ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

185 / 267
180『来店のタイミングは最悪』

 

「本日は相談に乗って頂きありがとうございました」

 

 バイクショップでの買い物が一通り終わり、秋水は店の前にて律歌へと深々と頭を下げる。

 いやあ、買った買った。お試しでフルメッシュのライディングジャケットとライディングパンツ、そして通気性と耐衝撃性能抜群の各種プロテクター、ストックとしてのライディンググローブにヘルメット。靴以外は丸々一式揃えてしまい、その合計金額に秋水はちょっと引いてしまった。律歌もちょっと引いていた。店員は秋水の見た目に引いていた。

 ダンジョンアタックの装備を遠回しに律歌に質問して買い物をすることは、ホームセンターと建材工具の専門店に続いて3回目だが、やはり彼女のおすすめ品は的確だ。今日は出会えて幸運だった。

 そんな感謝を込めて頭を下げる秋水の両手には、がさりと大きなビニール袋。

 バイクの装備品は、どうしてこんなに嵩張るのだろうか。

 

「いえ、私も変な話をしちゃってすみませんでした。ちゃんと父は絞めておきますので」

 

「いえあの……本当にお父様にご迷惑を掛けられたなんてことはありませんので、大丈夫ですよ」

 

「本当ですか?」

 

「お父様を信用して下さい」

 

 律歌の父親は、一体彼女に対して何をしでかしてきたのだろうか。

 どうにも 『秋水が自分の父と知り合い = 父が秋水になにか迷惑を掛けた可能性が高い』 という疑念が律歌の脳裏から拭えていない様子。本当に勘違いである。

 律歌の父親とは刑事としての仕事をしているときに話をしただけ、と一応は説明したのだが、小首を傾げながらも未だに疑っていそうな表情の律歌に、もはや秋水は苦笑いを浮かべる他になかった。

 律歌曰く。

 

『父と仲が良い人には、紗綾音はよく懐くんです。それと、紗綾音と特に仲の良い人は、だいたい父もお気に入りになるんです』

 

 とのこと。

 なるほど、つまり紗綾音の原液、ではなく律歌の父親は、秋水を気に入る可能性がある、と。

 そんなに紗綾音と仲良くなっているつもりはないのだが、律歌の目にはそう映るらしい。

 そして遠い目をしながら律歌は続けた。

 

『例えば沙夜ちゃん相手だと、父はすっかりメロメロですからね。沙夜ちゃんがさっぱりした子じゃなかったら、たぶんとうにセクハラで訴えられてるんじゃないかと……』

 

 一体なにをしたんだあの燻し銀のイケオジは。

 唐突に引き合いに出された紗綾音の親友、竜泉寺 沙夜を律歌の父親もいたく気に入っているらしいが、具体的に何をしでかしたのかを尋ねる勇気は秋水にはなかった。

 うん。

 これは律歌の忠告通り、律歌の父親は要注意人物として認識しておいた方が良さそうである。

 律歌のアドバイスはだいたい的確だからな、うん。

 心の中でそれを再確認しつつ、秋水は再び律歌に対して頭をぺこりと下げる。

 寒空の下で立ち話を続けるのも、律歌に対して申し訳がない。

 

「それでは私はこれで。今度また、なにかお礼をさせて下さい」

 

「お礼ですか?」

 

「律歌さんには毎回お世話になっていますので」

 

 別れの挨拶に付け加えたそれに、律歌は首を傾げた。

 いや、実際に律歌には毎回助けられている。

 というか、実際にコンビニの外で律歌に会うときは、毎回毎回なにかしらのアドバイスを貰ってばかりなのだ。

 しかも今回は、秋水におすすめ商品を紹介するだけ紹介して、律歌自身の買い物はなにも終わっていないという惨状である。律歌は今からバイクショップの店内に戻り、自身の買い物を行う予定なのだ。時間を奪ってしまって申し訳なさが半端ではない。

 これは流石にお礼としてなにかお返しをせねば、そろそろこちらも居心地が悪いというものである。

 そんな思いでの提案に、うーん、と律歌は少しだけ考え込んだ。

 

「……でしたら、紗綾音のことを、少しだけ気に掛けてもらってもいいでしょうか」

 

「はい?」

 

 考えた後、秋水を見上げて律歌がお願いしてきたことは、律歌の妹、紗綾音のことであった。

 紗綾音のことを気に掛ける。

 それはつまり、沙夜のように紗綾音のお目付役をして欲しいということであろうか。

 それはちょっと。

 秋水は一瞬だけ悩んでしまった。

 

「いえ……あ、あの、秋水さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「あの……昨日、紗綾音って、学校で何かあったりしました?」

 

「昨日ですか?」

 

 そして即答しなかった秋水に、律歌が質問を被せてきた。

 昨日の紗綾音か。

 なにかあったのだろうか。

 確か昨日は、昼食を一緒に食べようと誘ってきたのを断って、帰る前にちょっと話をしたぐらいしかない。

 なんの話だったか。

 そうだ、紗綾音が自分の父を知っているか、という謎の質問であった。

 紗綾音の原液。

 うーん、要注意人物だ。

 ではなく。

 昨日の紗綾音とは、それくらいしか絡んでいない。まあまあ平和だったと思う。

 そして、紗綾音の様子がなにかおかしかった、という感じも、たぶんなかった、と思う。

 たぶん。

 恐らく。

 いや、あったかもしれないが、少なくとも秋水は気がつかなかった。

 これで本当に紗綾音になにかがあったとすれば、自分の目は節穴ということなのだろう。その可能性が高いだけになんとも言えない。

 

「いえ、特に何かはなかった……と思いますが」

 

「……そうですか」

 

 少しだけ、しゅん、と律歌が肩を落とす。

 昨日、なにかあったのだろうか。

 紗綾音のことは特に興味がないというのが正直なところではあるが、律歌がそれでしょんもりするのは少々引っ掛かるものを感じる。

 まあ、律歌には助けられているしな。

 特にダンジョンアタックの装備品なんて、今回の買い物でほぼほぼ全身律歌のおすすめ品になってしまったくらいである。

 ふむ、と秋水は軽く鼻を鳴らした。

 

「それでは、学校で紗綾音さんのことを意識してみることにしましょう」

 

「え?」

 

「もっとも、私では紗綾音さんの内心を推し量る自信はございませんけれど」

 

 驚いて顔を上げた律歌に対し、秋水は一応の釘を刺しておく。

 非言語コミュニケーションを得意としない秋水が紗綾音のことを気に掛けたところで、得られる情報など大したことはないであろう。

 しかし、それが律歌の頼みであるならば、秋水は断る気などない。

 律歌の世話になっているのは事実だ。

 いや本当、めちゃくちゃ助かっている。

 紗綾音のことを注意して見ておくくらいの頼み事なら、喜んで引き受けようじゃないか。

 気に掛けるって、具体的に何をすればいいのか分からないが。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「いえ、私なんかでよろしければ」

 

 そんな安請け合いにも関わらず、引き受けたことに安堵したのだろうか、ぱぁっと律歌の表情が明るくなった。

 なんだか随分と心配されているようじゃないか、あのチワワ。

 

「ちなみになんですが、紗綾音さん、なにかあったのですか?」

 

「えっとですね……」

 

 興味本位で口からついて出てきた秋水の問いかけに、律歌は言葉を選ぶように、軽く口をもごりとさせる。

 やはり律歌も表情が豊かな人だ。流石は紗綾音の姉といったところか。

 あまり表情作るのが得意ではない秋水からすれば、羨ましいものである。

 律歌の顔を見ながらそんなことを考えつつ、秋水は言葉を待って。

 

 

 

「昨日、泣いてまして……」

 

 

 

 なんか、想定以上に重たいことがあった様子だった。

 

「え」

 

「ああ、いえ、ちょっとだけなんですけど。なにがあったかは、正直私も分からないんですけど」

 

 ぱたぱたと誤魔化すように手を振りながら、律歌は苦笑いで付け加えるも、秋水は即座に言葉が返せなかった。

 泣いていた。

 紗綾音が。

 あの元気騒がしけたたましい、賑やか3点セットが添えられた極太神経ノンデリチワワがか?

 どうしよう、想像できない。

 それは結構、重大ななにかがあったんじゃなかろうか。

 

「あの、今日、紗綾音さんはどちらに?」

 

「えっと、今日は友達とテスト前の勉強会をするって、図書館に」

 

 流石に紗綾音の動向が気になって尋ねてみれば、とりあえずはちゃんと元気そうではある。

 これで寝込んでますとか部屋に閉じこもってます、なんて言われた日には、いくらなんでも心配になってしまう。

 いや、そんな状況だったら、そもそも律歌も暢気に買い物に出歩いていないか。

 そうでしたか、と返しつつ、これはかなり重大な頼み事を引き受けてしまったのではないか、という予感が秋水の脳内を通過していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンのセーフエリアへと帰還する。

 多少雑に扱っても大丈夫だろうという信頼のもと、縦穴の入口から新品のジャケットとパンツを投げ入れ、それからえっちらおっちらとその他の荷物を抱えながら梯子を下ってセーフエリアへ降り立った。

 

「ふいぃ、ただいまー、っと」

 

 誰も返事を返す者などいないセーフエリアで独り言を呟きながら、秋水は軽く溜息をつきながらリュックサックを下ろし、定位置の座布団へ座る。

 この嵩張る荷物を自転車で運搬するのは、良い運動になる反面、やはり面倒だ。

 律歌には勘違いされてしまっていたが、原付免許と原付バイクの取得は真剣に考えておいた方が良いかもしれない。

 

「こうやって人は運動不足になっていくのか……」

 

 バイクがあれば楽だよなぁ、と思いつつ、秋水はそんな真理を察してしまう。

 バイクがあれば、きっと移動が楽になるだろう。

 そして、楽になるということは、体を動かさなくなるということ。

 バイクを乗るとしたら、トレーニング量を増やした方がいいのだろうか、と見当違いのことを考えながら、秋水はリュックの中に入れていた新装備を次々に取り出していく。

 なお、ポーションというチートアイテムにより、筋トレの質も量も頻度も爆増しているということに秋水は気がついていなかった。

 

「えーと、今晩のダンジョンアタックはこの装備で……あ、また鉈買わねぇとな」

 

 買った商品達を広げながら、ふと折れた剣鉈のことを思い出す。

 刃物屋にもまた行かねば。

 こいつ毎週鉈とか斧とか買ってんな、と思われてなければ良いが。

 

「んじゃ、刃物屋に行って、昼飯食ってくるか」

 

 商品の開封やらプロテクターの装着やらが残っているが、先に出掛けてしまうかと考えてから秋水は再び立ち上がる。

 メインに使っているバールよりも破損率が高いのであれば、剣鉈も手斧も予備を含めて複数本買った方がいいかもしれない。

 これはまた運搬が面倒そうだ。

 今度律歌に会ったのならば、原付免許で乗れる範囲で積載能力のあるバイクを教えてもらった方が良いかもしれない。やはりスクーターだろうか。バイクのことはよく知らないが。

 とりあえず武器を買ってから昼食として、いや、刃物を複数本所持したままランチと決め込むのは少々物騒だろうか。

 ただでさえ物騒な見た目をしているのに、本当に物騒な物を店に持ち込むというのは流石に気が引ける。

 となると、昼飯食ってから刃物屋に行くべきか。

 ちらり、と秋水は置き時計を見て時間を確認する。

 ちょっと早いと言えば早いが、まあ時間的にも許容範囲だろう。

 なら、先に飯にするか。

 そう思って秋水は再びダンジョンのセーフエリアから出ようとして、思い出した。

 

「あ、違う、先に栗形さんところ行かねぇと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまた、自転車便・棟区となった。

 荷台に大型のコンテナ箱を括り付けた自転車を流しつつ、これは原付バイクの購入が現実味を帯びてきたな、と秋水は頭の片隅で考えていた。

 コンテナ箱の中には、大量なる白銀のアンクレット。

 運搬先は、質屋 『栗形』。

 今週の納品である。

 まあ、まだ鎬から売上金的なお金を振り込まれていないので、これがいくらくらいの儲けになるのか実感はないのだが、現状では貴重な秋水の収入源だ。

 角ウサギからのドロップアイテムである白銀のアンクレットは、コンテナ箱の中にたんまりと詰め込んでいる。

 特に包装せず、直接そのまま、雑に詰め込んでいる。

 大事な収入源なのだから、もっと丁寧に扱うべきだろうか。

 自転車を漕ぎながら、うーん、と秋水は唸る。

 丁寧に扱った方が良いんだろうな、というのは、秋水も頭では分かっているのだ。

 装飾品としてはなにやら凄く特殊な製法で作られている、と祈織は言っていたので、傷が付いたのならば商品価値が大きく目減りする可能性だってあるだろう。

 しかし現状、この白銀のアンクレットの商品価値というものの大部分は、『未知の元素』 とかいうものが含有されている、という部分に他ならない。

 不思議なダンジョンで、しかも角ウサギとかいう化け物を殺した後に出現する、謎のドロップアイテム。

 たぶんその 『未知の元素』 とやらは、地球上には存在しないものなんだと秋水は思う。

 どう考えたってこの白銀のアンクレット、別世界の品物だろう。

 売れるかな、なんて気楽に外に出していい品ではなかったな、と今では思っているものの、バレてしまったものは仕方がない、どんどん供給してお金を稼ぐとしようじゃないか。

 そして現在、白銀のアンクレットの価値は、綺麗な装飾品、ではなく、貴重な研究サンプル、という感じだ。

 雑に取り扱って多少の傷ができたくらいで、その価値は大きく下がることはないだろう、たぶん。

 まあ、それでもなお、もっと丁寧に扱うべきだというのもまた、分かってはいるのだが。

 

「でも、数が多いんだよなぁ……」

 

 赤信号で停車してから、秋水は小さく溜息を吐く。

 そうである。

 数が多いのだ。

 コンテナ箱と背負っているリュックサックに詰め込まれている白銀のアンクレットは、合計して200個くらいはあるだろう。

 まさかの1日30個近いペースだ。

 それを傷が付かないように1個ずつ包装して綺麗に並べて、なんて手間が掛かりすぎて正直やりたくない。ぶっちゃけ面倒臭い。

 多い。

 多すぎる。

 

 

 

 というか、ドロップ率が高すぎる。

 

 

 

 ちゃんと記録をつけて統計をとっているわけではなく、あくまでも体感ベースの話になるのだが、それだとしても現状、白銀のアンクレットが随分と高くなっている。

 最初の頃は確か、角ウサギを5体殺したら、白銀のアンクレットが1個出てくるかどうか、といった確率だったはずだ。

 出現率20%ほどだろう。

 それが今現在はどうだ。

 角ウサギを1体殺したら、だいたい半々くらいの確率で白銀のアンクレットがこんにちはと顔を見せるのだ。

 出現率、驚異の50%ほど。

 

 ドロップ率が明らかに高い。

 

 コボルトからのドロップアイテムである白銀の鎖の方は、やはり5体殺して1個入手、くらいの感じである。

 角ウサギも最初の頃はそれくらいの確率だったことを考えると、これが標準なのだろう。

 ドロップ率が上がった原因が、なにかあるのだろうか。

 確か、地下3階に足を踏み入れた翌日くらいには、なんかやけに白銀のアンクレットが手に入るなぁ、くらいに思っていた記憶がある。あのときは既にスライムに遭遇していて、そちらに夢中で角ウサギ相手のことを全然意識していなかったのが悔やまれる。

 となると、スライムの攻略を開始したからドロップ率が上昇したのだろうか。

 あるいは、地下3階の扉を開いたからだろうか。

 もしくは、ボスウサギを再討伐したからだろうか。

 

「全然わかんねぇ……」

 

 あの日は一気に色々なことを進めてしまったせいで、なにがトリガーとなったかが不明すぎる。

 いけいけドンドンでダンジョンを進めちゃダメだな。

 自転車のペダルを踏みつつ、秋水はしゅんと肩を落とした。

 しかし多い。

 白銀のアンクレットの数が多い。

 ダンジョンの地下3階が周回できない関係上、コボルトのリポップを待っている間、地下2階で角ウサギ虐殺1周レクリエーションを行っているのだが、それをだいたい2周回れば白銀のアンクレットが30個前後入手できる感じだ。

 そして、1週間毎日ダンジョンアタックをしていたら、30個の7倍で210個。

 多すぎる。

 管理が手間だ。

 というか、週末にまとめて持って行くとなると、数が多いだけに嵩張ってしまい、やはり運搬が面倒臭すぎる。

 バイク。

 やはりバイクが必要なのか。

 デリバリーだが宅配だかで見かける、後ろに大きな箱が装備されたスクーター、あれを買うべきなのか。

 

 うーん、と悩んでいると間に、目的地が見えてきた。

 

 質屋 『栗形』。

 そろそろ見慣れた看板となってしまった。

 平日にも納品に来ていいか、祈織に聞いておくか。

 そんなことを考えながら、キッ、と店先でブレーキを掛けて自転車を駐める。

 

「あれ?」

 

 そこで気がついた。

 店の中に、客がいる。

 おや珍しい、なんて思ってしまうのは流石に失礼か。

 販売業の店なんだから、客が来るのは良いことのはずだ。質屋が販売業なのかは疑問だが。

 ぱっと見る限り、店内には客と思わしき人物が4名。

 

「……日本人じゃねぇな」

 

 その客達、傍から見るに、アジア系ではない。

 外国人客だ。

 なんで海外の人がこの質屋に、と秋水は一瞬疑問に思いかけるも、ああ、とすぐに思いつく。

 

「そうか、基本的に海外に向けて売ってるとか言ってたな」

 

 駐めた自転車の荷台に括り付けたコンテナ箱、そして秋水自身が背負っているリュックサック。

 その両方に詰め込まれた白銀のアンクレットは、秋水の叔母である鎬の策略により、主に海外に向けて販売をしているのであった。

 確か謎の元素が見つかるよりも前の時点でも、オークションで海外向けに売りさばき、謎の元素が発見されて以降も、主に海外の研究所や大学や企業などに向けて売り出しを行っている。

 日本国内の研究所などにも売っているらしいが、規模や購買力の関係上、どうしてもメインターゲットが海外になる、らしい。

 それを考えたら、この質屋自体に外国人客が来るのも自然だろう。

 

 

 

 白銀のアンクレットを狙っているのならば、という前提では、だが。

 

 

 

「なんか、きな臭くね?」

 

 なにが、どうきな臭いのか、というのは言語化できないものの、秋水は嫌な胸騒ぎを覚えながらも、自転車の荷台に括っていたコンテナ箱を取り外す。

 白銀のアンクレットは、確かに特別だ。

 口外こそしていないものの、ダンジョンから出てくるヤベェ品である。

 それを独占的に取り扱っている質屋 『栗形』 は、確かにメインターゲットであろう海外の研究所だか企業だか大学だかからすれば、有名にもなるであろう。そちらの業界では一躍有名店になっている可能性だってある。

 だがしかし、それで実店舗の方に客が来るとしたら、ちょっと首を傾げざるをえない。

 白銀のアンクレットは、実店舗の方では売りに出していないのだ。

 そして、白銀のアンクレット以外に、質屋 『栗形』 が客を惹き付ける魅力があるかと言われたら、祈織には大変失礼かもしれないが、正直、ちょっと、思い当たらない。

 まして、海外から直接来店してくるほどの売りといわれたら、殊更思い浮かばない。

 なにか特別な戦略でも採ったのだろうか。

 はたまた外国人向けの宣伝でも大きく打ち出したのだろうか。

 もしくは。

 

 コンテナ箱を持って、秋水は質屋のドアを肩で押して入った。

 

 からん、と鈴の音。

 ブザーでも音楽でもなく、鈴をつけたドアというレトロな入店の合図が鳴り。

 

 

 

「あなたは彼女を危険に晒しているという自覚がないんですかっ!! 先程の男を見たでしょうっ!! なにかあってからでは遅いんですよっ!!」

 

「志穂さん落ち着いて! まずは深呼吸! アンガーマネジメント!」

 

「あら、なにか事件があったのなら、口実ができて警察も動きやすくなると思うのだけど?」

 

「はわわわ、なんで鎬さん煽るようなこと言っちゃうの? この人達って偉い人じゃないの?」

 

「一般私人をわざと危険な目に遭わせる馬鹿がどこにいますかっ!! なにかっ、あってからではっ、本当に遅いんですっ!! 護る気が本当にあるのか甚だ疑問ですねっ!! あなたに正義はないのですかっ!!」

 

「志穂さん、ちょっと、ホントにちょっと待って、落ち着いて、胃が……」

 

「なら、あなたの正義とやらで、裁判の方ではきっちり搾り取ってくれることを期待してもいいかしら?」

 

「え、裁判? 鎬さん裁判するの? 訴えられたの? 訴えたの? どっちも違和感なくて怖いんだけど……」

 

「こんの―――っ!!」

 

「わああっ、流石に実力行使はダメですよ志穂さん!? 落ち着きなさい! 落ち着いて!」

 

「血の気が多くて可愛いわね。交渉のテーブルでも相手にしっかり噛みついてくれるのが期待できそうだわ」

 

「え、交渉? 誰と? え、なんの交渉するの? もしかして私の知らないところでヤバいことになってんの?」

 

 

 

 凄い形相で怒鳴り散らしている、スーツ姿の知らない女性。

 その女を顔を青くしながら後ろから必死に取り押さえている、同じくスーツ姿の中年男性。

 カウンターを挟んで真っ正面から怒鳴られているにも関わらず、相変わらず真顔でポーカーフェイスの棟区 鎬。

 そんな鎬の後ろでただただひたすらオロオロしている、一見したら女児の質屋店長である栗形 祈織。

 

 なんか知らないが、店内はバチバチの修羅場になっていた。

 

 嫌な胸騒ぎがどうのこうの以前の問題として、どうやら最悪なタイミングで来店してしまったようである。

 

 

 





 律歌お姉ちゃん、頼む相手を盛大にミスっている(・ω・`)

 一見しただけで嫌な予感を覚える秋水くんに対して、店に出ずっぱりなのに危機感すら抱かない祈織。
 暢気ぃ(;´Д`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。