渡巻 紗綾音は後悔していた。
とても、物凄く、激烈に、ウルトラ後悔をしていた。
なにを、だろうか。
もちろん、姉のデートを邪魔しに来てしまったことである。
ただいま工具や機械や資材の複合専門店、姉がお気に入りの良く分からない大型店舗、コプロという店の中。
その店で休憩スペースとしてではなく、展示用として置かれている椅子に紗綾音はよっこらしょと腰を掛け、そして盛大に重たいため息を吐き出すのであった。
その胸中では、ただただ後悔という津波が押し寄せてきている。
ああ、神様、デートの邪魔をするというのは悪いことなのですね。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ちるのですね。違うんです。姉のお相手が自分の友達だったからビックリ仰天したものの、はてさて本当に姉が惚れるに値する奴なのかと息巻いてついてきただけなんです。ごめんなさい。もう2度と人のデートを邪魔しようとか思わないから許して下さい。
コンビニで集合して早1時間、ぼんやり天井を見上げる紗綾音はすっかりゲッソリとしていた。
たったの1時間で、最早紗綾音の心の中は後悔いっぱい、面舵取舵いっぱいいっぱい、これが本当の大航海といったところであった。下らないことを考える余裕はまだあるらしい。
椅子に座ったまま、ちらり、と視線を移せば、そこには大好きな姉と、そして姉のデート相手である棟区 秋水という、正に美女と野獣、小人と巨人のカップリング。
秋水の方はいつものように表情があまり変わらず淡々とした様子ではあるものの、姉は実に嬉しそうに目を輝かせて隣の秋水を見上げていた。
いやー、お姉ちゃんが楽しそうだな-、なんて現実逃避をするように紗綾音はぼんやりと考える。
ちなみに姉は、自身の身長並みのバールを両手で握り締めていた。
秋水は若干引いていた。
「バールはとにかく汎用性が高い工具ですから安物を複数本ではなく上質なものを1本持っていた方が圧倒的に良いですね。私個人としては釘抜きの反対側がヘラ状ではなく尖っているタイプが好みです。解体作業で板とかを剥がすときにハンマーを使っちゃうと叩き割るって感じになるんですけど、バールを使えば綺麗に剥がせるのが良いですね。剥がした板も損傷を最小限にできるので、再利用が容易になるのもポイントが高いです。あと釘抜きも優秀ですよね。普通の釘抜きハンマーだと入らない狭い隙間でも、細いバールならすっと差し込んでテコの原理でさっと抜けちゃいます。特にサビサビの釘とか途中で折れた釘なんかもバールの先端でがって食い込ませて引き抜けるのは最高です」
「そうなのですね」
「重量バールになるとちょっとした破壊工作並みになるのも格好良いですよね。ハンマーのようにも使えますし、木枠程度でしたらがばっとこじ開けられますし、場合によっては大きな石とかブロックを動かすのにも使える万能工具です。建築現場でも一目置かれている工具なんですよ。手頃なサイズでしたら車のトランクなんかにそっと忍ばせておいて、災害時とかに閉じ込められた空間から脱出するみたいなサバイバルツールとしても使えちゃいます」
「そうなのですね」
「ですが、重要なのは素材と形状です。安物のバールだとすぐに曲がったり割れたりしますから、信頼できるブランドのスチールをお奨めします。あ、スチールと言っても安心して下さい。工具に使われるスチールは普通の鉄っぽい軽い金属とはレベルが違います。硬さ、粘り強さ、そして耐久性の3拍子をばちっと揃えるのが工具用スチールの真骨頂です。ハイカーボンスチールが良いですね。普通の鋼ですと炭素含有量が0.2%くらいですがハイカーボンスチールは1%近く炭素が入ってまして、硬い、曲がらない、でも叩いたら若干しなる、っていう奇跡みたいなスチールです」
「そうなのですね」
「あ、でもクロムバナジウム鋼も捨てがたいですね。クロムで錆びにくさを、バナジウムで靱性を引き上げる完璧な組み合わせ。バールのようにこじ開ける要素でしたら折れずに耐えるって感じも最強です。でもでも硬さを求めるならやっぱりマルテンサイト系ステンレス鋼にすべきですかね。ああ、それならSK鋼でいいやってなりますね。あ、SK-5です。ハイカーボンスチールの一種です。ハンマーのヘッド部分にも使われますし、切れ味が必要な刃物系にも使われてます。叩いてがりっといく系にベストですし、研げるというのもポイントが高いんです」
「そうなのですね」
いやー、お姉ちゃん楽しそうだなー。
視線を天井に戻してから、紗綾音は再び巨大なため息を吐き出した。
そして、がくりと項垂れる。
なるほど、そろそろ現実を見ようか。
デートは見事に大失敗こいてるよお姉ちゃん!
紗綾音は心の中で絶叫した。
どこの世界に初デートでバールの魅力を語る女がいるというのだ。いや途中から金属の話になっていたっぽいけど。
見てよ、隣の棟区くんを見てよ、完全に「そうなのですね」ボットになってるじゃん。
ツッコミを入れてやりたいもどかしさを、心の中のミニミニ紗綾音に地団駄を踏みまくる大ダンスをさせることで解消しようと頑張る。当然無駄な抵抗で、紗綾音が俯いたままぎりぎりと歯ぎしりをした。
「さあ棟区さん、とりあえず手に持ちましょう。ハンドツールは手に馴染むか直に持ってなんぼです。工具は手で持つものですから、つまり手との相性が悪かったらそれだけで作業効率ががた落ちです。グリップが太すぎたらしっかり握れなくて滑りますし長時間作業で手が異常に疲れちゃいます。逆に細すぎたら力が分散されて本来のパワーが出せずに工具に負けるなんて屈辱的なことになっちゃいます」
「そうなのですね」
「あと重心のバランスはとても大事です。バールなんて頭の重さと柄の長さが自分なりにマッチできてないとテコの原理が最大限に活用できません。それに棟区さんも工具が滑って使いにくいと仰っていましたが、滑りにくさは安全性に直結するんです。手汗とかで濡れた状態でも使う物で、そのときに滑るようなグリップだったらすっごく危険なんです。握ったときのフィット感やグリップの摩擦具合を確かめるのは非常に重要です。ゴム系か樹脂かメタル系の何が良いかは握って確かめるしかありません」
「そうなのですね」
「というわけで棟区さん、持ちましょう!」
「はい」
実に久々に姉の熱量が大暴走している姿を見る。
それに、姉の早口説明も久々に聞いた気がする。懐かしい。
なんだかすっかりお上品になったというか、自分の趣味をあまり他人に見せなくなったというか、最近は独りでひっそりと趣味に勤しんでいた姉ではあるが、そうそう、以前は自動車博物館とかに行ってこんな感じになっていたな。被害者は父か紗綾音で、母はいつもしれっと逃げていた思い出だ。うん、実に迷惑だった。
もう一度ちらりと2人を確認すれば、よたつきながらも持っていたデカいバールを、秋水へぐいぐいと押しつけている姉の姿。狂気の光景だ。
はぁ、と今度は小さく溜息を漏らしてから、紗綾音はえっこらしょと立ち上がり、足取り重く2人の方へと歩み寄った。
「あ、そうです棟区さん。バールって一言で言ってますけど、形状は色々あるんですよ。金テコとか鉄道バールなんて――」
「こらー、お姉ちゃーん、棟区くんをいじめるなー」
「はぅっ!?」
大きなバールを秋水に押しつけ、さらに別のバールまで保ってこようとしている姉の頭をがしりと掴んで止める。
え、なに? みたいな顔で姉は振り返る。
興奮しているのか赤らんだ顔で、きらきらと輝く目。くそう、可愛い。
「ごめんね棟区くん、お姉ちゃんなんだかテンション上がっちゃって」
「なるほど、手触りと重みが全然違いますね」
「おーい、もどってこーい」
「このメーカーのハイカーボンスチールは手触りが微妙にざらりとして個人的に好きなんですよね。ただちょっと重たいんですけど、棟区さんだとどうでしょう?」
「とまれー。お姉ちゃんストップー」
姉の熱量に引き気味ではあるものの、秋水も地味に興味がある様子。そして姉が止まる気がしない。地獄か。
やっぱりこれは、2人の言う通りデートとは違うものなんだろうか。自分がおかしいのだろうか。
とりあえず姉を止めるため、後ろから覆い被さるようにして抱きついておく。2人羽織状態だ。
「なんか想像してたのと違うー。甘酸っぱさが足りないよー」
「ほら紗綾音、あっちにチェーンソーがあるよ?」
「お姉ちゃん? 世の女子中学生全員ががチェーンソー見て喜ぶと思うなよ?」
後ろから被さりながら文句を言いつつ姉をゆらゆら左右に揺らしてみれば、揺らされながらも姉は何故か原動機コーナーの方を指さしてきた。駄目だ、今日の姉は頭が熱でやられている。
「棟区くんもなんかおかしいと思わない? 女の子2人をはべらせて、この状況は何かおかしいと思わない?」
「チェーンソーも一応見ておいていいですか?」
「もしかしておかしいのは私かー?」
「さて、反省会をしまーす」
「はい……」
「はい?」
そしてがっつり昼を回ってしまい、ここは近くの定食屋。
テーブル席にどかりと座り、メニュー表を広げながらも不満そうな顔で宣言する紗綾音に、身に覚えがあるのか姉はしゅんとして、身に覚えがないのか秋水は首を傾げながら返事をする。なんでお前の方が不思議そうなんだよ。
ちなみに、4人テーブルで紗綾音は姉の隣を確保した。
名目はともかくとして、実質デートであるならば、姉は秋水の隣へ強引に押し込むべきだというのは理解している。いや、そもそも自分がデートに割り込んで入っていくのはお門違いなのは重々承知している。
しかし、姉の隣はやらん。
なんかこう、心がモヤるので、姉の隣はやらん。
姉の青春に華が咲いたのは諸手を叩いておめでとうだが、それはそれとして、姉が秋水に盗られるのは、心がモヤるので許さん、今のところは。
「棟区くんはアレだね、もしかして機械工作とかが好きだったの?」
「……水饅頭がありますね」
「よーし棟区くん、私もメニュー置くからお前も置くんだー。そしてこのウルトラ可愛い紗綾音ちゃんのご尊顔を拝むのだー」
同じくメニュー表を開いてこちらの質問をガン無視してくる秋水に若干ピキりつつ、紗綾音は自分の開いていたメニュー表をテーブルの上へとばんと置く。
え、みたいな感じで秋水は顔を上げ、再び不思議そうに首を傾げてから同じくメニュー表をおろした。開いているページは、何故か最後のデザート系。薄々感じていたのだが、秋水はやはり不思議系キャラである。
「えーっと、棟区くんってスイーツ男子だったの?」
「いえ、甘いのはそれほど得意ではないです」
「わりと天然くんだぁ……」
心底不思議そうな感じの秋水を見て、紗綾音はツッコミを諦める。
その紗綾音の隣で、姉が秋水の置いたメニュー表を見てから、紗綾音が置いた方のメニュー表をぱらぱらめくり、そして何故か秋水と同じデザート系のページを開いてからそれをじっと眺める。
「冬場に水饅頭が提供されてるのって珍しいですね。夏の風物詩みたいなメニューなのに」
「通常のメニュー表にあるのですから、どうやらグランドメニューのようです」
「ぜんざいもありますね。季節関係なさそうな感じを見るに、甘味には力を入れてなさそうです」
「和菓子系に偏っていますね」
「日持ちの問題かもしれませんね」
「水饅頭とかいうスライムモンスターみたいなのから会話が広げられるのかぁ……」
何故かデザートメニューについて始まる姉と秋水の会話に、息が合っていると言うか、2人の波長が合っていると言うか、なんと言うか、お似合いな感じがひしひしと伝わってきて、若干心がモヤった。
なんか、なんと表現すればいいのか、うー、という自分でもよく分からない感情がふつふつとわいてくる。
これはあれか、お前に娘はやらん、みたいな感情なのか。
「むーん」
「え? ええ? 紗綾音?」
なんだかモヤモヤする感情を誤魔化すようにして、姉の肩に頭を乗せてぐりぐりしてみる。なんだか突飛な行動になってしまった。
姉の恋愛は全力で応援したい気持ちは確かに紗綾音の中にはあるのだが、やはりそれはそれとして、大好きな姉を男に盗られるのは正直面白くないという気持ちもあるのだ。
しかも、相手は秋水だ。
姉が自分と秋水が知り合いだと驚いていたのだが、それは紗綾音だって同じこと。
なんで秋水が姉と知り合いなのか。
なんで秋水が姉に惚れられているのか。
なんで秋水なのか。
なんか、モヤる。
きっとこれは、ぽっと出の男に姉がかっさわれそうで、ジェラシーが爆発しそうな感じなんだろうか。
なんか、イヤだ。
姉のおめでたい話は、普通におめでとうしたいのに。
「お姉ちゃんって、もしかして棟区くんと喋るとき、いつもあんな感じで喋ってる?」
尖りそうになる口をもにょもにょさせながら、頭を乗せた姉の肩をぐりぐりしながら質問を口にする。
最近は家族の前ですら見せなくなった、子供みたいに目を輝かせて口から良く分からない説明長文垂れ流す、あのスタイル。スポーツマンガとかバトルマンガでよくいる、便利な解説キャラみたいな感じ。
紗綾音の見る限りにおいては外でもめっきりとやらなくなったと思ったのに、秋水相手には迷うことなく自分の好きを押しつけていくようにトークを炸裂させていた。
躊躇う素振りは全くなかった。
いや、そもそもだが、デート場所として選んだ店が姉の趣味が炸裂している店である。
それはつまり、秋水には姉の本性がバレていたという証拠だ。
モヤる。
紗綾音の質問に対し、姉はきょとんとした表情になった。
それもモヤる。
「え? あんな感じ?」
「あの絶好調な雪崩撃ちマシンガン解説」
「う゛……」
姉は言葉に詰まった。
ありがとうございます、それが答えです。
「い、いつもはちゃんと接客してるよ……?」
「へー」
「……前に1回だけやらかしました」
言い逃れをしようとする姉を、ぐりぐりと体をすり寄せるのを止めてジト目で見つめれば、僅か数秒で陥落した。弱い。
そうか。
それでなお、姉の趣味全開な店でデートをしたということは、秋水は姉のそういう言動を受け入れているということか。
うーん、と紗綾音は少しだけ唸った。
姉の趣味を否定しないでくれる。
それに辟易しないでくれる。
なんであれば、姉の趣味に付き合ってくれる。
なんだ、秋水は普通にいい男じゃないか。姉のお付き合い相手としては、結構ポイント高いぞ。
だが、それはそれとして、やっぱりモヤる。
ふーんだ、私だってお姉ちゃんの趣味は昔から知ってるもーん、みたいな感じだ。
いや、その姉の趣味に付き合うかと言われたら、付き合わないけど。
しかも辟易してるけど。
ぐぎぎ、と紗綾音は顔を顰める。
姉が盗られる。
秋水と姉がくっつく。
なんか、モヤる。
「好きなものを語っているときの律歌さんは、とても生き生きとしていて素敵だと思いますよ」
「そ、そうですか?」
「妹の目の前で見せつけてくるんじゃなーい」
モヤるから。
正直、姉が秋水に対して、女、という感じの顔になるのは、めちゃくちゃモヤるから。
何故か姉をフォローする秋水に、姉が露骨にほっとしたような表情になるのを見て、紗綾音は棒読みでツッコミを入れる。
ただの知り合いです、とか姉は一生懸命釈明しているのだが、こういう姉の顔を見てどう信じろというのだ。
いや絶対に好きでしょ。
普通に惚れてるでしょ。
普段は隠してる趣味の領域に誘うって、それをただの知り合いというのは無理がある。
「棟区くんも、お姉ちゃんが説明垂れ流し始めたら遮っていいんだからね」
「いえ、ですが、タメになる話ばかりでしたので……」
「お姉ちゃんを甘やかすんじゃありません。お姉ちゃんと付き合うんだったら、そこは覚えておいてね」
「つき!?」
そして秋水へ視線を向け、唇を尖らせながらも注意を飛ばせば、そこにビクリと反応したのは何故か姉であった。
ばんっ、とテーブルを叩いて姉が唐突に立ち上がる。
その姉の肩に頭を乗せていた紗綾音は見事に弾き飛ばされた。いたい。泣きそう。
どうしたと顔を上げれば、一気に顔を赤くした姉の姿。
「つ、付き合ってません!」
「へーい、お姉ちゃん、ここお店、大声だめー」
「う゛」
そして姉を座らせる。
いや、過剰反応ありがとうございます。微笑ましい。
紗綾音としては、姉の買い物とかに付き合うんだったら、くらいのニュアンスで言ったのだが、見事に姉に曲解されてしまったようだ。頭がピンク色なご様子。ほぼ自白しているようなものじゃないか。
「む、棟区さんとはそういうんじゃないって言ってるでしょっ。そんなこと言ったら棟区さんに失礼でしょっ」
「えー……」
席に座り直し、それでも顔を赤くしたままの姉は声を抑えながらも、ぶんぶんと手を振って怒ってくる。
べったべたにベタな反応だ。
いやこれ、姉の片想いだとしても、これだけ分かり易かったら秋水だって普通に気がついていることだろう。
初心なクレーマーから目を逸らし、秋水をちらりと確認する。
「……水饅頭、モンスター?」
「興味もてーい」
まさかの再びメニュー表へ目を落とし、水饅頭に興味を向ける秋水を、紗綾音は思わず半眼で睨んでしまった。
もしかしたら気がついていないのかもしれない。
鈍いのか?
もしかして、このゴリマッチョモンスター、クソ鈍感野郎なのか?
これだけ明確に巨大な矢印を真っ正面から喰らっても、何も気がついていないとか流石に冗談だと思いたい。
姉の相手としてはポイント高いと言ったな。あれは嘘だ。こんなニブチン熊巨人に大好きな姉を渡してなるものか。
「そんな気になるなら頼もう? 食後のデザートで普通に頼もう? 別に甘い物好きな男子が馬鹿にされるなんて昭和か平成かみたいなこと、今時ないんだし」
「え?」
どうやら水饅頭が気になっている秋水へ、紗綾音は疲れたように説得を試みる。
スイーツ系男子、いいじゃないか、可愛いと思うよ。秋水がそれだとしたら、いや、まあ、うん、ギャップがあってよろしいんじゃないかなと。
しかし、秋水はその言葉に再び顔を上げた。不思議そうな顔をしていらっしゃる。何度でも言おう、不思議なのはこちらだよ。
「ああ、いえ、食べたいというわけではないのですが」
「ですが?」
首を傾げて尋ねてみれば、ふむ、と秋水は一度鼻を鳴らしてメニュー表をちらりと見る。
癖なのだろうか。何かを考えるとき、秋水は鼻を鳴らすようにして一拍だけ間を置いてくるのをよく見かける。
考えるのを邪魔しないよう、紗綾音はぐいりと姉に寄りかかってその一拍を待った。
重い、とか姉が呟く。泣いちゃうぞこら。
さらに姉にグイグイくっついていくと、秋水の目線がすぐに上がった。
「……先程言われた、すらいむモンスター、というのはなんでしょうか?」
渡巻姉妹は基本的に双方向のシスコンです。
なので、姉が盗られそう、と感じているのは事実です。
一応。