラの前で何をしていたかを説明する。可哀想だと哀れみつつ、涙を流し言葉を続ける。
『でも
その表情とは似ても似つかない言葉、そして禊から発される
とんでもない煽られ方をしているはずなのにどこか包容力を持った言葉。その表情は本気で涙を流し、本気で嬉しそうな顔をしている。
どう考えても頭がおかしい。この景色を見た誰もが
『あれれ?』『もうキレ芸は終わりかい?』『なーん……』
「禊、もうそこら辺にしてやれ。さすがに言い過ぎだ」
これ以上は須藤の心が折れる可能性がある。同じクラスの生徒が必要以上に傷つけられるのをただ見ているのは、クラスメイトとしてあまり良くないだろう。
『ま』『清隆ちゃんが言うならいっか!』『ざーんねん、完全に螺子伏せてやろうと思ったのに』
先程までの涙の影も形も残さずに物騒なことを言う禊を横目に、須藤にも注意を促す。
「須藤も、堀北の態度も良くなかったが怒りすぎだ。実際、禊が言うことにも一理はある。監視カメラの前であまりヒートアップすべきじゃないと思うぞ」
「あ、あぁ……」
心ここにあらずといった様子で頷くことしか出来ない須藤。それを横目に袋から取り出した肉まんを食べている禊。こいつ食べ方が下手すぎるな……。
「禊、落ちかけてるぞ」
肉まんからあんが落ちかけているのを指摘する。ほんとだ、と指ですくい口に入れる禊。肉まんからあんが落ちかけるってなんだ? 普通に食べてもそうはならないと思うんだが……よく見てみても特に変わった食べ方はしていないようだった。逆に怖い。
「……須藤くん、おかしなことを言っていないとはいえ、私も少しは悪かったわ」
禊から放たれた
「いや、俺の方こそ悪かった。熱くなりすぎてた」
互いに謝罪しあう二人を見て、禊が呑気に言う。
『おやおや?』『堀北ちゃんが謝罪なんて珍しいね!』『一番しなさそうなのに!』『明日は螺子でも降るんじゃない?』
「私は間違ったことを言わないけど、謝罪ぐらいはするわ」
調子を少し戻したように、毅然とした態度で口を開く。
『ふーん』『そ!』『間違いばかりな僕とは大違いみたいだ』『全く、人生ってのは不公平だぜ』
禊が肩を竦めやれやれとばかりに言う。その言葉を聞き、オレは訂正を入れた。
「だが、さっき言ってたことは間違いじゃなかったと思うぞ。監視カメラの前で問題を起こせばクラス単位で何かあるかもしれない。まだオレたちはこの学校のことを完全に理解できていないんだ。禊が止めるのは正しい」
少し禊の発言を思い返してみる。やはりおかしなことは言っていないだろう。嫌な言葉が八割にはなっているが。
『そう?』『だとしても』『僕は間違ってたよ』『間違いなく』
オレに向いていた顔を即座に須藤に向け、禊は言う。
『須藤くん』『君もこれに懲りたら』『直ぐに怒る癖は治すべきだ』『確かに僕は言い過ぎたし、間違っていたけれど』『僕は悪くなかった』
「あぁ、そうだな。俺が熱くなりすぎてた、分かっちゃいるんだが中々治らなくてな。すまねぇ」
どこからか取り出した【絶許】と書かれた扇子で顔を扇ぐぎながら言う。
『んっ』『許す!』
これは……どちらなんだ? 判断に困るところではあるが【絶対に許す、略して絶許】である可能性を信じるほかないか。
須藤が突然こちらを向き頭を下げた。
「綾小路も、恩を仇で返す形になっちまって、すまねぇ」
「いや、オレは何もされてないからな。謝らなくていい」
それよりも、と地面に置かれたラーメンを指さしながら言った。
「それ、冷めるんじゃないか?」
◇◇◇
須藤と別れたあと、オレたちは寮へと向かって歩き出した。禊は随分と気分屋なようで、オレたちをおいて先に帰ってしまった。堀北と二人きりで歩く時間は正直悪くない、性格はともかく美少女であるし、なんというかデートのような……
「球磨川くんって、何なのかしらね」
「オレという男がいながら他の男の…いや、なんでもない」
「ふん、あなたも球磨川くんも随分と話の腰を折るのが好きみたいね。まぁ、あなたたちのコミュニケーション能力に問題があるのは今日一日で嫌という程わかっていたことだけれど」
デート気分のままボケてしまったばかりに強い言葉が返ってくる。堀北とのデートでは、常にこれが続くのだろうか。しかし、こればかりはオレが悪いので、自ら話を戻す。
「球磨川禊、正直捉えどころのない男。以上の評価はつけられないな」
「えぇ、私もそう思うわ。もっと言うなら…彼、少し頭がおかしいんじゃないかしら」
それは……否定できないが、あまりにも明け透け過ぎる評価だと思う。
「まぁ、それは否定できない。何を考えているか分からないし、須藤への言葉の数々におそらく意味は無かった」
それでも、と前置きをする。
「何も考えていない男ではない。と思う」
「それはあなたがそう思いたいだけではなくて? 本当に本気でそう思うのかしら?」
「あぁ、こればかりは本当に本気だ。須藤にかけた言葉の八割は意味の無いものだったが、カメラに関しては事実だった。あのまま須藤を騒がせておけば、オレたちだって何かしらの罰を受けてたかもしれない」
「彼が私たちを守るために悪役を買って出たって?」
「そうじゃないか、とオレは思う」
「ふん、バカバカしい。それはあなたがそう思いたいだけよ。何より、そんなことをして彼にメリットがある?」
「それは……分からないが」
だが、分からなくても問題は無い。重要なのは禊が何をしたか、それだけだろう。結果的にオレたちはカメラの前で問題という問題は起こさなかったし、須藤だってこれで少しは反省するだろう。誰にも迷惑をかけず、誰にも不利益を出していない。強いて言うなら禊のオレたちの中での評価が少し怪しくなるくらいだ。
「はぁ、こんなこと考えていても仕方ないわね。彼が何を考えていようと、まだ入学初日。一朝一夕で他人が理解出来るとは思えないもの」
「まぁ、それはその通りだな。堀北のことも、禊のことも、まだ全然分からないんだ。これから互いに知り合っていこう」
「私は別にあなたたちのことを知らなくても困ることはないのだけど?」
雷でも落ちたのかという衝撃、もう既にそれなりに仲良くなっているつもりだったオレには厳しすぎる言葉だった。だが、オレは諦めない。普通かつ楽しく、模範的な青春を送りたいのだから。
「そうは言っても、オレはもうお前と仲良くなったつもりだったんだが? このやり場のない友情はどこに持っていけばいい?」
「ドブにでも捨てておきなさい」
「禊だったら喜んで受け取ってくれるだろうに……」
「あら、あなたにそっちの気があったとは驚きね。確かにあなたと球磨川くんは仲が良かったものね。これを機に私から少し距離を置くことを考えてみるといいと思うわ」
「いや、オレは普通に可愛い女の子が好きなんだが……。なんというか、禊とは気が合うんだ。オレが勝手に思ってるだけかもしれないが」
「それこそ安心するといいわ、彼とあなたはお似合いのお友達だったわよ。これで私に声をかけてこなければ、素晴らしい友情を称える気にもなれるのだけど」
「それは諦めてもらう他ないな。オレの中ではもう2人とも友達だし、禊は特にお前を気に入っているようだから」
「やめて欲しいわ、本当に」
心底嫌そうな表情で心底嫌そうに言う。やはりツンデレというやつなのだろうか、にしてはデレる様子がない…。
『おーい!』『清隆ちゃん』『堀北ちゃーん!』
声がした方向を見てみると、寮の入口で禊が手を振っている。この学校は全寮制であり、今日から3年間はこのマンションがオレたちの家になる。
少し小走りで禊の元へ向かう。堀北に歩調を変える様子は一切なかった。
「どうしたんだ?」
『いやなに』『男女共用の寮だって言うから、せっかくなら部屋番号聞いておこうかなってね』
そういうとフロントで受け取ったであろう部屋の鍵を機嫌良さげに出す。
『じゃーん!』『404!』『404って存在しない感じがして縁起がいいよね』
「男女共用って、最悪ね。朝からあなたたちと顔を合わせる可能性が生まれるってことでしょう?」
後から追いついてきた堀北が嫌そうな顔で言う。
「オレたちとずらして家を出ればいいんじゃないか?」
「嫌よ、なぜ私がそこまでしなくちゃいけないの? あなたたちが私に合わせてずらしなさい」
非常に理不尽だ……。
『ほらほら』『そんな事いいから2人とも』『鍵と資料を受け取りに行こうよ』
「禊、随分楽しそうだな」
『いやー』『これが初めての一人暮らしだからさ〜』『自由の開放感に身を任せてるってわけだよ』
「そうか、その気持ちはよくわかる。好きなものを食べて好きなことができる。なかなか出来ることじゃないからな」
フロントで鍵と資料を受け取り部屋番号を確認する。401と書かれていた。
「オレは401号室だ、結構近いな」
『堀北ちゃんは?』『ねぇねぇ』『堀北ちゃんは?』
心底楽しそうにニコニコと堀北の周りをうろちょろしながら聞く禊。それとは対照的に本当に不快そうな顔をしながら鍵を見せる堀北。禊はこの表情を向けられてよく平然としていられるな……。堀北も、ここで断っても長くなることを理解しているみたいだ。
「702よ、女子の部屋は6階から上になってるみたいね」
『堀北ちゃんも結構近いんだね!』『毎朝待ち合わせできちゃうんじゃない?』
「絶対にしないわよ。一応言っておくけど、私はあなたを友人だと思っていないから」
堀北はついにハッキリと禊に伝える。表情は変わらず嫌そうな顔で、確実に拒絶する。しかし、禊には効果がない。
『ふーん』『まぁ僕は友達だと思ってるから』『関係ないけどね』
ヘラヘラと言う。堀北は1周回って呆れたような顔で言う。
「無駄と分かってはいたけど、最悪ね」
『君は実に運が悪かった』『嫌われ者の僕と知り合ってしまうなんて……』『正直同情するぜ』
『ま』『僕は悪くない』
堂々と、胸を張り言ってのける。こればかりは事故だと受け入れるしかないみたいだな。
その言葉を聞いた堀北は大きくため息をつくと、「疲れたから帰るわ」と言ってエレベーターを呼び出す。もちろんオレと禊も乗り込んだ。
◇◇◇
特に話すようなことも無く無言なままに、4階に到着し、オレたちが先に降りる。
『じゃあ』『また明日とか』
禊の言葉を聞き届けたかのように、ちょうどよく扉が閉まると、堀北を乗せたエレベーターは更に1階上へと昇っていく。
「なぁ、オレの部屋で少し話さないか?」
『いいけど、どうして?』
「聞きたいことがあるんだ」
そう言って禊を部屋へと招いた。最低限の家具と衣服だけがあるオレの部屋。ここで何をしても誰かの目はないし、ただ自由だという自覚で胸が熱くなる。部屋の真ん中に置かれた丸い机を挟み、会話を始める。
「どうして禊はオレの味方をするんだ?」
ずっと聞きたかったことだ、コンビニにいる時にしたかった質問ではあったが、堀北の登場や須藤の話で聞くに聞けなかった。禊のことを信じたい気持ちがオレにはあるのだろう、この男に不思議と心惹かれるのは事実だ。だがこの部屋についてから一層思う、この自由を失いたくない、と。
だから、オレから自由を奪うのであればオレはどんな手でも使うだろう。それこそカメラの前で……なんて手もある。
『どうしてって?』
禊が口を開く。
『うーん』『君が僕と同じだからかな』
悩んだ末に出た言葉は同じだから、だった。
「オレとお前に似てるところはあまりないと思うが……」
違う違う、と手を振り否定する禊。
『見た目とかじゃないんだ』
『僕はこう見えて人生で一度だって勝ったことがない』『何があっても負けたし』『全てが不利』『全てが不幸』『全てが不当だった』
『それは君もだ』
よく分からないことを言う。オレはこれまでの人生で
「オレも?」
『君はホワイトルームの』『
『対して僕は』『
信じられない、ということは無い。あの父親は必ずそれをするだろう、でなければ人権度外視のホワイトルームなんていう施設を作れるわけもない。
『勝ち続けてきた勝者と』『負け続けてきた敗者』『どっちも同じだ』
『君には敗北という経験が足りないし』『僕には勝利という経験が足りない』
『足りない同士で僕たちは同じだろう?』『だから君の味方をするつもり』『
禊がこちらを伺う。そして、括弧をつけず、格好つけずに言った。
「だけど気が変わったよ。僕は勝ちたい。何があってもどんなに不利でも不利なままで、努力をしないで努力出来るやつに勝ちたい」
「君に必ず勝ちたい」
それは、禊の包み隠さない本音。間違いなく心からの発言だろう。それに対してオレは、オレも……
「オレは、負けたい。完全に完膚なきまでに、オレの父親の全てを否定し尽くしてやりたい」
ホワイトルームの最高傑作が、最低愚作に敗北する。これ以上ない否定になるだろう。
「お前がオレに勝ってみせろ、どんな手を使ったっていい」
かかってこいと、オレは正面から宣戦布告を受ける。
どんな方式でもいい、どんな手を使ってもいい。オレは今まで勝ち続けてきた、どんな手段を用いてでも最後に勝つのはオレだった。
「お前は今日からオレの
「せいぜい寝首を洗って待っておくといい、
そして、再び括弧つけた禊が立ち上がり言う。
『さて!』『僕はそろそろ部屋に帰ろうかな』『せっかくの一人暮らしだ』『自炊とかもしてみたいしね』
「そうか、じゃあまた明日だな」
『うん』『また明日とか!』
そう言うと、禊は自分の部屋へと帰っていった。オレに勝つ、並大抵のことでは無いが禊には頑張ってもらいたいものだ。他ならぬオレが一番応援している。応援はしているが、
オレは、オレを倒してくれるのならば
期待はしているぞ、禊。