ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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154『自分の恋愛でいっぱいいっぱいだから、それどころじゃないんだよ!!(暴論)』

『今の浮気相手の男、どうやって堕としたのか教えて下さい』

 

 母に対してそんなメッセージをトークアプリで送信した途端、母から即座に通話の催促が来てしまった。

 ちらり、と教室内に目を走らせる。

 何人かのクラスメイトから目を逸らされた。

 ふーむ、とそれから美寧は軽く鼻を鳴らして考える。

 休み時間とは言えども、流石に学校内で通話するのは、ちょっとね。

 別に授業中でないのならスマホの利用は特に禁止されているわけでもないが、学校内、と言うか教室内で通話を使うのは何となく抵抗感がある美寧は、母からの着信をそのまま無視することにした。

 着信が止む。

 即座に再び通話着信。しぶとい。

 誰にも気付かれないくらいにこっそりと溜息を漏らしてから、スマホを持って美寧はゆっくりと椅子から立ち上がる。

 ここは教室。

 通話越しとは言えども、流石にクラスメイトがいる教室で母と喋るのは嫌だ。

 まあ、どうせ自分のことなど誰も気にしないだろうけれど、一応は廊下で通話することとしよう。寒いからあまり廊下に出たくないのだが、しかたがない。

 健気にバイブレーションで着信をお知らせし続けるスマホの画面を一睨みして、美寧は廊下へ向かって歩き、教室を出る。

 なお、クラスメイトの半数以上は、誰からの着信なのだろうと興味を抑えきれないように美寧をチラ見していた。クラスにいる高嶺の花、その通話相手が気にならないわけもない。

 そんなクラスメイトの視線に気がつくことなく美寧は廊下へ出て、邪魔にならないように窓の近くまで寄ってからスマホを持ち上げる。

 タイミング悪く、また着信が止まったところであった。

 が、すぐに着信をお知らせする振動。

 しつこいなぁ、と思いつつ通話をタップする。

 

「はい、も―――」

 

『ちょっと美寧っ! 今のメッセージはどういうつもり!?』

 

「しもしぃぃ-、耳いたーい。ちょっと母さん、声が大きいじゃんね」

 

 そして定形挨拶をするより先に鼓膜を殴りかかりにきた大音量に、美寧は思わず顔を顰めてしまった。

 耳がきーんとする。

 めちゃめちゃ怒っていらっしゃるご様子だ。どうしたのだろう。

 

『なによあのメッセージ!? 浮気なんて根も葉もないこと、冗談でも許さないわよ!』

 

「はい?」

 

 続いた母の言葉に、美寧は耳を疑った。

 いけしゃあしゃあと、よくもまあ。

 

「根も葉もないって……え? 証拠出されたいの?」

 

 美寧は呆れるように半眼になって尋ねた。

 もしかしてだが、浮気をしていることがバレていないとでも思っていたのだろうか。

 そんな馬鹿な。あんなに堂々と夫婦揃ってダブルで不倫して、それを一応は同じ屋根の下で暮らしている娘である自分が気がつかないわけがないだろう。もっと隠す努力をしろと言わざるを得ない。

 

『証拠? そんなのあるわけ……え、ちょっと待って、なにか誤解があるんじゃない!?』

 

「誤解、ねえ? 栗色髪の男の人と、楽しそうなディナーのこと?」

 

 スマホの向こうで、母が息を飲んだ音がした。

 何故だろう、不思議だ。

 すらりと言葉が出てくる。

 それでいて、感情的には波1つなく、とても穏やかな感じである。

 ついこの前まで、母の怒鳴り声には反射的に身を竦ませたり、何かしらの感情が渦巻いていたはずなのに。

 浮気のこととかであれば、おぞましいとか、汚いとか、半年くらい放置されて腐りきった生ゴミに対する程度の感情が滲んできたはずなのに。

 今は、なんとも思えない。

 冗談抜きで、強がり抜きで、なんとも感じない。

 母という存在も、不貞の行為も。

 

『あ、あれは、その……会社の人で、ただちょっと食事を……見間違いでしょ! だいたい、それはただの仕事の付き合いで……!』

 

 母がなにか言い訳をしている。

 これは本当にバレていないと思っていたようだ。嘘だろ。

 こちらと真夜中だろうが独りで出掛けるくらいには、性根曲がったバカ娘だ。夜の街中が安全な隠れ蓑だと思うなよ。

 

「へえ、仕事の付き合いで腕を組むんだ。それは随分とアットホームな会社じゃんね」

 

 それとも、もっと直接的な表現が必要だろうか。

 ホテルとか。

 なんだか興味のない話題に話が逸れていっていることを感じつつ、美寧は窓にうっすら映る自分を見て、ちょいちょいと前髪を直しつつ淡々と口を開く。

 まあ、写真とか動画とかを撮っているわけでもないので、誰もを問答無用で納得させられる物的証拠、というのを美寧は持っているわけではない。

 これで母が、そんなの知らない、と言い出したら、話は平行線になるだろう。

 正直なところ、それならそれで、別に構わない。

 美寧は母の不貞についてを問い糾したいわけでもないし、糾弾したいわけでもない。

 

 むしろ今は、いいぞもっとやれ、という気分だ。

 

『いや、その、違っ……ていうか、あんただって分かるでしょ? 母さんだって色々あるのよ、ストレスとか』

 

「ストレス発散ついでに、綺麗なお城で性欲も発散しました、か。うーん、それはちょっと“使えない”かなぁ」

 

 今度は別方向に言い訳を始めた母に、美寧は素直な感想を零した。

 使えない。

 それはちょっと、使えない。

 いや正直興味はあるけれど、むしろ興味津々だけど、現段階では、使えない。

 いいや、むしろそっちの方向性もありだろうか。男である以上は性欲は絶対にあるだろうし、そっち方面から攻めるというのも手段と言えば手段だろう。ああ、でもなんて言うか、もうちょっとお清楚な関係なのにも憧れる。むしろ今の自分に大人を堕とせる色気を出せるかと言われたらめちゃめちゃ自信がないので、プラトニックというかなんと言うかもっとゆっくり着実に段階を踏んで攻めていきたいと言いますか、いやまあ綺麗なお城に誘い込む以前の問題としてその手前で自分がヘタレて絶対に行動を起こせないであろうことが容易に想像できるので結局その手はちょっとどころではなく絶対に使えない感じじゃないかああちくしょう学校の勉強なんてしてないでもっとメイクとかファッションとかがっつり勉強して大人の色気とかいうやつを出せるようにしておくべきだったと後悔をしかけたけれどそれ以前の問題としてそもそもセクシー系が好きなのかキュート系が好きなのかも不明なんだからある意味方向性の定まっていない現状が最善手なんじゃないかと美寧は思い直したと言うかあちらがそういうお色気系が大の苦手だったらとんだ地雷大爆発で好感度ダダ下がりになるじゃないかあぶねぇ思い留まれて良かった。ふぅ。

 よし、やはり使えないな。

 思考がすっかり明後日の方向へ暴走させながらも、美寧の表情は一切変わらない。

 

『う……あんた、なんなのよその態度!』

 

 スマホから母のヒステリックな声。

 ああ、そうだった、母と通話中であった。

 すっかり忘れていた。と言うか、どうでも良かった。

 そして、あんた、とか言われた。

 ふぅん、という感じだ。

 母から名前で呼ばれなかろうが、それこそ、どうでも良い。

 

『安璃は、そんな口答えしなかったわよ!?』

 

 安璃。

 姉の名前だ。

 死んでしまった、姉のことだ。

 ああ、また比べられたか。

 また姉と比較されるのか。

 そうか。

 

 美寧さんは、美寧さんです。他の誰でもなく、あなたは錦地 美寧さんなんですよ。

 

 耳の奥で、頭の中で、心の底で、優しい声が聞こえた。

 そうか。

 そうだね。

 姉と比べられたところで、うん、なんてこと、ないな。

 

「母さん」

 

『次はなによっ!?』

 

 美寧はヒステリックな母の言葉を縫うようにして、呼びかけた。

 

 

 

「姉さんは、死んだじゃん」

 

 

 

 そして、ただの事実を、口にした。

 姉は、死んだのだ。

 もう死んだのだ。

 生きていないのだ。

 そんな奴と比べられても、美化されていく思い出と比較されても、誰も得をしないだろ。

 

「今生きてる娘は、私なんだよ」

 

 淡々と、口にする。

 スマホの向こうで、母が息を飲むような、もしくは絶句するような、そんな吐息。

 姉の話とか、どうでもいい。

 姉が死んだのはもう、過去のこと。

 今、生きているのは、自分なのだ。

 だからちゃんと、言わなきゃいけない。

 美寧は母の返事を待つことなく、続け様に口を開く。

 

 

 

「でさあ、その生きてる娘が真剣に恋愛相談してるんだから、ちょっとくらいノってくれてもいいじゃん」

 

 

 

『は?』

 

 通話の向こうから、間の抜けた声。

 は? ではない。

 こちらとトークメッセージでちゃんと送ったじゃないか。

 浮気相手をどうやって堕としたのか教えて下さい、と。

 

 つまり、娘から母に対しての、恋愛相談じゃないか。

 

 浮気がバレていないと思っていた?

 馬鹿な。バレてるバレてる。

 挙げ句に誤魔化そうとか、どうでも良いし片腹痛い。

 別に母の浮気だか不倫だか、それを不貞行為だと咎めるつもりは一切ない。

 重ねて言うが、問い糾したいわけでもないし、糾弾したいわけでもない。

 

 ただし、興味はある。

 

 めちゃくちゃある。

 

 母はどうやってその男と出会ったのだ。

 母はどうやってその男を堕としたのだ。

 高校生にもなる娘がいるのだ。結婚していることは周囲も知っているはず。それなのに夫以外の男とデートしてご休憩できるところでご宿泊してしっぽりイけるところまでイったんだぞ。凄くないかこの女。ぶっちゃけもうおばさんという年齢なのに、いったいどんな手段で男を取っ捕まえて沼に沈めたというのか。初対面はどんな感じだったのだろうか。どういう風に関係性を進めていったのだろうか。主導権はどちらだ。どれくらいの時間を掛けて関係を持ったんだ。どの辺りに注意を払ったんだ。そもそもどうやって男性の懐に潜り込めたのだ。と言うか向こうの男は母が既婚者であり、その関係が不倫であるということをちゃんと認識しているのだろうか。これで母が既婚者であることを隠し通しているのだとしたら母の手練手管はかなりヤバくないだろうか。聞きたい、是非とも聞きたい。曲がりなりにも母と同じ血が半分ぐらいは流れているのだから、ワンチャン同じテクニックが自分にも流用できるのではないかという期待をめちゃめちゃしています。だから浮気相手の男をどうやって堕としたのか早く教えろ下さい。

 再び美寧の思考が明後日の方向へと旅立っていく。

 何故だろうか。昨日も今日も、特定のことに関しては非常に頭が冴え渡って脳味噌がフル回転するような感じだ。

 睡眠障害気味であまり眠れていなかったのに、連日でよく眠れたからかもしれない。いやはや絶好調だ。

 

『え……と? 恋愛、相談?』

 

「そうそう、恋愛相談。私経験が全然ないから、恋愛真っ最中の母さんなら何か良いアドバイスとかないかなって思ったのに、急に怒鳴ってくるし」

 

『……えー、と?』

 

「ちなみに今の相手って年下っぽいよね? 年上の人との経験談なんてないの?」

 

 ようやく本題に入れたとばかりに美寧の目が輝いた。

 教室ではまず見せない、生き生きとした表情である。

 そんな美寧の後ろで、美寧の教室がざわりとするが、本人はまるで気がつかない。

 美寧自身は自分が社交性がなく、友達もおらず、誰からも相手にされず、男性諸君からは恋愛対象として見られていない、ただの味噌っかす女だと思い込んでいるが、実際のところはそんなことはまるでなく、クラスメイトからは美人で穏やかで努力家で驕らない高嶺の花のような存在だと思われている。

 そんな高嶺の花が、誰かとスマホで通話しているとなれば、興味津々であろう。

 そして、通話相手は、おそらく美寧の母だというのは、ぽつぽつ聞こえる美寧の言葉で推測できる。

 

 ただ、その会話内容が、「綺麗なお城で性欲も発散」「姉さんは死んだ」からの「恋愛相談」である。

 

 爆弾発言2連発からの、美寧の口から恋愛相談という特大の爆弾だ。

 美寧のクラスメイト一同がざわついた。

 それに全く気がつかない美寧は、やっと聞きたいことが聞けそうだとテンションが上がり、声のトーンが上がってしまう。

 

『と、年上?』

 

「そう、年上の人。付き合ったこととかないの? なんか参考になりそうな話を娘が求めてるんだよ? 生きてて喋れる方の娘だよ?」

 

 えーっと、えーっと、と混乱している母に重ねて質問をぶつけていく。

 とにかくもう、恋愛的な話が聞きたい。

 そもそも美寧はこれまで恋愛というものに関して興味がさっぱりなく、なにかと姉に対抗して意地を張り続けてきた美寧は姉に勝つことを最優先で生きてきて、趣味らしい趣味に関してもその嗜好性が恋愛関係とはかけ離れた趣味であるので、とにもかくにも恋愛的な知識というのが足りていない。

 そこに、ただいま夫以外の相手と熱烈恋愛中の母である。

 もうここは、浮気とか不倫とか不貞とかそんなものはどうでも良いから、とにかく生の恋愛談が聞きたくてしかたがないのである。

 しかし、困惑している母から返ってきたのは、無情なる言葉であった。

 

『えっと、年上の男性なんて付き合ったことないわよ』

 

「えー……?」

 

 急速に美寧のテンションが下がる。

 なんだそれ、役に立たないな。

 いやでも、年下相手でも良いから攻めに出ている話が聞ければ。

 

『露骨にガッカリした声ね。だいたい、今の相手も向こうから来たし、お父さんだって、ほら、年下じゃない。だから参考になる話なんて……』

 

「うわ、役に立たないじゃんね」

 

 思わず本音がぽろりした。

 年下相手に受け身かよ。

 それに、確かに美寧の父は、母よりも年下であった。

 くそう、重ね重ね役に立たない母である。

 

『役に立たない!? いやいや、ちょっと待ちなさいよ! 役立たずって、あんた母親に言うことじゃないでしょう!』

 

「え、でも役に立たないものは立たないでしょ?」

 

『うぐ……っ』

 

 母、沈黙。

 役に立たないと言われて傷ついたのか、抗議してくる母をばっさり切って美寧は黙らせる。

 本当に、不思議な感覚だ。

 こうして怒る母に噛みつき返したことなど、生まれてこの方あっただろうか。

 なんで今まで黙って怒られ、自分を姉に劣った存在だと卑下し続けて、なにもかもを我慢して受け入れ続けたのだろう。

 自分が姉に劣っている?

 馬鹿を言うな。

 死んだ奴より、生きてる奴の方が、立派だろうが。

 ふんす、と美寧は鼻を鳴らした。

 窓に映る美寧の顔に、劣等感という色はどこにも見当たらなかった。

 

『……いや待って。確かに実戦経験は乏しいかもしれないけれど、理論的なことならアドバイスくらいできるわよ!』

 

 と、沈黙した母が何故か食い下がってきた。

 役立たず扱いが余程堪えた様子だ。

 変なの。

 今まで母自身が、こちらを役立たず扱いしてきたというのに。

 

「理論?」

 

『そうよ。恋愛っていうのはね、まず相手の年代に応じた対応が必要なのよ。あんたが言う年上っていくつくらい? 私とあんたじゃ年上の意味がそもそも違うでしょ?』

 

「あー、言われてみれば確かにそうだね。年齢かー」

 

『あと、年齢だけじゃなくて趣味とか嗜好とか、そういうこともちゃんと把握するのよ。相手を攻略するのに情報収集することは基本中の基本なんだから』

 

「なるほど、情報収集と」

 

 方向性を切り替えて食い下がるだけあり、確かに、と納得できる内容だ。

 年上だ年下だと言っていたが、よく考えてみればそれは確かに相対評価の話である。16歳の美寧と40歳の母とでは、同じ年上でもそれが意味する年齢がまるで違う。

 美寧は秋水を思い浮かべる。

 にへ、と表情が崩れそうになるのを堪える。

 彼は美寧よりも年上だ。正確な年齢は知らないが、30は超えていない、と思われる。筋トレなど運動をしている人は肌が綺麗で若く見える人が多いので、もしかしたら30を超えている可能性がなくはないが、高く見積もっても35歳とかそれくらい、直感的には25歳ぐらいであろうと予想している。

 仮にそこで秋水を30歳だと仮定しても、母から見たら彼は年下である。

 なるほど、ついつい自分中心に相対評価で捉えていたが、大切なのは絶対評価ということか。

 確かに、恋愛とは相手がいなければはじまらない。

 そして、攻めるためには、相手のことをよく知らなければならない。

 己を知り、相手を知り、それで百戦百勝危うからずとかなんとか、そういうことか。

 当たり前と言えば当たり前の話であるが、美寧にとっては目から鱗である。

 役に立たないという発言は撤回しても良さそうだ。

 

『で、その相手って誰なの? どこで知り合ったの? 職業とか趣味とか分かる?』

 

「あー……誰だろね? 趣味はたぶん、筋トレ? お仕事は知らないけど、たぶん肉体労働系?」

 

『ちょっと待って、たぶん、ってどういうこと? あんた、相手のことちゃんと知らないの?』

 

「知らないからこそ妄想が捗るよね」

 

『ちょっと……美寧……?』

 

「やっぱり母さん、理論も役に立たないじゃんね」

 

『なんでよ!? ちゃんとしたこと言ったでしょ!?』

 

「そりゃあ、母さん自身の倫理がちゃんとしてないから?」

 

『ぐっ……っ』

 

 逆にこちらのことを探りにきた母を切り伏せてから、ふと美寧は思いついた。

 そうだ、倫理的な話はもはや眼中にないのだが、それでも母も父も世間一般から見たら倫理観皆無なクズ両親である。

 2人揃って不倫しているし、互いの仲はすっかり冷え切ってるし、家にはなかなか帰らないし。

 んー、と美寧は軽く喉を鳴らしてから口を開く。

 

「あと、倫理の話ついでだけど、父さんと離婚とかすることになったら、早めに教えてよ?」

 

『は、はいぃ!? 離婚!? どういう話の流れよ!?』

 

「だって、父さんも倫理的なあれこれやらかしてるじゃん。仮面夫婦も良いところだし、そろそろ離婚するかなって」

 

 一応、ここは学校である以上、不倫、とか、浮気、という直接的な表現を美寧はボカした。

 母に対してだって、この通話では浮気というストレートなワードは避けているのだ。

 ただ、離婚とかいう言葉が聞こえた教室の方は、再び騒然となっていた。

 

『……やっぱり、あの人も不倫しているのね』

 

「あ、ゴメン。そういう湿っぽい感じいらないから」

 

『美寧!?』

 

「別に離婚しても今更どうでも良いから。ただ早めに教えてね。私も独り暮らしの準備とかあるし」

 

『なんであんたがそんなに冷静なのよ!?』

 

「というわけで、また何かあったら聞くから、その時はよろしくね。じゃ!」

 

 言うことだけ言ってから、美寧は素早く通話を切った。

 かけ直しては、こない。

 ま、両親が離婚しようが、どうでもいい。

 

 なにせ美寧は今、自分の恋愛のことで、すでにいっぱいいっぱいなのである。

 

 窓に映る美寧の表情が変わった。

 ふ、と小さく、しかし不敵に笑うのだ。

 

「なるほど、情報収集、ね」

 

 良いこと聞いた、とばかりに呟いた美寧の声は、喉かなチャイムの鐘に掻き消えるのであった。

 ただし、教室の方のどよめきは、まるで消されていなかった。

 

 

 





 美寧ちゃん、壊れちゃった(´゚ω゚`)

 そうです、美寧ちゃんはこういう子になってしまいました。
 秋水くんは責任持ってなんとかして下さい。
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