ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

196 / 267
191『錦地 美寧は捻じ曲げられた、性癖を』

 

 エロい。

 

 そんなド低能な言葉以外、全部の思考が吹き飛んだ。

 深夜のジムで、先生と二人きり。

 そんな嬉し恥ずかしドキドキ空間で、なんか知らないけど先生が急に「ついでに見てみますか?」とか言って上の服を脱いだ。

 脱。

 は?

 え?

 待って?

 脱ぐって、なにを?

 え、脱いでる、先生脱いでる、えっ!?

 うわああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?!?!?

 ちょ、無理無理無理無理無理無理無理むりムリ無理むりむりむりっ!!!

 

 

 

 え、え、ちょ、なんでそんな当然の顔して脱ぐの!? え!? 私死ぬよ!? 今死ぬとこなんだけど!? あ、心臓いった、いったこれ止まった、あ、止まった。あの、違うよね? きっと私は夢を見てるだけ、だって深夜だし夢心地だし幻覚幻聴だし、あ、この筋肉の隆起も血管もヤバい大胸筋も夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ現実だったわ無理っ!? 触っていいですよの次に服を脱ぐって完全にもう次のステップじゃんというか最終ステップじゃん私まだどのステップも踏んでない気がするんだけど先生が一足飛びに全部のステップ省略しちゃってるんだけどなにそのラブコメどころかR18目前の展開コンドーム持って来てたっけ私!? 見せる筋肉の威圧感と無自覚イケメンの破壊力で幼気な女子高生を殺しに来ないでくれませんか!? 今この部屋なんか妙に暑くない!? え、先生、脱ぐときの無言の間がなんか変な色気あったんだけど!? てか私ただ触っていいかなって聞いただけなのに何で脱ぐの!? 普通脱ぐ!? 即脱ぐ!? 筋肉えっぐ!? 触りたいなって下心で聞いてみただけなのに天罰にしては破壊力大きすぎる最大火力のご褒美光景でちょっとあの私まだ心の準備がいや違う先生のお身体素晴らしくお綺麗ですねとか言う前に好きな人の肉体って人殺せるんだね!? あ、好き。でもちょっと裸は心臓止まるから無理って言うか、これもう無理!? 物理で殺しに来ないで先生!? 私これでも一応は乙女だぞ!?!?!?!!?

 

 

 

「肩甲骨の動きを詳しく分けますと、挙上、下制、上方回旋、下方回旋、内転、外転、この6方向の動きに分けられます。それぞれの動きなのですが、まず挙上はこのように―――」

 

 しれっと服を脱ぎ、私に即死級の過剰ご褒美を叩きつけておきながら、先生は当然のように今度は私へ背中を見せつけてきた。

 堪らない筋肉。

 素晴らしい絶景。

 あまりの光景に止まった心臓を叩き起こされ、ショックのあまり鼻血と共に失神しそうになる。

 あ、お姉ちゃんだー。

 なんでそんなお花畑にいるのー?

 きれいな川だねー。

 このお船に乗ればいいのー?

 いや待って待って違う違う。今絶対ヤバい光景見えちゃったけど正気に戻った瞬間にそれ以上にヤバい光景が目の前で広がってるから結局死にそうなんだよね私!?

 ちょっと!

 先生!!

 さすがに怒るよ!!!

 

「この6つの動きを組み合わせると、このように肩甲骨の部分をグルグルと動かせます。ここまではっきりとは動かなくても、肩甲骨を意識的に動かせる状態まで体を柔らかくしていると、様々な筋トレを効果的に行えますし、怪我の予防にも繋がります」

 

「――――せ、せんせぃ」

 

「なのでまずは肩の――あ、はい、どうされました美寧さん?」

 

 すらすらと説明をしてくれている先生を、私は声を絞り出して呼び止めた。

 ありがとう先生。私ぐらいでも分かり易いように、実演つきで教えてくれてるんだよね。好き。

 でもね先生、ごめんね先生、真剣に教えてくれてるんだろうなぁ、っていうのは凄くよく分かるんだけどね先生。

 

 先生の上半身ヌードの刺激が強すぎて、内容がなんにも頭に入ってこないよ。

 

 いや無理じゃんね反則じゃんね合法エロじゃんねごちそうさまです先生いやバカバカ何考えてるの私は頭の中がドピンクで邪念がウルトラスペシャルスーパーカーニバル状態で心臓がロックンロールなんだけどああああああああああ見たい触りたい写真撮りたい嗅ぎたい撫でまわしたい食べたい抱きしめられたい抱きしめたいていうかやれるもんなら押し倒したいとか私はアホかやめろってバカなの死ぬのこれが恋なの!? これが恋なのかな!?!?!? ぬああああああ!! 違う違う違う落ち着け私絶対無理だ今も半分失神してたけどここが乙女の尊厳踏ん張りどころじゃんね!!

 服!

 服着て先生!

 もうやめて!!

 その肉体は私を狂わせるんだから!!

 お願いです服を!!

 先生の筋肉で私の性癖を滅茶苦茶にしないで!!

 

「…………………服、着て下さぃ……」

 

 絞り出して、それこそ搾りカスみたいな声で、私は先生に訴える。

 顔が熱い。

 耳まで熱い。

 今なら顔から火を出せる自信がある。

 さすがにもう直視できなくて、私は顔を両手で覆い隠してしまった。

 ダメダメむりむり。

 これ以上先生の裸なんて直視したら、ホントに死んじゃう。

 死んじゃう。

 好き。

 すきぃ。

 顔を隠して、ぷるぷる震える。

 

 ああ。

 

 ああああ。

 

 ああああああああああああっ!!

 

 エロいってエロいってエロ過ぎだって先生!!

 未成年にそんな猥褻な色気たっぷり筋肉たっぷりツヤツヤエロエロダイナマイトボディを見せちゃダメだよ先生!!

 曲がりました!!

 ああもう曲がっちゃいました!!

 ひん曲がっちゃいました!!

 私の性癖、絶対にぐにゃって一撃でひん曲げられちゃいました!!

 ホントふざけないで先生!! どれだけ私を好きにさせたら気が済むの!? めっちゃ好きなんですけど!? そのうえ性癖まで捻じ曲げられたんですけど!? 全部先生で染められちゃったんですけど!?

 もう責任取ってほしいんですけど!?!?!?!?

 

 脳内でそんな絶叫を繰り返していると、先生がぴたりと止まった。

 変に思われたかな?

 いや変にされたんですけど?

 顔を両手で隠したままに、指で隙間をつくってちらりと先生を見る。

 先生、止まってた。

 しばらく固まって、私の顔じーっと見て……あ、ぽかんとしてる……あ、まつ毛長い……あ、まぶたの動き、好き。

 やばい、好き。

 この顔であの筋肉って、どんな二重詐欺だよ。詐欺でしかないよ。

 

「えっと……はい」

 

 そのしばらく後、どんな感情が籠もっているのかがいまいち分からない、戸惑ったような返事をして、先生がもそもそと再び服を着始める。

 服を着る。

 腕が上がる。

 背中の筋肉が、脈動する。

 うわぁ、仕草ヤバぁ。脱ぐのもアレだけど、着るのもなんか、その、ねえ?

 コンプレッション効いたトレーニングウエアを着れば、それがお肌にぴちりと張り付いて先生のボディラインが丸分かりになる。

 いやまあ、ボディラインどころかボディ見ちゃったんですけど。お見事素晴らしダイナマイトボディを見ちゃったんですけど。新しい扉開いちゃったんですけど。こじ開けられちゃったんですけど。なにこの性癖拡張工事。

 思い出しちゃダメなのに、脳裏に再び先生の上半身が蘇る。

 吐血しかけた。

 なにこのお一人様ボディビル大会 in 真夜中ジム。

 ああ、そうか、ボディビルだ。

 よくよく考えたら、ボディビルの人って海パンみたいなパンツだけで、後はほとんど裸じゃん。見たことないからイメージだけど。

 もしかして、先生ってそういうノリで脱いだのかな。

 見られて恥ずかしい筋肉してない、みたいな感じで。

 え、いや、ちょっと待って、そういうノリで脱いじゃえるの?

 人前でポンポンお肌を晒せちゃえる系なの?

 他の人の前でもこんな即死級のエロ筋肉を披露しちゃってるとかなの?

 

 

 

 それは駄目だろ先生っ!!

 

 

 

「すみません、お待たせし」

 

「先生ちょっと流石に怒るよ私っ!!」

 

「おっと」

 

「おっと、じゃないっ!!」

 

 がーっ、と一気に吠える。

 服を着終えた先生に、私は即座に食って掛かった。

 大きな声が出た。

 これが私の怒りの大きさだ。

 

「なんで先生は乙女の前で服脱ぐの!? どういうつもり!? 先生に羞恥心ってものはないの!? 少しは躊躇して!? いつか盗撮されて酷い目にあうよ!? 人前でぽんぽんぽんぽん服を脱いじゃいけませんっ!!!!」

 

 いや叱る。

 これは叱らなきゃ駄目だよ。

 先生の貞操観念おかしいよ。

 いや。

 いやね。

 

 

 

 なんであんな無警戒に、なんの躊躇もなく、あっさり服脱ぐの!? 信じられないんだけど!? いや信じるけど!? 事実だけど!? この目で見たけど!? でも信じたくないんだけど!? こちとら恋する乙女なんだが!? こっちは限界突破して性癖ごと逝ってんのに、なんで先生は平然とヌードで指導とかしちゃうの!? 羞恥心どこに落としてきたの!? スーパーのカゴに置き忘れてきたの!? 少しは悩んで!? 顔赤くして!? せめてちょっとだけでも躊躇して!? このままじゃいつか誰かに盗撮されてネットに出回ってとんでもないことになるからね!?!? お願いだからもっと自分を大事にして!? そんな無防備な脱ぎ癖、女子として心配しかないからね!? うわーん!!  なんで私が怒ってんの!? なんで私が心配してんの!? 好きすぎて怒ってるの!? 怒ってるのに好きが止まらないの!? バカなの!? 私バカなの!?!?!? ああああああああっ!!!!!

 

 

 

 感情のままに吠え散らかせば、先生はそれをじっと聞いてくれる。

 口を挟んだり反論したりは全くしない。

 こんな小娘のヒスっぽいお小言を、ちゃんと聞いてくれている。

 

 聞いた上で、なんか、ちょっと、しゅん……となっていた。

 

 あ、うそ。

 な、なにその、なにその顔。

 え、ちょ、ちょっと待って、先生。

 えっ、えっ、えっ!? しょんぼり顔!? 

 ちょっと下向いて、眉毛も下がってて、ちょっとしゅん……ってなってる!?

 その筋肉で!? その大男で!? そのヤクザ顔で!?

 顔が怖いのに、しょんぼりってなにそのギャップ!? え、え、なにちょっと可愛い、え、むり、え、無理、ムリ、むりむりむり!?

 やめて、ちょっと、こっちは怒ってるんだけど!?

 そんな顔は反則じゃん!? 好きが爆発しちゃいそうになるでしょちょっとあざとくないかな先生!?

 

「すみませんでした……美寧さんの前なので、気が緩んでいたようです」

 

 そんなあざと可愛い筋肉ギャップ先生が、謝ってくれる。

 むぐ、と私の口が止まってしまう。

 いやいや。

 いや。

 私、怒ってるんだからね。

 謝っても怒ってるんだからね。

 人前で脱いじゃう先生の貞操観念を叱っちゃうんだからね。

 だから、そんな可愛く、しゅん、となったって許さないんだからね。

 ねえ?

 

 ……私の前だと気が緩むってどういうこと!?

 

 信頼してるってこと!?

 安心してるってこと!?

 気を許してるってこと!?

 他の誰の前でも見せないものを、私にだけ見せてくれたってこと!?

 

 え、もうそれ、告白じゃん!?!?!?!?!?!?

 

 やっぱ先生、私のこと好きじゃんね!

 ていうかね、そういうこと、さらっと言うのやめてよ!?

 たぶん無自覚で言ってるんだろうなー、っていうのは分かってるよ!? 分かってるけどさ!?

 だからこそヤバいの!! 無自覚で心臓破壊してくるのが一番ヤバいやつなの!!

 ばか!!

 ばかばか!!

 ばかばかばか!!

 私今、耳から煙出てるよ!?

 心臓なんか踊ってるよ!? ダンス踊ってるよ!? サンバだよ!? 恋のサンバカーニバル in ジム会場だよ!?!?

 

 急にたたき込んでくれた先生の告白に、なんか、こう、わきわきしちゃう。

 顔が熱い。

 ずっと熱い。

 いやいやいやいやいや。

 ダメだ私。

 叱るんだ私。

 今問題なのは先生の羞恥心。人前で脱いじゃえる危機感のなさ。

 先生には、そう、そんな無自覚に女の子を誑かしてたら、いつか襲われちゃうよ、ってことを教えなきゃいけないという使命が。

 

 

 

「美寧さんには以前にも上半身を見せていましたので、良いかなと思いまして……」

 

 

 

 ぴた、と固まった。

 続いた先生の言葉で、私の体が固まった。

 

 ……え?

 

 …………え、まって?

 

 ………………?

 

 ……………えっ!?

 

 ちょ、ちょ、ちょちょちょ、ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って今なんて仰いました先生!?

 以前にも!?

 は、え? なに? 前にも私、先生の裸を見たっけ!? え!?

 えーっと。

 え?

 うーんとね。

 えー……ほえ?

 

 …………えっっっっっっっっぐ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 見てた!!

 見てたわ!!!

 見てたわ私!!!!

 しかもめっちゃ至近距離で! 筋トレ教えてもらいながら! 今と同じく! 先生の背中ガン見させてもらってたわ!!

 確かあれ、そうだそうだそうだった、バーベルのベントオーバーローができないよー、ってなってたときに、先生が背中の筋肉はこんな感じで動くんだよって教えてくれたんだ! そのときも先生の上半身マッパッパで見ちゃってた! すげぇ筋肉だー、なんて他人事みたいに思いながら、先生の裸めっちゃ見てたわ私!!!

 う、うわああああああああああああああああああああああ!!!!

 思い出した思い出した思い出した思い出した思い出したああああああああああああ!!!!!

 あのときの筋肉! あのときの血管! あのときの肌の質感!!

 全部、全部、今の記憶と繋がった!

 あのときは何も思ってなかったのに!!

 というか、好きじゃなかったから冷静だったのに!!

 今の私がそれを思い出したらダメだって!!

 好き好きフィルターがかかって、思い出全部が18禁フィルムになっちゃうんですけどちょっと!?

 

「美寧さん? 美寧さん?」

 

 先生の声が遠くで聞こえて、意識が引っ張り戻される。

 いけない。割と真面目に頭がショートしかけてた。先生の目の前でだらしない顔で気絶するところだった。

 はっと正気に戻って先生の顔を見る。

 見た瞬間、脳が茹で上がりそうになる。

 服着てる。

 先生は今、ちゃんと服を着ている。

 着ているんだけど、ね?

 

 ……裸が思い浮かんじゃうんだよ!

 

 ついぞ先程まで見てた光景と、過去に見た光景が、交互に私の理性をフルフルボッコちゃんにしてくる。

 なにこれ。

 なにこれ!?

 もしかして今、私って誘われてるの!? 先生は誘ってるの!? これはもうOKサインだと思っていいの!? 言っとくけど先生、ここはホテルじゃないんだぞ!?

 ああ、駄目だ。

 頭の中で卑猥な光景ばかりが浮かんでは消えていく。

 あの、頭がおかしくなりそうなんですけど?

 

「…………先生、筋トレ、始めよっか」

 

 声を絞り出す。

 今の私は、ただただひたすら搾りカス。

 真っ赤な顔で、震える声で、私は訴えた。

 

「え、あの、肩甲骨―――」

 

「ウォーミングアップしたからだが冷えちゃう前に早くトレーニングしようよ先生今日もご指導ご鞭撻のほどをお願いするから早く今日のメニューを教えて早く」

 

「―――はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の筋トレは、トレーニングベンチでダンベルを使った種目を中心とした。

 ダンベルを持って立った状態で、踵の上げ下ろしを行うカーフレイズ。

 主にふくらはぎの筋肉を狙ったトレーニングである。

 同じくダンベルを持って立った状態で、肩の上げ下ろしを行うシュラッグ。

 主に僧帽筋を狙ったトレーニングである。

 そして本日の目玉、尻を後ろへ引きながらダンベルを下ろし、背面の筋肉を使って引き上げる、筋トレビッグ3の1つ、デッドリフト。

 主に大臀筋やハムストリングスや脊柱起立筋や広背筋や僧帽筋を鍛えるトレーニングである。

 トレーニングベンチの横でこの3種目を連続で行い、すぐにトレーニングベンチに仰向けになり、同じく筋トレビッグ3の1つ、ベンチプレスをダンベルで行う。

 言わずと知れた大胸筋などを鍛えるトレーニングである。

 次はトレーニングベンチに片手と片膝をつき、自由になっている方の腕でダンベルの上げ下ろしを行うワンハンドローイング。

 主に広背筋を狙ったトレーニングである。

 そして最後に再び立ち上がり、軽めのダンベルを胸の高さから頭の上まで持ち上げるショルダープレスを行う。

 主に三角筋を狙ったトレーニングである。

 

 合計6種目。

 それぞれを10回、連続して一気に行う。

 6種目終えたら休みを2分挟み、それを6セット行う。

 種目ごとに休むのではない。

 6種目ぶっ通しで行ってからセット間休憩を挟むのだ。

 ジャイアントセット、と呼ばれるトレーニング方法で、様々な筋肉を短時間で効果的に鍛えるやり方である。

 種目と種目の間にほとんど休憩がない状態で筋トレを連続させるため、筋肥大だけではなく心肺機能の強化や筋持久力の向上、そして代謝が向上するというメリットがある方法だ。

 まあ、休憩が少ないので疲れるし、それでフォームが崩れやすくなるし、複数の器具を使う場合は周りの筋トレ民に迷惑をかけるし、それ相応のデメリットもある。

 ただ、今回はダンベルとトレーニングベンチだけで、ダンベルもメイン重量とショルダープレス用の軽い重量の2種類しか使用していない。それに深夜である今の時間は、秋水と美寧以外に筋トレ民がいないので、器具は使いたい放題である。

 そしてフォームの崩れは秋水が隣で見ているので、随時指摘したりサポートしたりで防ぐことができる。

 これならジャイアントセットのトレーニングもありではないか、と思い、本日はこのような筋トレメニューとなった。

 とは言えど、軽めの負荷で行うとはいえ、6種目ぶっ通しのジャイアントセットトレーニングは流石にキツいかな、なんて秋水は思っていた。

 

 結論から言えば、そんなことは全然なかった。

 

 

 

「煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……煩悩退散……」

 

 

 

 本日の美寧は、凄い気迫で筋トレを行っていたのである。

 ガン極まった目つきで、秋水の用意した筋トレメニューを美寧は黙々とこなす。

 正に鬼気迫る様子であった。

 ちょっと怖い。

 

「邪念覆滅……我欲消滅……淫欲抹殺……邪欲撃滅……妄念殲滅……」

 

「10……11……いえあの、美寧さん、次の種目に移りましょう。ダンベルを反対に持ち替えていただきまして、次はワンハンドローイングを左腕で――」

 

「足りないっ!」

 

「えぇ……」

 

 各種目10回ずつ、と最初に説明したつもりなのだが、美寧はそれぞれ15回ずつ行っていた。

 複数の種目をぶっ通しの連続で行うジャイアントセットは、かなりキツいし疲労が蓄積してしまうので、まずは軽めのダンベルで開始したのだが、それが気に入らなかったのかもしれない。

 どうやら筋トレ負荷の設定をミスってしまったようである。

 

「あの、まだ2周目ですから、あまり最初で飛ばしすぎると後半あたりでフォームが―――」

 

「だあああっ! 先生うるさい! 煩悩が漏れちゃうでしょ! 自分の声の良さを自覚して先生っ!!」

 

「ええぇ……」

 

 理不尽に怒られてしまった。

 ウォーミングアップまでは機嫌が良さそうだったのに、何故か急に美寧はご機嫌ナナメになってしまったようである。

 軽すぎるダンベルというのが、余程癪に障ってしまったのだろうか。

 うーん、もしかしたら、美寧はまだ高重量を求めてしまう癖が抜けきっていないのかもしれない。

 凄まじい形相で自分を追い込んでいく美寧を見ながら、秋水はそっと溜息を漏らす。

 

 うん、やっぱりトレーナーって難しいな……

 

 

 





 やめて、美寧ちゃんをこれ以上壊さないであげて(・ω・`)

 恐らくこの章では美寧ちゃんの本格的な出番が最後なので、存分に暴走させた結果がこれです。最初の頃の美寧ちゃんの面影はどこに……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。