ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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139『なんなんだよこのスライム!?』

 

「スライム、ねぇ……」

 

 棟区家の庭にあるダンジョン、その地下1階であるセーフエリアにて、座布団に座っていた秋水はスマホから顔を上げ、溜息とともに天井を見上げる。相変わらず光り輝く天井の岩が眩しいものだ。

 

 渡巻姉妹と別れた後、秋水は工具店に戻って色々と買い込みを行った。

 工具店の方では武器になりそうなものをじっくり吟味したものの、最終的に行き着いたのはやはりバールであった。

 杭やハンマーも武器として良さそうと思ったのだが、杭のように突き刺すのもハンマーのように叩き潰すのも、どちらもバールで行えることを考えると、ならバールでいいのでは、となってしまったのだ。

 律歌からも何故か熱くプッシュされていたが、バールというのは秋水が軽く考えていた以上に汎用性が高い工具である。

 そして、それが転じて武器としても非常に優秀だ。

 最初は家に据え置いていた工具の中で適当に選んだバールであったが、今考えてみればなかなかの良い判断だったんじゃなかろうか。

 というわけで、ホームセンターとはまた違った巨大バールを購入した。

 長さは150㎝。

 今まで使用していた巨大バールから、さらに20㎝巨大化である。

 素材は、律歌がめちゃくちゃ押してきていた、はいかーぼんすちーる、とかなんとか。正直に言って律歌の説明してくれていた内容の7割くらいが頭から流れ出てしまっているのだが、普通のスチールよりも炭素の量が多くて、凄い硬くて丈夫だとかなんとか。申し訳ないことに良く分かっていないが、とりあえずおすすめのハイカーボンスチールにしてみた。

 長さがさらに増した分、一回り太くなり、重さはかなりずっしりとくる。

 それに、大きく振り回す場合は壁に当たらないように気をつけなければいけないサイズ感だ。

 工具店の方では他にも色々と使えそうなものを買ったので、新装備としてダンジョンで実際に試しておかねばならないだろう。

 

 それから、刃物屋の方でも買い物を行った。

 刃物屋は、包丁やらハサミやらを中心として、様々な刃物を取り扱ったショップだ。

 以前にそこで買った鉈と斧は、ボスウサギ戦では大いに活躍したものの、相打ち同然で砕けてしまったので再度購入である。

 ただ、鉈は別物だ。

 前に購入した鉈は、中華包丁みたいと言うか菜切り包丁みたいと言うか、切っ先が尖っておらず、突き刺す、ということができない代物であった。

 そのタイプの鉈は、腰鉈、と言うらしい。

 奈加護という刃物屋の店員が、そう教えてくれた。

 そして今日買った鉈は切っ先があり、ほとんど分厚いナイフのような出来映えの鉈である。これで容赦なく突き刺すことができる。

 こちらは、剣鉈、と言うらしい。

 これもまた奈加護という刃物屋の店員が教えてくれた。

 この奈加護という店員、刃物屋に秋水が入店してから、す、と秋水の方に近づいてきて、丁寧に色々と教えてくれたのである。

 確か前回のときも斧と鉞の違いに首を傾げていたときに、そっと助け船を出してくれた店員さんだ。その時のことを覚えてくれていたようである。かなり助かる。

 ちなみに、予備の購入ですか、と聞かれたので、前のは壊れまして、と正直に言ったら何故か遠い目をしていたのが妙に印象的だった。

 

 そうしてダンジョンアタックに向けて装備を整え、セーフエリアに戻ってから秋水が次に行ったのは、早速調達したばかりの武器の試運転、ではなく、お勉強であった。

 当然だが、学校の勉強ではない。

 ダンジョンについての勉強である。

 

「とりあえず、あいつはスライムって名前でいい、んだよな?」

 

 座布団の上で胡座をかいて、秋水は大きく首を捻る。

 スマホで調べていた内容は、スライムについてだ。

 角ウサギのように、ウサギだ、と類似している生物がおらず、その見た目からとりあえずデカい水饅頭と呼んでいた地下3階のモンスターのことである。

 そのデカい水饅頭は、スライムと言うらしい。

 紗綾音曰く、ポピュラーなモンスター、だそうだ。

 そんなポピュラーなモンスターとやらも知らない秋水は、セーフエリアに戻って早速スライムについてを色々と調べてみた。

 調べてみて、現在秋水は首を捻っているのである。

 

「なんか、あの家犬の言ってることと微妙にちげぇよな……」

 

 秋水が悩んでいる理由は単純で、スライムとして紗綾音が言っていた内容と、秋水がざっと調べたスライムの内容で、だいぶ食い違いが発生しているからであった。

 紗綾音は水饅頭のことをスライムと表現した。

 その紗綾音で参考として見せてきたスライムは2種類。

 1つはゲームの雑魚モンスターとして、タマネギ型をしたフォルムに目と口をデザインされた、全体が水色をしたデフォルメキャラ。こちらは秋水の知っているデカい水饅頭とは似ても似つかない。

 そしてもう1つは、リアル寄りのデザインとして、正に水饅頭といった、半透明で柔らかそうなグミみたいな見た目のモンスター。秋水の庭のダンジョンに出没しているのは、こちらのタイプだ。

 なるほど、スライムというモンスターはゲームやマンガなど、作品によってだいぶデザインが変わるのか。

 それに、基本的に雑魚モンスターとして出てくるらしいが、作品によっては物理攻撃に強かったり体に色んなものを取り込んで吸収したりと、かなり強い設定で描かれることがあるらしい。

 姿形も作品によってだいぶバラツキがあり、その強さも様々、と。

 だいぶ設定の自由度が高いのだな、と思いながら秋水は軽く調べた。

 

 そして、予想を上回る自由度の高さに、頭を抱えた。

 

 そもそもだが、スライムというモンスターは、泥状の不定形モンスター、らしい。

 元々はドロドロした怪物で、粘液状のトラップ的なモンスターのことをスライムと言っていたらしいのだ。

 少なくとも紗綾音が見せてきた、丸っこい半透明なゼリーみたいな定形はしておらず、泥や水溜まりみたいな見た目だったらしい。

 なんでも、天井から突然落ちて現れる、体に人間を取り込む、触れたものを溶かす、金属を腐食させる、槍や矢が効かない、毒や呪いも効かない、剣で斬ればむしろ分裂する、増殖する、という調べてただけでも滅茶苦茶厄介そうなのが分かるモンスターなのだそうだ。

 いや、強すぎだろ。

 強いパターンもある、と紗綾音は言っていたが、それでも普通に厄介すぎだろ。

 しかし一方で、紗綾音が見せてきたタイプのスライムもあった。

 そちらは日本で国民的人気を誇ったRPGで登場したスライムだ。ぷにっとしたフォルムに愛嬌のある顔をした、タマネギみたいな形でデザインされたタイプである。

 平原で出会う最初の的で、触っても問題なく、普通に剣で斬れる、最弱のモンスターとして設定されているらしい。

 なるほど。

 見た目は泥状から丸い形まで。

 強さは最強から最弱まで。

 うーん。

 

「……あいつ、スライム、なのか?」

 

 思わず疑問形で漏らしてしまった。

 いや、だって、しかたがないだろう。

 種族としての姿形も、そして能力すらもてんでバラバラである以上、あのデカい水饅頭をスライムと断言して良いかが分からない。

 ただ、紗綾音から見せられた2枚目の方、リアル寄りにデザインされたスライムのイラストは、正に秋水の知っているデカい水饅頭の姿にそっくりだった。

 それに、昔のスライムの特徴であった、体に取り込む、溶かす、毒が効かない、などの特性はデカい水饅頭にも当てはまる。それに、紗綾音の言っていた物理攻撃に強い、というのもピッタリだ。

 そう考えたら、スライムと言っていい、かなぁ? といった感じである。

 

 まあ、大事なのは名前より、その攻略法である。

 

 気を取り直して秋水はスマホに向き合った。

 とりあえず、あれがスライムであると仮定して、その攻略法を調べよう。

 

 

 

 10分後、秋水は再び頭を抱えていた。

 

 

 

「無理くね?」

 

 感想はこの一言である。

 弱いスライムと強いスライム、この2パターンで調べてみて、弱い方のスライムの攻略法はとても簡単だった。

 殴れば全て解決する。

 以上だ。

 打撃が効く。斬撃が効く。そもそも耐久性は紙で、基本は雑魚。攻略法も何もなく、正面から当たれば済むとしか言いようがない。

 つまり、この攻略法は、違う。

 少なくとも、あのデカい水饅頭に対する攻略法とはまるで違う。

 あちらは打撃はぽよんぽよんして効き目がないし、斬撃は試してないが恐らく効果はそこまで期待できないだろう。そもそも、近場の物を取り込んで消化する、なんて凶悪なゴミ処理機能まで備えていやがる。

 となれば、強い方のスライムに対する攻略法を参考にしよう。

 

 参考にならない。

 

 以上。

 

 それが秋水が頭を抱えている原因であった。

 まず大前提として、強い方のスライム相手には、【物理攻撃は基本NG】。

 これは理解できる。殴ってどうにかできる相手じゃないのは、何となくでも分かっていたことだ。

 そして、【下手に触れると装備が溶ける】。

 そうだな。取り込まれて消化されてしまうからな。分かる。

 そして最後。

 これが一番大事なことだ。

 

【無理に戦うな】

 

 おいふざけんな。

 戦いたいから調べてんだろうが。

 その文言を見た瞬間に、秋水はとても渋い顔をしてしまった。

 なんでも、通路を塞いでいるだけならば、迂回したり逃げるのも戦術のうち、だそうだ。

 そもそも強い方のスライムというのは、生き残るためには戦ってはいけない相手、遭遇はイコールで即ピンチ、というかなりヤバめのモンスターであり、ダンジョンにおいてはトラップや障害物のように扱われていた、とのこと。

 うおーい、と誰も居ないのに秋水は独りでツッコミを入れる。

 

 つまり、なんだ、あのデカい水饅頭は、戦えるモンスターとしてではなく、トラップとして配置されているスライムなのか。

 

 なんだそれ。

 戦うなということか。

 つまらねぇ。

 座布団に座り込みながら、秋水はリアルで頭を抱えて蹲る。

 

 まあ、でも、戦いを避けることは、たぶん、可能だ。

 

「……出口自体は普通に見えてるもんなぁ」

 

 顔を上げて秋水は呟いた。

 そう、ダンジョンの地下3階は、階段で降りた先の部屋にスライムらしき奴らが7体程いるのだが、それらは恐らく全部スルーして通り抜けられる。

 なにせ、入口とは反対側に、普通に部屋の出口が見えているからだ。

 スライムらしき奴らは、移動速度がかなり遅い。

 床を埋め尽くす程にびっしりと居るわけではなく、体育館程度の広さの部屋に7体しかいない。

 避けて通るのは、なんの問題もなくできるだろう。

 そして、そのまま出口から出ることもできるだろう。

 できるだろう、けれども。

 

「ぬーん……納得いかねぇ……」

 

 後は、最早気分の問題である。

 戦えないのか。

 ぶっ殺せないのか。

 それは、単純に、つまらない。

 確かに、角ウサギのように殺意マックスの角突きタックルを繰り出してくるみたいに、何らかの攻撃してくる感じはまるでない。それでは殺し合いなんてのにはならないだろう。

 そう考えれば、あのスライムもどきはスルーしても良いかもしれない、けれども。

 

「んー……」

 

 腕を組んで考える。

 

「……いや、そもそもだけど、スルーできるってまだ決まってないよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして早速、秋水はダンジョンに潜っていた。

 ジェットヘルメットにライディングジャケット、そしてライディングパンツで身を固め、そのインナーには各所を守るプレートが仕込まれている。

 腰には工事現場や建設現場の作業で使用される作業用ベルトに、通常のバールを4本差し込み、ポーチを2つ取り付けてある。ゴムネットを仕込んでいる物と、ポーションなどを仕込んでいるポーチだ。

 そして、作業用の腰ベルトにはアタッチメントもつけ、買ったばかりの剣鉈を固定している。

 以前はただ単純に鉈の鞘をぶら下げていたのだが、今回からはぶらぶらしないよう、きっちり固定だ。工具店で腰ベルトのアタッチメントがあったから買ってみたが、これはなかなかに良さそうな感じである。良い買い物をしたかもしれない。

 ちなみに、片手斧は今回お留守番である。

 固定するアタッチメント、2つ買っておけばよかった。

 

「さて、と」

 

 秋水がいるのはすでに地下3階。

 デカい水饅頭、ではなく、スライム達がぷよんぷよんと思い思いに散らばっている部屋である。

 ライディンググローブ越しに、巨大バールをしっかりと握り締めた。

 今回持ってきた巨大バールは、今日買った物ではなく、ホームセンターで再び購入した130㎝の方である。在庫処分セールというわけではないが、とりあえずは使い慣れている方を選択してきた。

 

「やっぱキミら、襲って来ないのな」

 

 部屋に足を踏み入れた瞬間に問答無用で襲いかかってくる角ウサギと違い、部屋に入ろうと近づこうと、秋水のことなど気にする様子もなくスライムはぽよぽよしている。

 軽く身構えつつ、秋水はちらりと視線を動かす。

 出口は、ある。

 普通にある。

 

「……出口に近づいた瞬間に、襲いかかってきたりしねぇかな」

 

 秋水は近くのスライムを確認しつつ、ゆっくりと足を進める。

 部屋は広い。

 スライムは今回も7体しかいないので、避けて通るのは簡単だ。

 まずは近くの1体をスルーする。

 襲いかかってくる様子はない。

 残り6体の内、5体は出口までの方向にはいない。

 このスライム、出口を塞ごうという気迫すら感じられない。もっとやる気を出してくれよ。

 そして歩く。

 部屋の中央くらいまで来てから、秋水は未練がましく後ろを確認した。

 最初にスルーしたスライムは、やはり秋水のことを気にする様子もなく、ぷるぷるしながらのんびりと移動している。しかも、秋水とは全然関係ない方向へ移動している。

 なんか、むしろ、ちょっと寂しくなってきた。

 無視されるって辛いなぁ、と思いつつ、再び脚を動かす。

 出口の近くに、スライムがもう1体。

 そのスライムを注意しながら、避けるようにして弧を描くように迂回する。

 やはり、襲いかかってくる様子はない。

 

 そして、なんか、なんの問題もなく出口の近くまで辿り着いてしまった。

 

 秋水は思いっきり渋い顔をした。

 その場でぐるりと部屋を見渡す。

 どのスライムも、我関せずといった感じだ。

 薄々分かっていたことではあるのだが、全く相手にされていない。悲しい。

 

「おーい、出てっちゃうよー」

 

 駄目元で声を掛けてみるが、やはり無視。

 うーん、と秋水は少し唸った後、出口に背を向けてゆっくりと後ろへ下がってみた。

 出口を出た瞬間に襲いかかってくる、その可能性自体はまだ0ではない。

 ないのだが、正直、望みは薄い。

 一応、いつでも反撃できるようにバールを構えてはいるものの、この感じだとたぶん攻撃してくることはないよな、と半ば諦めている。

 

 そして、出口を、出た。

 

 地下3階、最初の部屋を出て、通路に辿り着く。

 スライムは、当然のように襲いかかってくるなんてことはなく。

 ふぅ、と秋水は溜息のように息を吐き出す。

 なるほど、最初の部屋はクリアできた。

 あのスライムは全部スルーして通るのが正解なのか。なるほどな。

 

「……ただの障害物かよあいつらっ!」

 

 鬱憤を晴らすように、ガンッ、と壁を巨大バールでぶっ叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、スライムは基本的には相手をせず、避けて通れば良いのか。

 なんだそれ。

 スルーしていいのかよ。

 おもしろくないなぁ。

 秋水は若干ふて腐れながらもダンジョンの通路を歩いていた。

 楽しい殺し合いができる相手と期待していたのに、とんだ肩透かしを喰らった気分である。がっかりだ。

 これなら弱い相手とはいえ、角ウサギをぶっ殺していた方がまだ楽しい。

 巨大バールを肩に担ぎつつ、ずんずんとダンジョンを進む。

 地下3階の通路は、そこそこ長い。

 角ウサギのいる地下2階と同じく、分かれ道のない1本道で、だいたい70mから80mくらいの長さだ。

 その通路の向こうには、広がった空間が見える。

 おそらく、また次の部屋だろう。

 そして恐らく、またスライムがいるのだろう。

 

「次もスルーして通ればいいとか言うのかなぁ……」

 

 げんなりしつつ秋水は呟いた。

 スライムとは戦わず、そのまま通り過ぎていくだけであるならば、この地下3階はただの散歩コースに成り下がってしまう。

 それは、問題だ。

 問題大ありだ。

 それはつまらない、という超個人的な感想もあるのだが、スライムを全部避けて通るとなると、それはどうしても大きな問題が生じてしまうのは容易に想像できてしまう。

 

 ボス部屋だ。

 

 角ウサギのいた地下2階は、巨大な角ウサギであるボスウサギが待ち構えていた。

 それと同じであるならば、この地下3階にもボススライムがいるのだろう。

 そして、ボスウサギと同じパターンならば、ボススライムを殺さなければ、地下4階への階段は現れない。

 

 通常のスライムの殺し方も確立できていない現状、ボススライムとやらを相手にするのは明らかに不可能だ。

 

 はぁ、と秋水は大きく溜息を吐く。

 スライムは、スルーできる。

 だが、それはそれとして、攻略法はちゃんと確立しなければならない。

 となれば、それはつまり問題が振り出しに戻ったということで。

 

「どーすっかな」

 

 口を尖らせつつ愚痴を漏らせば、次の部屋の近くまで辿り着いた。

 その部屋の入口からは、すでにスライムが2体程見えている。

 

「ま、ちょっと見て、1度上に戻るかな」

 

 ちょっと早いが夕飯にするか、ともはや別のことを考えつつ、秋水はひょいと部屋の中を覗い

 

 

 

「づをぉぉいっ!?」

 

 

 

 思わず、秋水は妙な声を発しながら全力で跳び退いた。

 用心のために身体強化をしていたせいで、1足でそこそこの距離を跳び退いてしまい、着地を上手く取れずに思いっきりよろけてしまい、あわや転びそうになってしまう。

 どうにか尻餅をつかずに踏ん張って耐えてから、秋水は数秒程妙な体勢のまま固まった。

 

「……………………は?」

 

 言葉が上手く出ない。

 入口から部屋の中をちらりと覗いたら、なんか、なんと言うか、えっと、なかなかに頭が理解を拒むような光景が見えた、ような気がする。

 いや、光景というか、なんと言うか。

 うん。

 

「……なんだ、今の?」

 

 ゆっくりと体勢を立て直してから、秋水は背負っていたリュックサックを地面に降ろす。

 それからぶんぶんと首を横に振り、目を覆うように左手を顔に当てる。

 またも数秒程、その姿勢のまま深呼吸をして、ゆっくりと顔を上げる。

 

 なんか、なかなか愉快なミュータントが、いた気がする。

 

 疲れてんのかな、と秋水は首を捻った。

 幻覚でも見たのかもしれない。

 正直、今日はあのクソチワワと予定外に長時間一緒に居たものだから、ちょっとメンタルがキツいな、とは思っていたのだが、もしかしたら想像以上に今日は疲れたのかもしれない。

 やっぱり先に夕飯にしようかな。

 そんな現実逃避的なことを幾つか考えつつ、秋水はそろりと再び部屋の入口へと近づいた。

 スライムだ。

 スライムが、1体、2体、3体、4体。

 なるほど、これは想定通り。

 部屋はやはりぱっと見で体育館程度の広さ。地下3階に降りた直後にあった先程の部屋と同じくらいの広さだろう。

 そして、すぅ、と秋水は部屋を覗き込む。

 5体目と、6体目の、スライム。

 

 

 

 そして、人。

 

 

 

 人型の、なんかがいる。

 

 

 

 ゆっくりと入口から2歩程下がり、今度はジェットヘルメットを脱いでから秋水は両目を覆うように左手を当てる。

 やっぱり、疲れているのかもしれない。

 もしくは、あのチワワに想像以上にメンタルを持って行かれたかもしれない。

 ああ、そうだな。

 これは、やはりあのチワワが悪い気がする。

 律歌に付いてきて、やいのやいのと騒いでからに。

 だから、こんな幻覚を見てしまったようだ。

 外でチワワに絡まれて、ここではこんな幻覚か。

 秋水は顔を上げ、少しうんざりした表情で三度部屋を覗き込んだ。

 

 なんか、小さい人型の変なのがいる。

 

 しかも、小ぶりな棍棒を持っている。

 

 スライムに混じって1体だけ居た変なやつは、やはりはっきりと見えてしまっている。

 人型だ。

 だが、人間ではない。

 人間ではないのは、一目で分かる。

 なにせそいつ、二足歩行をしているものの、どう見たって別の生き物にしか見えないのだ。

 

 

 

 どう見たって、犬が立って歩いて棍棒持っているのだ。

 

 

 





 スライムを一端保留にした次の瞬間には、別のモンスターが待ち構えているんですよ!

 ちなみに、二足歩行している犬のモンスターは、チワワではない。
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