ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

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187『楽しい現実逃避』

 ダンジョン、地下3階。

 二足歩行の犬人間、3体。

 棟区 秋水は、楽しく元気に暴れ回っていた。

 なお、現実逃避である。

 

「地味に投げやすいぜ持ってけトマホォォク!!」

 

 右手に持っていた片手斧を、振り下ろすかのようにして離れたコボルト目掛けてぶん投げた。

 出力60%の身体強化とは言えど、倍以上の筋力強化がかけられているその膂力で投擲された片手斧は、ブーメランの如く回転しながら空を切り裂き、コボルトの脳天へ見事に突き刺さる。突き刺さる、というか、割り刺さる。

 慣れてきた。

 命中した片手斧を横目で見て、秋水はにやりと笑みを浮かべながら地面を蹴り、別のコボルトに向かって走り出す。

 バールに巨大バールに剣鉈に、それらと比べて片手斧は意外と投げやすく、そして命中率がかなり高い。

 投擲用と割り切ったら、意外と良い武器じゃないか。

 応用の利くバール類、斬撃で斬り裂ける剣鉈、ぶん投げやすい片手斧。

 段々と武器の長所と短所、そして使い分けが分かってきたかもしれない。

 なお、分かったところで現実は変わらないのである。

 

「そんで、おらよっ!」

 

 秋水が向かっていたコボルトは、一度転ばせていたコボルトで、丁度立ち上がるところであった。

 狙い通りである。

 走り突っ込んでいった秋水は、立ち上がりかけのコボルトの目の前で左足を大きく踏み込んで、駆けたその勢いを殺さぬようにして右脚を振り上げる。

 そして、靴底を顔面にぶち込んだ。

 

『ギャッ!?』

 

 ヤクザキックである。

 秋水のイメージでキックというのは、足の甲で蹴りつけるものではなく、足の裏を叩きつけるタイプが浮かんでしまう。

 完全に、昔見ていた特撮ヒーローの影響であった。

 ゴツい靴底をお見舞いされたコボルトは、立ち上がっている最中ということもあって、再び派手にすっ転ぶ。

 今回はダメージを期待する攻撃ではなく、時間を稼ぐ一撃だ。

 コボルトへ蹴りを入れた右脚が地面に着地する。

 着地の勢いを殺すようにして、上体を一気に屈めて地面に転がっていた巨大バールを手に取った。

 時間を稼ぐ一撃 & 投げていた武器の回収。

 巨大バールを拾い上げてから、脚と背筋の力で体を跳ね起こし、そのまま右足で地面を蹴る。

 

「おっしゃぁっ!!」

 

 気合いと共に再び駆ける。

 いや、ずっと走り回っている。

 コボルト3体と戦い始めてから、秋水はずっと走っていた。

 走って、投げて、走って、殴って、走って、拾って、走って、斬って。

 囲まれて背後を取られないように、捕まって動きを封じられないように、攻撃と離脱を繰り返す。

 ヒット&アウェイの戦法だ。

 手にした巨大バールを両手で構える。

 巨大バールの中央寄りを握る、なんちゃってバール棒術の構え。

 狙う先は、また別のコボルト。

 棍棒を腰に構えるようにして、秋水目掛けて走り寄っているコボルトだ。

 真っ向から迎え撃つのもまた面白い、が、却下。

 走り寄ってきているコボルトを迎撃しようとしたものの、秋水は即座に反転して逃げ出した。

 

「ちょっと悪いがノーサンキュー! スライムが近いんだよお前は!」

 

 そう、スライムだ。

 スライムが近い。

 このまま互いに走ってぶつかるとなると、丁度スライムの隣でカチ合う形になってしまう。

 今のところ、攻撃にしろ防御にしろ、スライムに対して有効な手段をなに1つ持ち合わせていない。

 可能な限りスライムには近づかない。

 由緒正しきRPGよろしく、スライムへの対抗手段と同じである。

 ち、と思わず舌打ちをしたのは、悔しさが滲むように浮かんだからかもしれない。

 

「でもとりあえず!」

 

 反転した秋水は、少し考えて再び反転。

 くるりと身を回転させるとともに、巨大バールから左手を離して右手だけで握り締める。

 反転は、左肩から。

 左の脚を軸にするように、右足で勢いを付けるように地面を蹴る。

 胸を開く。

 肩甲骨を寄せる。

 巨大バールの平側の先端を、斜め上へと向けてから。

 

「ブースト込みでどっせいおらぁっ!!」

 

 反転と共に弓の如く体を引き絞り、手にしていた巨大バールを全力でぶん投げる。

 投げるその瞬間に、右腕に部分強化の魔法を使う。

 身体強化の重ね掛け。

 だいたい320%増しの強化によって、巨大バールを槍投げのように撃ち出した。

 結果。

 

「外れ!」

 

 すぐに背を向け秋水は走り出す。

 巨大バールはコボルトの頭上を通り過ぎてしまった。見事な外れだ。

 投げつけられた側のコボルトは、防御をするか避けるかの迷いがあったのか、一瞬だけ足が止まった。

 一瞬とは言えど足止め成功と考えようにも、投げるのに掛かった時間に対してコボルトが足を止めた時間の方が短い。

 差し引きマイナス。

 よって失敗。

 いや、失敗どころかゴミ結果。

 巨大バールの槍投げ投擲、命中率が非常に悪い。

 というか、真っ直ぐ飛ばない。

 まあ、L字の釘抜き部分があるし、そもそも投げて使うことは流石に想定されていない形状なのだから、当然と言えば当然の結果だろうか。

 投げるなら片手斧の方が良い様子。

 そう確信しながら、秋水は走りながら腰ベルトから通常のバールを左手で1本引き抜いた。

 向かう先は、頭に片手斧が生えたコボルト。

 刺さった片手斧を抜こうとしていたところ、自分の方へと向かってくる秋水に気がついたのか両手で棍棒を構えたため、頭には片手斧が刺さったままになっている。

 二足歩行した犬の頭に片手斧。

 シュールな光景だ。

 

「いざ!」

 

『ガウッ!』

 

 左手に持ったバールを横へと構えて走る。

 両手で握った棍棒を正眼に構えて待ち受ける。

 奇襲を掛けてぶん殴るのも楽しいと言えば楽しいが、やはり、正面からぶつかりカチ合うのが、1番心が躍る。

 にぃ、と口に笑みを湛えながら、秋水はコボルトの真っ正面で踏み込んだ。

 

「ぬんっ!」

 

『グワゥッ!』

 

 殴、らない。

 斬り上げるように振り上げた棍棒が、秋水の右肩を下から捉えた。

 むしろ、捉えさせた。

 踏み込んだ勢いで殴ればいいはずのタイミングで、秋水はバールを振るわず、コボルトが繰り出した棍棒に向かって右肩を出した。

 その右肩を、殴られる。

 棍棒を打ち付けられて、右肩に衝撃が走った。

 衝撃が。

 

「っ――さっすが、律歌さんのおすすめだ!」

 

 走った衝撃は、軽い。

 全く以て痛くも痒くもない、とは流石にならないが、明確にダメージだと言える程度には達していない。

 棍棒を受けたのは右肩。

 その肩にはプロテクター、ショルダーアーマーが仕込まれている。

 本来であればバイクが転倒したときに、ライダーの身を守るための防御装備だ。

 ライディングジャケットに仕込まれているそれが、コボルトの棍棒をしっかりと防いでくれた。

 

『アウ?』

 

 不思議な手応えだったんだろうか、思わず、といった感じでコボルトが声を上げる。

 犬の表情というのはよく分からないのだけれど、もしかしたら今のその表情が、不思議そうな顔、というものなのかもしれない。

 どうだい、このショルダーアーマー。

 新品だぜ。

 

「そんで、返してもらうぞ」

 

 殴られてもほとんどノーダメージであった右肩を動かして、右手をコボルトの頭に向かって伸ばす。

 頭に刺さった片手斧を、がしりと掴んだ。

 バールを持ってたら、そちらが本命だと思うじゃん?

 残念。

 知性がある方が、むしろ戦い易いなぁ。

 笑いながら、掴んだ片手斧に力を入れる。

 

「ブースト!」

 

 力と一緒に、部分強化を右腕へ再び施す。

 

「斬っ!」

 

『ギャッ!?』

 

 そして、振り下ろす。

 上に向かって引き抜くのではない。

 刺さった片手斧を、下に向かって斬り裂いた。

 抉るように、力ずく。

 コボルトの顔面が、裂けた。

 死ぬかな。

 どうだろう。

 かなり手痛い一撃をお見舞いしてやったが、死亡演出の確認をしている暇はない。

 斬り裂いたインパクトの瞬間だけ行なった身体強化の重ね掛け、その部分強化の効力が消えるのを感じる。

 魔法の “感覚” を “感じる” というのも変な話だが、魔法に対する感覚もだいぶ研ぎ澄まされてきたような気がする、というのは自画自賛が過ぎるだろうか。

 役目を終えて効果をなくした右腕の部分強化。

 しかし、体の中を駆け巡っている残りの魔力は、まだ右腕に集中させている。

 

「もういっちょブースト!」

 

 慣れた掛け声と共に、右腕の魔力に色をつけるように再々度右腕に部分強化。

 振り抜いた勢いのままに、ぐるりと身を翻す。

 巨大バールを見事に避けた、いや秋水が投げて見事に外したコボルトが、棍棒構えて襲い掛かってきている。

 思ったよりも近い。

 ショルダーアーマーで防御して、片手斧で斬り伏せる。

 想定よりもチンタラしてしまったようだ。

 反省しよう。

 だが、それはそれとして、なかなかに良い距離だ。

 近いと言えば近いが、遠すぎない。

 いいね。

 当てやすい。

 そして、威力が乗りやすい。

 絶妙な距離だ。

 

「プレゼントはいかがだよっ!!」

 

 片手斧を、叩きつけるように、ぶん投げる。

 身体強化を重ね掛けて投げつけた片手斧は、秋水目掛けて駆け寄ってきていたコボルトの胸へと高速回転しながら吸い込まれ。

 

『ギュア!?』

 

 命中。

 かつ、斧の刃がコボルトの胸に叩き刺さる。

 もしかしたら斧投げが得意なのかもしれないな、と頭の片隅で考えながら、さらに反転。

 背後には片手斧で顔面を斬り裂いたコボルトがいる。モタモタしていたらバックアタックを受けてしまう。

 勢い良く振り向いて、その振り向きざまに左手に持っていたバールで顔裂けコボルトの首をぶっ叩く。

 手応え。

 は、やや軽め。

 

「おっと」

 

 特に抵抗なく、そのままコボルトを地面へと張り倒してしまったことに、むしろ拍子抜けだった。

 ばたんっ、と殴られた勢いそのまま地面を転がったコボルトの、その裂けた顔面から、ぶわっ、と魔素が噴き出す。

 ああ、なるほど、死んでる。

 死亡演出だ。

 手応えとしての予想よりも早く死んだことを頭に入れながら、死亡演出が始まったコボルトを確認した瞬間に秋水は地面を蹴っていた。

 やったぜ。と言うか、殺ってやったぜ。

 そんな相変わらずな達成感を抱きつつ、秋水は右手で腰ベルトからすらりと剣鉈を引き抜いた。

 

「やっぱり楽しいねぇ!」

 

 地面を蹴って、曲がる。

 ダンジョンは楽しい。

 やはり楽しい。

 外では表に出せないものを、ここでは遠慮なく曝け出せる。

 最高だ。

 最高の気分だ。

 秋水は走った。

 ヤクザキックで蹴り倒され、やっと立ち上がったところのコボルト目掛けて。

 殺す。

 殺してやる。

 純粋な殺意を、右手の剣鉈に籠めるようにして握り締める。

 

「そう思うだろ、お前もさぁっ!?」

 

 そして、ぶっ刺した。

 剣鉈を突き出すこともせず、踏み込んで勢いを付けることもなく、シンプルにぶっ刺した。

 腰に溜めるように構えた剣鉈は、タックルするかのようにして構えたままにぶっ刺した。

 身体強化で強化された脚力による走りの勢いに、体重をそのまま乗せて、立ち上がったところのコボルトの、その顔面に剣鉈を突き立てる。

 突き立てて、突き刺した。

 思った以上に、深々と。

 

『ギッ』

 

「へぇ、こういう刺し方もアリか」

 

 根元近くまで突き刺さった剣鉈を見下ろしてから、突き飛ばすように剣鉈を握った右腕でコボルトを軽く押し、そのコボルトの腹に左の膝を叩き込んで剣鉈を犬の面から引き抜いた。

 刺しっぱなしで離脱しても良かったのだが、コボルトが1体死んでくれたので、多少の余裕がある。

 息を整えるように深く鋭く呼吸をしながら、ゆっくりと秋水は振り返る。

 胸に片手斧が突き刺さっているコボルト。

 殺してやる。

 笑うように心の中で呟きながら、秋水は再び地面を蹴った。

 

 なお、秋水は現実逃避中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 あれからコボルトの1体をバールで殴り殺し、残ったもう1体を剣鉈でめっためたに刺して差し上げてから、秋水は深く息を吐き出していく。

 3体仲良く皆殺し完了。

 かちんっ、と腰ベルトに固定した鞘に剣鉈を納刀する。

 意識していなかったので秋水自身は気がつかなかったが、剣鉈の先を見ることなく、ノールックで剣鉈を鞘へとストレートに収めていた。その動きは淀みなく、すっかり慣れが見えている。

 

「よし……回収」

 

 そして左手のライディンググローブを外し、部屋に満ちている光の粒子、コボルトが吐き出していた魔素を吸収し始める。

 消えてしまっては勿体ない。

 左の手の平で魔力の渦を作りながら色を与えれば、魔素の吸引器となる魔法が完成する。

 それで吸い込むようにして魔素を回収していく。

 うーん、良い気分だ。気持ちが良い。

 ジェットヘルメットのバイザーを開け、秋水は改めて深呼吸を行なった。

 そこそこに息が上がっている。

 汗も酷いものだ。

 当たり前だが、走り回ってコボルト達を引っかき回す、そんなヒット&アウェイの戦法は体力の消耗が激しい。

 端的に言って、すげぇ疲れる。

 しかし。

 

「ふぅ、だいぶ楽だな、コレ」

 

 そう言いながら、秋水は魔素を吸収するために手の平を前へと突き出していた自分の左腕をちらりと確認する。

 正確には、着ている服を確認する。

 ライディングジャケットである。

 本日、バイクショップで新しく買わせて頂いた、新装備だ。

 

 フルメッシュタイプの、夏用ライディングジャケット。

 

 熱と汗を逃がすため、体を覆う生地のほとんどはメッシュで通気性はとにかく抜群であった。

 同じくフルメッシュタイプのライディングパンツも同時に装備しているので、防具に熱と汗が籠もってしまう問題が大幅に軽減されたのがはっきりと自覚できる。

 今まではとにかく防御力という方向性でいたのだが、通気性を優先させた夏用ライディング装備、これはこれで 『あり』 だ。

 走り回って筋肉が熱を生み、その熱が籠もってしまうと、籠もった熱でさらに体力が消耗するし、余計に汗をかくので追加で体力が削られる。しかも、汗まみれになると気持ちが悪く、集中の邪魔になる。

 それが解決できるフルメッシュのライディング装備は、大正解だ。

 今もコボルト3体にヒット&アウェイの戦法で走り回って、確かに疲れは感じているし汗もたっぷりかいてはいるが、それは以前の装備に比べれば明らかに軽い。

 これは良い買い物をした。

 

「まったく、律歌さんには感謝しかねぇな」

 

 そう呟きながら秋水は苦笑いをする。

 この装備を勧めてくれたのは、偶然出会った渡巻 律歌である。

 ライディングジャケットやライディングパンツだけではない。

 内蔵させるプロテクターのプレートも、律歌が勧めてくれたものである。

 今までの硬さ重視のチタンプロテクターとは違い、ややぷにりとした感触のそのプロテクターは、衝撃を吸収するという方向性のものであった。

 実際にショルダーアーマーでコボルトの棍棒を受けてみたが、その防御力の高さには正直秋水自身もびっくりした。

 全然痛くないのだ。

 全然、は言い過ぎか。

 それでも、ダメージの9割くらいはカットできているんじゃないかと思うくらいの防御力であった。

 硬い盾みたいなイメージで、プロテクターというのはとにかく硬ければ良いと思っていたのだが、そうじゃないみたいである。

 しかも新しいプロテクターは、ひんやり素材かつメッシュになっているので、これもまた熱と汗が籠もるという問題を解決するのに一役買っているときた。

 本当に、勧めてくれた律歌には感謝しかない。

 ゴムネットにしろ、グリップテープにしろ、巨大バールにしろ、そして今回のバイク装備にしろ、律歌の知識にはお世話になりっぱなしである。

 貰ってばかりは、やはり気分的に都合が悪い。

 なにかお礼をしなくちゃな、と秋水はふと思いついて。

 

「…………」

 

 微妙な表情になってしまった。

 お礼。

 お礼ならば、律歌から頼まれたことが、ある。

 律歌の妹で、秋水のクラスメイトである、渡巻 紗綾音。

 どうやら昨日、様子がおかしかったらしいのだ。

 だから、学校では気に掛けると約束した。

 したのだが。

 

 

 

 なんか、泣いてたって?

 

 

 

 え、そんなレベルで様子がおかしかったの?

 いつも様子がおかしい紗綾音であるが、なんでそんな地味に深刻な感じなの?

 気に掛けるといっても、正直ちょっと限界が。

 

「……うーん」

 

 秋水は唸った。

 言葉の全部に濁点がつくような、低く渋い唸り声だった。

 紗綾音が泣くような事態とか想像つかないし、他者とのコミュニケーションは正直苦手である。

 気に掛けたところで、ぶっちゃけ役に立てそうもない、というのが本音だが、これ、律歌たってのお願いなのだ。

 いつも知識を分けてくれる、律歌が初めてしてくれたお願いだ。

 毎回お世話になっている以上、その恩を返すまたとない機会と言えよう。

 それなのに、全く役に立てません、というのは人としてどうなのか。あまりに仁義に欠けるのではなかろうか。

 

「とは言えなぁ……」

 

 しかし、泣いていた女の子を気に掛けて、はてさて自分にいったい何ができるのか、と自問自答してしまう。

 どうしよう。

 気が重い。

 月曜日には何事もなかったかのように自己解決してくれやしないだろうか、あのチワワ。

 そんな弱音が頭の片隅で顔を出してきたくらいに、秋水の視界の端で、きらり、となにかが光った。

 銀色の輝きだ。

 白銀の、輝きだ。

 

「………………………………」

 

 いつもなら、ラッキー、と気楽に考えることができた輝きに、秋水の微妙な表情が、急激に渋くなる。

 死亡演出が終わり、魔素を撒き散らしながら消滅したコボルトの跡には、細い鎖が転がっていた。

 白銀のネックレス。

 秋水が勝手にそう呼んでいる、コボルトからのドロップアイテムである。

 角ウサギが落とすアンクレットと同じく、売れるんじゃないかな、なんて思って本日、栗形 祈織の質屋に5本ほど持って行ったなぁ。

 

 

 

 アンクレットと素材が同じかどうかなんて、考えてすらいなかった。

 

 

 

 もしかして自分は、とんでもなくヤバいものを祈織に渡してしまったんじゃなかろうか、なんて今更ながらに絶望する。

 いや、絶望するにはまだ早い。

 だって、祈織に渡しただけである。

 別に白銀のネックレスに使用されている金属の成分を、どこかの研究室で調べてもらう、なんて話にはなっていない。

 なっていない、はずである。

 そういう方向に伝手のある鎬だって、白銀のアンクレットの方から未知の元素が検出されたとして、弁護士に交渉の手伝いをお願いするくらいにてんやわんやとしているくらいだから、流石にネックレスの方まで成分分析の依頼を出す真似はしないだろう。

 しないよな?

 してないよな?

 そんな自分の首を絞める真似なんて、いくらなんでも鎬がするはずないだろう。

 いや、でも仕事大好きな鎬である。

 働いている感が欲しいがために、わざと自分を追い込むなんて自殺行為を絶対にしないかと問われたら、正直ちょっと自信がない。

 というか、ネックレスとアンクレットが同一の素材なのかという話、そもそも鎬に伝わっているのだろうか。

 どうしよう、段々と不安になってきた。

 

「……ああ、そうだ、今日は早めに切り上げなきゃ」

 

 気を取り直すように、もしくは問題から目を逸らすように、秋水はわざとらしく独り言ちた。

 その声は、随分と震えていた。

 ライディングジャケットの下に着た冷感シャツのおかげで、体が冷えてしまったのかもしれない。きっとそうだと思いたい。

 それはともかく、今日はダンジョンアタックを早めに切り上げなくてはいけないのは本当だ。

 具体的には、いつもよりも1時間早く切り上げなくてはいけない。

 なにせ今日は、錦地 美寧がいつもよりも1時間早くジムに来るからだ。

 

 

 

 深夜のジムで、彼氏のいる女子高生を2人きりである。

 

 

 

 彼氏さんにバレたら、最後のコボルトの如く自分が彼氏さんに剣鉈で滅多刺しにされるんじゃなかろうか。

 いや誤解だよ。

 この身は潔白なんだよ。

 そんな言い訳を、させてもらえる猶予はあるのだろうか。

 

「………………………………………………」

 

 秋水は渋くなっていた表情を思いっきり顰めまくった。

 絶望しかねえ。

 回収できる魔素がなくなったダンジョンの部屋の中、現実を思い出してしまった秋水は、ひっそりとしゃがみ込んで膝を抱えてしまった。

 現実逃避は楽しかったが、それで事態は解決しない。

 

 

 

 美寧との約束の時間が、刻一刻と迫っていた。

 

 

 





 秋水くん、別方向からメンタルをやられる(;´Д`)

 とりあえず美寧ちゃん早く思い出してくれ。
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