俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。   作:true177

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020 拘束

 クラスが解散した放課後、健介は身体の自由を失った状態で上階に拘束されていた。

 

 せめてもの慰めとして取り付けられている窓からは、大手を振って帰路を急ぐ生徒が列を成しているのが観察できる。フェロモンに沿ってエサへ向かう蟻も、実験してみたら同じ結果が得られそうだ。

 

 連れてこられたっきり、階段を駆け上がる音もしなければ外から救助に駆けつける救急隊の姿も見えない。陸の孤島、海洋上にポツンと佇む監獄と何が違うのだろうか。

 

 人権で保障されている最低限度の生活も、この簡易監獄で守られる保証はない。窓は締め切られており、蝶や鳥にかじりつくのも困難を極める。

 

 ……人生、ここまでかな……。

 

 暴風雨で学校そのものが倒壊しなければ、健介の蝋燭の灯火は消し飛ぶ。燃料の蝋に余裕があっても、酸素が運搬されてこないのでは延命手段が使えない。

 

 何処から侵入してきたのか、地べたを懸命に這う蟻がいた。外国産の危険なヤツではなさそうだ。

 

 松尾芭蕉でも経験しなかった直角に下る坂を、アリは何食わぬ顔で下っていく。アリに顔という概念があるかは気にしない。

 

「……学校に、死角を作っちゃダメだろうよ……」

 

 生徒を目視出来ない場所が、立ち入り禁止区域に指定されていないのは高校側の落ち度。裁判を起こして賠償金を踏んだくる見立ては、健介の脳内会議である程度骨格が出来ている。

 

 何の授業に利用するつもりだったのかは不明だが、この最上階はいたるところに防音材が張り付けられている。乾パンに見間違えた健介は、末期症状が近い。

 

 刹那、建物の振動が倍々ゲームになっていく。かすかに響いた階段の音が、少しづつ上へと移動してくる。

 

 ……助けだ!

 

 全く話したことの無い担任の教師でも、緊急通報で完全武装した警察官でもいい。両手両足を紐で固く結ばれた健介を解放してくれるのなら、プライドなど太平洋にでも捨てられる。

 

 肺活量で賄えない荒ぶった呼吸が、反響して健介が放置されている部屋まで届いた。基礎の音程が高いことを鑑みると、持ち主は女子だ。

 

 ついに、謎の人物が姿を現した。

 

「やっほー! クラスの皆から慕われてると噂の、五所川原麻里ちゃんでしたー」

「そんなキャラ……だったか?」

 

 公の救助に期待した健介がバカであった。誘拐犯に自己紹介されても、脱出の希望は漏れてこない。

 

 自虐ネタを仕込むとは、麻里も自身の立ち位置をよく把握している。

 

 トップは、いつも重圧に押しつぶされそうになりながら生活しなくてはならない。具体例を一つ上げると、末端の組織員が起こした不始末を自らの手で処理することになることか。

 

 人に囲まれた孤立は、巨大な虚無感が襲ってくる。選択した独り旅など比にならない。団結しているようで、全員が反対側を向く異様な光景だ。

 

「……邪魔者もいないことだし。これから、健介くんには……」

「待った! 誰も行かない上の階に走っていったから、もしやと思って付いてきたんだよ……」

 

 麻里の陰に隠れていた悠奈が、仁王立ちで口を曲げている。完全犯罪を実行しようとした同級生へ、威嚇として毛を逆立たせていた。

 

 麻里は、ステルスとは縁のない存在。廊下のどこを歩いていようと、黒を基調とした服を着るお供が三人配置につく。ミニ太陽系で校舎にいる限り、隠れることは不可能である。

 

 ……悠奈の足音、全くしなかったな……。

 

 江戸の忍者の子孫と銘打って広告をばらまくと、何個かの編集者がネタ欲しさに食いつく。そこで悠奈に忍び足を実演させれば、雑誌のトップに素性を隠した美少女が躍る事間違いなしだ。

 

「マリちゃん、前の清算をする時が来たみたいだね……」

「……待って、今多田さんの琴線に触れるようなことしたかな?」

「『邪魔者』って言ってたような……?」

「それは私の部下のこと!」

 

 苦し紛れの反論である。国語の読解力が問われる問題だ。それも、日本人お得意の文脈を使った。

 

 悠奈に詰め寄られて、クラスを統率する女王がジリジリ後退していく。和解を持ちかけようと両てのひらで突進を防ごうとするが、スイッチの入った暴走列車にブレーキを掛けられなかった。

 

 スピードの出ている乗り物が下手に車輪を止めようとすると、ロックされて操作不能になることがある。急ブレーキが推奨されない理由の一つだ。

 

 歴代の独裁者が不穏分子を粛清していたわけが、今日の一枚で解明された気がする。

 

 ……虎のしっぽを踏んじゃったか……。

 

 眠れる猛虎を虐げようと、麻里はチェーンソーを手にして近づいた。一たび咆哮を上げれば、低周波で武器を落してしまうことを忘れて。

 

 慢心を戒めなかった結末が、この端に追い込まれる様だ。

 

「……まあ、それはいいや。健介くんをこんなところまで連れてきたのは、どうしてなのかな……?」

地の文について

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