俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。   作:true177

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009 ライバル

「……お二人さん、何してるの? ここからいくら目を凝らしても、東京スカイツリーは見えないよ?」

「……一応方角は合ってるのか……。東京スカイツリーを出すなら、もっと近場のものを選ばないと……」

 

 乱入者は、突然に現れた。麻里の視界を遮って、健介の肩に寄り添ってきた。

 

「……うーん、通天閣……とか?」

「それくらいが丁度良さそうなラインだな……」

「多田さん、肩当たってるよ! 健介くんも、嫌そうに後ずさりしてるし……」

 

 麻里の過剰警戒は、幻覚を生み出してしまっている。健介は後ずさりもしていなければ、接触拒否のお触書を広報したこともない。

 

 ゼロ距離で悠奈と肩を合わせていても、特別煮えたぎる湯は込み上がってこなかった。保健の教科書通り、体格が丸くなっているのが確認できた以外で、心は扉が開くのを許さなかった。

 

「……健介は、この状態どうなの? いくらマリちゃんに言われても、本人から直接言葉にしてくれないと……」

「多田さんに惑わされないで! 黒魔女で、健介くんを不老不死スープの材料にしようとしてるだけだから!」

 

 観客という第三者視点で観察すると、健介が女子二人に囲まれていている風景が目に映る。それも、幼馴染らしい子とクラス派閥トップのお嬢様だ。妬みや羨みの対象になってもおかしくない。

 

 ……困ったなぁ……。

 

 健介の立場に戻ってみよう。与えられた選択肢は、どちらを採用しても爆弾を抱えることになる地雷。文武両道など、この女子たちの天秤を釣り合わせることに比べたらぬるま湯だ。

 

 オジサンからの熱いまなざしを受ける女子高生に肩をつけられて、心地が悪いわけが無い。腐れ縁で振った振られたのポンコツ仲でも、それは否定できない。

 

 かと言って、馬鹿正直に感想を述べるのでは切腹を命じられることになる。素直な子になりなさいと道徳教育しておいて、いざその場面がくると『嘘を付け』とは義務教育の敗北だ。

 

 悠奈が、チョロッと舌を見せた。ぼんやりとしたピンク色が、栄養が行き届いていることを証明している。何と可愛げのある生き物なのだろうか。下校時の通り魔には注意してもらいたい。

 

「……悠奈、しつこくやりすぎると、後ろのお方が黙っちゃいないぞ?」

「マリちゃんが何をしようとしても、法律が守ってくれるよ?」

「……実質治外法権みたいなところだけどな……」

 

 遠回しに接触をやめるよう説得してみたが、正論で論破されてしまった。悠奈に悪気は無いのだろうが。

 

 ストレスが蓄積して、麻里が闇堕ちしかけている。昼間で電灯も無駄に電力を消費していると言うのに、目のフラッシュライトが先ほど点滅し始めた。

 

 休み時間も終わりかけ、出払っていた男子陣も続々と着席している。目撃人数が増えれば増えるほど麻里の暴走は抑えられる……ということは無さそうで、面倒事に突っ込みたくない傍観者がいくら増殖しても彼女は気にしないだろう。

 

 決断を先延ばしにすると、悠奈と麻里との二人共が悶々とした気持ちを授業に持っていかなくてはならなくなる。

 

 健介は覚悟を決め、拳を握りしめた。

 

「……悠奈、離れて欲しいな。くっつきすぎは、良くないから」

「えー……。マリちゃんに配慮しなくてもいいんだよ? 自分の感情に忠実にならなくちゃ」

「その最終形態が麻里……」

「何か言った、健介くん?」

 

 暗い影が差す麻里の目は、今にも血にまみれた注射針が発射されそうだった。余計なことを口走ったのは健介の落ち度だが、安易に命を狙われるのは不満である。

 

 圧倒的武力に降伏した健介を置き去りにして、孤高の戦士は剣を抜いた。ダイヤモンドが局地的な圧力に屈服する知識を動員してか、単純な鉄でできていた。

 

 弓矢で狩りしかしてこなかったお嬢様は、反撃されることを想定しておらず最低限の防具しか装備していない。急いでこしらえた仮初めの鎧を背負い、どうにか軍の大将と相対した。

 

「多田さん、ここが何処か分かってる? 公道なら警察官の人たちが飛び出してくれるかもしれないけど、高校の中だよ? 生徒が作る勢力に逆らって、どうなっても知らないよ?」

「……マリちゃんには、何度も忠告したよ。王道から外れて近道を模索しても、結局たどり着くのは地獄だって」

 

 相変わらず、悠奈はカタコトだ。平安時代に貴族の遊び道具として使われた『鞠』とでも勘違いしているのではないだろうか。

 

 彼女の右手が、ゆらゆら昇っていく。上から首筋を薙ぎ払う気だ。

 

 一度引っかかった罠に同じ手口は通用しない、と言いたげに麻里はしゃがみこんで亀になる。弱点の首を引っ込めて、持久戦の恰好である。

 

「……さあ、どこからでもかかってきなさいよ!」

「マリちゃん、手加減はしないよ?」

 

 女同士の負けられない戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 ……そういえば、もうすぐチャイム鳴りそうだったもんな……。

 

 試合開始のジェスチャーは、同時に終了のコングでもあったのだ。

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