「もしかして棟区くん、妹ちゃんのことって、あんまり聞かれたくない感じ?」
耳元で囁かれたその質問に、思わず言葉に詰まってしまった。
横目で見る紗綾音の顔は、近すぎて表情が確認できない。
至近距離で目があう。
まじり、と紗綾音は臆することなく秋水の目を見つめ返していた。
キスでもできそうな距離だ。ついでに頭突きもしやすそうな距離だ。
「……そうですね、あまり」
その紗綾音から視線を逸らし、机に置いた鞄を見下ろして秋水は答えた。
聞かれたことを答えるためには、思い出さなくてはいけない。
妹のことを聞かれたら、妹のことを思い出さなくてはいけない。
思い出して、ああ、ただの思い出だな、と再確認しなくてはいけない。
それは。
それ自体は。
別に、どうでも、いい。
ただ、もう2度と増えることない思い出は、口に出してしまったら、もう、取り返しが付かないのではないかという恐怖が、ある。
なんの取り返しだろうか。
分からない。
漠然とした恐怖感だけは、ある。
もしくは、嫌悪感、かもしれない。
どちらにせよ、喋りたい内容では、ない。
だから、聞かれたい内容でも、ない。
できるなら。
思い出したくも、ない。
「お父さんとか、お母さんのことも?」
続けて紗綾音が囁いた。
秋水は、黙って鞄を開く。
沈黙は、立派な返答だ。
数秒だけ、静寂のとばりに包まれる。
そして、ぱっ、と紗綾音が顔を上げ、秋水の首元に絡めていた両手をバンザイするかのようにして手を離す。
「オーケーまるっと了解なんだよ! これから気をつけ前ならえ! そういうことって誰にでもあるものさささっとね!」
相変わらず良く分からない言い回しを口走りながら、てけてけと机を挟んで秋水の前に回り込み、そして前の席の椅子へと無断で座って紗綾音は強引に秋水と目を合わせてきた。
にんまり、と笑っている。
どこかちょっとだけ、無理をしているような笑顔であった。
しかしすぐに、あ、と何かを思い出したかのように小さく口を開き。
「てゆーことは、昨日はごめんなさいだったね。すっごい聞いちゃってた」
そして勢い良く頭を下げてくる。
展開が早い。
それと、行動がちょこまかと素早い。
首に抱きついてきたかと思ったら、聞くことだけ聞いて今度は前の席を陣取って、即座に謝罪まで入れてくる。
これはなんと言うか、怒るに怒れない感じだ。
なるほど、これがコミュ強。
真似できない。いや、紗綾音のように明らかに可愛い子がやって許される行動であって、秋水のような悪役マッスルプロレスラーみたいな男がしたら、絵面が色んな意味で犯罪級になってしまう。
紗綾音のつむじを見てから、ふ、と秋水は思わず苦笑してしまった。
先程、日比野達の前で妹の話題を自ら振っておいて、その話題を急転換させて話を切り上げたのは、紗綾音なりの気遣いということだったのか。
生意気なチワワめ。
秋水は下げられている紗綾音の頭、そのつむじの中央を、ぷす、と人差し指で突いた。
「いえ、これから気をつけて頂ければ幸いです」
とす、とす、とす、と3回だけ紗綾音のつむじを軽く小突いてから、秋水は鞄の中から教科書などを取りだし、机の中にごそりと突っ込んだ。
そして鞄を机の横にかけてみれば、顔を上げた紗綾音のじとっとした視線とかち合った。
「なんで今わたし突かれたん?」
「申し訳ありません。つむじを押すと背が縮むという俗説を思い出しまして」
「ちょっ、お姉ちゃんに近づける気だこいつ!?」
「律歌さんとお揃いになりますよ?」
「絶対申し訳ないって思ってないなこのやろー!」
逆襲の猫パンチを仕掛けてくる紗綾音の頭に手を置いて、ぐい、と遠ざけるようにその頭を押しながら、ついでにぐりぐりと撫でてみれば、腕のリーチの違いから紗綾音の猫パンチが秋水の顔前でぶんぶんと空を切る。
わはは、チワワが猫パンチしてやがる。
「くーつーじょーくー」
秋水の顔面から攻撃目標を切り替えて、いつものように撫でてくる秋水の腕をポコポコしながら紗綾音が声を上げる。
全く、早く他のクラスメイトの方へと行ってくれないだろうか。
「あ、そう言えば棟区くんってさ、そつぎょ―――」
頭をぐりぐりされながらも、紗綾音は話題を切り替えるように口を開き、そして一瞬だけその言葉を切った。
「今度のテスト、自信の程はどんな感じ? 棟区くんって色々物知りっぽいから勉強できそうだけど、色々抜けてそうだから勉強できなさそうって、不思議な両立具合だから想像できないんだよね」
たぶん、言いかけた言葉を急変更した。
卒業か、卒業式の話題だったのだろう。その話題を避けたということは、なるほど。
なんとなく秋水は勘付いたものの、気がつかなかったフリをした。
「まあ、そこそこですね」
「ほほーう。具体的には?」
「紗綾音さんはご自分の成績を心配なさるべきでは?」
「ふふーんだ。私、こう見えても2学期の期末テスト、学年20位だったもんねー」
「不正をすると、律歌さんが悲しまれますよ。自首しましょう」
「ノータイムでチート疑うとか失礼すぎるんじゃないかな!? テスト勉強皆と頑張ったんだからねこれでも!」
なるほど、テストの点数だけは取れるタイプか。教員一同揃い踏みで頭を抱える典型例である。
まあ、普段はちゃらんぽらんな言動ではあるものの、授業態度自体は悪いわけではない。
それに、宿題だの提出物だのは毎回ギリギリなイメージがあるが、周りの友達からせつかれ急かされ尻を叩かれ、一応は期限内には提出もできている様子である。
あれ、他力にめちゃめちゃ頼り切りだが、通知表や内申に反映される成績自体は優秀なのかもしれない。
詐欺じゃなかろうか。
この要領の良さが、またなんともあざとい。
胡乱なものでも見るような目つきで秋水は紗綾音を見下ろす。
その視線に対し、なんだよー、と紗綾音は不満そうである。
「そーゆー棟区くんは、この前のテストは何位だったのかなー? んー?」
そして煽り散らかすような笑みで聞いてくる。
イラッとくる笑顔だ。
まあ、学年20位だったら、テスト結果自体は学年上位勢である。他の大半よりは優秀なのは間違いない。
自慢したくなる気持ちは分からんでもないが、と秋水は嘆息しつつ、そっと紗綾音の頭に手を伸ばす。
ぱしっ、と伸ばしたその手を紗綾音が両手で捕まえた。
真剣白刃取りのつもりか。生意気な。
「いっつもぐちゃぐちゃ撫でてくるけど、紗綾音ちゃんの頭は普通に成績優秀な良い脳のミソなんだからなー。大事にしろー」
「そうですね。ほら良い子良い子」
「左手使うなー! あと何位だったかだけ教えろー!」
「1位です」
「……はい?」
右手を押さえられたので左手で紗綾音の頭をぐりぐりすると、何故か紗綾音はぽかんとした表情で固まった。
何かあっただろうか。
左手を頭からそっと離すが、紗綾音はぽかんとしたまま。
捕まえられた右手をそっと引き抜くと、えっと、と紗綾音の目線が天井へ泳ぐ。
「……何位って?」
「1位です」
同じ言葉を繰り返しつつ、秋水は1限目に使う用具を机の中から取り出した。
ちらっと時計を確認する。
授業開始までは、まだ時間がある。
このチワワ、早くどっか行かないだろうか。このまま開始直前までへばりついている気じゃあるまいな。
そう思いつつ目線を紗綾音へと戻す。
がばっ、と頭を掴まれた。
思わず秋水はビクリとなった。
紗綾音だ。
慌てたように、紗綾音が秋水の頭を両手で掴んでホールドしてきやがった。目を合わせろやコラァ、と言わんばかりの構図である。
「え!? ちょ、はい!? 1位!?」
「おっと……ええ、はい」
「1位って、あの、1位!?」
「はい」
「え、え、あの……9教科の合計は!?」
「え、さあ……892、だったか893点くらいだったかと思いますが」
「マジ!?」
「はい」
めちゃくちゃ驚いたように問い詰めてくる紗綾音に、逆に秋水の方がビックリしてしまう。
1位だよ。
それがどうした。
普通に授業を受けて、それを頭に叩き込み、テストで順当に答えを埋めた結果だよ。
順位をつけている以上は誰かが1位になるだけで、それがたまたま秋水であったというだけの話のはずだ。別に驚くことはないだろう。
何を驚かれているのか分からない秋水は、紗綾音の反応にぽかんとなってしまう。
「えっと、中間は? 2学期の中間の順位は?」
「1位ですが……」
「なら1学期は?」
「両方とも1位ですが……」
「天才じゃん!?」
違うだろ。
なに言ってんだこいつ、と言わんばかりの目で紗綾音を見下ろすも、どの琴線に触れてしまったのか分からないが紗綾音は椅子の上で跳ねるように体を揺すり始める。
顔を両手でがっちり捕まえられている秋水の視界も、紗綾音の上下運動に連動して激しく揺さぶられる。
なにを興奮してんだこのチワワ。拷問か。
落ち着け、とばかりに秋水は紗綾音の頭に右手を置いて、その跳ねるような動きを強引に抑え込む。
「いえ、たまたまです」
「1位キープしといてたまたまも何もないんじゃないかな!?」
「ああ、言葉が足りませんでしたね。1学期の期末は同点で1位の方がいらっしゃったはずです」
「結果1位だよねぇ!?」
「2年生の2学期の、確か中間試験の方でしたが、その1回は2位でした。1位キープではありませんよ」
「つまり、他は1位ってことだから……」
頭に置かれた秋水の手を気にすることなく、えっと、と紗綾音は一瞬考え込むように自分の顎を撫でる。
ようやく掴まれた顔を解放されたことに、秋水はほっと一息。あのまま目潰しでもされるのかと思った。
しかし、一瞬である。
紗綾音が考え込んだのは一瞬だけで、すぐに表情をぱっと明るくし、華でも咲いたかのような声色で教室全体に響き渡るデカい声を張り上げた。
「ミカちゃーん! ミッチー! ノンノー! ジリちゃーん! しゅうごーう!!」
「え?」
「学年首席はっけーん!!」
「え?」
え、うるさ。
急にクラスメイト数人の名前を呼んだ紗綾音のそのデカい声に、秋水は本日何度目かの驚きで目を丸くする。
何だ何だ、とクラスメイトが一斉にこちらを見てくる。
なんでそんな大きな声で学年首席を吹聴するの。別にテストの点数なんてどうでも良いだろ。
「紗綾音うっさーい。朝からダダ絡みで先生困ってんじゃーん」
「なんぞー?」
紗綾音の呼びかけに対し、真っ先に答えたのはミカちゃんさん、ではなくミカちゃんと呼ばれた御器所 蜜柑と、ミッチと呼ばれた鶴舞 美々。
以前、紗綾音の策略により昼食をグループで一緒に食べることになった内の2人だ。
ただね、ミカちゃんさんや、ダイエット的な話題になるとキミも結構な絡み方をしてくるのは自覚して欲しい。
それに遅れ、先程まで日比野と喋っていたノンノと呼ばれた女子が、「え、私も?」 とかなり不思議そうな顔で近づいてくる。安心して欲しい、秋水もまた現状が不思議だ。
そして遠巻きに、露骨に 「近寄りたくない」 という表情をしてる子へ、数名のクラスメイトが心配そうに目を向けている。
たぶん、ジリちゃんとか呼ばれたのは彼女なのだろう。明らかに秋水に対しての嫌悪感が丸出しだ。どうしよう、今まで会話なんてしたことない相手である。
「ジリちゃーん! おーい! こらアホの子だいひょーう! 世界史1桁ー!」
「毛皮全部毟って王水に漬け込んでやろうかバカチワワ?」
そんな近づこうともしないジリちゃんを紗綾音は諦めず呼び続けると、しかたがない、とばかりに彼女も渋々こちらへと歩いてきた。
ジリちゃんと呼ばれた彼女の口端が見るからに引き攣っているのは、紗綾音の罵声混じりの呼び出しのせいだろう。仲が良い証拠なのだろうが、本当にこのチワワ、一発叩いても許されるような気がする。
そして呼び出した4人を集め、椅子から飛び降りた紗綾音がその前でふんすと胸を張る。
しばきてぇ。
「はい、われら馬鹿5人衆です!」
「しばき倒してやろうかアホチワワ?」
「上着ひん剥いて外に放り出そ?」
「頭から池に入りたいって?」
「みんな落ち着いて。アイロン押しつけるくらいにしとこ?」
「ひぃーん! 怖いよー!」
代わりに呼び出した4人からボコボコに言われている。残当。
しかし、それでめげるような紗綾音ではない。
「というわけで棟区くん」
即座に気を取り直して紗綾音は秋水に向かい合う。
というわけで、が、どの発言に掛かっているか不明だ。
「今日勉強会するんだけど、教えてくんないかなぁ? 時間ないかなぁ?」
「は?」
ぱちん、と顔の前で手を合わせ、なんとなく薄ら予想できていた内容を紗綾音が頼み込んできた。
学年末試験直前だし、馬鹿5人衆とか言ってたし。まあ、暇かどうかを先に尋ねてくる頼み方をしていないだけ、まだ好感は持てる方だろうか。
ただ、紗綾音のその頼み事に、真っ先に短く声を上げたのは秋水ではなかった。
ちらり、と秋水の目が、その声の主へと向いた。
ジリちゃん、とか呼ばれていた女子。
秋水に対し、明らかに嫌悪の目を向けていた人だ。
彼女は秋水の目線に僅かにたじろいでから、くいくい、と紗綾音の制服を後ろから軽く引っ張った。
「え、なんで? その、え、呼ぶの?」
「棟区くん、前のテスト、ほとんど100点だって」
「……うそぉ」
見るからに不満だという反応の彼女に、紗綾音はあっけらかんとした表情で振り返り答えた。
ジリちゃんさん、絶句。
なんか、ごめん。
どうやら紗綾音をはじめとする5人で、来週からのテスト対策として勉強会を開く予定だったようである。
そこに秋水が誘われて、ジリちゃんさん的にはそれが嫌だ、と。
なるほど、分かる。
女子5人の中にムサくてゴツくてデカくて怖い野郎が混入されるとか、普通に嫌だよな。
これは断った方が良さそうだな。
ジリちゃんさんの様子を見た秋水はそう判断し、口を開こうとしたところで、別の方向から声が掛かった。
「よぉ、何の集まりだよこれ?」
男子の声だ。
振り向けば、クラスメイトの覚王山 未来。
日比野やミカちゃんさんなどと同じく、紗綾音に嵌められて昼食をグループで食べることになって以降、なんだかんだで普通に声を掛けてくれるようになった男である。
今し方登校してきたようで、女子集団の向こうから鞄を持ったまま覚王山は不思議そうな顔で秋水の方を見ていた。
「ああ、おはようございます、覚王山さん」
「おう、おはよう棟区。また女子一同にたかられてんのか?」
「たかってなーい」
「めいよきそーん」
「くそぼうずー」
「しねー」
「おはよー」
「今純粋にヤベェ罵声が聞こえてきたぞおい!?」
何故か女子一同に叩かれる覚王山。不思議なことに、彼は何故か女子からはこういう扱いを受けがちである。
はあ、と大きく溜息をついた後、通せ通せと女子人の中を潜り抜け、覚王山は秋水の前に、しかも背で庇うかのように立ってくれた。なんて頼もしい。
「紗綾音も美々も、あんま棟区を玩具にすんなよな」
そして推定主犯格の紗綾音と、そう言えば覚王山と仲の良いミッチに対し、呆れ半分で覚王山が窘める。あら優しい。
と言うか、この状況で主犯が紗綾音だと早々に勘付いている辺り、彼は随分と鋭いと言うべきか、紗綾音の前科が多いと思うべきか。
しかし、名指しで窘められた両者は、なにもしてない、と首を振る。
ミッチはともかく、紗綾音、お前な。
「してないしてない。無罪無罪」
「なんか紗綾音がねー、棟区くんに勉強教えてもらおー、とか言い出してさー」
「は?」
諸手を挙げていけしゃあしゃあと曰う紗綾音に続くように説明したミッチの言葉に、覚王山が振り返る。
あんぐりと、純粋に驚いた表情である。
「え、棟区お前、頭良いのか?」
「いえ、普通かと」
「学年首席で普通は無理があるんじゃないかな!?」
紗綾音の余計な言葉に、さらにあんぐりと口を開け、覚王山が鞄を持った手で秋水を指さしてくる。
黙れチワワ。
そして覚王山、人を指さすんじゃありません。
「は? 首席? 1位ってことか?」
「そうですね。ですが、前回の定期テストでも7点か8点くらいは普通に漏らしていますよ」
「9つ全部ひっくるめてで? 天才じゃんお前」
「天才ではないかと……」
マジかよ、と驚いている覚王山に、秋水は微妙な表情で答えた。
確かにテストの点数は結構取れる方だと自覚はあるが、あれは授業で習ったことを普通に理解して、普通に解答すれば、普通に正解できる内容でしかない。正しく入力して正しく出力する。筋トレの基本だ。
ただそれだけのことなのに、天才と評されるのは正直、なんか違うな、と秋水は思ってしまう。
なにせ、自分の叔母が、ガチの天才肌だからだ。
基本的にはなにをさせても要領が良く、人並み以上に熟せてしまう鎬という存在を常に近くで見て育ち、なんならば鎬から直接教えられてきた秋水からすれば、自分が天才と評されるのは、やっぱりなにか、違うのだ。
そう言えば、鎬は中学時代、そして高校時代、全科目満点とかいう離れ業を常に叩き出していた記憶がある。
それを考えれば、10点近く落としている自分のなんと平凡なことか。
数学のように理論で詰めれば何とかなる科目ならともかく、暗記系の科目となるとどうしてもケアレスミスが出てしまうのだ。
これがたぶん、鎬との差なのだろうな、と秋水は若干遠い目をする。
「え、じゃあその棟区が勉強教えてくれんの? それって俺も混じっていいのか?」
と、急に覚王山が目を輝かせて詰め寄ってきた。
おっと、と秋水は思わず上体を反らす。
急にどうした。
混じって良いかと聞かれても、主催はキミの背後にいる悪い笑みを浮かべているチワワだから、こちらに聞かれても困る。
と言うか、まだ秋水自身が参加するとは言ってない。
いや、待て紗綾音、そのにやりとした笑みはなんだお前。
「中学最後のテストだから、やっぱ点数取りたくてよー」
「いえ、まだ教えるとは―――」
「良いと思うよ!」
「え?」
教えると決まったわけではない、と釘を刺そうとした秋水の声を上から盛大に塗りつぶすように、紗綾音がデカい声でGOサインを出してきやがった。
覚王山が振り向いて、秋水も紗綾音の方へと目をやる。
ぺろ、と舌を小さく出しながら、親指を立ててサムズアップのハンドサインをする小型犬。
おいこら待て、その舌引っ張り抜いてやろうかお前。
後ろにいるジリちゃんさんを見るんだ紗綾音。「嘘でしょあんた」 みたいな凄い顔していらっしゃるんだぞ。覚王山はともかくとして、秋水が参加することには絶対反対みたいな感じの子なんだぞ。
しかし紗綾音はそれを気にすることなく、教室の中央に向かって振り返り、再び教室全体に響き渡るデカい声を張り上げた。
「来週のテスト不安だって人ー! 今日は勉強会するよー! 棟区先生が教えてくれるよー!」
人を誘ったり頼み事をしたいときに、暇があるかどうかを確認してくるの、あれはどうなんですかね。予定があろうと、優先順位の高い用事なら時間を捻出しますってば、とか思ってしまう(´゚ω゚`)
鎬さんという天才を見て育った秋水くんは、腐ることなく普通に秀才です。
美寧ちゃん家と大違いだな。
と言うわけで、次は壊れた美寧ちゃんの話です。