ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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129『恋とは人を変える麻薬』

 人間は、一日経てばだいたいは冷静になる。はずだ。

 故に、錦地 美寧は今、とても冷静である。間違いない。

 良い子はおやすみ、悪い子は活動時間。どうせ悪い子である美寧は、ド深夜に学校指定のジャージに着替え、そわそわと出掛ける準備を行っていた。

 いや、そわそわ、は駄目だ。落ち着いていないみたいじゃないか。

 自分は冷静だ、とってもクールだ。念じるように自分に言い聞かせながら、美寧はリップクリームを一塗りし、んー、と唇を合わせるように閉じて、がくりと項垂れる。

 何故グロスじゃなくてリップクリームを塗った。すっぴんから初手リップクリームはおかしいだろ。

 

 なんだか、今日1日、全然上手く行かない。

 

 ぼんやりしていると言うか、注意散漫と言うか、気が散ると言うか、全体的に凡ミスを連発する1日であった。

 勉強しても身が入らず、風呂では長湯してのぼせかけ、お昼のメインディッシュは床へ華麗なる着地を決めた。

 ちくしょう駄目だ、とふて寝を決め込もうともしたけれど、悶々として寝れやしない。一体全体何がどうなってしまったのか。

 ふー、と美寧はリラックスするように軽く息を吐く。

 

 こんな夜中、今日も今日とて家では独りぼっちである。

 

 それがどうした。いつものことだ。

 母は仕事がうんちゃらとか言って今日は帰れないと、先程電話があった。

 ふーん、仕事にしちゃあ、随分と艶っぽい声ですね。年下の彼氏くんといちゃいちゃしているときにお電話でございますか。そうですか。そのいちゃいちゃ、年齢制限掛かってないだろうな。ところで年上男性の堕とし方知りませんかね。

 父は同じく仕事がなんちゃらとか言って、先程家から出て行ったばかりだ。

 へー、仕事にしちゃあ、なかなか良い香水じゃないですか。年下の彼女さんとナカヨシするお仕事ですかね。ホテルで会議でしょうか。そうですか。ところで彼女さんに既婚男性を誑しこんだテクニックを聞いてくれませんかね。

 両親が互いに不倫をして、ギスギスしてるなんて今更だ。

 つまり、いつものことだ。

 だからだろうか。

 今日は不思議と、両親に対して何も感じなかった。

 汚い。

 そう思うことすらなかった。

 

 まあ、それどころじゃなかった。

 

「うー、ジムに行くのにメイク決めんの、やっぱ変だよね……」

 

 両親とかいう不貞の輩、いや不逞の輩のことなど頭の中からすっ飛ばし、美寧はひたすら悩んでいた。

 家庭崩壊?

 前から前から。

 両親のネグレクト?

 こちらと高校生やぞ。

 そんなことはどうでも良いから、今はジムに行くのに化粧をばっちり決めるのはアリなのかナシなのかを誰か教えろ下さい。

 いつもの薄くナチュラルベースは作った。

 しかしながら、これから先をどうするか迷っている美寧は、化粧台の前でかれこれ10分、頭を抱えていた。

 

「どうせ汗で崩れるし……崩れたのは見せたくないし……でもちょっとくらい、ちょっとくらいは、ねぇ!?」

 

 鏡の自分へキレ気味に問いかける。

 どうせ筋トレして汗まみれになるのは分かっているのだから、むしろ化粧なんてしない方が良いのは理屈では美寧だって分かっている。分かってはいるのだ。

 だが、それはちょっと。

 どうせ性格は果てしなくブスなんだ。だったらせめて、顔くらいは美人にしておきたい。

 いやでも、汗だく化粧が大惨事、なんてなったら、そっちの方がブスじゃないか。

 それもちょっとなぁ、でもなぁ、ともにょもにょした感情となかなか折り合いが付かない。

 

「……て言うか、ジャージだっさい」

 

 そして鏡の自分をまじまじ見れば、今度はその格好が気になり始めた。

 学校指定のジャージである。

 なんとも芋っぽい。

 そう言えば、昼間にジムへ行ったときに、こんな格好している人なんて1人も居なかったじゃないか。

 あ、やばい、可愛くない。

 うあー、と思わず美寧はムンクの叫びみたくなる。いやムンクは作者か。

 

「お昼にスポーツウエア買いに行けば良かった……っ!」

 

 後悔先に立たずとはこのことか。後で悔いると書くのだから、先に立たないのは当たり前じゃないか。

 もっとなんか、なんて言うか、こう、ちゃんとしたトレーニング用の服を買っておくべきだった。

 いや待った、そもそもそういう服ってどこで売っているんだろうか。スポーツ用品店とかに行けば売っているんだろうか。それってちゃんと自分に似合うのあるんだろうか。いや、別に似合うに合わないとかは二の次で、ああいう服はトレーニングするためのものなんだから、別に誰かに見せようとかそういう感じのものじゃないのは分かっているのだけれどもにょもにょ。

 そろそろ美寧の頭から湯気が出てきそうであった。

 いや本当、今日はずっとこんな感じだ。

 余所事に気が取られている。

 そう、余所事だ。

 そのどっかの余所事さんのせいで、今日は1日中目の前のことに集中できない感じなのである。

 

 なんか、むしろ、段々と腹立ってきたぞ。

 

 ふーっ、と落ち着かせるために強く息を吐き出す。

 いやもう、なんなんだあの余所事さん。人の頭の中をちらちらちらちらちらつきやがって。邪魔だ邪魔だ。

 はい止め止め、変に考えるのは止めだ止め。

 化粧は薄くナチュラルで十分。

 服装はジャージで十分。

 今までだってこんなんだったし、別に何の問題もない。ないったらない。

 ジムは筋トレする場所。それ以外に疚しい気持ちは持ち込まない。はい以上。

 ぱん、と手を叩き、悶々と考え込んでしまう自分に無理矢理区切りを付けた。

 

「よし、行こうかな」

 

 コートを羽織って、帽子を被って、鞄を持って、立ち上がる。

 そして、鏡の前の自分を一睨み。

 

「頑張れ私」

 

 気合いを入れるように口にする。

 頑張る意外になにもない、そんな自分を奮い立たせるいつもの言葉。

 違和感なんて抱くはずもない、いつもの言葉。

 それを口にしてから、美寧はその口をもごもごとさせる。

 

 ――頑張っている美寧さんが、頑張り続けている美寧さん自身を褒め続けるべきことなんです。

 

 う、と美寧が一度息をのむ。

 ほら出た。

 また出た。

 出てくるんじゃないよ余所事さん。

 静かにしててよ余所事さん。

 うー、と小さく唸る。

 顔が赤いのは、気のせいだ、うん。

 

「が、頑張ってる、じゃん、私」

 

 ぽつり、と呟いてみれば、余計に顔が熱くなる。

 いや違うだろ、今からジムで頑張りに行くんだよ、今褒めるのはおかしいだろ。

 て言うか、頑張ってる私、ってなんだよ。ただの自画自賛じゃないか。ナルシストかよ。

 慣れない。

 絶対おかしい。

 やっぱあの余所事さん言ってることおかしいって。

 鏡の中の赤く染まった自分の顔から目を逸らし、美寧は足早に部屋を出て、玄関で靴を履く。

 

「行ってきます!」

 

 家に誰も居ないのに。

 そんなことは分かっているハズなのに、美寧は自然と恥ずかしさを誤魔化すようにして廊下の向こうへと挨拶を飛ばした。

 返事などない。あるハズがない。

 ふん、と鼻を鳴らしてから、美寧は玄関を開けてそそくさと家を出る。

 

 行ってきますとか、久しぶりに言った気がした。

 

 そして10秒程で、美寧は再び玄関を勢い良く開いた。

 

「……ただいま水筒忘れた馬鹿野郎が戻ったよクソぅ」

 

 ただいまも、久しぶりに言った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷たい夜風で頭を冷やし、美寧はいつものジムまでどすどすと歩いていく。

 

「一目惚れとかありえないし……っ、そんなチョロくないし……っ」

 

 ぶちぶちと愚痴のように零しつつ、肩を怒らせて夜道を歩く女子高生。恐怖である。

 なんだかもう、本当に腹が立ってきた。

 今日は全然上手く行かない。

 原因なんて分かっている。

 どいつもこいつも、あの余所事さんが悪いのだ。

 そりゃあ、昨日は精神的にちょっとヘラっていたさ。ジムじゃ危ないところを助けてくれたのはありがとうって感じだ。

 でも、それでコロっといくなんて、そんなそんな、まさかまさか。

 ドラマじゃないんだから。

 マンガじゃないんだから。

 ありえない、ありえない。

 人間は、一日経てばだいたいは冷静になる。はずだ。

 故に、錦地 美寧は今、とても冷静である。間違いない。

 ただいまクールでビューティな美寧ちゃんなのである。

 昨日はなんか、ラリったことを考えたかも知れないが、あれは気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。

 そんな、人が簡単に惚れた腫れたになるものか、馬鹿馬鹿しい。

 

「それなのに、ちらちら頭に出てるし……っ」

 

 惚れてない。

 惚れてなんかいない。

 なのに、ことあるごとに、なんか脳裏に過ぎるのだ。

 あの顔面凶器の余所事さんが。

 

「………………っ!!」

 

 言ってる傍から、思い出してしまった。

 ちくしょう、顔が熱い。

 顔と言うか、体が熱い。

 あーもうっ、と美寧は小走りになる。

 今からジムに行くんだから身体がぽかぽかで助かるよ、ウォーミングアップ代わりだちくしょう。

 軽く走って、ジムに着く。

 真夜中で、相も変わらず駐車場には車がない。

 今日も今日とて貸し切りか。

 少しだけ上がった息を整えるように、美寧は大きく深呼吸をする。

 

「……先生、いるかな?」

 

 ジムの扉を開くためにスマホを取り出しながら、美寧はぽつりと零した。

 口にして、急に不安になる。

 そう言えば昨日、結構な勢いで馬鹿とか言っちゃったなあ。

 思い出してみれば、ありがとうの一言も言ってなかった気がするなあ。

 それでもって、普通にガチ失礼な感じで帰っちゃったなあ。

 

 ……怒ってるかなあ。

 

 余所事さんが、いや、あの人が、怒っている姿なんて、想像できないけれど。

 いつも冷静で、優しくて、落ち着いている印象ばかりだけれど。

 凄く凄く、大人、て感じの人なんだけど。

 

 嫌われたら、と、思うと。

 

 心臓を、ぎゅ、と握られるような感じがした。

 ここまで来て、逃げたい、とか思ってしまった。

 急に、怖くなってきた。

 よく考えるまでもなく、昨日の自分は失礼で意味不明で面倒臭くてクソみたいな女であった。

 嫌われる。

 普通に考えて、嫌われる。

 

 いや、そもそも、こんな面倒な女、最初から、好かれるわけ、ないじゃん。

 

 スマホを取りだした手が止まる。

 寒い。

 おかしいな。ついさっきまで、暑かった気がしていたのだけれど。

 ああ、うん、風邪を引いてしまう。

 早くジムに入らねば。

 とりあえず、扉のロックを解除するQRコードを読み込まないと。

 そう思ってスマホを操作し始めるも、かすかに指が震えている。

 もう先に、あの人がいたら、どうしよう。

 昨日はごめんなさいって言わなくちゃ。

 それを無視されたらどうしよう。

 怒られたらどうしよう。

 嫌われたらどうしよう。

 

 むしろ、もう二度と、逢えなかったら、どうしよう。

 

 どうしよう。

 思考が嫌な方向に流れ始めてきたのを自覚する。

 ぎゅ、とスマホを強く握って、深呼吸。

 

「……当たって砕けろ」

 

 砕け散ったらどうしよう。

 どうしよう。

 美寧は大きく顔を横に振り、扉のロックを解除する。

 ジムの中は暖かい。

 でも、寒い。

 軽快な洋楽が流れている。

 相変わらず、深夜のジムはがらんとしていて。

 

 

 

 じゃら、と鎖の音がした。

 

 

 

 ひゅ、と美寧は息をのむ。

 いる。

 誰か居る。

 誰かと、言うか。

 ジムの入口から反対側、フリーウエイトのコーナー。

 パワーラックの隣にある、チンニングスタンド、いわゆる懸垂スタンドだ。

 美寧は今まで一度も使用したことがない大型器具で、ぶら下がって懸垂ができる他にも、ディップスや腹筋ができるバーやらパッドやらがついた多機能スタンドである。

 懸垂は、背中を鍛える種目で、真面目にやればかなり難しい自重トレーニングである。

 美寧自身は背中の筋肉が硬く、なおかつ自重を持ち上げられるだけの基礎筋力もないので、懸垂はできない。

 できないが、いつかはやってみたい種目ではある。

 

 その懸垂を、懸垂スタンドで行っている、1人の男性。

 

 腰にトレーニングベルトを巻き、そのトレーニングベルトから伸びた鎖には、20㎏のプレートが3枚もぶら下げられている。

 

 100㎏は超えているであろう男性の自重に、プラスして60㎏だ。

 それを追加ウエイトとして装着しているにも拘らず、その男性は懸垂スタンドに2本の腕でぶら下がり、がっしりとした大きな身体をゆっくりと引き上げていく。

 じゃら、とプレートをぶら下げた鎖が鳴る。

 

「すご……」

 

 美寧はその光景に息を飲み、ふらふらと懸垂スタンドの方へと近づいた。

 筋骨隆々で、正に男らしく力強さを象徴した体格。

 短く無骨に刈り上げられ、清潔感のある髪型。

 肌を露出させていないものの、ぴちっとした加圧タイプのトレーニングウエアのせいで、近くで見れば筋肉の動きが良く分かる。

 その人は、目を閉じて集中している。

 両手で握ったバーまで胸を近づけるように引き上げた身体を、今度はゆっくりと下ろしていく。

 ネガティブトレーニングも丁寧だ。

 近づけば、汗が見える。

 綺麗に、見える。

 ああ、流れる汗が美しい、なんて前に言っていたけれど、こういうことなんだ。

 懸垂スタンドまで近寄って、その人の懸垂をぼけっと見ながら、ごくり、と美寧の喉が鳴った。

 凄い。

 背中が凄い。

 筋肉が凄い。

 動き方が凄い。

 トレーニングが凄い。

 重量が凄い。

 ああ、頑張ってる。

 凄い、頑張ってる。

 涼しい顔なんてしていない。

 歯を食いしばって、汗を流して、熱気を出して、頑張っている。

 それが、凄く、綺麗に見える。

 綺麗と言うか。

 格好いい。

 格好いいのだ。

 相変わらず、顔は怖い。

 歯を食いしばってるせいで、もっと怖い。

 ヤクザとか、マフィアとか、悪役怪人だとか、そんなものは目でもない。世の中の悪という悪を煮詰めたような凄みがある。

 でも、格好いい。

 

 あ、好きだ。

 

 すっと、美寧の頭にそれだけ浮かんだ。

 何の反論も言い訳すらも出てくることなく、ただの感想のように、その一言が浮かんだ。

 その人は、2回、3回、4回と懸垂を続けていく。

 美寧がジムに入った時点ですでに何回の懸垂をしていたかは分からない。だが、懸垂というのは、ただの自重でも10回やれたら凄いことなのだ。

 それを、10回目。

 プラスして、美寧がジムに入る前の回数。

 さらにプラスして、60㎏という重り。

 流れる汗が美しい。

 そして、頑張る姿が美しい。

 こういう意味か。

 ただただ美寧はその人の懸垂を、固唾を呑んで見上げていた。

 また、その人の身体が持ち上がる。

 握ったバーまで、胸が近づく。

 近づききらない。

 背が限界なのか。

 腕が限界なのか。

 肩が限界なのか。

 歯を食いしばってる。

 ただでさえ彫りの深いその顔を顰め、力を振り絞っている。

 何回目の懸垂なのだ。

 もう限界なのだろう。

 きっと筋肉は悲鳴を上げている。

 この懸垂は、ここで終わるんだろう。

 この1回が上がりきらずに、終わるんだろう。

 

 ――過去の自分を打ち破り、自己ベストを更新し続けた先にしかないのです。

 

 ――自分の壁を、自分で打ち破るのが筋トレです。

 

 

 

「が、頑張れ先生! あともうちょっと!」

 

 

 

 声が、思わず出た。

 そんなもの、必要ないだろうって分かっているのに、声を出さずにはいられなかった。

 声援は、心から出るものだ。

 昔なにかで読んだ言葉の意味が、ようやく分かった気がした。

 

 両手で握ったバーの近くまで、その人の胸が、ゆっくりと上がった。

 

 凄い。

 凄い。凄い。

 凄い。凄い。凄い。凄い。

 思わず拍手をしてしまった。

 マナー違反ですよ、といつものように後で優しく窘められそうな気がした。

 それでも、ぱちぱちと拍手を贈った。

 限界を超えた。

 凄い。

 えっと、いつもこの人はなんて言ってたか。

 プラス。

 プラスの。

 そう、ウルトラだ。

 プラスウルトラ。

 いや違う。

 

 プルスウルトラ。

 

 ラテン語で、もっと先へ、もっと向こうへ、さらに前へ。

 

 この人は、こんな言葉を、ずっと投げかけていてくれたんだ。

 ずっと、頑張れって、心からの言葉で言ってくれていたんだ。

 好きだ。

 好きだ。好きだ。

 好き。

 バーから手を離し、じゃらりと音を鳴らしながら、懸垂スタンドのスタート位置に降りた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、は……」

 

 荒い息を吐く。

 汗が浮いている。

 格好いい。

 頑張った証拠だ。

 疲れ果てるのは、自分に打ち勝った証拠だと、言っていたその人が、自分自身で証明してくれた。

 ああ、本当だ。

 凄い。

 

「はっ、ふぅ……ふっ、はぁぁ……」

 

 ゆっくりと長い息を吐く。

 耳が、心地よい。

 呼吸を整え終わったのか、ぶら下げたプレートが床に思いっきりぶつからないように、懸垂スタンドのスタート位置からさらに降りた。

 そして振り返る。

 大きい人だ。

 格好いい人だ。

 素敵な人だ。

 好きな人だ。

 その顔を正面から見上げただけで、美寧の胸が高鳴った。

 

 

 

「ありがとうございます。それとこんばんは、美寧さん、良い夜ですね」

 

 

 

 低くて、重くて、身体に響くような怖い声のはずなのに。

 美寧にとっては何故か、その声がとても甘く感じられた。

 

「……こんばんは、先生!」

 

 棟区 秋水。

 このジムで筋トレを教えてくれる、美寧の先生。

 自然といつもより高くなっている自分の声に気がついて、張っていた意地は問答無用に粉砕されたことを美寧は自覚する。自覚せざるを得なかった。

 ああ、もう、なんだこれ。

 逢えただけで嬉しい。

 声が聞けただけで嬉しい。

 目を見てくれたのが嬉しい。

 挨拶してくれただけで嬉しい。

 たったの1日で、自分は陥落してしまったのだ。

 堕とされてしまったのだ。

 どきどきと、高鳴る心臓が教えてくれるのだ。

 

 

 

 やっぱり、この人が、好きだ。

 

 

 





 美寧ちゃんは良くも悪くも感情がマイナス面に振り切っているタイプでしたが、段々と感情の起伏が激しくなっていきます。
 え、すでに激しい?
 それはそう(´゚ω゚`)
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