ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

164 / 267
159『わすれもの』

 勉強会をした日から、2日過ぎた。

 いや、過ぎる、と言うのが正しいだろうか。

 今がまだギリギリの水曜日で、あと1時かもしたら木曜日に変わるという時間帯。

 秋水は現在、ダンジョンの地下3階に潜っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捻り突くようにそいやっせいっ!!」

 

 槍の如く突き込んだバールの切っ先が、コボルトの喉元を捉えた。

 長い柄に伝わる生々しい感触に、いける、と瞬時に判断した秋水は追加で強引に踏み込んだ。

 バールの平側が、ずぶりとコボルトの喉に沈み込む。

 

『ガッ!?』

 

 吐血をするかのように、コボルトが口から魔素を吐き出した。ついでに短い悲鳴も吐き出した。

 死亡演出が近いことを悟り、秋水は突きだした巨大バールを右脇で挟み込むようにして固定し、左手を離して拳を作りながら後ろに引き絞る。

 その左腕に、残りの魔素を掻き集め。

 

「――ブースト!」

 

 部分強化。

 身体強化の重ね掛け。

 これで瞬間的に左腕には4倍を優に超える強化を施され。

 

「そらよっ!!」

 

 コボルトの顔面に、左の拳が炸裂する。

 ライディンググローブに装備されているプレートを叩きつけるように、そして上から体重を乗せるように、思いっきり拳を打ち込み、そのまま振り抜いた。

 突き刺さった巨大バールの先端が、その喉を横に引き千切るようにして引き抜け、コボルトは背中から思いっきり地面に殴り倒される。

 ぶわり、とコボルトの口と喉の傷口から魔素が噴き出した。

 

「……うっしゃあっ!」

 

 死亡演出。

 それを確認してから、秋水は振り抜いた左の拳でそのままガッツポーズを決めた。

 やはり、殺しきったこの瞬間は、得も言えぬ達成感がある。

 右の脇で挟んで抱えていた巨大バールを右手にしっかりと持って、くるり、と1回転させてから地面に突き立てる。

 巨大バールでの棒術もどきは、この2日でみっちり練習できた。扱い方はなかなかサマになってきたんじゃなかろうか、なんて秋水は自画自賛する。

 まあ、昔に見たヒーローのように、手足の如く自由自在に操る、なんて芸当にはまだまだ遠く及びはしないが、バットのようにぶん回すしかなかった頃に比べれば格段の進歩と言える。

 やはりバールは使い勝手が良い。

 左手のライディンググローブを外しつつ、秋水はしみじみとそう再確認して1人で肯いた。

 せっかく新調した鉈や斧、全然使ってないのである。

 鉈は鞘ごと腰ベルトに装着しているが、斧に至ってはリュックサックと共に部屋の入口に置き去りだ。

 いやあ、バールの方が色々便利なものだから、つい。

 誰に言うわけでもないのに、そんな言い訳を心の中に浮かべながら、秋水は左手をコボルトに翳す。

 

「回収」

 

 左腕の部分強化を切ってから、そこに残った魔力をぐるぐる回しつつ再度色をつける。

 コボルトから噴き出す魔素が、秋水の翳した手の平に向かって一気に吸い込まれていく。

 魔素を吸収して魔力が満たされていく感じ、やはり心地が良い。魔素を魔素だと認識していなかった頃の、あの何とも言えぬ気持ち悪さが嘘のようだ。

 ほぅ、と風呂にでも浸かったかのように、秋水が溜息をゆっくりと吐き出す。

 

 ずきり、と脇腹が痛んだ。

 

「うおっ?」

 

 唐突に襲ってきた鈍い痛みに、思わず秋水の体が軽く「く」の字に曲がった。

 痛み自体は大したことはない。

 ただ、意識してなかったところに痛みがきたものだから、驚いてしまう。

 そう、意識していなかった。

 

「つー……あ、そうか、そういや結構殴られてたな」

 

 戦っている最中はテンションが上がって気にしなかったが、脇腹に3発ほど殴られていたのを思い出す。

 コボルトとの戦闘は、文字通りの殴り合いだ。

 バールで殴り、棍棒で殴られ、基本的にはそれを繰り返してコボルトを殺している。

 角ウサギ相手のように、一撃ももらわずに殺し返す、なんてスマートな戦い方とは正反対、まさに泥臭い殴り合いである。

 いや、角ウサギの場合、角突きタックルを喰らったら今でなお一撃で致命傷になる恐れがあるので、そもそも攻撃を受けない戦い方をせざるを得ないのだが。

 それに比べてコボルトの場合、棍棒の一発で致命傷になるかと言えば、それはない、となる。

 殴られて痛くないわけではないが、ライディングジャケットやプロテクターで十分にダメージは吸収できているし、少なくとも角ウサギの角突きタックルのように体に穴をあけられるレベルのダメージにはならない。

 ヘルメットなしの頭をフルスイングでぶん殴られたりしたら話は別であろうが、逆に言えば、ちゃんと防具を装着している時点である程度無視できるくらいのダメージしかないのだ。

 

「うーん、ちょっとマズいか?」

 

 痛む脇腹を気にしつつ、秋水は思案顔になった。

 殴られてダメージがあるものの、許容できる範囲内のダメージだから、あえて棍棒を受けながらもバールで殴り返す。それが現在の戦闘方法。

 しかし、防具である程度防げているとは言えども、ダメージが蓄積されているのは事実だ。

 実際、数発連続で同じところを殴られれば、普通に痛いし、アザになる。

 出血しないし骨折するほどには遠く及ばないとしても、体を痛めれば動きに支障が出てしまう。

 それに、許容できるとは言えども、殴られていることには変わりがない。

 殴られれば、一瞬でも体勢が崩される。

 この戦い方は、マズいかもしれない。

 

 複数のコボルトを相手取る時、決定的な隙が生まれてしまう可能性が、ある。

 

 今のこの戦闘方法が通用しているのは、あくまでもコボルトと1対1であるからだ。

 では、3体同時に戦うとしたらどうなるだろう。

 今のチェーンデスマッチの如きつかず離れず殴り殴られの戦い方が通用するだろうか。

 

 いや、文字通り、袋叩きにされるだろう。

 

 一撃一撃は大したダメージではないかもしれないが、重なればそこそこ痛い。

 そして、それ以上に殴られ続ければ、ダメージが蓄積されて大怪我になる可能性が高い。

 マズいな。

 殴られて、殴り返して。

 そういう戦闘は、まさに殺し合いっぽくてテンションが上がるが、複数戦を見据えるとなれば、もっと違う戦闘方法を模索する必要がある。

 

「と、なると……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、そろそろ時間か」

 

 ピピッ、という電子音で顔を上げた秋水は、足元に転がった白銀のアンクレットを拾い上げてから、部屋の入り口まで小走りで移動する。

 ダンジョンの地下2階、角ウサギのエリアである。

 コボルトのリポップを待つ時間を利用して、今ではすでに流れ作業かの如くなった角ウサギの虐殺大進撃を繰り広げていたところであった。

 部屋の入り口には、リュックサック。

 そのリュックに括りつけられている腕時計のアラーム機能をオフにしてから、秋水は時間を確認する。

 そこそろ、日付が変わる。

 1月の最終日まで、もうちょっと。

 

「早いもんだな」

 

 何が、とは言わないが。

 秋水は拾ったアンクレットをリュックに詰めて、代わりにビニール袋に入れられたミックスナッツを取り出す。

 移動時にぼりぼり食べる、おやつ的なものだ。

 素焼きのナッツ類、意外と美味しい。

 しかも量に対してのカロリーもかなり高いので、太るにはもってこいである。特にアーモンド、くるみ、カシューナッツの三銃士。隙間時間にも涙ぐましいデブエットだ。

 

「よっしゃ、さっそく試してみっかね」

 

 ミックスナッツをぼりぼり食べつつリュックを持ち上げ、地下3階へと続く階段まで秋水はやはり小走りで向かう。

 コボルトとの新しい戦闘方法、早く確かめてみたいぜ、と言わんばかりのウキウキ具合である。

 特に何も考えないで地下2階を回っていたものだから、地下3階への階段がわりと遠い位置にきてしまっている。もっと速度を上げて進んでおけばよかった。

 来た道を引き返して階段まで戻った秋水は、その勢いのまま階段を駆け下りる。

 最初の部屋は、近くにいたスライムへビニール袋を投げつけながらスルー。ミックスナッツが入っていた袋だ。

 そして、そこそこ長い通路を駆ければ、次の部屋。

 その部屋の前まで辿りついた秋水は、立ち止まって部屋の中をいつものように覗き見る。

 いるいる。

 コボルトだ。

 ちゃんとリポップしているコボルトを確認してから、秋水はリュックサックを地面に下ろす。

 

「身体強化、60%」

 

 そして体中に魔力をぐるりと回し、その6割を使って身体強化の魔法を発動させる。

 随分と慣れたものだ。

 最近は集中せずとも、ながら作業で魔法が発動できるようになってきた。

 魔力を操ってから魔法を発動させるまでの時間も、どんどんと短縮できているような気がする。いいことだろう。

 それからシューズに違和感がないか、グローブがフィットしているかを軽く確かめてから、ジェットヘルメットのバイザーを下す。ここの確認動作はすっかり習慣化できている。

 そしてメイン武器である巨大バールを確認してから、ふと地面に置いたリュックサックが目に留める。

 正確には、リュックに括りつけた、斧に目が留まる。

 

「……そうだな」

 

 手に持った巨大バールをちらりと見てから、秋水は小さく呟いた。

 鉈と一緒に買いなおした手斧。

 鞘に差して腰ベルトに固定できる鉈とは違い、刃の部分にキャップをするという方式上、腰ベルトに括りつけて固定したとしても咄嗟に引き抜きづらく、キャップを外さなきゃいけないという手間がかかるので、どうしても使用頻度が少なくなってしまっている武器である。と言うか、買いなおしてから実は1回しか使ってない。

 そんな手斧の特性上、最初から手に持って戦闘開始、という形にならざるを得ないのだが、そうなると両手で持って使う巨大バールをどうするのかという問題にぶち当たるのだ。

 

「よし」

 

 秋水は一度頷いてから、巨大バールを壁へ立てかけた。

 それから、リュックに括りつけていた斧を手に取る。

 いつもならば、巨大バールの方が使い勝手がいい、と手斧ではなく巨大バールを選択していたのだが、今回試してみたい戦い方は、むしろ手斧の方が向いているかもしれない。

 なんだか久しぶりに握る手斧の感触を確かめるように、ぶんぶんと何度か右腕で素振りをする。

 どこで殴っても一定の威力が期待できるバールとは違って、手斧は刃の部分を叩きつけねばいけないので、有効な攻撃となる範囲はバールよりもぐっと小さい。

 まあ、なんちゃってバール棒術で、L字の先を引っ掛けるよう、なんて使い方をしている現状、そういう意味では斧の刃を相手にぶち当てる方が難易度はずっと低いだろう。

 斧の刃を確認しつつ、腰ベルトから左手でバールを一本引き抜いて握る。

 右手に斧、左手にバール。

 

「行きますかね」

 

 深呼吸を一度してから、秋水は部屋へと足を踏み入れた。

 まずは一歩。

 

 

 

 地面を、蹴る。

 

 

 

 一直線にコボルトまで走った。

 いつものように相手の出方を窺うことはない。

 こちらから打って出る。

 

『ガウッ!』

 

 コボルトが一度吠え、棍棒を構えた。

 迎撃モードだ。

 いつもならば秋水とコボルトがゆっくりと距離を詰め、間合いの測り合いを行うのだが、今回はなしである。

 

「やっほう会いたかったぜクソ犬が」

 

 口端を吊り上げながら、自身の緊張を和らげるように軽口を呟く。

 コボルトが棍棒を両手で構えた。ちょっと歪だが、野球でバットを構えるかのような姿勢だ。

 今回はこちらが打って出る側、コボルトが迎え撃つ側。

 走れば、コボルトは既に目の前。

 新しい戦い方を試すときは、新しい筋トレ種目にチャレンジするようでワクワクする。

 胸の高鳴りをしっかりと感じつつ、秋水は踏み込んだ。

 射程距離。

 

『ゥワッ!』

 

 最初の攻撃は、コボルトだ。

 両手で握った棍棒を、遠慮なしの全力でぶん回す。分かり易いほどのパワープレイ。嫌いじゃない。

 左から襲いかかる棍棒。

 その軌道を冷静に読み、秋水は左手に持ったバールで受け止めるように防ぐ。

 鈍い音が響き、バールから重たい衝撃が左手に走る。

 

「重てぇなっ!?」

 

 両手持ちで思いっきり振り回された棍棒を、片手のバールのみで受けきるのは、なかなかに至難の業である。

 防御の仕方、要練習といったところか。最高か。

 受け止めきれずに少々姿勢を崩しながらも、秋水はさらに一歩踏み込む。

 

「そんで、お釣りをどうぞ!」

 

 そして、コボルトの左肩に、手斧を叩き込む。

 どずっ、と生々しい手応え。

 

『グァッ!?』

 

 バールで肉を叩く感覚とはまた違う、刃を肉にめり込ませる感触だ。

 にぃ、と思わず秋水の笑みが深まる。

 今回は上手く刃が入った。なるほど、この感覚で叩きつければいいのか。

 堪らねぇな、と秋水は素早く手斧を引き抜いた。

 血が飛び散るように、キラキラとした光の粒子、魔素がコボルトの傷口から飛び散る。幻想的な光景だ、そこだけ見れば。

 引き抜いた流れで、手斧を振り上げるようにして構える。

 肩への一撃でコボルトは軽く怯んだ。

 今なら頭を狙える。

 怯みながらも、防がれた棍棒で再度殴りかかろうと振りかぶったコボルトを見下ろしながら、それでも自分の方が先に攻撃を入れられるという確信を秋水は抱いて。

 

 地面を、蹴った。

 

 遅れて、ぶおんっ、と棍棒が振り抜かれた。

 

「あっぶねっ」

 

 咄嗟に跳び退いた秋水は、ギリギリのところでその棍棒を避けられた。

 危ない。

 殴られるところだった。

 そして忘れるところだった。

 

 今回は、殴られようと殴り返して殺す、という戦い方じゃない。

 

 後ろに跳んで、もう一歩下がり秋水は距離を取る。

 棍棒を空振りしたコボルトが少しよろけるが、目は完全に秋水を捉えている。犬の気持ちは分からないが、その目に殺意があることだけははっきり分かる、そんな熱い視線である。最高だ。

 少し離したその距離を、今度はコボルトが踏み込んで詰め寄った。

 

『ガゥッ!』

 

「そいキたっ、いらっしゃい!」

 

 今度は右で構えた棍棒で殴りかかってくるコボルトを、秋水が迎え撃つ。

 迫る棍棒に向けて、再びバールを振るう。

 ガッ、と重たい音。

 鍔迫り合いでもするかのように、バールで棍棒を再び防いで。

 

「ご注文はこいつでよろしぃかっ!」

 

 そして再び斧を叩き込む。

 しかも、左肩を再度狙って。

 斧がコボルトを捉え、刃が肉に食い込んだ。先程よりも浅いが、しっかりと一撃が入っている。

 さらに力を入れて強引に斬り裂くべきか。

 いや。

 

『グッ』

 

「痛ぇか? ごめんな!」

 

 再び刃を引き抜いて、バールで受けた棍棒を押し退けるようにして右に跳ぶ。

 1歩。

 2歩。

 3歩。

 今度は大きく距離を取る。

 そして、低く唸るコボルトを中心にして、弧を描くようにしてゆっくりとした足取りでコボルトの周りを歩く。

 警戒し始めてきたのか、コボルトは襲いかかってこない。

 つれないねぇ。

 

「それじゃあ、こっからアンコールだ!」

 

 向かってこないと判断した瞬間に、秋水は地面を蹴っていた。

 距離を取ったとは言えどもこの近距離、コボルトの反応が一瞬遅れたのが見て取れる。

 迎撃として振るわれた棍棒の軌道が、雑になった。

 それを今度は斧で防ぎ、流れるようにコボルトの首へとバールを突き込む。

 

 ヒット&アウェイ、という戦術がある。

 

 一気に接近して攻撃を当て、相手の本格的な反撃が来る前に離脱する。

 機動力を使って翻弄しながら、徐々に相手にダメージを与えていき、接近するタイミングを調整することで相手の反応を遅らせて奇襲になったり、退避のタイミングで相手の攻撃を空振りさせて相手を消耗させたりする、そんな戦術スタイルだ。

 距離を詰める。

 先制で攻撃を叩き込む。

 もしくは、的確に攻撃を防ぎ、反撃する。

 追撃は、しない。

 一撃入れたら、退く。

 距離を取り、もう一度。

 基本的には、今まで積極的にやってこなかった戦い方である。

 

 と言うよりも、今まで散々と角ウサギにやられてきた戦い方である。

 

 距離を詰めると同時に致命傷の攻撃。

 避ければそのまま通り過ぎて距離を取る。

 ヒット&アウェイの理想的みたいな戦術スタイルだ。

 

 そして、秋水はそれを参考にした。

 

 とは言えど、今現在の身体強化の強化倍率では、コボルトを一撃で殺せるだけの致命の一撃は繰り出せないし、確実に先制を取れるだけの技量もないので、どうしても棍棒を防いでからの反撃になってしまう。

 思い付き、かつ粗削りのヒット&アウェイだ。

 接近する。

 バールで防ぎつつ、斧をぶち込む。

 跳び退く。

 これを繰り返し、順調にコボルトにダメージを蓄積させていく。

 

「こういう読み合い、ヒリつくねぇ!」

 

 何度目かの一撃が、コボルトの脳天に直撃した。

 斧だ。

 コボルトが悲鳴とともに魔素を吐き出した。

 殴られながら殴り返す戦い方は、まさに殺し合ってる、という感じがあって血が燃えるが、こういう相手を少しずつ削っていく戦いもまた、乙なものである。角ウサギを一撃で殺せるようになってから、久しく感じていなかったヒリつき方だ。

 思わずもう一撃入れたくなるのを我慢しながら、秋水は左へ跳んで距離を取る。

 軽く息が上がっているのは、ペースが速いからか、興奮しているからか、動き過ぎなのか。

 

 足を動かしている以上、体力の損耗はいつもより多い。

 

 だが、まだコボルトの棍棒を、1度も受けていない。

 

 ちょっと疲れるが、この戦い方はなかなか良いかもしれない。

 間合いの取り方。

 距離の詰め方。

 相手の行動の読み方。

 防御の仕方。

 反撃の仕方。

 回避の仕方。

 距離の取り方。

 それぞれのタイミングの取り方。

 一通りの練習が、これでできそうだ。

 それに、攻撃を受けていないというのは、コボルト戦ではかなり大きなアドバンテージだ。

 

 この戦い方ならば、複数隊のコボルトを相手にしたときに、集団で袋叩きにされるリスクがぐっと低くなる。

 

 ドスッ、とバールのL字先がコボルトの顔面に炸裂した。

 トドメになった、と思われる。

 それでも秋水は油断なく後ろへ跳び退き、すぐに構えた。

 一瞬の空白。

 ぶわりっ、とコボルトの傷口や口から魔素が本格的に噴出した。

 死亡演出だ。

 

「……ふぅ」

 

 死亡演出を確認してから、秋水はようやく構えを解き、ため息を1つ。

 ぶっつけ本番のヒット&アウェイ、悪くないじゃないか。

 むしろ、良いじゃないか。

 コボルト複数戦の目途が立った感じじゃないか。

 これはちょっと、なんちゃってバール棒術と並行して重点的に練習した方が良さそうだ。

 

「よーし、忙しくなってきたな!」

 

 思い付きだった新しい戦法がぴたりとハマりそうな予感に、秋水はにやにやしながらガッツポーズをかました。

 ダンジョンの地下3階。

 その攻略法に、一筋の光が見えてきた。

 

 

 

 ぷよん、と近くのスライムが静かに、そして不気味に震えていた。

 

 

 





 秋水くん、なにか忘れてはいないかい?

 そして、忘れてきてやいないかい?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。