「こんばんは、先生!」
少しふやけたような、もしくは華の咲いたような、良い笑顔と共に美寧が元気に挨拶を返してくれたことに、秋水は内心で小首を傾げるのであった。
随分と機嫌がよろしい様子。良いことだ。
はて、昨日の別れ方が別れ方だっただけに、絶対避けられると思っていたのだが。
ちょっと失礼、と声を掛けてから置いていたタオルとポーションを手に取って、顔の汗を拭いてポーションを一口飲む。
疲れが消し飛び、懸垂で早速酷使しまくった前腕と背筋が強制的に復活した。やあ、またオールアウトまで追い込めるね。
疲労感がなくなって休息に呼吸が落ち着いたのを確認してから、ポーションを入れているペットボトルのフタをきゅっと締めた。
そして美寧に声を掛けようとして、彼女の方へと顔を向ける。
「美寧さん、準備運動は……」
準備運動は大丈夫かと聞こうとしたのだが、思わず秋水はその言葉を呑んでしまう。
ガン見されていた。
いや、まじまじと見ていると言うよりは、どこかぼんやりしたように秋水を見上げていた。
少し潤んでいるようなその両目と、ばっちりと目が合った。
やや顔が赤いように見える。
のぼせているのか、熱が高いのか。
準備運動は大丈夫か以前の問題として、そもそも美寧の体調が大丈夫か。
ちょっと心配になって秋水が口を開こうとしたが、それよりも、はっ、と美寧が正気に戻る方が早かった。
「ぅあっ!? あ、ごめん! めっちゃ見ちゃった!」
「……ああ、申し訳ございません、見苦しいものを」
「あ、いや、う、そ、そんな、ことは……ないかなぁ……とか……」
驚いたように後ずさる美寧を見て、そう言えばいきなり汗だくになっていた自分の格好に気がついた。
まだこれ、筋トレ1種目目の1セット目なのである。
しかしすでに筋トレ終盤かのような汗の量は、ちょっと見苦しかったかも知れない。女性にとっては汗だくの男など見る価値はないだろう。特に厳ついだけのゴリラみたいな野郎のは、なおさら見るに堪えないだろう。
そんな意味の謝罪に、美寧はなにかフォローをしてくれようとしているのだろうが、上手くフォローの言葉が出ないのかもにょもにょと言い淀む。気を使わせてしまったようで申し訳ない。
「……せ、先生も、めっちゃ汗かくんだね」
やはりフォローしきれなかったのか、視線をうろうろと彷徨わせながら、美寧がそんなことを言ってくる。
そりゃあ、筋トレしたら汗は出るだろ。
咄嗟にそんなツッコミが頭を過ぎるが、秋水はすぐにはと気が付いた。
「重ねて申し訳ありません、汗臭いですね」
「え!? いや大丈夫! 全然気になんない! いい匂い!」
「……良い、匂い?」
「あ、や、違う! 間違えた! ……ごめん先生、ちょっとタイム!!」
言い終わるやいなや、顔を真っ赤にした美寧がダッシュでジムの中央くらいまで逃げ、秋水と距離を取る。
やっぱり何か調子が悪そうだ。
むさい男の汗が良い匂いとか、それは流石に嗅覚異常だろ。
なんだかいつもよりもテンションがおかしいことになっている美寧を見て、流石に心配になってしまう。
「お、落ち着けー、落ち着け私ー……」
しかもなにかブツブツと独り言を呟きながら深呼吸をしている。やっぱり汗臭かったんじゃないか。
美寧が何やらわちゃわちゃとしている間に、秋水はせっせと汗を拭き取る。とは言え長袖のコンプレッションシャツ、汗を拭き取れる面積は然程広くはない。タンクトップの方が良かっただろうかと思う反面、タンクトップでは肌の露出が増えるので余計に不快感を与えてしまう恐れもある。難しい。
しばらくしてから、美寧がとことこと秋水の所まで戻ってくる。はやくコートを脱いだ方が良くないだろうか。
「あの、先生……昨日はごめんなさい」
打って変わって戻ってきた美寧は、しゅん、と落ち込んでいる様子であった。はて、テンションの落差が激しい。
昨日、と言われて秋水は一瞬視線を右上に逸らして上げる。
どちらかと言うならば、ごめんなさいをしなければならないのは自分である気がしてならない。
セーフティーがあるにも拘らず、無駄に助けに入ってビビらせたし。
トレーナーでもないし、なんて他人事で、大事なことを教えてなかったし。
良く分からないが泣かせたし。
なるほど、スリーアウトといったところか。ベンチに戻って謝罪の時間だ。
さらに言うならば、変な話題を力説してしまったし、髪を触ってしまったし、怒られたし、で追加のスリーアウトである。
「いえ、昨日は私も申し訳ございませんでした」
我がことながらヤバい人じゃないかと思い至り、秋水はすぐに頭を下げた。
「ぅえ? いやいや、先生は全然悪くないから」
「泣かせてしまいまして」
「忘れてー!」
がくりと美寧が項垂れた。触れない方がいい話題だったのかも知れない。
羞恥のせいか顔を赤くしつつ、うー、と美寧は一度唸った。
「いやほら、なんか昨日は、変なこといっぱい言っちゃったし、全然お礼とか言えてなかったし、酷いこと言って帰っちゃったし……ごめんなさい」
「いえいえ、酷い罵詈雑言を受けたわけでもないので、あれくらいでしたら気になさらないで下さい」
「ううん、それでもやっぱり、ごめんなさい」
そして改めて美寧が深々と頭を下げた。
いや、本当に何も気にしてないのだが。
これがクラスのマスコットであるならば、頭をくしゃくしゃと撫でて高い高いしてやれば話が終わるのだが、美寧相手にはそうもいかない。美寧は華の女子高生様である。
なんと言えば良いものか、と秋水は少し考え、そして全然関係ないことを思い出した。
そう言えば、昨日のそもそもの発端は、美寧が40㎏という明らかに身の丈に合っていない重量でベンチプレスをやろうとしたからである。
身の丈に合っていない重量、というのがミソである。
「美寧さん、話を一度変えてもよろしいでしょうか」
「え? あ、はい」
「美寧さんは昨日、ベンチプレスを40㎏でやろうとされましたね?」
「うっ」
美寧の顔が引き攣った。
思いっきり昨日の大失敗を蒸し返してしまう形になって申し訳ない。
しかし、これは大切な話題だ。
「……ごめんなさい」
「ああ、責めているのではありません。ただ重要な話として、筋トレは適正重量で行うことも怪我をしないためには重要だというのは、ご理解頂けていますか?」
昨日のことを思い出してしまったのだろう、しゅん、と再び落ち込んで小さくなってしまう美寧に、秋水は威圧しないように声のトーンを落としながら重ねて質問をする。
筋トレにおいて最も重要なのは、もちろんフォームである。
それは目的の筋肉へ効率よく刺激を入れるため、でもあるが、別の理由もある。
フォームが崩れると関節や別の筋肉に負荷が掛かってしまい、身体を壊してしまうからである。
そして、フォームの次に重要なのが、正しい重量の設定だ。
どれだけフォームが正しくても、適正重量よりも重すぎる負荷で筋トレをすれば、怪我や故障の可能性が大きく跳ね上がる。いや、そもそも重すぎるのであれば、正しいフォームなど保てないであろう。
故に、適正重量を知る、というのは筋トレにおいて大事な要素となるのだ。
しかしながら、筋トレの適正重量というのは、意外と知られていないのである。
「な、なんとなく……最大重量の8割くらいでトレーニングするのが良い、とかなんとか、ってのは見た気がする、かな?」
「素晴らしい。その通りですね。それでは重ねて質問しますが、その最大重量、というのはご理解頂けておりますか?」
「え?」
美寧の言葉が詰まった。
考えるように視線が天井の方に向かう。
ああ、やはりな。
そんな美寧の様子を見ただけで、秋水は何となく察してしまった。
「……わかりません」
とほり、と肩を落としながら美寧は白旗を上げる。
まあ、予想は出来ていた。トレーニングボリュームを知らないのであれば、RM計算も知らないのは当然だろう。
RM。
レペティション・マキシマム。
今し方美寧に尋ねた、最大重量のことだ。
筋トレの適正重量というのは、そもそもこの最大重量が分かっていなければ求めようがないのである。
「ベンチプレスは40㎏いかない、って言うのは、身に染みて分かったけど、具体的にって言われたら実際にやって確かめるしか……」
口をもにょもにょさせながら、そして気不味そうに視線を彷徨わせながら、言い訳のようにごにょごにょと言っている美寧を見下ろしながら、秋水は軽く苦笑いをした。
トレーニングボリュームを知らない。
RM計算を知らない。
それはそもそも、その存在を秋水が教えていなかったからである。
自分のような輩を、先生と呼んでくれる人に対して。
自分のような輩を、頼ってくれた人に対して。
自分はトレーナーじゃないしなあ、とか、筋トレは好きにやるのが一番だしなあ、とか言い訳して、今まで随分と不誠実な対応しかしてこなかった気がする。
それが結局、昨日の事故に繋がって。
なんだ、悪いのはやはり、こちらじゃないか。
苦笑いを浮かべつつ、秋水は覚悟を決めることにした。
「重量×回数÷40+重量、ですよ」
「は?」
「重量×回数÷40+重量、です」
唐突に口にした計算式に、なに言い出してんだコイツと言わんばかりに美寧の目が点となった。
筋トレ民の基礎知識、RM計算の代表格である計算式だ。
「トレーニングで設定する重量と、それを限界まで行える回数が分かれば、最大重量の基本値は簡単な数式で求めることが可能です。それが 『重量×回数÷40+重量』 と言われているのです」
理論値なのでもちろん誤差はありますが、と付け加えて説明すると、へー、と感心したように美寧が声を上げる。
このRM計算、覚えておくと非常に便利なのだ。
例えば、何かの筋トレで80㎏の負荷を10回行えるのであれば、その人は理論的には100㎏をギリギリ1回行えるはず、となる。
つまり、その場合は100㎏が最大重量である。
その最大重量さえ分かれば、行いたいトレーニング回数から逆算して適正重量を弾き出すことが可能となる。
なので、正しく筋トレを行いたいのであれば、RM計算は必須なのだ。
その必須知識が欠如していた美寧は、秋水の説明を聞いてから、視線が左上へと動き、少しだけ首を傾げた。
ああ、聡いな。
計算式を聞いただけで、違和感を抱いたのか。
「……ちょっと待って、今の数式、もう1回お願い」
「重量×回数÷40+重量」
「割る40!?」
びくりと肩を跳ね上げながら、美寧が素っ頓狂な声を上げた。逆に秋水が驚いてしまう。
「え、あれ、ちょっと待って」
「はい」
「私のベンチプレスってずっと20㎏だったから、40で割ったら、その、0.5だよね?」
「なるほど、先に設定重量を40で割るのですね」
「マックス回数が12回……や、限界まで超頑張って14回だとしても、それを半分にしたら7だよね?」
「そうなりますね」
「え?」
そして、美寧の動きが固まった。
計算が速い。
再び視線を彷徨わせ、美寧は考えている様子。
まあ、考えたところで、『7+20』 なのだが。
数秒程待つと、そろり、と美寧が視線が秋水の目へと戻ってきた。
「……私の最大重量って、27㎏?」
「はい。もちろん誤差は大きいので、参考までに、となりますが」
「…………」
さあ、と美寧の顔が蒼くなる。
言わんとしていることは分かってくれたみたいだ。
「あの、それじゃあ、40㎏って……」
「見た瞬間に走りました」
「本当に昨日はごめんなさいでしたああああっ!!」
返事をするや否や、美寧の頭が凄い勢いで下げられた。コントのようだ。
そうである。美寧のベンチプレスの最大重量は、27㎏か精々28㎏といったところでしかない。40㎏に挑戦しているのを見た瞬間に、その重量は危険だ、と判断したのは、この数字を知っていたからなのだ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 先生がずっと重量あげるの止めてた理由がやっと分かった! 馬鹿じゃん私! 本当にごめんなさい!」
「いえ、これに関しては、その、教えてなかった私が完全に悪いと思います。申し訳ありませんでした」
「いや違うよ! どう考えたって私が馬鹿野郎じゃん! 理論値のほぼ5割増しとか、自殺行為じゃんね!?」
「ああ、確かに危険でしたが……いえ、謝罪するのは美寧さんではありませんよ」
顔を青くしたままぺこぺこと謝り倒してくる美寧を、やんわりと秋水は止めた。
RM計算を知ってさえいれば、美寧が如何に無謀な挑戦をしようとしていたかは、すぐに分かることである。
30㎏すらギリギリ1回できないであろう人間が、40㎏に挑戦するとか、そりゃ今は無理だ、という話なのだ。
そうならば、40㎏に挑戦するためには30㎏をクリアして、35㎏をクリアして、そうやって段階を踏まざるを得ないな、というのは分かることであろう。
そう、知ってさえいれば、だ。
それを教えなかったのは、秋水だ。
スクワットのフォームも無茶苦茶な初心者だというのは、知っていたのに。
トレーニングマシンの使い方すら知らなかった初心者だというのは、知っていたのに。
それでも秋水は、RM計算なんて大事なことを、美寧には教えてすらいなかった。
やはり、どう考えたって、今回1番悪いのは、秋水なのである。
「改めて、今まで申し訳ありませんでした」
今度は秋水が深々と頭を下げる番であった。
「え!? いやだから、悪いのは……っ!」
「悪いのは、間違いなく、私です」
いきなり美寧がフォローをしてくれようとしたが、それを遮って秋水は伝えた。
美寧に危険な挑戦をさせてしまった原因は、秋水である。
これは譲れない。
いや、譲れないと言うか、事実なのだ。
だって、RM計算を教えていただけで、防げていただろうことなのだから。
す、と秋水は頭を上げ、目を白黒させながらも慌てている美寧を見下ろす。
「美寧さんは、私を先生と呼びますね」
そして、聞く。
美寧は出会った最初は、お兄さん、と呼んでいた。
それがすぐに、先生、と呼ぶようになっていた。
筋トレに詳しいから、だから先生。
そんな笑えるくらいに単純な理由である。
それくらい軽いノリで先生と呼ばれるものだから、秋水もまた美寧の筋トレに対して軽く接していた。
いや、美寧に対して軽く接していた。
美寧が秋水を先生と呼ぶのは、頼れるからだ。頼る相手だからだ。
それくらい分かっていたはずなのに、最初に教えるべきことも教えないで、筋トレのメニューにすら口を挟まず好き勝手にやらせていて、そんな不誠実な対応を続けた結果、挙げ句の果てに昨日みたいな危ない目に遭わせてしまった。
こんな、大事なことすら教えない糞野郎が、先生たり得るのだろうか。
「私などが、美寧さんの先生でよろしいのですか?」
真っ直ぐ、美寧の目を見る。
ぽかんとした表情だ。
その表情のまま、美寧はすぐに口を開いた。
「私は、先生がいいよ」
返事を待つまでもなく、すらりと美寧の口から言葉が自然に零れてきた。
疑う余地などまるでないかのように。
もしくは、当たり前のことを、当たり前として返しているだけかのように。
美寧の台詞は、ただただ反射的な色を持っていた。
不覚にも、言葉に詰まった。
「先生が、好きだよ」
真っ直ぐ、美寧が秋水を見上げる。
綺麗なものでも見るかのように、秋水の目を見上げる。
続けて零れ出た美寧の言葉に、秋水の口元が僅かに歪む。
確かにそりゃ、人よりは筋トレの知識はちょっとあるさ。
でも、他人に教えたことなんて、全然ないのだぞ。
そこはかとなく筋トレを続けてはいるものの、自分よりも筋トレ歴が長くて、教えるのが上手な人なんて、探せば他に山程いるぞ。
トレーナー側の勉強なんて、全くしていないんだぞ。
そんなずぶずぶの素人先生なのに、それが好きと言われたら、嬉しいに決まっているじゃないか。
嬉しい。
ああ、そうか、嬉しいのか。
嬉しいんだな、自分。
ダンジョン以外で、筋トレをする以外で、嬉しいと、思ったのか。
僅かに歪んだ口元を、秋水は静かに隠す。
他者に対して、久々に感じた感情だ。
去年の年末から、抜け落ちてしまったかのような感情に、色がついたようにすら思える。
筋トレは他人からなかなか理解されにくいし、それ自体を趣味とするのは筋トレをしている人からですら理解されにくい。だから、と言うわけではないが、秋水はずっと独りで黙々と筋トレを楽しんでいた。
筋トレ仲間はいない。
いなくなった。
父だけだった。
それとすぐに入れ替わるように、真夜中のジムに美寧が現れた。
筋トレ仲間、かどうかは微妙だ。
なにせ教える側と、教えを請う側の意味不明な関係だ。
だが、筋トレの同志である。
素人か初心者かなど関係ない。
筋トレをする、同志である。
その同志に、認められた。
全く知識もない、クソ素人な教え方しかできないにも拘らず、先生として認められた。
嬉しくない、わけがないのだ。
「……教え方がねっ!!?」
戸惑いつつも感動している自分を認めていると、急に美寧が素っ頓狂な声を張り上げた。
なんだ、テンションの落差が激しいな。
どうしたのだと美寧を見れば、顔を真っ赤にした美寧。まるでトマトのようである。
「先生の教え方がって話ね!? 教え方が好きだから! だから先生に教えて貰いたいって話ねっ!?」
めちゃくちゃ強調して念押ししてくるじゃないか。
やめてくれ、これ以上嬉しくさせないでくれ。もしかして感動で泣かせたいのか。
教え方が良いと連呼され、手で隠した口元がさらに歪む。いや、笑みを作ってしまう。
そうか。
そうなのか。
そんなに言われたら、無視などできようはずもない。
これは本当に、覚悟を決めざるを得ないみたいだ。
こんなに嬉しいことを言われたら、仕方がないじゃないか。
「承知致しました」
「いやホント誤解しないでねっ!? 教え方って話だからねっ!? 口が滑っただけで他意はないからねっ!?」
「ふふっ、はい、承りました」
堪えきれずに思わず笑いが零れてしまった。
作った笑いでもなければ、作った笑顔でもない。
ああ、驚きだ。
ダンジョン以外でも、自分はまだ、笑えたのか。
顔を真っ赤にしながら力説してくれていた美寧は、笑いを漏らしてしまった秋水を見て、驚いたように言葉を詰まらせた。
自分みたいな奴が笑ったら怖かっただろうか。もしくは、力説を笑われたと勘違いさせてしまっただろうか。申し訳ない。
口元を手で隠しながら、こほん、と秋水はわざとらしく咳払いをした。
「それでは美寧さん、まず最初に、美寧さんの筋トレメニューに対して指導を入れねばならない点があります」
覚悟は決めた。
自分は先生だ。
トレーナーじゃないとか、筋トレは好きにやるのが1番だとか、そんな屁理屈は全部横に置いて、今この瞬間から、自分は先生だ。
美寧が先生と呼ぶ限り、自分は美寧の先生なのだ。
「うっ……はーい、重量の話だよね……」
「それに近いのですが、もっと根本的な話をしなければなりません」
頬を紅葉に染めたまま、再び視線を彷徨わせて肩を落とす美寧に対し、秋水は口元を隠していた手を開いて人差し指をぴしりと立てた。
それじゃあ早速、美寧には大事な大事なことを教えようじゃないか。
「美寧さんの行っている筋トレは、太るための筋トレです」
おーっと、決定的な一言を漏らしたはずなのに、何故か勘違いされたー!
……なんで(。´・ω・)?