ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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126『デートじゃないし!?』

 さて、姉が帰ってきてから気持ち悪い。

 渡巻 紗綾音(わたりまき さやね)は歯を磨きながら、リビングのテーブルで鼻歌混じりに勉強なんてしている実の姉を胡乱な目でじっとり見ていた。

 よくもまあ休みの日にお勉強なんてやる気があるよね、とか、その隣で母が見ているアクション映画が雑音過ぎて気が散らないのかな、とか他にも思うところはあるのだが、兎にも角にも姉が帰ってきてからひたすら気持ち悪いのが紗綾音は気になって仕方がなかった。

 いや、大好きな姉に対して気持ち悪いとか、流石にちょっと酷いか。

 でも何か、アルバイトから帰ってきてから、機嫌が良さそうというか、ニコニコしているというか、ニヤニヤしてるというか、ずっとそんな感じなのである。時折鼻歌なんて歌っちゃったりして、随分とまあ浮かれていらっしゃる。

 

「おねーひゃん」

 

「紗綾音、歯磨きしながらうろうろしちゃ駄目だよ?」

 

「……ふぁーい」

 

 どうしちゃったのかなぁ、と思って呼んでみれば、ぴしゃりと駄目出し。相変わらず厳しい。

 とりあえず洗面所でうがいをして、ウォーターピックと歯間ブラシでささっと仕上げ、洗口液でぶくぶくしておく。うん、すっきり。以前までならこの後ジュースとか飲んで姉に怒られたりしていたのだが、最近は色々と気にして節制しているのである。お腹のお肉的な意味で。

 そしてふらふらとリビングに戻ってみれば、やはり姉は気持ち悪く、ではなく、鼻歌混じりに勉強していた。

 今日はなんか良いことあったのかなぁ、なんて思っていると、姉が唐突に、にへ、と思い出したかのように笑う。勉強しながら笑うとか、ちょっと怖い。ほら見ろ、ソファーで隣に座ってる母も何か言いたげな表情してるじゃないか。

 

「お姉ちゃん、なんか機嫌良さそうだね」

 

「え? そう?」

 

 堪らず喋りかけてみれば、顔を上げた姉はきょとんとした表情である。自覚してくれ。

 うんうん、と母も頷いている。自分の気のせいという線はないようだ。

 これは踏み込んで聞いても良さそうだ。

 姉の表情を見て、そう判断した紗綾音はささっと姉の後ろに回り込み、その肩に抱きつくようにしてしな垂れかかった。勉強している相手へのウザ絡みである。

 

「そーだよー。ごはんのときもずっとヘラヘラしてたしぃ」

 

「へらへらって……え、そんな感じだった?」

 

「いや律歌、鼻歌歌ってたじゃない」

 

「え、うそ」

 

 母まで絡んできた。

 父が風呂に入っている間にプチ女子会状態である。

 鼻歌を指摘された姉が、それで初めて気がついたかのように顔を赤くして恥ずかしがっていた。ちくしょう、可愛い。堪らずぐりぐりと姉に頬を擦りつける。

 

「そ、そのときに言ってよ、もー……」

 

「や、ちょっと怖かったし」

 

「え、ちょっと可愛かったし」

 

 ぷくーっと頬を膨らましながら、上目遣いなんて高度なテクを披露しながら文句を垂れる姉に、紗綾音はからかうように、そして母はわしゃわしゃと頭を撫でながら姉を可愛がる。

 もう可愛い。

 ウチのお姉ちゃんが世界一可愛い。

 ちんまりとしたミニマムボディに、無意識なのに狙い澄ましたかのような可愛い言動。世の悪いロリコン共に誑かされたりしないかと、妹としては心配でしかたない。

 

「なになにー、なんか良いことでもあったのー? 彼氏でもできた?」

 

「え、そうなの律歌?」

 

 心配ついでに思いついたことを聞いてみれば、ぎょっと真っ先に反応したのは母。

 クラスメイトの筋肉巨人に電話をしてたときに乱入ぶちかましやがった事件でもそうだが、娘の恋愛事情に対しては心配しすぎである。

 

「お母さん、事実無根だよ。紗綾音、フェイクニュース止めようね?」

 

 しかし姉は、ははは、と軽く笑い飛ばしながら否定する。いや質問しただけであって、別に虚偽宣伝をしたわけじゃないんだけど。

 そっかー、と返しつつ、紗綾音は姉の頬にぐりぐりと自分の顔を押しつけながら、姉に悪い虫がついたわけじゃないことに安堵する。もしも肯定的な反応が返ってきたら、母と結託して姉を尋問に掛けねばならないところであった。

 紗綾音暑いよー、なんて言いながら、姉もお返しとばかりに紗綾音の頭をわちゃわちゃと撫で繰り回してきた。なんだか最近、色んな人に頭を撫でられまくっている気がする。

 私は? 私は? なんてせつかれて、仕方なさそうに母の頭も撫でる姉を近くで見つつ、へにゃ、と紗綾音は表情を崩した。

 幸せだなぁ、なんて詩的なことを思ってみたり。

 

「でも律歌、それにしたって今日は機嫌が良さそうよね」

 

「そうかな? 明日お出かけすることになったからかなあ?」

 

 頭を撫でられながら、そう言えば、と結局詰め寄る母の疑問に、あまり自覚のなさそうな姉はさも不思議そうに零した。

 確か、姉のアルバイトは明日休みのハズである。

 どこかへのお出かけが楽しみでルンルン気分とか、小学生じゃないんだから。体の小さな姉に違和感がなさ過ぎる。くそぅ、可愛い。

 

「あ、どっか出掛けるんだ。何処行くの? 私もついてって良い?」

 

「コプロでちょっと色々見にね」

 

「はいパスでーす」

 

 そんな姉にくっついて行こうかなんて一瞬思ったものの、行き先を聞かされた途端に紗綾音は即座に手の平を返した。

 あれだ、姉の趣味全開のお店だ。

 いや別に、姉の趣味が悪いだなんて言う気はさらさらない。物作りに機械弄りが大好きで、それにより生活面ではめちゃくちゃ助けられているので、姉の趣味には頭が上がらないのが実情だ。

 ただちょっと、機械や工具に関して、姉の熱量についていけないだけである。

 工具店とかでウインドウショッピングか。良く分からないというのが本音だが、まあ、姉はそれが楽しいんであろう。洋服とかアクセサリーとかを見て回る気分なんじゃなかろうか、たぶん。

 しかし、それでこんなにテンションが上がるものなのだろうか。新作が出るとかそういう関係なんだろうか。いや、よく分からない世界なのだけど。

 

「ああ、じゃあお父さんに車出してもらう?」

 

「ううん、それは大丈夫だよ」

 

「バイクは駄目よ。今夜は雪なんだし、明日も冷えるんだから」

 

 紗綾音が訝しんでいると、その横で母が姉に釘をぶっ刺していた。

 バイク。

 バイクかぁ。

 父からのお下がりである原付バイクを貰った姉は、確かにずっとニコニコしながら整備していたのを思い出す。そしてこの前なんて、ヘルメット買ってきた、なんて嬉しそうに見せびらかしてきたりなんてして。

 ああ、バイク乗り回せるから浮かれてたのか。それは納得だ。

 姉の行動範囲が広がって、なんだか急においていかれた気分である。

 私も誕生日過ぎたら原付免許とろうかな、なんて紗綾音は心の片隅でちょっと思う。それを口にした途端、姉が原付免許試験の教本を凄い笑顔で持って来そうなのが容易に想像できてしまうので、口に出したりはしないのだが。

 紗綾音は少しだけセンチメンタルになっていると、それに気がつかないまま姉は、ううん、と首を横に振る。

 

「歩いていくよ。コンビニで待ち合わせなんだ」

 

「……うん?」

 

 車の送迎を断り、バイクの使用も否定した姉の言葉に、紗綾音は首を捻った。

 待ち合わせ、ということは、1人で行くわけじゃないのか。

 なるほど。

 え?

 

「律歌、お友達と行くの?」

 

 同じ疑問を覚えたのだろう、紗綾音の心を代弁するように母が驚いた表情で質問を口にする。

 いや、紗綾音だって驚いている。

 

 姉は自分の工作趣味やメカ好きなのを、家の外ではまるで口にしないのだ。

 

 想像でしかないのだが、それを昔、からかわれたことがあるのかもしれない。からかわれた、以上のこと、かもしれない。

 それをはっきりと聞いたわけではないのだが、いつからか姉が家の外ではめっきりお上品になったのが、嫌な感じに紗綾音の記憶に残っているのだ。

 機械・工具のコーナーに近寄らない。

 プラモデルを見ない。

 モーターショーに行きたいと言わない。

 小学生のときなんて、遊園地に行きたいというノリで自動車博物館に行きたいと父をせっついていたのに。バイクの博物館だったか。そこはよく覚えてないが、ある日を境にして、紗綾音が行きたいところで良いよ、なんて急に物分かりのいいことを言うようになったのは覚えている。それ以前なんて、休日に行きたいところで、よく姉妹喧嘩してたのに。

 そして、物作りみたいな作業は、独りで黙ってやるようになった。

 見ていてちょっと、寂しそうに見えてしまう。

 孤高な趣味だ、なんて思えば良いのだろうか。

 

 その姉が、誰かと一緒に趣味全開の店へと殴り込みに行くのか。

 

 それは誰だろう。

 同じ趣味の友達ができたんだろうか。

 だとしたら、それは喜ばしい反面、ちょっとジェラってしまう感じもある。

 そして、それ以上に、ちょっと、うん。

 

「えっと、友達って言うか……知り合い?」

 

 なんだか、雲行きが急に怪しくなって参りました。

 こんばんは、と不安が顔をひょっこり覗かせてきたのを感じて、思わず紗綾音は母を見る。ばちこんと目が合った。

 これはちょっと、嫌な予感がする。

 

「……一応、聞きたいんですけどね、お姉ちゃんや」

 

「え、なに紗綾音、急に改まって」

 

 抱きついていた姉から離れ、紗綾音は改めて回り込んでソファーへと座る。

 母、姉、紗綾音、の順番である。

 距離は詰め詰め。仲良く密着体勢。

 つまり、姉を左右で取り囲んだ。

 その意図を汲んだのか、紗綾音がそっと姉の左腕へ絡み付くように再度抱きついたのと同じく、母もそっと姉の右手を握って掴まえる。逃がすか、と両者の目が語っていた。

 そして紗綾音は姉を見上げる。

 可愛らしく、ぶりっ子で上目遣い。

 背が小さく、紗綾音に身長を追い抜かされてからと言うもの、逆に紗綾音の上目遣いには滅法弱くなっている姉の性癖などお見通しである。

 紗綾音に見上げられ、う、と言葉に詰まる姉へ、紗綾音はわざとらしく小首を傾げた。

 

 

 

「それ…………ひょっとして、デート?」

 

 

 

 一瞬だけ、紗綾音が問うたその言葉の意味を咀嚼するように、姉が沈黙する。

 一瞬、その次。

 

 ぼっ、と姉の顔が赤くなった。

 

「えっ!?」

 

「その反応、やっぱりデートだな!?」

 

「え、や、ち、ちがっ!?」

 

「てことは男だ!」

 

「そ、いや、おと、え、ち、そ」

 

 赤くなった姉がわちゃわちゃ慌て始めるが、その反応がすでに答えだ。

 やっぱり、嫌な予感は良く当たる。

 男だ。

 男とデートだ。

 可愛い姉に男の影だ。

 

「えー、どんな人どんな人!? 私の知ってる人!? 馴れ初めは馴れ初めは!? てかもう付き合っちゃってるとかなの!?」

 

「ち、ちち、違うよ!? いや待って紗綾音、落ち着いて!?」

 

「違うの? 男じゃないの?」

 

「男の人だけど……あ」

 

 言質はとった。

 チョロくないかこの姉。

 と言うか、やっぱり男だ。ついにこの姉に青春の香りである。

 

「ほらデートだデート! どっちが誘ったのかな!? お姉ちゃんから誘ったのかな!?」

 

「ま、待って、ちょっと待って紗綾音、待って紗綾音!?」

 

「そうよ、ちょっと待って紗綾音」

 

 これは尋問、いや根掘り葉掘りの嬉し恥ずかし乙女のトークタイムだとテンションが急上昇したところで、まさかの母親からのストップだ。

 そんな、お母さんはこちら側なのではなかったのか。

 一緒に姉の左右を取り囲んでいた仲間のまさかの裏切りに、嘘でしょ、と紗綾音はショックである。

 

「お、お母さん……」

 

「律歌、明日の夕飯は用意しない方がいい? あと、お泊まりになるんだったら、お父さんにはちゃんとアリバイ工作するから安心してね」

 

「お母さん!?」

 

 姉が安堵した表情で母を見るも、その母はやはり紗綾音の味方であった。

 暴走しかけた紗綾音を押し度止めてくれると期待していた母のまさかの裏切りに、嘘でしょ、と姉はショックである。

 

「私もアリバイ工作は協力するからねお姉ちゃん!」

 

「いらないよ!」

 

「え、お父さんに全部ぶっちゃけちゃうの? お父さんビックリぽっくりで心臓止まっちゃうかもだよ?」

 

「違うよ! 言わないよ! 止まらないよ!」

 

 段々と顔を真っ赤にして姉が連続で突っ込んでくる。

 そんな姉の右手を握ると言うか抑え込んでいる母が、何かにはっと気がついたように真面目な表情をした。

 

「ちなみに律歌、コンドームはちゃんと持ってる?」

 

「こ? こ!? ちょ、なに言ってるのお母さん!?」

 

「大事なことよ律歌。あとで私の予備を」

 

「いらないよ!」

 

「え、いらないの? ちょっとお母さん、律歌に赤ちゃんは早いと思うって言うか、おばあちゃんになるのは心の準備がまだって言うか」

 

「違うよ! しないよ! そうじゃないよ!」

 

「「シない……」」

 

「2人してそこだけ切り取って偏向報道しないでよあんぽんたん!」

 

 姉の顔がよく熟れたトマトなようになってきた。可愛い。

 しかしこの慌てよう、ドン引きした感じはまるでない。

 つまり、脈ありな反応だ。

 これがもし、姉が引いたような反応を示していたら、どこの馬の骨とも分からんゴミ虫が姉にまとわりつきやがってブっ○してやる、くらいは思ったかもしれないが、こちら側の反応であれば話は別だ。どちらが言い寄っている側かは分からないが、姉からも矢印が少なからず向いているのなら、こんなに美味しい、ではなく、テンションがブチ上がる話はない。

 

「ねーねー、付き合ってるの? どっちから告白したの? 馴れ初め聞きたーい!」

 

「つ、つつ、付き合ってません! まだそんな関係じゃありません! 取材はこれで中断です!」

 

「どんな人なの? ちょっとだけでいいからお母さんに教えてくれない?」

 

「どんな人だって別にいいでしょ!? お母さんはむしろ紗綾音を止めようね!?」

 

「あ、コンビニで待ち合わせってことは、お姉ちゃんの学校関係の男じゃないな? まさかバイト先の関係? たった1ヶ月で出会ってそんな進めたの!? お姉ちゃんやるぅ!」

 

「なんで紗綾音はこういうことばっかりに頭が冴えるの!? もう取り調べは終わり! おーわーりーでーすー!」

 

「まだそんな関係じゃない、て言うことは、律歌としては付き合うことは吝かでもない感じ的な?」

 

「う、う、うゃああああああああああああっ!!」

 

 姉が急に壊れて叫びだした。

 ちょっと母と2人がかりで問い詰めただけなのに。

 真っ赤になって姉はその場で立ち上がろうとしたが、残念、左側から紗綾音に絡み付かれ、右側からは母に押さえられ、じたばたとその場で藻掻くしかない様子。叫び声も猫ちゃんみたいなら、藻掻き方も猫ちゃんみたいだ。可愛い。

 ふんすふんすと鼻息を荒くする紗綾音に、あらー、と微笑ましいものを見るような表情の母。

 正に四面楚歌。姉の進退はきわまった。

 

 

 

「普通にお買い物するだけだから! デートじゃないから! 棟区さんとはそんなんじゃないから!!」

 

 

 

 そしてブチキレるようにして姉が一喝した。

 いや、数にしたら三喝か。

 しかし紗綾音は、そんなこと言ってー、と軽く受け流す。

 なんなら母も、そんなこと言ってー、と続けて重ねるようにして受け流す。

 そのお買い物先が、姉の趣味炸裂お気に入り店舗じゃないか。そんなところに一緒に行く時点で、姉からしたらきっとその棟区さんとやらはだいぶお気に入り……

 

 棟区、さん?

 

 うん? と妙な声と共に、紗綾音の動きがストップした。

 棟区。

 何故だろう、随分と聞き馴染みのある名字だ。

 具体的には、ここ1ヶ月で口にするのも随分と馴染んだ名字だ。

 紗綾音の頭に中に、同じクラスにいる悪役プロレスラーみたいな友人の顔がぽっと浮かんできた。

 うん、顔が怖い。

 彼の名字も棟区である。

 珍しい名字だ。

 いや、渡巻である自分が言えた台詞でもないのだが。

 

「……紗綾音?」

 

 姉の口から出てきた珍しい名字に、ぴたりと言葉が止まった紗綾音を妙に思ったのだろうか、まだ赤い顔のまま姉が怪訝そうに紗綾音を呼んだ。

 心配するような、それでもまだ追撃の質問が飛んでくるのを警戒するような、そんな表情だ。

 そんな姉の可愛い口から、あんな三白眼ヤクザフェイスくんの名前が出てくるだろうか。

 たまたま同じ名字ってだけだろう。

 たぶん。

 きっと。

 もしかしたら姉弟とか親戚さんの可能性はあるけれど、まさかあのクラスメイトの棟区 秋水であるはずが

 

 

 

「もしかして、棟区 秋水くん?」

 

 

 

「え?」

 

「あれ?」

 

 しかし、その名前を切り出したのは、まさかの母であった。

 驚いたように母へ振り返る姉。

 そして紗綾音は、不思議そうに首を傾げた。

 以心伝心がここに極まる。なんで考えていることが母に筒抜けていたのか。相思相愛ってやつだろうか。いやん照れる。ではなく。

 

「なんでお母さんが棟区くんのこと知って……あー、そっか、通話乱入してお喋りしたんだった」

 

「え?」

 

 母がクラスメイトの彼を把握していることに首を傾げたものの、よく考えたらこの前、彼と通話しているところで母がスマホを取り上げ、まさかの通話乱入をしてきた事件を思い出した。

 あの後2人揃って姉に説教されたんだよなー、と思い出して苦笑いを浮かべる紗綾音を、その姉がぎょっとした表情で振り返っていた。

 

「良い子だったわよね、棟区くん。すっごい声が渋くて、でも受け答えが丁寧で」

 

「うん、棟区くんは喋ったら凄い良い人だよ。でも見た目で凄い損してるタイプなんだよね」

 

「あら、ブサちゃん系?」

 

「おっとオブラートに包んだジャブのように見せかけて、ものっそい全力右ストレートな暴言。棟区くんは、なんて言うか、体が大きくて顔が怖くて、うーん、イカツイ系?」

 

「へー、写真ある? 体格良い子はお母さんタイプタイプ」

 

「いやないけど。て言うかちょっと、クラスメイトにツバ付けようとしないでよおばさん」

 

「おばさん!?」

 

 ショックを受けたように母が打ち拉がれ、姉の右肩にもたれ掛かるようにして崩れ落ちる。

 おばさんは流石に言い過ぎただろうか。いや、中学生相手にタイプとか言って写真を見たがる母親が悪い。謝らないかんね。

 律歌ぁ、とか言って嘘泣きで姉の気を引こうとする母に、べぇ、と紗綾音は小さく舌を出す。

 そして気がついた。

 姉が、凄い表情だ。

 

「え……なんで2人が棟区さんのこと知ってるの?」

 

 目を白黒させ、姉が混乱しつつ聞いてきた。

 なんで、と言われても。

 その言葉に顔を上げた母と、紗綾音は思わず目を合わせてしまった。

 

「えっと、お姉ちゃんの言ってるその棟区さんって」

 

「体が大きくて」

 

 背の小さい姉からしたら、だいたいの世の男性陣はみんな体が大きく見えるんじゃなかろうか。

 そんなツッコミを心に抱きつつ、そーだねー、と紗綾音は軽く返事する。

 

「顔が個性的で」

 

 あれを個性的の範疇に収めるとか、姉のオブラートは随分と分厚いみたいだ。

 まあ、個性的と言えば個性的か。

 彼の怖い顔を思い出しつつ、そしてどこか嫌な予感を再び抱きつつ、そーだねー、と紗綾音は乾いた声で軽く返事をする。

 

「声がすっごい男性、って感じの」

 

 男性陣の大半は声が男性って感じだと思うけど。

 しかしながら姉の言いたいことは何となく分かる。分かってしまう。

 うんうん、と深く頷いている母をチラ見しながら、そーだねー、と紗綾音は乾いた声で重たく返事をする。

 

「……棟区、秋水さん?」

 

「あー、うん。たぶんそれ、私のよく知ってる棟区くん」

 

 同姓同名かつ似たような背格好かつ顔の作りかつ特徴的な声、でない限りは、姉の言っている棟区 秋水さんとやらは、紗綾音のよく知っている彼のことであろう。

 人のことをチワワ扱いしてくる若干どころじゃなく失礼な彼のことを、なんで姉が知っているのか。

 それでもって、なんで彼が姉とデートするのか。

 姉の質問に答えつつ、紗綾音は大きく首を傾げてしまう。

 なんか、話がややこしくなってきたぞ、なんて思っていると、姉が再びがたりとソファーから立ち上がろうとした。

 しただけで、両サイドから絡み付かれるように押さえ込まれている以上、姉が自力でふりほどくことなどできず、再びじたばたと藻掻くだけで終わってしまう。

 しかしながら、それでも姉が驚愕した表情で紗綾音の方へと顔を向ける。

 驚愕したいのは紗綾音も同じだ。

 

 

 

「なんで紗綾音が棟区さんのこと知ってるの!?」

 

 

 

「なんでって、そいつ私のクラスメイト」

 

 

 

「クラスメイト!?」

 

 

 





 あけましておめでとうございます。はい、バレました(*'ω'*)

 ちなみに渡巻父、女3人で姦しくはしゃいでいるのを扉の向こうでチラ聞きしてUターン。

「たぶんこれ、男親が聞いてちゃいけない話題だ(・ω・`)」
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