ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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185『災いとは、だいたい友達を連れてくる(なお友達も災い)』

 

「ありがとうございましたー」

 

 テンプレートなお礼を背中に受けながら、秋水は刃物屋を後にした。

 秋水の住む街は、昔から刃物の生産が盛んだった、らしい。

 かつては日本刀の産地の1つだったとかなんとか、なんでも鎌倉時代から脈々と継承されたどうたらこうたら。関心が薄いのでよく覚えていない。

 まあ、刃物の生産が盛んであるのは今も同じで、刃物を中心としたお祭りを年に1度開いたならば、大量なる観光客がどっと押し寄せてくるくらいには有名どころである。

 刃物を求めてやってくる観光客。普通に考えればヤバい祭りであるのだが、それが冬が近づいてきたと感じさせる毎年の恒例行事であるので、すっかり感覚が麻痺してしまっていた。

 

「うーん、随分お金が吹っ飛んじまったな……」

 

 そんな刃物の街の、刃物の店。

 刃物屋という安直なネーミングの刃物専門店で、そこそこの愛用品となってきた剣鉈と片手斧を5本ずつ購入した秋水は、リュックサックに入れたそれらの重みをしっかりと肩に感じつつ溜息を1つ。

 秋水の住む街は、刃物が有名だ。

 質が良い。

 性能も良い。

 そしてお値段も良い。

 良いとこ揃った3拍子、という商品を合計10本も買えば、当然ながらお値段も相応になってしまう。

 もっとも、白銀のアンクレットが好調に売れていて、それがビックリするような利益になるらしく、そこから発生する秋水の取り分も多いことから、今のところ全然余裕の黒字ではある。

 今日買った新しいバイク装備一式と、この剣鉈と片手斧ぐらいでは、もはやビクともしない頑強家計簿だ。

 しかも、今回は200個くらいの白銀のアンクレットを納品した。

 材料費も制作費も何もない。ウォーミングアップで角ウサギを殺したら半々くらいの確率で出てくる、おまけ商品みたいなものである。それがかなりの値段で売れるのだ。

 鎬曰く。

 

『確かに高く売りつけているけれど、いっても上の下くらいのブランド商品程度の価格帯よ。素材の研究用、しかも新元素の研究用と考えたら、正直、10倍で売っても文句は出ないわ。現状はとんでもなく安すぎる価格設定なのよ、これでも』

 

 とのこと。

 本来ならば、もっと高く売れるとか、秋水としてはちょっと恐怖すら感じるレベルである。

 まあ、その利益の中での秋水の取り分というのは、本来であれば白銀のアンクレットを製造する過程で発生する原材料費、人件費、ダン・ジョンさんとかいう謎の職人の技術料と謝礼分の金額と、ついでに秋水への手間賃が加算されているのが振り込まれているのだ。

 多いのは、ある意味で当たり前。

 これだけの儲けが出るのであれば、剣鉈だろうが片手斧だろうが、どれだけ買っても大丈夫と言えば大丈夫である。

 

 

 

 売り続けることが、できるのならば、だが。

 

 

 

「日本政府……ね」

 

 呟きながら、自転車に跨がりサイドスタンドを蹴り上げる。

 鎬は言っていた。

 交渉が長引いている時点で、日本政府は敵である、と。

 いやスケールよ。

 規模がデカい。

 なんで日本政府とかいう行政機関が登場してくるのか。

 そして何故、それが敵に回るというのか。

 ああ、いや、新元素関連の話だというのは分かる。研究機関や企業グループの影がちらつき始めるくらいだ、最終的には行政機関そのものが出てきてもおかしい話じゃない、というのは理解できているつもりだ。

 だが、敵に回るとはどういうことなのか。

 そもそもだが、白銀のアンクレットを入荷している祈織の質屋を、ちょろちょろと嗅ぎ回っている連中が既にいる。

 しかも、まだ個人レベルであり、組織立てて調査に入ってくるのは時間の問題、と言われてしまった。

 

「はぁ……」

 

 思わず重たい溜息が漏れる。

 最近、溜息ばかりだ。

 白銀のアンクレットには、今まで発見されてこなかった未知の元素が含まれている。

 と言うか、地球上には存在していなかったであろう元素が、含まれている。

 

 

 

 たぶん、ダンジョンという、明らかに地球上とは違う世界の、物質だ。

 

 

 

 流石の秋水も、あのダンジョンが地球上にある、普通の地下空間だなんて、そんなお気楽な考えは持っていない。

 鎬には認知できなかった入口。

 光を放つ天井の岩。

 空間に満ちている魔素。

 魔法の聖水であるポーション。

 睡眠時間を削減するセーフエリア。

 魔素でできた怪物、モンスター。

 今まで断言こそはしなかったが、それでも薄々は勘付いていた。

 

 あのダンジョンは、異世界なんだろう。

 

 そして、ウチの庭にある入口は、異世界への入口なのだろう。

 

 そもそもだが、そうでなくては物理的におかしい。

 ダンジョンへの入口である縦穴、そこにある梯子はだいたい4mある。

 そして入口の梯子を降りた先のセーフエリアは、天井の高さがだいたい3mくらいだ。

 差し引きすれば、1m。

 つまり、あのダンジョンが地球の中に物理的に存在しているならば、秋水の家の庭、地盤が僅か1mしかない、ということになる。

 一番始めにダンジョンを発見してセーフエリアに降り立ったとき、秋水は自分の家の地盤があまりにも薄っぺらいことに絶望したものであった。

 地盤1m。

 どう考えても、とうの昔に家が傾いているはずだ、物理的に。

 だが、そうはなっていない。

 家は傾いていない、と思う。

 試しに廊下にビー玉を置いたら、どこかに転がっていきそうな気もする程度にボロい家なので、もしかしたら傾いているかもしれないが、少なくともあの薄っぺらい地盤が崩壊しかけているという明らかなレベルの傾き方はしていない。

 だとすれば、あのダンジョンは、文字通りに異世界のダンジョンなんだろう。

 地球とは、違う世界。

 違う世界の、物質。

 

 白銀のアンクレットは、地球外の物質だ。

 

 そりゃ気になるだろう。

 研究者の考え方というのを秋水は理解できないが、それでも地球上にはない未知の世界の物質なんて、研究者が強く興味を抱くであろうことは想像できる。

 いや、研究者、だけじゃない。

 新たな商品、新たな発明、新たな合金、新たな兵器。

 未知の元素なんて、その性質如何によってどれだけの価値があるかは計り知れない。

 であるならば、興味があるのは研究者に限った話などではない。

 企業が、そして国家政府が、興味を持って当然ともいえる。

 気になるだろう。

 誰が作ったのか。

 どこで発見されたのか。

 原材料はなにか。

 どのように製造されたのか。

 少しでも情報が欲しいに決まっている。

 そして、そうなれば、メディアだって黙っていない。

 出所を探りたい。

 情報が欲しい。

 あのアンクレットは何なのか。

 あの物質はどこから採掘したのか。

 

 

 

 そして、その興味本位が嗅ぎ回る先は、1つしかない。

 

 

 

「―――駄目だ、栗形さんに迷惑が掛かってる」

 

 赤信号に引っ掛かり、秋水は自転車のブレーキを掛ける。

 キッ、と僅かに甲高いブレーキ音。

 今日既に何度目かになる溜息。

 

「なんとかしねぇと……」

 

 溜息とともに漏れ出た言葉が、風に乗って意味を失い溶けてゆく。

 どうしたものか。

 考えたところで答えは出ないが、それでも考えてしまう。

 祈織の質屋には、既に何人もの怪しい奴らが嗅ぎ回っている状況である。

 弁護士の志穂曰く、ざっくり言ってスパイ。

 同じく鉄臣曰く、研究機関かマスコミかが個人で動いている。

 現時点でも、既に祈織に迷惑が掛かっている。

 そして、正式発表だかなんだかがあれば、さらに倍ドンで実害付きのご迷惑が降りかかるときた。

 研究機関が。

 企業が。

 マスコミが。

 そして国が。

 国内外の組織が情報を求めて一気に来るであろう。

 

「規模がデカいな」

 

 青信号を確認してから、ペダルを踏む。

 白銀のアンクレットを売りに出そうと最初に考えたのは、ぶっちゃけ金に困ったからだ。

 武器やら防具やらの装備品に、増えてしまった食事代。ダンジョンアタックには色々とお金が掛かる。

 それに対して、収入を得る手段など限られているただの中学生の秋水は頭を抱えた。

 金がねぇ、と。

 いや、実際に金はあるのだ。

 以前から資産運用もしていたし、中学生にしては貯金もそれなりにある。

 そして、使える遺産は、既にあった。

 これから先、保険金やら慰謝料やらなんてものも、入ってくる。

 虚しいだけの、金ならあった。

 だが、現実問題として、それを食い潰し続けるというのは、現実的ではない。

 ダンジョンアタックを続けるためには、どこかで金を得るための何らかの手段が必要である。

 故に、白銀のアンクレットを売ることにした。

 正直、何も考えてなかった。

 これは綺麗だし売れるだろ、くらいの思いつきである。

 

 結果は、ご覧の有様だ。

 

 売れた。

 たくさん金が入るようになった。

 そして、面倒事が押し寄せてきた。

 最悪である。

 白銀のアンクレットの出所を嗅ぎ回るということは、イコールとして、ダンジョンのことを嗅ぎ回っていると同意義だ。

 ダンジョンのことがバレる。

 それは、困る。

 ぶっちゃけ、困る。

 理性では分かっている。

 ダンジョンの情報は、もっと広く開示すべきだということくらい。

 特にポーションのことは。

 そんなことは分かっている。

 分かってはいるのだ。

 前にもそれで多少は悩んだ。

 そして、今でもその悩みに対する答えは変わっていない。

 

 ダンジョンのことを、他者に明かすつもりは、ない。

 

 独り占めだと叩きたければ叩けばいい。

 独占上等だ。

 化け物共を殴り殺せるステージを、他の奴らにとられて堪るか。

 子供染みていて申し訳ないが、それを譲る気にはなれない。

 例えそれが、ポーションで助けられる数多の命を天秤に乗せたところで、だ。

 だから、ダンジョンに関係することで嗅ぎ回られるというのは、秋水にとっては都合が悪い。

 ましてそれが、研究機関だ企業だマスコミだ、挙げ句の果てには行政機関だときた。

 最悪すぎて、草木も枯れる。

 

 さらに最悪なのは、その嗅ぎ回っていることで、他人に迷惑が掛かっていることだ。

 

「……もう、持って行かない方が良い、よなぁ」

 

 自転車を流しつつ、やはり秋水としての結論はそこに辿り着かざるを得なかった。

 祈織の質屋に迷惑が掛かっている。

 祈織自身は未だに自覚がないようだが、確実に祈織には迷惑を掛けている状況であり、これから先はもっと面倒な感じになりそうなのが確定してしまっている状態だ。

 金は欲しい。

 欲しいが、流石にこれは、秋水の望む状況ではなかった。

 祈織に多大な迷惑を掛けてまで、白銀のアンクレットは売るべきではない。

 どうしようか考えると、秋水が打てる手段というのは、これしかないのだ。

 白銀のアンクレットを世に出したことによって、新元素とかいう超特大の面倒事が発生し、祈織に迷惑を掛け、ダンジョンの存在を嗅ぎ回られる、そんな事態になったのだ。

 だったら、白銀のアンクレットは、もう売りには出さない方がいい。

 隠して、知らんぷりして、雲隠れしてしまえばいい。

 もう流出した分はどうしようもないとしても、これから先、ダンジョンから持ち出しさえしなければ、バレるリスクはぐっと減るし、祈織への迷惑も最小限に抑えられるはずだ。

 そう考えるのが自然なことだ。

 なのだが。

 

 

 

『ああ、秋水。職人さんの方に伝えておいてくれるかしら。沢山作ってくれてありがとう、次も期待しているわ、って』

 

 

 

 質屋からの帰り際、なにも言っていないのに、まるで釘でも刺すかのように、鎬にそんなことを言われた。

 それは言外に、次も用意してくれ、という意味である。

 マジかあの女。

 マジだろうな、あの叔母ならば。

 

「どうすっかね」

 

 そして考えが堂々巡りしたまま、家に到着してしまった。

 答えは出ていない。

 自転車を駐めて、庭に入り、テントに入り、入口から梯子を下る。

 セーフエリアにただいま。

 もやもやした気持ちを抱えたままに、秋水は背負っていたリュックサックをぼすりと下ろす。

 白銀のアンクレット、どうするか。

 祈織へ迷惑を掛けていることやダンジョンのことがバレるリスクを考えれば、売るのは辞めるべき。

 しかし、鎬は売りに来てもいい、と言う。

 どちらを選ぶべきか。

 はぁぁ、と深い溜息。幸せの残量が減ってそうだ。

 コートを脱いで、ハンガーに掛ける。ハンガーはダンジョンの地下2階へと続く階段にある扉のところ。

 黒っぽく重厚感のある、不思議な絵が刻まれたダンジョンの扉には、コートやら制服やらがハンガーに掛かって吊り下げられていた。ファンタジックな世界観に、リアルな生活感がミスマッチな光景だ。

 まあ、それを言ったら、畳やらタンスやら布団やらを持ち込まれているセーフエリア全体が既にそうなのだが。

 セーフエリアを見渡してから、秋水はポケットに入れていたスマホを手に取る。

 そして画面をつける。

 時間確認のついでに、メッセージなどが来ていないかの確認だ。

 まあ、連絡をくれる人なんてなかなか居ないのだが、最近は連絡先を交換した人が増えたので、一応、である。

 

「……っと」

 

 その一応は、功を奏した様子。

 通知あり。

 トークアプリに、未読のメッセージのマークだ。

 誰だろう、と思いつつトークアプリのアイコンをタップする。

 

「ああ、美寧さんに……あれ?」

 

 未読のあるトーク相手は2名。

 1名は筋トレ同志、錦地 美寧だ。

 アイコンはまさかの無地。

 女子高生だし、なんらかのアイコンを飾っているだろうなんて勝手に思っていたのだが、まさかの初期アイコンである。

 こういうものには興味がないタイプなのだろうか。もしくは、女子高生的にはこれがむしろ普通だったりするのだろうか。よく分からない。

 もう1名を見る前に、美寧のアイコンをまずはタップする。

 

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『お昼まで寝てしまいました。おはようございます。今日は23時頃にジムに顔を出す予定です。よろしくお願いします。美寧』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『美寧がメッセージの送信を取り消しました』

『先生は、彼女さんいますか?』

 

 すごい取り消し量だ。

 ただ、メッセージの内容は非常にシンプルである。

 宣言通り、今日は23時にジムに行くということの再確認だ。

 どうやら美寧はいつもの喋り方と違い、文面だと丁寧になるタイプのようだ。

 しかし、最後の質問は何なのだろうか。

 彼女。

 当然いない。

 いるわけがない。

 美寧には普通に 『怖い』 と言われている以上、恋人なんていそうにないことくらい美寧ならば予想できると思うのだが。

 別の意図があるのか、と秋水は少しの間考えてしまう。

 恋人の有無を尋ねる、別の意図。

 うーん。

 

「……心配、とか?」

 

 ふと思いついたことを呟いてみるが、いまいちしっくりこない。

 仮に自分に恋人がいたとして、美寧がなにを心配するというのか。

 美寧とは、ジムで筋トレをちょっと教えているという関係の、筋トレ同志である。

 心配事など特には。

 

「あ」

 

 と、ピンときた。

 もしくは、しっくりきた。

 心配事。

 あるじゃないか。

 秋水は遅れて、美寧と会っているのが深夜であるということを思い出す。

 深夜のジムで、女性と2人きりである。

 

「そうか。浮気されてるなんて誤解されたら、美寧さんだって迷惑だろうしな」

 

 もし仮に秋水に恋人なんてのがいたとして、それで深夜に女性と密会していたら、あらぬ誤解を招くかもしれない。

 そして、そんな誤解に巻き込まれたら、美寧自身も大迷惑であろう。

 誰がこんな男と、ふざけんな、という感じになること間違いない。

 それを美寧は危惧しているのだろう。

 気が回るじゃないか。

 こういう細かいところに気がつくというのは、秋水にはとてもできない芸当である。

 

「そうか、夜に会ってることにもリスクがあるの―――」

 

 感心しながら呟いて、秋水は言葉をふと千切り捨てた。

 彼女いないです、と返信しようとしていた指も、化石になった。

 深夜に男女が2人で会っているのがリスク。

 もしも恋人がいたとしたら、そのパートナーの相手にあらぬ誤解を抱かせてしまう。

 なるほど。

 確かに。

 

 

 

 そして、それは美寧の方にも、当てはまる。

 

 

 

 さぁ、と秋水の顔が青くなる。

 額から冷や汗が、こんにちは、と顔を出してきた。

 

 美寧には、彼氏がいる。

 

 そして美寧は、深夜に別の男と会っている。

 

 字面だけ見ると、実に修羅場待ったなしのドロドロ三角関係な状況じゃないか。

 恋人に対する裏切り行為と言っても過言ではないかもしれない。

 浮気だ浮気。

 それって人としてどうなの。

 そんな声が聞こえてくるじゃないか、幻聴だけど。

 でもね、その別の男、俺なんです。

 スマホをタップしようとしていた秋水の親指が、プルプルと震える。

 違う。

 違うんだ。

 誤解だ。

 そういう関係じゃないんだ。

 潔白だ。

 手なんか出してない。

 信じてくれ。

 無実だ。

 心の中で並べた言い訳が、どういうことだろうか、完全に浮気した男が並べ連ねた情けない言い訳と同じ言葉になってしまう。

 なんてこったい。

 冷や汗をダラダラと流しながら、秋水は震える指で 『おはようございます。私も23時頃に向かいます。彼女はいません』 と返事を打ち込んでから送信ボタンをタップする。

 これは。

 この問題は。

 ちょっと、時間を置かせてくれ。

 秋水は真っ青になった顔のまま、無言でトークアプリをホーム画面に戻す。

 23時。

 どちらにせよ深夜。

 美寧と密会していることが美寧の彼氏にバレたら、自分は殺されるかもしれない。

 犯行動機は痴情のもつれ。しかも相手方の勘違い。

 それは流石にちょっと、勘弁である。

 

「……そ、そう言えば、もう1人メッセージがぁ」

 

 気を取り直すように、もしくは現実から目を逸らすようにして、わざと口にした独り言は何故が震えてしまっていた。

 トークアプリの画面には、未読メッセージの通知がまだある。

 相手は、祈織。

 

「栗形さんだ。そういや交換してたな」

 

 現在絶賛迷惑掛けてしまって秋水が頭を悩ませている相手である質屋の店主、栗形 祈織であった。

 一瞬だけ、なんで祈織がメッセージを送れたんだろう、とか思ってしまったが、すぐに連絡が取れた方が良いということで連絡先を交換していたことを思い出す。

 なんだかんだでトークアプリを挟んでメッセージのやり取りをしていなかったなと思い、秋水は気分をリセットするために祈織のアイコンをタップする。

 未読メッセージは5件。

 内容は、えーっと。

 

『ネックレスの件について聞きそびれました!』

『これは買い取りでいいんですか!?』

『めっちゃ綺麗ですね!』

『青っぽい色が奥色に置かれてるからコバルトが混ざっていると思うんですけど、もしかして新しい金属なんですか!?』

『(気になります! というスタンプ)』

 

「………………………………ひゅっ」

 

 断末魔のように息を飲めば、目の前が暗くなったような気がする。

 引っ込みかけていた冷や汗が、お早いアンコールだね、と再登場をしてきた。

 しれっと祈織に預けてきた、コボルトからのドロップアイテム、白銀のネックレス。

 またしても、なにも考えていなかった。

 馬鹿か自分は、どうして学習しようとしないんだ。

 学年1位など本当になんの役にも立たない数字でしかないことが証明されてしまった。

 いやもう、本当に馬鹿だ。

 ちょっと考えたら、疑問ぐらい抱いて当然の内容じゃないか。

 角ウサギからのドロップアイテムである、白銀のアンクレット。

 コボルトからのドロップアイテムである、白銀のネックレス。

 

 

 

 違う金属の可能性が、あるじゃないか。

 

 

 





「OK、分かったわ。正直なところ適正リスクを大きく逸脱しているのだけれど、このまま行動を起こさないで対応しなかったらリスクだけが上乗せされるだけだわ。虎穴に入らずんば虎児を得ず。もう既に私達は虎の寝床に足を踏み入れているのよ。現状でリスク自体を下げられない以上、こちらから打って出てリターンを得られる確率を上げに行きましょう」

「経営再建プラン大幅変更よ。訳の分からない物質が検出されて研究所に目を付けられたとかいうハイリスクを背負った以上は、現実的に可能な限りのハイリターンを狙いに行くわよ。あのアンクレットを売りつけて、上手くいったら大幅黒字に特殊な販売ルートに大きなところからの信頼を勝ち取ってウッハウハ、下手を打ったら大赤字かつヤバい奴らから目をつけられるわ」

 鎬さん的には123話でこんな台詞を言っている時点で、既に現状は織り込み済みですよ秋水くん。
 いや怖い(;´д`)

 ちなみに美寧ちゃんは、きわどい質問とか自撮り写真とかを送信したり取り消したりしてました。
 そこはもっと頑張れよΣ(゚д゚
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